青年英雄記   作:mZu

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第120話

辺りからは冷たい視線を浴びている。冬の雨のような気分の青年は一旦息を整えてから再度人の迷惑にならないようにこの場から離れようとしていた。そこを狙ってくるかと思っていたがその必要はなかった。

 

まるで生きているように意思を持った地面に刺さっていたはずの矢が青年の方を向いていた。

 

片目で視認した青年は間髪入れずに自分の体を左側へと倒した。

 

その横を顎を砕こうとするボクサーのアッパーのように天へと昇ったそれが急降下と共に青年の方へと向かってきていた。

 

何度も何度も獲物を捕らえようとするその技はさながら鷹のようで鋭い眼光と食い殺そうとする獰猛さが現れていた。もう既に獲物として捉えられているのだろう。

 

獲物として認識された青年は横に転がり勢いそのままに起き上がりながら地面を蹴って小高い丘へと向かっていた。後、路地を何本か行った先に小高い丘がある。青年はひとまずそこまでは向かっていく事にした。何となく相手の意図が汲みとれるので行くだけはしてみるつもりなのだろう。

 

青年は走り抜ける。まさに流星となって道を突き進んでいく様は視認できるレベルというのを超えていた。低空飛行と蹴り出す脚の力のサポートとして風を起こしている。微妙な力かも知れないが確実に速度を上げているのはよく分かる。

 

相手から矢が飛んでくる事はなかった。もう視認出来ないというよりかは打つ必要が特に無いからだ。言葉を口で交わす事が一応可能な距離まで詰めていた青年は特に挨拶などはしなかったがポツリと一言だけ話す。

 

「イーグルアイ。」

小高い丘にいる一人の男性に近づいていきながらその足取りそのままの早さでそのように言った。何かを潜ませているようなその声に対面したその人は何処か挙動がおかしくなっていた。

 

「こうしたことには理由がある。」

黒色の眼帯を左目にしていて深緑色のつばのあるハットを被っている。服装は小高い丘に合わせた色をしていてハットの色と変わりはなかった。正に潜伏するための服装であるが青年にはそのようなことは通じなかった。

 

「そうか。手荒な真似は辞めろ。何人傷を負わせることになったのか見当もつかん。」

青年は半ば呆れているようだがそこまで気にしている様子はなく、淡々とした軽口のような口調で話していた。

 

「それは申し訳なかった。」

自分の非を認めたところで青年は何かしようとすることはなかった。

 

「して、どうして手紙を括り付けた矢を放たなかった。」

 

「聞かなくても分かるだろう。」

 

「そうか。」

青年は腰に携えている鞘を右手で持つ。そこからそのまま抜き取り、引き抜こうと親指で唾を弾いた。今から戦闘を行ってもいい、と感じさせるが相手が乗っては来なかった。青年は雰囲気だけ出していただけで本気にしているわけでもなかったのですぐに納めた。

 

「実力を試したかったと言うことか。」

 

「恥ずかしい話がそうなる。」

 

「して、ライル。そちらの生活はどうだ。」

青年は急に話を変えて聞いていた。

 

「別にいつも通り変わりない生活をしている。」

ライルも一応答えるが二人の間には何か溝というものがあるような気がした。

 

「そうか。」

青年が聞いた割には興味のあるような返答はしなかった。適当に受け流しているだけのその返答は何処か虚無感のあるものでスカスカであった。感情も何もこもっていないただの言葉に過ぎない。

 

「一つ変わったことがある。」

 

「何だ。」

 

「今日をもって自由の身になった。」

 

「そうか。何日かは楽しむといい。」

 

「そうさせてもらう。」

 

「狩人として山奥で暮らすのか。」

 

「いや、街中に出没してただ一点を狙うつもりだ。」

 

「そこまで荒れているとは思いたくなかった。」

青年は何処かデジャヴを感じているのか仏のような暖かい表情をしていた。どうしても気になることがあるのだろうか。

 

「これから魔王に仇なすのだろう。それなら万全な準備をすることだ。」

 

「その言葉、有難く頂戴する。」

青年はそう言って踵を返す。その横を通り過ぎながら一人の狩人は野ばらに放たれた。

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