とてつもなく大きな音がした。そして地下どとつながっている穴から空気のようなものが一瞬だけ放出されたようでブワッ、と吹き上がる。
一瞬だけ目を取られた男だったがすぐに左手でつかんでいる少女に目をやった。黒髪で赤色の服装をしている街の人々の中に居てもさほど見分けのつかないだろう見た目をしている。
その少女が力なくぶら下がっているのがどうしても無様にしか見えないが人が居ないので誰もそのような事を言う人はいなかった。
「その辺にしておいてくれ。」
「何者だ?」
何処かからか現れた男が独り言のように呟き始める。赤い鎧に身を纏ったその人を肩に抱えながらゆっくりと壁の方に近づいてもたれかかるようにしてあげていた。
「俺は通りすがりの者だ。」
黒髪で後ろで一つに纏めている髪型をしている灰色の目立たない服装をしている青年が立ち上がっていた。何もする気はないのかその場にいるだけだった。
「そうとは思えないがそうするとしよう。して、何用だ?侵入者の殲滅をしているだけだというのに。」
「そうか。それはご苦労な事だがその人を離してくれ。何をしたのかは知らないが仲間だ。」
「良かろう。此奴の身は貴方に預ける。」
「それは助かる。が、貴方も後ろにおいてみてはどうだ。」
「敵に塩を送ると言うことがどれほど危険なものであるか知らないわけがない。」
「そうか。知った事ではない。」
少し笑みをこぼした後、ゆっくりと壁に近寄る。青年は斜めに視線を送りながらその様子を見届ける事にした。そこから何をしたのかといえば、青年と同じく少女を壁の前に横たわらせる。そして何か一言加えてその場から立ち上がり青年とは真正面のところで止まった。
「何が目的だ?」
「何もない。強いて言うなら遊びに来た。」
青年は軽くそのように言った。
「このような遊びが近頃では流行っているのか。知らないこともあるもんだ。」
「そうか。調査不足という事か。落ちぶれたものだ。」
「そう言われる筋合いはない。が、それが挑発のつもりなら乗る気はない。」
その人は走り出した。青年の抜いた剣とその人の剣がぶつかる。キシキシ、と音を立てている青年の剣はもはや限界を迎えていた。寿命というのも尽きそうになっていた。
「もう乗っていると答えたいのか。」
青年は剣で受け止めつつもそのように口を動かした。
「そうだ。この勝負はお前がここに来た時点で始まっている。」
良い笑顔でそういうその人は何処か楽しげにしているだけの子供でそれの相手をするのも同じような子供だった。
その人の剣は青白く光っており、愛情を持って丁寧に使われているということが見て取れる。青年よりは多少なり長めの直刀で反りがなかった。金色の唾の部分が頑丈な方らしい十字でありながら太めとなっていた。両刃剣でどちらからでも何かを斬ることを可能としている。
「そうか。いきなり斬りつけてくるのは新鮮だ。」
「受け止めているではないか。」
その人が後ろに下がりながらそのように言った。青年は離れたところで振ってみるものの軽く止められただけだった。
「何の目的でここまで来た。」
「魔王討伐。」
「まだ怒っているのか。」
青年に魔王と呼ばれたその人が少し悲しげに答える。一回転手の中で剣を回してから調子を整えたかのように上から斜め左下へと振り下ろす。
青年は左脚に体重をかけてから地面を蹴り出して難を逃れた。そして振っている剣の先を走るように前へと転がり出した。それを追う事はない。
「何があった。」
「話したことはあるだろう。」
「うろ覚えだ。」
「ルシファーからは逃げたと聞いていたがそこで何があった。」
「俺はあの時、ここで色々とあった。」
青年はそう言って口を結んだ。それは前に来た時の話で一対一で競り合いを行なった後の話だ。