青年英雄記   作:mZu

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第133話

赤いカーペットと黒色の床。そして目の前には大きなステンドガラスに男性に抱かれている女性がハートを渡しているところが描かれている。何かを示しているとは思うが青年には何が示されているのかは全くわからない。

 

「準備は整ったか。」

青白い光を出し続けている剣はさらなる光を辺りに撒き散らしていた。

 

青年は魔界の職人に作ってもらった黄色の刀身を持ちながら腕を微妙に下に下げつつ、切っ先を天井に向けていた。闘気だけはお互いに十分なようで答えないが青年はいつでも良さそうにしている。どこからどのように来ようともお互いに斬り伏せ合う、そんな気がした。

 

辺りは蝋燭による仄暗い灯りとステンドガラスから透き通る色のある太陽の光によって彩られていた。しかし、どこまで綺麗な言葉を並べても薄暗いことには変わりなかった。

 

「何を使っても文句は言わない。」

 

「そうか。」

 

「お前はいつまでも変わる事はない。」

魔王が間合いを詰めるために走り始める。青年も近づきながら段々と無表情へと変えていく。その顔は狼のような感覚を思わせる。

 

二人の剣が合わさる。

 

今までとは違う深みのある音が聞こえてくる。そして金属の音が何かに変わる時、お互いの体が同時に離れた。

 

青年は膝をクッションにして衝撃を抑える。それから腰を曲げて踵を浮かせていていつでも走り出せるようになっていた。

 

魔王は悠然した姿勢で青年を見下ろしていた。まるで見定めるかのように上から目線である。

 

両手を交差させてから一気に駆け抜けた青年は腰を屈めながら間合いを無くすように詰めた。足音というのはなく、宙に浮いているかのように走り抜けていく。その姿の奇妙であるがいちいち気にしていられるほど頭が回る時間を与えてくれるわけでもない。

 

青白く光っている剣を自分の前に構えた魔王が刀身で二本の剣を受け止める。

 

あまりにも素早く正確な一撃に冷や汗をかく。確実に喉元を狙っているのが目に見える。青年の視線はそこを向いている。

 

力を急に抜いた青年は相手の剣の勢いを利用して手の中で踊らせる。逆手持ち、から順手に変えた青年の剣が魔王の前に向かっていく。

 

上へと跳ねあげた魔王の剣が青年の一撃を止めていた。そして前に突き出す。

 

半身になりながら左脚を後ろにして回転して避ける青年。

 

飛び上がりながら攻撃を加えようとしたが相手の方がそれをするのが早かった。

 

青年の左腰には既に魔王の剣が存在していた。視覚では捉えられない位置ではあるがそこはもう勘で当てに来ている。

 

まともに受けて、抵抗する事もできなかった青年は床を転がる。右腕で着地して肘を使って衝撃を吸収した青年は剣を床に刺して滑るのを防いだ。着地した後、足裏でも踏ん張ってみたがやはり魔王というだけの力は持っていた。

 

到底届かない距離からでも魔王は近づいてくる。守りを捨てた戦法へと切り替えたのか、素早い動きであった。

 

床から抜いた剣でそれに応戦する青年。しかし、そう安安と攻撃が通ることはなかった。

 

攻撃を弾かれた青年は魔王からの一撃を逆手に持っている剣と右脚で止める。その場から浮かせた左脚で剣の柄を蹴り飛ばそうとするが持ち手はそれを読んでその場からは居なくなる。

 

空を蹴る左脚。

 

身体の体勢は元より捨てた一撃であるため、その場に転げ落ちるようになってしまった。そこを魔王は容赦なく剣を振り下ろす。

 

青年は右肩を浮かせて避ける。そのまま床を転がり、立ち上がろうとするがそれは叶わなかった。

 

魔王がそれを阻止した。それはもう読まれていたようだった。間一髪で感じて避けていた青年の首筋には切り傷が入り込んだ。まさかとは思わないが当たっていたらしい。青年は首筋を触って温かいその液体を感じ取っていた。暫く触っていたが魔王は手を出すことはなかった。

 

青年はピタッ、と手を止める。そして前触れもなく訪れたその狂気に魔王が押しつぶされそうになる。

 

凶暴になり、理性を失った青年は己が欲のままに獲物を狙う。その姿は血に飢えた獣である。

 

止める事のままならない獰猛さには何処か冷静さを失いつつあった。魔王でさえここまで変貌するとは思っていなかったのだろう。それらしい表情を浮かばせている。

 

走り出した青年は相手の近くまで寄り添った。

 

そして剣を振り切る。両手に持っていた剣は既に下に向かっていた。後ろに避けたはずだが逃げられなかった。

 

たしかに青年の牙はしっかりと相手の腹部にあたる。しかし、かすり傷であるので致命傷というわけではなかった。

 

ただ一撃としては重たかった。

 

魔王でさえそれには負けないように間髪入れずに振る。

 

避ける事も忘れた獣は右脚を振り上げていた。もう避けるなんて選択肢はない。止めて、受け流して、攻撃を与える。逃げもしない。

 

「うむ、最後だ。」

魔王は不意に力を溜めている。刀身に自身のエネルギをーを流し込んで何やら形を作り上げていた。その形とは正しく刀。闘気として纏わせたその一撃を青年に向けて振る。

 

風の吹いている中に雷が合わさったような旋風が捲き上る。青年もそれには負けないような風を起こしていた。

 

お互いの全身を使った一撃がぶつかり合う。今までの比ではないほどの勢いがあり、お互いの剣を滑り出して顔を極限まで近づけさせていた。

 

青年は両手に力を入れて前へと押し出す。

 

魔王は腕に力を入れて体重をかけながら押し出す。

 

お互いの力が暴発。

 

そして吹き飛ばされた。

 

両者が床へと転がり込む。お互いのエネルギーに負けた二人はその場から離れていく。

 

ハラハラ、と床と擦れた際にできた埃のような粒が舞っていた。音はなく、お互いの息遣いが何となく分かる。生きていると言うことはよく分かった。

 

 

しばらくして魔王は重たくなった体を上半身だけ起き上がらせながら周りの環境がどのようになったのか見ていた。

 

「これはどういうことだ。」

 

周りには誰がいるような気はしない。そしてその場から届きそうな位置に自分が愛用している剣か転げ落ちていた。体は何となく重たいがまだ動けることを指を折って伸ばすことで確かめていた。

 

「そういえば、あいつは。」

 

ただ一人、床に立てかけられた剣に身を任せている一人の男がいた。両手には黄色の刀身を持っていない。何処かに飛んだと思われる。

 

灰色の目立たない服装に黒い髪を後ろで一つにまとめ上げていて、髪の形が何となくそんな感じに感じる。

 

前髪は適当にかきあげられているだけで何か洒落た髪型はしていない。戦闘に不必要なものは全て投げ捨てたような格好をしている青年がその場にはいた。

 

魔王は目の前のその姿を見ながら自分が愛用している武器で立ち上がる。意外にも体の方は言うことを聞いてくれない。指は特にそのようなことはなかった。

 

ゆっくりと立ち上がるだけだった。ふと目の前から鋭い殺気を感じた。それは人を殺したことのある人のもの。

 

「なぁ、始めようぜ。ラー。」

青年はそう言った。

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