石で造られた家屋の並ぶこの街にもようやく朝日というものが出始めた。一見、何でもないようなものだがそれぞれになんらかの意味を持っているものに見えた時、それがどうしても大きく開けた道のようにも感じれる。
黒髪で暗い色の服装をしている青年はいつもと変わらずにいつも通りの表情で皆の前に現れた。今回は何も起こしていない。
起こす理由もなければ食い止めるべきことも起こらなかったので本来はそのようなことを嫌う青年がやるはずもなかった。
「お帰りなさいませ。いつも通りの時間に帰宅されたようですね。」
銀色の髪をしている耳元に三つ編みを作っているそのメイドは青色の服装で腰には白色の前掛けをしている如何にもな格好をしていた。本職に言うのもアレだが、場違いなコスプレとも呼べるほど状況には似合わなかった。
「そうか。皆は起きていると言うわけではなさそうだ。丁度いい。咲夜には話しておきたいことがある。」
青年は小さな声で話そうとしているため、咲夜の耳元まで自分の口を近づけていた。艶めかしく囁くような声に内容の全てを把握できなかった咲夜は青年を言葉もなく送り出してしまった。
完璧で瀟洒なはずのメイドだったが何処か人間らしいところを取り戻しているためにどうしてもいつも通りの冷たい表情をすることはなかった。
「せめて一矢報いてくれ。」
言いかけた言葉を濁した後に青年はさらりとそのように述べていた。さらっ、としていてあまりにも弱々しいその言葉に咲夜は不安を覚える。
「生きてよ。幻想郷には貴方が必要になるわ。」
「そうか。忠告ありがとう。」
青年は咲夜の言葉など耳には入っていないようだった。何があったのかは全く分からないが青年は確かに隠し事をしているのはよく分かる。
「何かあったら言いなさい。出来る限り応えてみせるわ。」
「そうか。貴方達は生きて帰す。」
咲夜の言葉を鼻で蹴飛ばした青年。何か思惑はあるのだろうが見るからに怪しいことであるのは変わりない。何があったのかは誰も何も聞かないだろう。聞けるような雰囲気でもなければ聞かせようともしなかった。
「待ちなさい。」
咲夜は思わず大きな声で話した。
「それは時間にも言えるのか。」
青年はそれを返して何処かへといってしまった。気晴らしなのだろうか、単純に居づらいのかは本人にしかわからないことだろう。
「何なのかしら。」
「彼奴は覚悟を決めている。」
「何処から聞いていたのよ。」
「最初からだ。」
「そう、それでどうしてそんなことが言えるのかしら。」
「簡単な話、最初から死ぬ気だった。それが自分の命と引き換えになろうとも厭わないらしい。」
「冗談でも、辞めなさい。」
「事実だ。逆に長く暮らしていてそんなことも気づけないのか。」
「そんな、はずはないわよ。」
「経験の浅い人間には分かるわけないさ。諦めな。」
「そんなことで諦められるものですか。」
「それならどうしたいのか、自分の心に聞くといい。きっと見つかるだろうさ。」
「善処するわ。」
咲夜は少し朝の風に当たっていた。