青年英雄記   作:mZu

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第136話

コツコツ、と響くハイヒールの音。灰色のパッとしない服装をしている青年はその音を聞いて何となく振り向いた。其処には月が存在していた。

 

黒いローブで顔の上半分を隠しているその人は少しだけ笑みをこぼしながらゆっくりと青年の元へと向かってきた。全身の肌は手の先と顔の下半分。薄暗く分からないが髪は長めだ。髪の色は明るいわけではないと思う。

 

「あらあら、私の王様をこんな姿にしてくれて。」

 

「これは望んだ結果だ。」

 

「そんな事を言えるのは本人だけよ。それは分かるわよね?」

 

「そうか。して、その方法は今あるのか。」

 

「ないでしょうね。回復を待つか、それとも心を抜き取って聞き取るか。そのどちらかでしょうね。」

黒いローブを被っているいかにも怪しい人は格好相応の言葉を出してくる。青年は一種の疑念を抱きながらも表情は変えずに立ち向かう。

 

「物騒な方法を取るものだ。して、それが王に対する貴方なりの敬意というものか。」

 

「今のままではこの国は終わってしまうわ。正にこの時のように攻められたらどうしようもないわよ。」

 

「そうか。して、ルシファー。俺は初めてここに来たわけではない。完全に記憶を消しておくべきだった。」

 

「これは妥協してしまったわね。まぁ、何方でもいいわ。」

コツコツ、とハイヒールの高い音が鳴らして適度に距離をとる。その場から何を出すのかと思えば、人を出してきた。

 

黒いレオタードを着用している明らかに男を誘っている格好をしている見たことのある風貌をしている女性が現れた。右腕での先には短めのダガーのような武器を持っている。魔術師のルシファーの事だ、警戒しておくに越したことはない。

 

「この人が何方なのかはご存知でしょう。」

 

「イーラか。予想通りなので驚く気はしない。」

 

「あら、そう。」

短い言葉で返したルシファーだが明らかに動揺の色が隠せていなかった。逆に青年はいつも通り冷たい目をしている。

 

「また記憶を奪うから命は助けてあげると言いたいだろうが今回は乗る気はない。」

帰る所のない刀を持ちながら青年は淡々と答えた。そして根拠のない淡い期待などはにじみ出ていなかった。確実に居ると確信していて、自信に満ち溢れている。

 

「さぁ、イーラ。お行きなさい。」

こくり、と首を縦に振ったイーラは音もなく素早く青年の元へと向かっていた。青年は刀を落としてしまった。

 

イーラもまさかの対応に驚きを隠せなかった。そしてルシファーでさえその行動には次の指示を出せなかった。

 

右腕から放たれた凶刃を手に持ち、身を翻して後ろから腕を組む。そして耳元で囁いていた。腕は動かせるわけでもないイーラは半ば拘束されていたが逃げようと思えば逃げれた。だが、それはしない。

 

そして頰を赤らめていたイーラはその場から動こうとはしなかった。いや、動かしてくれなかったと言うのか。

 

「イーラ、俺はもう離す気はない。して、ルシファーはここからどうするつもりだ。」

 

「反魂蝶。」

ルシファーは魔術師らしく高速詠唱から魔術を繰り出した。

 

青年は不意に口を開けてしまったがすぐに閉じた。何か考える事もない。無表情でゆっくりと目を見開いた青年に最早慈悲というものはなかった。

 

「イーラには何もさせない。」

青年はそれでも淡々とした口調をしていた。自分から口を閉じてあげた青年に何か違うものを感じたのか、ルシファーが逃げ出しそうになる。

 

「なぜ絶望しない。」

 

「信用しているからだ。」

青年は即答した。

 

「答えになっていないわよ。」

 

「してみせる。今に見ていろ。」

 

「何処にその自信があるのかしら。」

 

「予感がする。それだけだ。」

青年の目は確かに信じていた。それを覆す方法が見当たらない。虚偽の自信なのか本物なのかが全く分からない。

 

「嘘は通用しないわよ。」

 

「そうか。貴方の頭を貫く一撃を見舞おう。」

イーラに抱きついたままの青年はそんな戯言にも聞こえなさそうな自信に溢れた事を言う。

 

「死相術。」

また詠唱を始めたルシファーだが青年は微動だにしなかった。落ち着いて呪文を聞いているだけで青年自体は動こうとはしなかった。代わりに裁きの矢が降り注ぐ。

 

一本だけしかなかったが正確で無慈悲な一撃にルシファーは見事にやられた。呆気ないとは思わないが青年は虚無感に浸る結果となった。

 

「見事だ。」

 

「状況が何も分からないけど良い合図をくれたから撃っておいたわ。」

 

「そうか。」

青年は酷く疲れたような掠れた声で話していた。抱き抱えていたイーラをゆっくりと床に倒すと青年も尻餅をついた。

 

「それで魔王という人は何処にいるのかしら。」

銀色の髪をしているゆったりとした雰囲気のある女性、八意 永琳は青年に聞いていた。幻想郷で唯一青年が行うことを把握していた人である。

 

「此処には居ない。」

 

「そう。それで今抱き抱えている人は誰かしら?」

 

「この人は保護していてくれ。洗脳が解けたから疲れたのだろう。」

 

「これで終わりなのね。」

 

「いや、これからだ。しばらく時間をくれ。」

不意に自分の体に刀を当てた青年はゆっくりと休養をとっていた。ゆっくりと息を吐いて心を落ち着かせてからまたゆっくりと息を吸う。

 

「永琳。扉の向こうにいる人達も後で呼んでくれ。」

 

「分かったわ。二人にさせた方がいいかしら。」

 

「そうしてくれ。」

永琳はその言葉を聞いてその場から離れた。上品な足音が青年の後ろから聞こえていた。

 

自分の傷を治してから自分の唾を刀に付けてから魔王の体に優しく当てた。

 

「体の調子はどうだ。」

 

「何が起こった?」

この城の城主であるラーは上半身を起こして状況を確認していた。まるで何が起こったのか分かっていない様子だが自分の体が貫かれたと言う記憶はあるがその傷は見当たらないと言う点に特に不思議に感じていた。青年にはそれを聞いた。

 

「俺もただ生きていたわけでもない。簡単に死ねるような環境にいたから自己回復する術を見出した。それだけだ。」

 

「私みたいにのうのうと生きていたわけでもないか。」

 

「貴方も十分強かった。だが、余裕がなかった。見えていない部分が多くあったのだろう。」

 

「そこまで言われては返す言葉もない。」

魔王はそれでも冷静だった。青年はその様子を静かに眺めながら更に言葉を続けた。

 

「兄弟喧嘩に終止符を打たないか。」

 

「記憶は戻ったようだが、私は否定的であるのは知っているだろう。」

 

「知っている。だから俺が決めてくる。こんな所で潰せる才ではない。」

 

「その評価は前から変わらないか。どうして其処まで褒めるのが理由が知りたい。」

 

「一つだけある。興味があるからだ。」

 

「其処まで私の統治している国が見たいか。自分がしたいとは思わないのか?」

 

「それは俺には向かない。」

 

「一人が好きか。」

 

「そうだ。」

 

「お前らしい。だが、根拠が欲しい。」

 

「例えば貴方がルシファーを両腕のどちらかにしないと言うことだ。」

 

「一理ある。仲間を殺されたのは憎いが悩みのタネを消してくれた。」

 

「それは申し訳なかった。」

 

「戦争とは哀しいものだ。だから復讐はしない。」

 

「心が優しい人だ。その結果、お前は追い出されたのだろう。もう一度ブリタニア王国に戻る気はないか。」

 

「折角だ。お前の口車にまんまと乗せられよう。」

 

「決まりだ。行こう。」

 

「お前は単純な人だ。」

 

 

その後、扉の向こうに居た人達にもその事を話した。しかし、誰も反論を唱えるものはなく、それどころかやる気の人が多く居た。青年はその見えていた結果には特に満足する事なく、前へと突き進んだ。

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