これは前に俺がここにやってきたときの話だ。あの時は今のように仲間を散らばらせていた。分かれ道で決まりがつかないのでどちらにもいけるようにした、というのがその理由となるがまた別の理由もある。奇襲として何処かから現れるのもあり、だと思えた。
その結果として俺はどうなったのかは知らない。その代わり、魔王の元へは一人でたどり着いた。切った張ったの勝負の結果、俺は魔王に勝てたが決して余裕があったわけではない。立っているのがやっと。溢れる血と飛び出しそうな意識の中でその場から離れようと立ち上がったその時にその人は現れた。
「私の愛しき王様をこんな無残な姿にして。」
悲しげに言葉を連ねるその人は何処か空虚な存在のようにも思えた。詰まる所、生気がない。ルシファーという名前をしている魔術師であるが霊媒師の方がやっている事はあっているかも知れない。この時は知らないがその後でなんとなくそう思える。
「これは済まなかった。して、貴方は誰だ。」
「名前なんて言うわけないじゃない。」
「そうか。」
俺が聞いて答えてくれるわけもないので仕方ない。
「ところで、この人は知っているかしら。」
黒い布で全身を覆っているその人は魔法である人を浮かせていた。その人は俺の仲間の中で唯一回復魔法を覚えている人で一番最初から旅を続けていた人だった。今、思えば確実に好意を抱いているがその時は何も気づいていない。
「イーラ。どうしてこうなっている。」
俺は聞いた、いや、聞いてしまった。目の前のことがどうしても信じられなかったから。そしてその姿が見るに無残だったから。
「この人はじっくりと私が殺すわ。そこで君には選択肢をあげるわ。ここで死ぬのを眺めているか、君の記憶と引き換えにこの人を生かすか、勿論部分的よ。残りカスぐらいは残してあげるわ。そして異世界に飛ばす。どうかしら。」
「異世界とはどこの事だ。」
「今のところは何もわからないわ。大丈夫よ、過去にも未来にも飛ばさないから。けど、どの世界かなんて言うものでもないわ。」
ふふ、と気軽く笑ってくれるがその選択はどうしても選ばないといけないものだった。俺がこの人に勝てると確信できればなんとかなるかも知れないが勝てる気がしない。そもそも近づく事は可能だろうか。俺は掠れた意識と消えゆく蝋燭の火の状態で頭を使って答えを導き出した。しかし、聞きたいことがある。
「この傷は治してくれるのか。」
「治すわけないと答えたいけど良いわ。今回だけは特別よ。王様のついでにしてあげるわ。」
「そうか。して、少しは顔を見せてみても良いのではないか。声は綺麗なんだ。どのような顔立ちをしている。」
「愛しき王様の前でしか私の顔は見せないわ。」
「そうか。戯言だったがしっかりと付き合ってくれるだけ有難い。」
「意外と天然なのかしらね。」
またもやふふ、と笑うその人の声は確かにガラガラ声ではなかった。楽器のような声をしている。
「独り言として捉えておく。」
「答えは決まったのかしら。」
「話を切り出さないから忘れたのかと思った。」
「そんな事はないわよ。」
「俺の記憶は無くしてくれ。それでイーラが助かるならそれで良い。」
この時になんとなく、自分の気持ちに正直になれたような気もする。
「承知したわ。」
「俺はもう立っていられない。」
俺はその時になんとなく安堵したのか、一瞬だけ気を抜いてしまった。それ以来立てる気がしない。前に倒れこんで支えようとした剣が上手く刺さらず峰で自分の体を受け止められる形になった。無意識に自分が助かるようにしていたのか、それとも最後に持っていたのがそうだったのか、この時ばかりは助かった。
「さて、何をしてあげましょうか。」
「何の話だ。」
「イーラとか言う小娘がどのように変わっていくか知りたくはないかしら。」
「いや。興味ない。」
「意外と冷たい人ね。」
「そうか。して、回復して元気になるだけなのだろう。何か特別なことでもする気か。」
「今更気付いたの。」
その人は口元だけを見せて大きく笑みをこぼしている。その姿はさながら魔女であったのを覚えている。
そこで俺の意識は吹き飛び、木漏れ日の少ない森の中に来ていた。近くには情けなのか、刀が日本落ちていたと言うことだ。あれからイーラがどうなったのかは全く知らない。
記憶の曖昧な俺は幻想郷という地で興味のある事をして年月を過ごしていた。その中で巻き込まれた事もあったがなんだかんだ楽しかったとは思っている。
そして、その場に戻ってきた。魔王に連れられるがまま玉座のある大広間のところに着いた。
真ん中辺りには床に刺さった剣が二本ある。
刀身の色は銀の色で少し白くなっているようにも見えるが何も変わったところは何もない。
「ここが私たちの決戦場だ。」
「そうか。かなり広い場所だがついてこれるのか。」
「本気を出して欲しい。私も短期決戦で終わらせるつもりだ。」
魔王の体からは闘気が立ち込めている。今までとは大きく違い、遊びという領域は超え始めた。