青年英雄記   作:mZu

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第127話

青年たちが丁度カミラの代わりとして選ばれたリヴァイアサンを倒していた頃、当事者の指示で城の壁の左側から侵入する役目を受けたレミリア率いるフランドール、咲夜はその道を歩いてある場所へと辿り着いた。壁の向こう側からは何やら大きな音が聞こえるがレミリアは特に気にすることはなかった。仲間を信じているから。そして特に心配するような人ではないから。

 

「誰か居ます。此処でお待ちください。」

緑色の草が生い茂っている城が建っている小高い丘よりかは低いと思われる場所に一本のもたれかかるなら十分なほどの太さのある幹の木が生えている。その木漏れ日の中で白い枕に頭を乗せて横になっている男性がいた。青年と同じで黒色をしているが特に手入れをされていないのかボサボサになっていると思われる。紫色の生地の薄そうなシャツと薄茶色の短めのズボンを履いている。靴は革靴なのかどうかは不明だがしっかりとしている作りであるのは確かだ。

 

「おや、初めてか?好きに使えよ。此処はその為に作って貰っているからね。」

何とも子供らしい見た目相応の声を出しながら気の入らない声で話しかけていた。何も障害物はないので見つかる事は承知していたが頭を少しも動かす事なく此方の気配を察知しているのは確かなので多少なり警戒した。

 

「それは魔王が作ったのですか。」

一番最初に前に出ていた咲夜がその人への回答をレミリアの代わりにした。

 

「その呼び方は冗談か。それとも本気か。」

 

「褒め言葉ですので冗談はないと思いますよ。」

 

「旅の人か。昨日の件があるから多少なりピリピリとした空気が流れているから気を付けろ。」

 

「分かりました。私は十六夜 咲夜です。」

 

「そっか。僕はベルゼブブ。昼寝をするのが好きでね、彼奴がこの場所を作ってくれたんだ。」

 

「それは何か理由があるようですね。」

 

「うん。あまりにも寝るから良い場所で寝て欲しいと言っていたかな。それから街の人が偶に訪れるようになったよ。」

 

「部下思いの素晴らしい方ですね。」

 

「あぁ。本当はブリタニア王国を納めているはずだったけど。おっと、話し過ぎた。もう眠るから静かにしていれば何をしても良いよ。」

ベルゼブブはそう言うと全く起こそうとしなかった体を反転させて右肩を地面に当てていた。

 

咲夜は手招きで声を出さずにレミリアを呼び出した。そして、自分も少しずつ降りながら何となく様子を伺ってみる事にした。

 

「これからどうしましょう。拍子抜けです。」

咲夜はそのように言った。

 

「仕方がないわ。こうなれば素早く抜けていきましょう。」

レミリアは簡易的に言った。正直寝ているのならばそれでも関係はない。レミリアは遠くへと逃げるように遠回りする。その後ろを音を立てないように咲夜、フランドールが歩いていく。丁度、幹の太い木がある箇所で声をかけられた。

 

「そこから先は辞めてほしい。敵とみなして退治しないといけなくなるから。面倒だからそれ以上は進まないでよ。」

 

「行くわよ。」

レミリアの一声に後ろの二人はついていく。

 

刹那、腹部に強烈な一撃が見舞われた事に気づいたのはその時だった。何かがこみ上げるような感覚と何が起こったのか理解出来ずに脳の処理が追いついていないことにより思考力が落ちている事に気づいた。何も考えられない、そうレミリアが感じた時には膝が地面に付いていた。そして少し傾斜があるのを感じる。

 

「彼処から先は城の領内になる。如何なる客も通さないように言われているから正面から入ってね。」

レミリアは手に掴めそうな草を手の中に入れて指に力を入れると其の場に立ち上がった。その横ではフランドールが立ち上がっていた。しかし、一人だけ気を失っているようで丘の上で眠ってしまった。

 

「なんて強さなのかしら。こんな強烈な一撃が出来るなんて只者ではないようね。」

 

「王の右腕が弱くては駄目だろう。最低限の力は持っているつもりだよ。それと睡眠に入ろうとしているところだから気が立っているから制御を誤ったかも知れないね。」

ベルゼブブが立ち上がる。その動きは全く見えなかったが右腕と体で白い枕を抱きかかえているのだけはよく分かった。だからと言って何があるのかは全く分からない。それでも危機的状況であるのはレミリアでも感じ取っていた。

 

「貴方が青年が厄介と言っていた人で間違いなさそうね。」

 

「それはどうかな。何もしたくないんだけどね。面倒な事をしてくれたね。」

ベルゼブブが動き出した。レミリアが自身の魔力を使ってグングニルの形を作り出していた。しかし、投げる先には誰も居ない。その代わりに右頬に殴られたような感触と右腕の肘に当たっただけの感触が残っていた。

 

「遅いよ。もっと本気で来ないと通りたいなら、ね。」

 

「やるじゃない。似ている能力の人が近くにいるから何も驚かないわよ。」

 

「ふーん、そうなんだね。」

気の抜けているやる気のないと言うことが露呈している態度を取るベルゼブブは拳を握りしめていた。そしてレミリアの前に向かっていた。

 

ベルゼブブが右腕の拳を振り抜く。

 

レミリアがグングニルで返しに突き返す。

 

何故か、フランドールが痛がり、グングニルをすれすれに交わしているベルゼブブが気にする事なく向かってくる。

 

わかっている、これは身近に居る人と同じ能力なのだから。味方のうちはとても頼もしいが敵となると此処まで厄介なものになるのか。だからこそ、絶大な信頼を持っていたがどうやって青年は突破したのだろうか。レミリアは関係ないところまで思考を飛ばしていた。その事については何も問題はない。

 

「不思議な力ね。その華奢な体からどのようにその力が出ているのかしら。」

 

「さて。昔からこんなもんだったよ。彼奴にちゃんと力を見定められた時にはね。」

 

「それは運が良かったわね。私も人は違うけど同じような経験があるわよ。」

 

「それは良かった。でも、早く帰ってくれないかな。面倒臭くなってきたよ。」

 

「そう面倒な事でもないわよ。諦めたらそれで良いのよ。」

 

「それが出来たらどれだけ良かったことか。」

ベルゼブブが本気を見せてきたのはこの時だった。

 

左フック。

 

レミリアの体を失せるほどの威力を遠くから放ったベルゼブブはその場から動いてはいなかった。レミリアは片目を閉じてゆっくりと膝から崩れ落ちた。

 

「フラン、今は能力の使用、認めるわ。」

 

「お姉様、でも掴めない。」

 

「それは、どう言う意味よ?」

 

「追い付けない。私ではとても追い付けない。無理だよ。」

 

「厄介な事を押し付けたわね。」

レミリアは腹部の痛みを我慢しながら舌打ちをした。精一杯の力でそのように言っていた。フランは少しだけ耳を傾けていた。あまり興味が湧かないのか、それともそんな事を気にしていられるほど余裕がないと言う事なのか。おそらく後者だろう。そうでも無ければ絶望に血塗られた表情を見せる事などない。

 

「でも、やるよ。」

 

「いや、だからさ。帰れば僕も何もしなくて良いの。」

 

「姉様と兄様のために頑張る。」

フランがそう意気込んだところでベルゼブブの姿が一瞬だけ消える。少しだけ肩で息をしているようにも見えるベルゼブブだったがそれを気にしていられるほど悠長な事ではなかった。フランも同じくレミリアと同じ様に、いや、だからさそれ以上に打ちのめされていた。再起不能という事ではないがそう言われても仕方がないと思われる。

 

あまりにも敵が強過ぎた。それだけが二人の脳内に流れていた。それと同時に舐めてかかった自責の念が込み上げてくる。青年に聞かれた時に月と答えなければこうはならなかったとも。

 

「もうさ、帰れよ。面倒なんだよ。力の差は歴然だろう。辞めておけよ。」

レミリアとフランドールが並ばされて説教を受けてしまった。そもそも如何してここにいるのかがレミリアには全くわからなかった。段々と頭の回転が悪くなってきた様で何となく視界も霞んでいると思われる。白い靄がかかっている。

 

「まだ、よ。私はまだやれるわ。」

 

「何?かったる。」

 

「約束は守らないといけないでしょ。」

レミリアがグングニルで素早く突く。

 

フランドールがレーヴァテインで横に振り抜く。

 

それでも届くことはなかった。ベルゼブブはそれでも攻撃が当たるところにはいなかった。

 

「面倒だ。寝よ。」

踵を返した瞬間に頰を裂くようなナイフが投げられた。

 

「面倒だね。立ち上がるとまた痛い目に遭うよ。」

 

「別にこのぐらいはどうということはありませんよ。私と続きをしましょう。」

銀髪のもみあげを三つ編みにしている咲夜が指の間にナイフを持ってその場に立っていた。両手で八本。何処から、どのように飛ばすのから無限。

 

「もっと強くしておくべきだった。」

ベルゼブブはまたもや面倒臭そうな表情をしている。気持ちは分からんでもない。

 

「それが最後の言葉でよろしいかしら。」

咲夜はその場から消えていた。白と黒のモノクロの世界へと入り込んだ咲夜を追えるものはない。ただ一人を除いて。

 

不審そうに眺めていただけのベルゼブブでさえその急激な環境の変化にはついてこれなかった。正に隠されていたかのようでここで見せてきたということだろうか。

 

周りには刃先がベルゼブブに向いているナイフが何十本も向いていた。

 

色素の薄くなった世界へと入り込んだベルゼブブがその場から移動する。見えていたという事ではないが流石に避けざるを得なかった。

 

「危ないな。ったく、面倒だよ。」

 

「私と同じ能力のようね。」

 

「それはどうかな。合っているといいね。」

ベルゼブブは他人事のようにそう言う。咲夜の投げナイフを軽々しく避けた後なのでそのような余裕が生まれているのかもしれない。地面に散らばったナイフが落ちていく。白と黒の世界から咲夜がそれを拾うと上の方へと投げ返していた。

 

後ろから襲いかかる謎の牙を色素の抜けた世界の中で動き出した。もう面倒だと感じたのか思い切り殴る覚悟が出来たのか近くに行って右腕を体を寄せる。そこからかなりの威力で殴りつける。確かな感触と確かなダメージを感じたベルゼブブ部だがそこには当てた相手がいなかった。

 

白と黒の世界に入り込んで腹部を抑えてながら連続で入ったり、出たりを繰り返している咲夜が背後からベルゼブブに向けてナイフを投げつける。まるで見えていないかのようだがベルゼブブもいつもの相手ではないとようやく感じた。

 

しかし、後ろを振り向いた時にはもう遅かった。雨のようになっていたナイフの束が襲いかかる。その先には油断ない視線でベルゼブブを見ている咲夜が居た。そこでやっと気付いた。

 

「時間停止は便利な能力ではありません。誰にでも聞くということはありませんよ。」

金色の懐中時計を取り出した咲夜が一気に近づくことなく不規則に後ろに下がりながらベルゼブブに近づいてくる。徐々に詰められる距離と不意に近づいてくるその一瞬だけの間合いに入られたという感覚がベルゼブブの中で侵食していた。

 

「スパイラル・ゲート。」

ベルゼブブの色褪せた世界と元通りの世界が交互に広がっていく。そこで足を止めた咲夜。

 

時間停止の使い方は相手の方が卓越している。このようにコントロールする技術があるとは思えなかった。徐々に範囲を広げていく時間停止とそうではない渦が咲夜の周りを包み込んだ。下手に身動きの取れなくなった咲夜を襲ったのはその中で自由に動けるベルゼブブだった。行動制限のかけられた咲夜にとっては避けるだけでも大変だが逃げようものなら必ず捕まる。蜘蛛の巣の蝶の状態である咲夜を八本足の生き物が捕まえようとしている。

 

刹那、上から降りてくるように放たれた一本の矢がベルゼブブの腕を貫通して体の部分に刺さる。そこで一気に渦の勢いがなくなり、自由に動けるようになった咲夜は前に飛び出して押し倒しながら躊躇なくナイフを急所に当てていく。心臓、首、脳。三箇所を何回か刺した後で絶命したのを確認してふと立ち上がる。青色の服と白色の腰に巻いている前掛けが血飛沫で汚れていた。赤く染まったナイフを太腿のホルダーの中に納める。

 

「助けてありがとうございます。」

 

「良いのよ。本当は此処じゃないから。」

銀色の髪を三つ編みにしている髪型をしている女医のような赤と青のツートーンカラーの服装をしている女性が丘の傾斜の上に寝転がっていた。

 

「永琳じゃない。身を張ってくれたことに感謝するわ。」

 

「効果は効いているようね。私は青年がこれから何をしようとしているのかは知っているわ。そして隠している理由も。」

レミリアに永琳と呼ばれた女性が話し始める。それはひっそりとした声で淡々と語られていく。

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