青年英雄記   作:mZu

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第128話

無限の回廊。

 

シックな黒塗りの壁で明るめな赤いカーペットが敷かれている廊下と片側にある古くからあるような木で作られた年季のある扉がある。左側から差す日光が少しだけ気になるところだが黒髪の青年は気にする事はなかった。

 

それよりも気になることが右側の扉から感じる。何やら気配を感じる青年はその方向へ向ける視線を外せないままでいた。

 

「ちょっと、聞いてるの?」

隣を歩いているのが博麗 霊夢。幻想郷では数多くの活躍をしていたが見ている限りでは何処からその様な事が出来るのか謎である。少女らしく青年よりも小さめな体からは博麗の巫女として受け継いだ力を持っている。

 

「あまり。」

青年は素直に答えた。

 

「あ、そう。なんでそんなに動きが遅いのか聞いているのよ。」

 

「そうか。一つ、扉から何かを感じる。二つ、道順が分からない。そんなところだ。」

 

「そんなの退治すれば何も問題はないわよ。」

 

「そう簡単に言ってくれるがそれは可能か。」

 

「今の状況じゃ何処に撃てば良いか分からないけどね。可能よ。」

 

「そうか。それは頼もしい。」

青年が振り返る。目の前には小剣を構えていた男が一人こちらへと走ってきているところだった。

 

当たるはずだった小剣が弾かれたのもその時だった。

 

青年がくるりと避けた残像を追う様に小剣を振るがそれは届く事はなく、虚しく空を切った。

 

体に回転を加えて背中を蹴り出した青年の一撃に男は訳も分からずに前へと倒れこむ。目の前には霊夢が居たが容赦なくお祓い棒で叩かれた。

 

「これでも頼りにされていると思われるか。」

 

「何処から現れたのか全く分からなかったわ。」

 

「透明化だ。音さえ消せれば完全に周りに溶け込める。それで気付けなかったのだろう。」

 

「厄介な敵ね。」

霊夢がいつもよりも静かになっていた。気が沈んでしまったのかそれとも感情が起伏の激しさが露呈しているのか。青年には見ていても分からなかった。

 

「そうか。」

青年は言葉を短く切り、その場での会話を終わらせた。別に青年にとっては厄介でもなんでも無かった。本当はもう少し先にある。

 

「扉には気をつけましょう。何処からどの様に現れるかは予想出来ないわ。」

 

「どうしてそう思った。」

 

「簡単じゃない。そこからしか現れないでしょう。」

 

「その考えは痛い目を見る。」

何処か達観している青年はこの先のことをわかっていた様だった。左腰に携えている剣の柄に触れると親指で唾を弾く。すぐさま抜いた。

 

目の前から現れた赤い鎧をで全身を隠している如何にも実力者らしい格好をしている人が立っていた。金色の肩にかかる長めの髪をしている少し優しそうな中に少しの厳つさというスパイスが加わっている表情をしていた。

 

霊夢には何が起こったのかは分からないが当たらない間合いのはずなのに大きな音がした。それはまるで柄の赤い槍と青年の持っている剣が当たったような金属音がしていた。それが急に真横から聞こえた霊夢は理解不能だった。

 

「騎士、イフリート。参る。」

 

「話し合おう。別に危害を加えるつもりはない。」

青年はそのように言うがまるで耳に入っていないかのように槍を振るう。動く事はなくひたすらにその場にいつ続けるのが確かに攻撃は与えていると思った。

 

真横では先ほどと同じような金属音が聞こえている。霊夢は何も分からずにその場に立ち尽くしていた。相手がどのような技を使ってこのような攻撃を仕掛けているのか、何も分からなかった。

 

「霊夢、援護に回れ。」

青年は素早くそう言ってその場から走り出した。赤いカーペットを上をしっかりとした足取りで走り出す。しっかりと踏み込む事はなく軽く踏みつけながら次の足を出す。爪先だけで蹴り出した後で反対の足を同じようにした。

 

イフリートの持っている槍が素早く二回動いた。その動きについてこれないのか、霊夢が確実に狙われていた。

 

青年は進路を思い切り変えて霊夢の前に向かうと持っていた剣で弾いた。少し無茶をした為にバランスを崩した青年が今度は狙われた。

 

よければ後ろには霊夢が居る。左手で先ほど抜いた剣で一撃を防ぐ。

 

その後、前に左脚を一歩出しながら右手に持っている剣で持ち上げる。

 

左手に持っている剣で横に弾くとさらに一歩進んで間合いを詰め始めた。

 

あまりにも早過ぎる一撃に霊夢が置いていかれることになったがさほど問題ということでは無かった。

 

「持ってる物を床を這わせろ。」

青年は素早く後ろを向くことなくそのように言った。あまりにも早口であまり聞き取れなかったが霊夢は何となく札を投げておくことにした。

 

そこでスイッチが入ったのか、青年が走り出す。今までとは比にならないほどの早さでイフリートの近くまで寄った。

 

一歩引きなから素早く一振りを繰り出したイフリートだがそれは惜しくも空振りに終わる。しかし、当たることが目的ということでは無かった。

 

何が起こったのかは霊夢はもう考えないことにした。もう既に終わっている。それよりもこれをどう倒すつもりなのかを知りたかった。

 

「アンタ一人で行かないでよ。」

 

「霊夢が付いて来い。逃すと面倒だ。」

前半の部分は霊夢は聞き取れなかった。丁度イフリートの謎の一撃と青年の剣の当たる音でかき消された。しかし、後半は何となく聞こえた。

 

「分かったわ。なんとか倒しましょう。」

 

「そうか。」

青年の返答は淡白なものだった。まるで興味のないかのようだがそれでも良い。

 

「暇は与えん。」

 

「させない。」

青年とイフリートの間合いを超えた競り合いが続く。一見防御に徹しているだけの青年だが確かに少しずつ前へと進んでいた。確実に一歩ずつ。一歩ずつ進んでいた。もう見えないようなほどに綺麗なものである。

 

ジリジリと後退を迫られるイフリートは踵を返して逃げ出した。そして地下にある通路へと逃げていく。

 

半ば罠だろうと感じた青年だが後で出てきて後ろから突かれれば一たまりもない。青年が走り出した時、霊夢もその後ろについていくことで今度こそは一矢報いようとした。

 

地下へと進むその階段からは真っ暗であった。光の入らない地面の下の迷宮では明かりというものが必須だった。その状況を察知して青年はいきなり懐中電灯くらいの光が出るように念じていた。刀身は青年の声に応えて光り始める。段々と明かりが灯るにつれて周りの壁の感じも何となく理解できた。

 

「得意分野らしい。」

青年は冷静にそう言うと平然と歩き出した。霊夢は状況に飲まれて何も出来そうにはなかった。右腕に寄り添う霊夢は何処か子どもらしく、幼げな感じを憶える。それでも青年は気にすることなくその道を進むことにした。行動を誤って敵の罠にかかるのなら歩いてみてなんとかしようと考えていた。

 

青年からすればどちらに転ぼうとも楽しい事であるのには変わりなかった。

 

「こんなところで大丈夫なの。」

 

「音は立てるな。何処からくるのかは全く分からん。」

青年は足元に集中しながら霊夢の言葉を答えていた。少しだけ滑っている床と湿気っぽい空気がどうしても気になる青年は霊夢の事も気にしていられるほど余裕というものがなくなっていた。

 

「少し傾斜がある。一点に向かった方が良いかもしれん。」

青年は一人で呟いていた。狭い道の中ではその声もかなり遠くまで響いていると思われる。何も変わらないはずだが何か変わっている。そう思えた頃にはもう遅かった。

 

後ろからの一撃。まともではないが霊夢の右肩に当たったそれは赤く燃えている槍の使い手が放ったものだった。炎のように燃え上がっている槍が直線上の先から見えた。

 

「手荒い出迎え痛み入る。」

 

「即刻去れ。さすれば何もしない。」

 

「このまま帰るのは癪に触る。押し通させてもらう。」

 

「こちらも行く。」

きっとイフリートだろう。間合いなど関係ない一突きだけの連弾が素早く青年の周りを囲った。勢いで霊夢を投げ飛ばして戦闘に巻き込まれないようにした青年は両手に持っている剣で弾いていた。人が二人通れるかどうかと言う狭さの中で突きを主体としたイフリートの攻撃が連発している。それを刀身で止めながらじりじりと後退を始める。青年にここでの戦闘は荷が重たかったらしく、この場から離れたがっているのが目に見えて分かる。

 

「霊夢、爆発を起こせ。」

 

「ん、分かったわ。」

一瞬戸惑った霊夢だがもう青年に任せるしかないので言われた通りにしていた。

 

「そうか。」

それを青年は短く返答する。

 

「させん。」

大体何をするのか、大体理解しているイフリートは素早く間合いを詰めていた。ここでそのようなことをされれば大きく地形が変わる可能性がある。それだけは避けたかった。

 

霊夢が札を投げる。

 

イフリートが一突きだけして霊夢を止めようとする。

 

青年がそこをカバーしてその場から逃げ出した。

 

走る音だけが地下の迷宮の中を響いていた。イフリートは右手に持っている赤く燃えているような槍を持ちながら息を整えていた。

 

 

青年は走る。

 

「なんとなくだがどうにかなるかもしれない。」

 

「根拠はあるの?」

 

「ない。」

青年は堂々としていた。本来なら出来ないはず、なのだが何故か霊夢は納得していた。

 

血で塗られている暗赤色の壁と滑りのある床がどうして雰囲気を作り出していた。それでも青年は動じる事なく吸い込まれるような感覚を覚える何かを探していた。

 

霊夢は文句を言う事なく本気で走る青年の後ろを必死について行っていた。少しだけ飛行して置いていかれそうになるのを防いでいる。出口の見えない壁の連なりがそれなりの不安を感じさせる。

 

青年が走っている途中で立ち止まる。霊夢を受け止めながら途中で見つけた穴に滑るように足をかけた青年は真っ直ぐ行こうとしている霊夢の手を引っ張りながら向かっていく。

 

その場所は籠が四つある。そして真ん中には明かりのようなものが差していた。上からの日光で間違い無いと思われる。金属製の籠がある場所で白骨した骸骨を見ながらある人を待っていた。それまでは詳しくここがどのような場所が眺めていた。

 

「牢獄か。これはまた面倒臭そうな場所に来たものだ。」

 

「それより、飛んでいきましょう。」

即刻出たいらしい霊夢は青年に頼み込むがそれは無駄な事であった。

 

「待っている人がいる。それまではいけない。先に行くなら行っていろ。止めはしない。」

 

「私が行かせない。」

本気の片鱗を見せ始めたイフリートが青年の来た箇所とは反対方向の場所から向かってくる。そしていきなり攻撃を見舞う。今度は左肩と右足を貫かれた霊夢がその場で踞る。青年は霊夢を守りながら場所を移動していた。射線の通らない籠の奥。その辺りまで行くまでは青年が前に立ち塞がっていた。

 

「貴方の攻撃は槍の突きによる空気の振動。中々威力があるのは驚く。」

 

「そこまで読んで。ここに来た理由が分からない。」

 

「そうか。ならば教える。来い。」

 

「死など怖くはない。王に命は捧げている。」

イフリートの槍が左手の中で滑り出していた。青年から遠ざかるように動かされた槍が一気に向かってくる。

 

刀身に弾かれた攻撃は代わりに青年の放つ扇状の一撃として返された。

 

自分の技で相殺するイフリート。

 

お互いに一歩も譲ることはなかった。

 

青年が一歩前に出て間合いを詰める。

 

素早く突きを見舞うイフリートだがその攻撃は止められる事もなかった。後ろにある壁を砕いていた。

 

避けられた、と感じ取りながらも次の一撃を放つ。間髪入れない攻撃の連鎖に青年は参っているようにも見える。避けてばかりで段々と追い詰められていると感じれる。

 

一歩、二歩と一気に飛び出したイフリートは近接戦を仕掛けた。

 

青年は横から来た槍を自分の上を通らせるように受け流していた。

 

ガツン、と当たる槍。がら空きのところを狙った青年が懐へと飛び込んで斬りつけた。

 

鎧を着ている分、通りにくいはずだがそれは関係ないとばかりに刀身をぶつけていた。

 

振動を伝えることによる麻痺を起こさせた青年の攻撃は意外と効いていたらしくイフリートが膝をついた。

 

そしてニヤリ、と笑い始める。

 

「ここで死ぬのならば本望。」

 

「そうか。俺は此処では嫌だ。」

 

ピチャピチャと青年は足元にある液体を軽く踏み付けていた。

 

「そう言えるのは今のうちだ。もしこの水をどうにかして、私に勝てなければ貴様は死だ。」

 

「そうか。」

青年は切っ先を液体につけて何か一つの事に集中していた。

 

何をしようとしているのかはともかく止めようとしたイフリートだが鎧から伝わった振動の後遺症から立ち上がれなかった。

 

「始めよう。男の戦いを。霊夢、早く逃げておく方がいい。」

 

「良いのか。」

 

「良いさ。無駄な犠牲は不要だろう。」

 

「やろうか。」

イフリートの槍が燃え上がる。紛れもなくそのように見える槍を右手に持って適切な間合いから槍を向けていた。

 

青年の剣はパチパチと音を立てていた。何をしているのかはさておき、何か不味い事であるのは確かであるようだ。

 

先に動いたのはイフリートだった。

 

燃え上がる槍の突きを始めに近付き、飛び上がりながら下に打ち付ける。

 

半身になりながら避けつつ、青年はくるりと回ると折り畳んだ右脚を当てて蹴り出した。

 

ピチャピチャと足音を大きくたてるイフリート。一瞬の出来事を理解するのには少しばかり遅かった。

 

少しだけ近付けた剣から放電したものが鎧に流れていく。

 

「悪手だったか。」

青年はそう呟きながら剣を水の中へと入れながら自分に近づいてこないようにその場で回転を始めた。少しだけ水量が増えているが此処から出る手段は上にしかなかった。水のかさが増すを待つか。何か違うことをするしか此処から出る方法はない。

 

暫くの間、青年は回り続けた。それはこの部屋が段々と蒸し暑くなり、気味の悪いベタベタとした感覚と重たい空気が流れていた。正に蒸し風呂となっていた。それでも青年は回転することをやめなかった。更に水量が増して青年が対応しきれなくなった。そこでもう辞めることにした。

 

青年は剣を両手に持って自分の前で擦りつけた。火花のような物が出来上がった時、それはカウントがゼロになった時限爆弾と同じであった。

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