人里の近く。この辺りは妖怪の森とも呼ばれていてとても鬱蒼としている博麗神社の近くほどではないが多くの妖怪が住み着いていて危険である場所であるとされている。
その森に入っていた先にある寺もあるが其処までの道は明るくされているのできっと妖怪に襲われるという心配はしなくて良いようになっている。その道を大きく逸れた先の少し開けた場所に赤い提灯が吊るされている屋台があった。
黒い衣服を身に纏い笠を被っている青年は特に取り外すこともなく屋台に置かれている長椅子に座っていた。人は勿論だが妖怪というのも居なかった。今日はこの屋台が営業するには早めな時間から青年は来ていた。前から訪れているこの屋台は小さな酒場のようなところで青年は少し落ち着きたい時や気分を転換する際に訪れることもある。
「いつものをくれ。」
青年は座席に座ってから開口一番にそう言った。前からそうなので屋台の切り盛りをしている女将は一切気にするようなことはなかった。
その人は頭の辺りに小さな羽のようなものが付いていて明るい赤色をした髪をしていて後ろの方で結っているがその姿が見えるようなことはない。そして少しだけ明るい茶色の着物を着ていて袖は紐で結んで垂れ落ちないようにしていた。
「分かりました。」
屋台の下から串のようなものを置いて火を点け始める。此処では鳥の妖怪が女将としているので焼き鳥を売るようなことはしていない。その代わりヤツメウナギを焼いて売っている。独特の味はするがそれだからこそ酒がよく進むと言うことである。この屋台には辛いものからスッキリとしたものも置かれているがちょうど真ん中あたりの酒は置いていない。故に青年は辛めの酒を選んでヤツメウナギを食べてから風味を感じてから酒で一気に流し込むのを繰り返している。
「今日は金が少ない。一ずつ食して帰る事にする。」
「はい、分かりました。」
女将はもう一本追加を焼こうとしていたがそれを辞めていた。笠を被っていて何処を向いているのかは分からないがきっとそのところは見ていたのだと思われる。
「そう言えば知っていますか。」
女将は急に話を振り始める。青年は笠だけを動かしていた。
「何か流行のものでもあるのか。」
青年は急に話をされた事に驚いたのか顔を少しだけ上げていた。お互いに視線は通らないがその動きはよく見ることが出来るのでそれで察したというところだろうか。
「尋ね人の話は聞いていますか。」
女将はなぜかそんな話をしている。青年には何を話そうとしているのかは理解出来ないが何か伝えておきたいと思ったことなのかと耳を傾けてみる事にした。
「聞き覚えはない。どう言う人なんだ。」
相槌を打つ程度に話を聞いてみる事にした。興味があるわけでもないが何となく聞いておいた方が良いかもしれない。
「黒髪の男のようです。腰には剣を二本携えている。」
女将はポソポソと話していた。基本的に幼い感じのする顔つきをしているが今回ばかりは特ついた女性のような表情をしていた。青年と特徴が一致しているので何か聞きたいと言ったところだろうか。
「そうか。」
青年は其処まで重く受け止めるつもりはないらしい。それこそ軽く受け止めているので変に心配になるような気がすると思うほどだった。両手を合わせて炭が温まるのを待っている青年は少し意識があるような感じはしなかった。
「そして紅魔館や魔法の森、冥界や北西の方で被害があるようです。相当な手練れのようですね。」
「そうらしい。」
青年は他人事のように話していた。幻想郷にある新聞は文々。新聞だけではないのでどこでどのように切り取られるのかはまったくわからないが人相まで分かっていると大体追い詰められるとは思うがそれが中々うまく行っていないらしい。
「ここまで特徴が分かっていて誰も捕まえられないなんてその人は幽霊かなにかなのでしょうか。」
女将は冷たく感じる氷のような声で青年に話しかけていた。青年も気にしているには気にしているがまるで興味を示していない。ある意味世俗に流されないなんて言う肯定的な言い方をすれば優れた人物になるのだろうか。いや、ならないのだろう。
「そう言う事になるだろう。霊媒師を連れて行けば何とかなりそうだな。」
青年は気楽に答えていた。お尋ね者として張り出されているのであろう人物に興味のかけらを見せようともしない青年は簡単に言って朴念仁なのかもしれない。それともそれも青年が作り上げただけのものなのか。
「それでこの件が解決すると良いけどね。まだまだ心配な日々が続くから来てくれるお客には一言だけ言うようにしているんだ。と言う事で気を付けてね。」
網の上にヤツメウナギを置き始めた女将はそれから黙ったままであった。理由は単純なもので青年がいつも焼く時に出る音を聞いているのでその邪魔はしないだけだ。邪魔しようものなら叩き斬られる、くらいの勢いはあるとかって女将は思っていた。それ程に青年はその音を聞いていた。と言うよりかはヤツメウナギが網の上で踊っている姿を見ていた。その序でに音を楽しんでいるのだろうか。未だに分からない青年の行動だが理解している範囲で女将は最善の配慮している。
焼けるのを待っているその間に女将は青年に出す酒を汲んでいた。青年はそう多くは飲まない。なので、女将は水を入れるための容器にお気に入りの酒を汲んであげていた。
「では頂こう。」
青年は酒の入った容器を右手の中に入れると口元に運んで喉を通るその刺激に浸ることにしていた。青年はヤツメウナギを一口食べる前にそのようにしている。
特に何か決めていると言うことでもなさそうだがいつもそうしてるので女将を配慮してそのようにしている事にした。
「はい、どうぞ。」
白い皿の上に乗せられた少し焦げた感じのあるヤツメウナギを見て青年は無言で皿ごと近寄らせると串を持って口元に運んで置く事にしていた。
大きく一口食べてから酒で流し込む一見勿体無いような食べ方をしているがそれで良いのかもしれない。
小さく笑っていた青年の笑顔が女将を元気にさせる。二人の関係はそんな感じがちょうど良い。