六人がけのテーブルがこじんまりとした部屋の中に入っている。そのテーブルで食事をしている人が居た。
その人は陽の光の入らない蝋燭の明かりだけを灯した場所で赤色のスープをスプーンで食していた。
「今回はせっかく頂いた野菜をトマトで煮込んでみました。如何ですか?」
黒い服装をしている執事がそのように聞いている。物腰の柔らかい口調で波の立たない話をしている。
「とても好みの味だ。いつも有難う。」
食事を摂っている人は笑みを少しこぼして落ち着いているのか優しい声をしている。スプーンを右手に口元から舐め取るように取り出していた。
「大体の好みは把握しております。ある程度は準備させてますので何なりと。」
一回頭を下げて腰を45度に曲げる。そして一瞬、その場で止める。それからゆっくりと頭を上げた。
「今日は遠慮しておく。」
「理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「昨日の話だ。私は街を散歩していた時に見かけた。我が宿敵を。顔は知っているだろうから直接は話していない。」
「そうですか。承知いたしました。スープはこちらで処分させていただきます。」
「私が責任を持って食す。それは譲れない。」
「承知しました。一つだけ伝えておきたい事があります。毎度の事で聞き飽きたでしょうが、明日はお出ししません。もし体調を崩された際、責任を取ることが出来ない事を知っておいてください。」
「分かっている。」
少し不機嫌気味に答えているがそれを何回も聞いているので何とも言い返す事はできなかった。お互いに主張をしているので折り合いを見つけるのは困難かと思われる。
「三食同じでも構わない。それにしても毎回言っているが飽きたりする事はないか。」
「執事としての気遣いです。飽きたりする事はありませんよ。」
執事はしっかりと目を見て話していた。その言葉に嘘はない。
「少し一人にさせてもらえるか。」
「分かりました。」
執事は一礼してから部屋から出て行った。
「ふぅ。とても疲れる。しかし、よく此処までうまいスープを作れる。」
食事をしている人は右手に持っているスプーンでスープをすくい出すと鼻の近くに持っていってからその香りを嗅いでいた。
そして目を閉じる。満足したかのように顔を上げてから口の中に流し込んだ。
「至極である。」
そう叫んだところで誰からも声をかけられる事はない。一人の世界だからこそ自我をむき出しにしていられる。この人は美味しい食事を摂る事を幸福と考えている人だった。しかし、味が良ければ何でもいいと言うわけでもない。どのような作り方をしているのか、食材はどこのものか。そのような点も加味して総合的に食事としている。
執事である人はそれを知っているためにわざと先ほどのように口うるさくしているのかもしれない。
本来ならば誰も入らないはずの部屋である場所にある扉が何の前触れもなく開いた。そこで発生する音は全くないが部屋の空気を乱したのは言わずもがな分かるはず。
「なぁ、少し外に出ても良いか?」
黒色の髪を風に遊ばせた後のようになっている髪型で紫色のシャツを着ている。薄茶色の短パンを履いていて右手にはなぜか白い枕を持っている。少し眠たげな目をしている少年が立っていた。
「構わない。昼前には帰って来てくれ。」
「また食事に誘うのか。僕はそこまで必要としないのは知っているだろう。」
「一回ぐらいは付き合ってくれても良かろう。」
「面倒なんだよ。もう、行く。」
その人は扉を閉めて何処かへと行ってしまった。
「うーん、友人との食事が一番楽しいのだが。彼処を気に入ってくれたのは嬉しいものだが。」
またもや静寂の時間が流れ始めた。スープの中をスプーンが泳いでいる音しか聞こえてこない。スープから発生する湯気を鼻の中に吸い込みながらその時間を堪能していた。
「主君、少し貸してはくれないだろうか。」
「私に今の所、そのような予定はない。好きに使ってくれ。」
「了解した。」
その人は扉からひょっこりとした顔を何処かにしまってまった。
「あの人はいつも最低限しか話さない。もう少し言葉を交わすにはどうすれば良いだろうか。」
「良いんじゃない。あの人は元々口数は少ない人よ。」
「貴女はせめて扉から入って来てほしいものだ。」
「良いじゃない。」
黒いローブで顔と体を隠した魔術師が部屋の中に入ってくる。
「貴女のその自由加減には困ったものだ。」
「裏切らないから何も問題はないわ。利害は一致しているでしょう。」
「そういう問題ではないが。ところで、何か用があって来たのだろう。」
「そうね、頼みたい事があるのだけど良いかしら?」
「良いだろう。」
「後でリストを持ってくるわ。暫くしたらまた来るわ。」
「厄介なものだ。」
食事をしているだけの人は一つため息をついてスープの入った皿を持ち上げて一気に流し込んでいた。シソー国国王であるラーはいつも通り朝食を食べ終えた。