青年英雄記   作:mZu

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第129話

悠久の時を過ごす獣がいる。誰とも群れず一人、ヴァイオリンを弾く獣面。ただ静かに木陰で弾く姿には何か惹かれるものがあった。その姿に醜い獣の顔はなく、美女が優しく弾いているだけのようにも思えた。卓越した技術で誰もを魅了するその術に何となく押し込まれていた三人が居た。

 

一人がノースリーブの服装で腕に補助装備をつけている額に赤い角がある星熊 勇儀。

 

もう一人が緑色の髪を右肩で一房に纏めている少女は巫女でありながら現人神でもある東風谷 早苗。

 

最後に青年に連れてこられた中では一番足手纏いとなるはずの青い外はねしている癖のある髪をしている河城 にとり。

 

三人は青年とは別行動を取るように言われていた。しかし、何が居るのかは何も言われていなかった。まさかヴァイオリンを弾いているこの人が此処に住んでいるとは誰も思わなかった。

 

高貴な白シャツと青色のズボンを履いている。ジャケットは折り畳んで近くに置いてあるだけで着るつもりはないらしい。目を閉じながら弦を擦り付けて美しい音色を出しているだけだったその手が不意に止まった。

 

「何かご用件ですか?」

獣面の男はゆっくりとした落ち着いている声で話しかけていた。その声自体には何も悪意もない。特に侵入したことに対する何かを聞き出そうという感じはない。

 

「用はあるが、関係ない話だ。私が居たことは忘れてくれ。」

止まっていた足を動かしてその場から離れようとする勇儀の前に獣面の大男が立ち塞がった。この中では一番高い身長である勇儀も軽く超えている。

 

「用がないなら立ち去れ。」

 

「何だ、観光も許されないのか。」

 

「それが出来るのは西側だけだ。」

勇儀はふとレミリアを筆頭とする紅魔館組の事を考えていた。どのようにかわしたのだろうか。そんな関係ない事を考えていた。

 

「そうかい。それは置いておくとして、何者だ?」

 

「私か?幹部であるプルソンだ。」

 

「そう簡単に名前を明かすのはどうかと思うぜ?」

勇儀は素早く右腕の拳を繰り出した。プルソンには案外簡単に止められた。

 

「無益な殺生は好まない。どうか此処は穏便に済ませたい。」

一つ息を吐いたプルソンはそのように言った。勇儀と対等に力を持ち合わせているだけではなくそれ以上の力を持っているとも思える。

 

「それは難しい。信念を貫いてこそ生きている証だろう。」

 

「同意する。」

拳を受け流した後に、ヴァイオリンを専用のケースを入れてからどこに立て掛けられていたのか全くわからない大剣を持っていた。こうなれば歌人から戦士へと早変わりしていた。

 

「これは此処を通したくはない私と通りたいお前の意思のぶつかり合いでよろしいか?」

 

「ああ、良いぜ。来な!」

勇儀の腕に付けている装備が赤く発光し始める。それに合わせて何となく勇儀の自信というのが大きくなっているようにも思えた。そして笑みをこぼす。

 

「楽しそうだ。」

プルソンが呟いた時にはもう動き出していた。右脚を地面に踏み込ませながら思い切り振り切る。

 

対する勇儀は防御の体勢を取っていた。前から知っている人にはその行動の意味がどれほど重要であるのかは分かっていた。特ににとりは言葉を失っていた。

 

「弾け!」

ガツン、という音を立ててて受け止めた勇儀。しかし、宣言通りに弾くことはできなかった。相手の力が想像以上に強かった。と言うことである。

 

予想とは異なる結果に苦しそうな表情を見せる勇儀がどうしても見ていられなくなったのかもしれない。加勢が加わった。

 

「後ろにいる事、忘れないでください。」

巫女としての早苗が札を持ちながらプルソンに攻撃を仕掛けていた。あまり効いている様子を見せないプルソンは半ば無視をする形で居ることにしたらしく、何か言葉を出すような事はしなかった。

 

何か起こったのかとばかりに無視を決め込んでいた。プルソンが再度剣を構えた時には勇儀が仕掛けていた。

 

咄嗟に大剣の刀身で防いだプルソンだがその威力には驚く点があった。ぐっ、と持っていた大剣がプルソン側へと倒れこむ。油断していただけと言うことかもしれないがそれは何が起こっているのかは全くわからなかった。ただ目を見開く。

 

そして、思ったのだろう。

 

「まやかしを見ていたようだ。」

 

「まだまだ此処からだ。」

そういう勇儀は両手を前にして顔面を守りながら素早く間合いを詰めていた。

 

真っ直ぐ突き進んだ左腕の拳が相手の大剣の刀身に当たる。

 

傾いた大剣の隙間から右腕の拳を入れ込んだ。そちらに気が取られているうちに左腕に力を入れて押し倒した。

 

プルソンを倒し込んでその先へと進もう押したが少し問題が発生した。

 

「油断した。」

勇儀の右腕の手首から少々血が垂れていた。本来なら別に気にする事はないが装備まで切られていたということが大分問題だった。まるで効力を持たない包帯のようなものとなったそれは無力にも等しい邪魔なだけの存在となった。

 

「ぐっ、強烈な一撃だった。」

プルソンが立ち上がる。服についた土埃を手で軽く払いながら勇儀に向けて大剣を向けていた。

 

「少し時間を稼げ。」

 

「頼まれしたよ。」

入れ替わるように早苗が前に出てくる。そして持っているお祓い棒を構えてプルソンと対峙していた。しっかりと相手の一挙手一投足に注目して油断ない目をしているがあまり効力はないらしい。

 

「辞めたまえ。すんなりと帰ればヴァイオリンを弾いているだけの悲しい男なのだから。」

大剣を地面に差し込んで何もする気のないプルソンはその場で立っているだけだった。折角構えたお祓い棒が無駄となった早苗は微妙にふてくされながらもその場に対峙していた。いや、勝手にやっているだけなのかもしれない。

 

「ただし、一つ伝えたい事がある。主人に手は出さないでくれ。あの人は私を救った恩人だ。」

 

「何をしてくれたんですか?」

早苗は聞く。敵の話に耳を傾ける気はさらさらないのだがそれを判断するのは後でも良い。

 

「主人はヴァイオリンの練習する場を作ってくれた。この顔だ。誰もが怖がり、嫌われてきたのだがあの人は私の演奏を聞き入り、拍手をくれた。挙げ句、あの人は私を仲間として見てくれた。今、あそこにある切り株だが主人が自らの手で作ってくれた。座り心地も良いし、木の葉が揺れる音も心地いい。今では感謝しようにも言葉をどう伝えたら良いのかわからない。」

 

「そんな事があったのですか。魔王なんて呼ばれ方は間違っているのかもしれませんね。」

 

「ああ、本当だよ。主人が居なければ私は誰かに殺されていたさ。」

 

「良い話を聞きました。血で汚したくないから殺生は好まないんですね。」

 

「血が嫌いなんだ。いや、誰かを傷ついているのを見るのが。前に来た事のある人間は最後まで立ち上がり、気絶したところで手当てをしてみたが、この後は聞かないでくれ。」

 

「魔王と呼ばれる理由は何処にあるんですか?」

 

「それは口止めされている。主人との約束だ。墓場まで持っていくつもりだ。」

 

「何だ、昔話までして。何で泣いている?」

勇儀は軽いノリで話の中に入ったがあまりの状況の変化についてこれていなかった。声は聞いていたが様子は見ていない。

 

「いや、これから殺生を行わないといけないと思うと、どうしても、な、泣けてくる。」

 

「元気出せよ。私たちは此処を真っ直ぐ通りたいだけなんだ。」

 

「それで何をしたい。それに正面から屋敷に入れば良いだろう。」

 

「それは難しい。任されている事があるんだ。通らせて貰いたい。」

 

「それが駄目だ。何が目的だ?」

 

「私たちは知らない。ただ、こちらから城の中に入るように言われているだけだ。殴り飛ばしても通るつもりだがその面見てるとその気も失せる。」

 

「そうですね。どうします?此処から戻って正面から入りましょうか?」

 

「それなら文句はない。客人として招かれているかどうかは知らない。」

 

「その事は心配するな。」

 

「ならば、私が案内しよう。」

プルソンが立ち上がる。そして、誰よりも前を歩くと皆を連れて城の中へと入れた。寛容的で優しい獣面の男はかなり鈍感のようで広場の状況を完全に無視していた。

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