青年は何の気配もなく帰ってきた。いつの間にか居たわけだが驚いたのは当事者の方だった。
一旦帰ってきたあの時間からはそれなりの時間が経っているが人があまり活動的ではない、そんな時間である。何もかもが動かし始めようとしている歯車であるが八人だけはその中では異端子である事には間違いない。それを自覚するのはまた後の話になるわけだ。
「準備の方は済ませています。生きて帰りましょう。」
銀色の透き通った光沢のある髪を揺らしている青いメイド服を着ている咲夜が他の七人を早めに出そうとしている。それに青年以外の六人は何も文句は言わずに素直に話を聞いたので青年だけが中に残っているだけだった。
「何かあったのか。」
キョトンとした置物のような柔らかい表情をしている。まるで状況を理解しているようには見えないが何処か違う。
咲夜は何も答えない。
そのままの調子で出る事にした青年は雰囲気に飲まれて前に出る事を躊躇っていた。いつもの青年の様子ではなく、何処か子どもらしい辿々しさを見せている青年は何か疑問が拭い切れていない、謎が深まっているような顔を見せている。
「さっさ、と行くわよ。アンタしか道を知らないんだからしっかりしなさい。」
「さぁ、早く行きましょう。」
「いつまでメソメソしている。そんな時間があるのか。」
「一緒に頑張ろうね。」
「仕方がないからついていく事にするわ。」
「命を断とうなんて思わないでね。またトランプで遊ぼうよ。」
「そうか。」
青年は静かに答えていた。そして風が止んでいる。辺りには人は居ない。そして音が鳴るものもない。
「貴方達に問う。幻想郷に帰りたいと思うか。」
その回答には人の個性が出ていた。丁寧に行く意思を示した者、何を今更聞いているのか少し呆れている者、聞くこともないと青年の背中を叩く者。そして、最後に手を引っ張って早く行きたそうにしている者、それを見守る姉をしている者。
「そうか。ありがとう。」
「一人で溜め込むんじゃないわよ。」
博麗の巫女として権威を示しているが、一切の賽銭が集まった事がないと思われる霊夢が軽く肩を叩く。
「頑張りますよ。」
手を振って応援しているようなそぶりを見せる霊夢の対抗馬、早苗が青年の目の前に居た。
「行きましょう。白紙の運命は此処では終わらないわよ。」
右手で軽く頬杖を付いているレミリアは艶めかしく言っている。赤い爪がとても綺麗に輝いていた。
「元気を出せよ。一人じゃないんだ。」
豪快に笑っている。だが、それに邪気などなく心の底から励まそうとしていることだけが伝わってくる。赤い角を持っている勇儀が青年の肩に腕を伸ばしていた。
「帰ったら沢山話さないとね。」
勇儀の反対側、青い髪をしているにとりはぎこちなく笑っていた。
「幻想郷を巻き込んでいるのです。その背中には何があるのですか?」
一人、厳しい口調で後ろから囁く咲夜。こういう毒もあってもおかしくはなかった。
「お兄さん、早く。」
右腕を引っ張っているフランドールが今回は先導してくれた。特に抵抗する意志もない青年はついていく事にした。
「必ず幻想郷に帰す。」
青年は全員に答えるように静かに宣言した。
それに何の異論もなく付いてくる。今までそんな事はあったのだろうか。
その頃、幻想郷。
「特に襲撃は無いわね。」
「そうですね。みかん、頂きますね。」
金色の髪をしている顔を整っている好青年はテーブルの上に置かれている橙色の果実を一つ手に取っていた。どうやら大分、生活には慣れてきたのか怠けているように思える。
「どうぞ。」
金色のウエーブをかかっている長い髪をしている女性が青い扇子で口元を覆い隠しながらそのように答えていた。
最近特に大きな事は起こっていない。それこそ、このような日常を過ごせるほど平和であった。