青年英雄記   作:mZu

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第139話

青年が飛び降りた目の前には明るい黄色を基調とした部屋で白色のカーペットが敷かれていた。周りには赤い小さな旗があり、ライオンが右手に剣を持っている紋章がされていた。その剣は入ってくる者を拒むように切っ先が向けられているようだった。

 

白色のカーペットの上に降りた青年はすぐに頭を上げて対面にいる人を向いた。シャルロット・A・ベヒモス。ブリタニア王国の国王にしてシソー国王のラーの兄である。ラーの意見とは相反する意見の為に追い出した張本人でもある。今はどのようにしているのかは全く分からないが何もしていないと言うことはないと断言出来る。

 

「魔王は倒したのか。ご苦労じゃ。」

 

「魔王は今は生きている。俺の目の前でな。」

青年は裸の刀を両手に持ちながらゆっくりと近づいていく。

 

「何を妄言を言っておるのじゃ。」

 

「そうか。例えば、ギルド制で稼いで私腹を肥やしているそうだ。さぞ、溜まっているのだろう。」

 

「何処にその証拠があるのじゃ。言うてみよ。」

 

「俺の目が見てきた。そして国民の目にも見えてくるだろう。」

 

「どのように見えてくるのじゃ。」

 

「俺が歪みを作り出した。もうそろそろ爆発するだろう。」

 

「それで現れるとは思えないのじゃ。」

 

「さて、どうなるか分からない。」

青年はそう言うとすぐさま体を前に傾けてベヒモスに刀を向けた。しかし、ベヒモスの何かに施された手によって防がれた。

 

「ここで戦うのは辞めようではないか。」

 

「そうか。なら、出してみたらどうだ。」

 

「良かろう。戦うのは久しい。」

 

ベヒモスの手によって弾かれた青年は一歩だけ飛び退いてから再度飛び込んだ。一気に間合いを詰める辺り、前の慎重さがない戦法を取り始めた。

 

左脚を軸にして二刀を振り切った。

 

特に武器を持たないベヒモスは魔法で強化した手によって受け止めるしかなかった。

 

だからと言って劣勢かと聞かれるとそうではない。

 

青年の刀を防いで弾いたベヒモスは口で何かを話していた。

 

「根底より出でし混沌よ。我が身に力を宿せ。紅蓮の炎で地を焼き尽くし、空を焦がせ。」

 

青年は瞬時に反応して相手の動きを合わせてしゃがんだ。距離にしてはそんな遠くはない。

 

「オーバープロミネンス。」

扇状に分かれた火球が王宮の壁を破って外まで出ていた。青年の後ろからは何が起こったのか全く分かっていないであろう人達が悲鳴をあげていた。

 

青年は混沌とした空気の中で匍匐しながら攻撃範囲から逃げ延びる。青年は転がるように白いカーペットの上を走った。

 

不測の事態というのは意外とすぐに起こった。

 

ベヒモスから放たれている火球は意外にも範囲が広かった。全てを飲み込むような一撃に青年は対抗した。

 

髪を暴れさせるような風と木を燃やせそうな威力を持つ炎を念じてみる事にした。片方の刀からは炎が上がり、もう片方からは風が巻き起こる。その風に煽られた炎がその勢いを増す。

 

見るからに威力は負けているが弱めることができるのならばそれでも構わないと思われる。青年はそのまんまの事を考えながら自分の実力が劣っているのを感じた。

 

流石に実力が優っていると常に思っているのは傲慢かもしれない。だが、だからと言って卑屈になる必要もない。青年は何となく後者の方に傾き始めていた。

 

「鬱陶しい蝿がいたものだ。」

オーバープロミネンスを発動している間に外にある訓練所からは悲鳴が聞こえる。こうなればどうすればいいのかは全く思い浮かばない。

 

「そうか。」

青年は他人事のように答える。そしてギラリ、とした鋭い目線をベヒモスに向けながらゆっくりと行動を始めた。トス、トス、とカーペットを踏みつける足音がかすかに聞こえてくる。しかし、その瞬時のことではベヒモスを対応はできなかった。脚を狙った一撃に飛び退く。フェイントのように動かした青年の刀が訓練所のある広場へとベヒモスを吹き飛ばした。その場には未だに逃げ回っている人もいる。どれほどの被害が出たのかは見れば分かるはずだがそれでも少くなるのを願うしか無かった。

 

「やりおる。じゃが、まだ足りん。」

 

「見れば分かる。」

青年は本当に素っ気なく返した。まるで理解していたかのようでなんともなさそうにはしていた。ベヒモスは言葉通りに鋼鉄の鎧でも着込んでいるような気がしなくもない。

 

ゆっくりとした歩調で悠々と外へと出る青年だが自信があるのかと言われるとそうでもなさそうにしている。あまりビジョンというものが見えていないのだろうか。

 

「何が目的だ。金か?名誉か?」

 

「友の作る国を見たいだけだ。」

 

「己が欲望の為に動こうとは思わんのか?」

 

「常に思っている。だからこそだ。」

 

「世の中は力こそが全てだ。」

 

「そうだ。力は必要だ。何かを守る為には必要になる。が、平伏せさせる力ではなく、皆を照らす力。それが不可欠だ。」

 

「何を言うのかと思えば。良かろう。この私に刃向かったことを後悔させてやろう。」

ベヒモスの手の中には大きな光が灯されていた。青年はそれを注視しながら周りの雑音を無くしていた。慌てふためく声、そして部外者として現れた青年の事を言っている声、何もかもが青年の意識の中から消えかけていた。

 

黒に染まったその時、ベヒモスの秘めていた力が解放された。

 

何処かで見たことのあるような弾幕を見せられた青年は特に考える事なくその場を切り抜けることにした。湾曲した軌道から出てくるだけの一撃には何処か懐かしさというものがあるがそれだけでは済まされなかった。

 

確実に倒しにきているホーミング性の高い弾が青年の前に訪れる。黒色の光のない弾は素早くそして無慈悲にも狙っていた。前に避けた青年の後ろからグイン、と軌道を変えて襲ってくる。

 

正に違反行為とされそうなものではあるが戦いの上で勝てばその人が正義となる。

 

左手の刀を逆手にして回転を加えながら空中で一気に切っていくがそれこそ相手の思うツボであった。

 

地面に着地したところで突風のようなものに煽られた青年は体勢を大きく崩した。足元がおぼつかない。そして倒れそうなところで更なる追撃を与えてきたベヒモス。

 

青年は刀でなんとか弾いて自分に当たることはなかったがその威力は凄まじい。転がりだした自分の身体を止めるのがやっとという状態だった。

 

「これが力というものだ。」

余裕綽々と歩いてくるベヒモスを低い姿勢で睨んでいた青年だがそれほどの力は残っていない。無謀なことをした、というのが正しい。

 

「力には屈しない。そういうのは小競り合いにしかならない。」

 

「今、どちらが押されているのか理解する必要があるのじゃ。」

 

「そうか。して、トドメは刺さないのか。」

 

「良いや、その前にやることがあるのじゃ。」

何か唱え始めたベヒモス。それを機に何か準備を始めた青年。まだやる気はあるようだ。

 

「そうか。なら早めにやっておくことだ。」

 

「後悔すると良いのじゃ。」

 

「俺はしない。」

逆手に持っていた刀が自身の頭上に上がる。青年はここからでも諦めなかった。外ではあるが刀を振り回しながら細かい弾幕を飛ばしていた。見せる気のないようなものだがそんなものはベヒモスには関係ないことだった。全てを通さない障壁を体全身に張っているようで何ともなさそうである。例え身長ほどの弾を当てようとも何の変哲も無い事になるのだろう。それ程にベヒモスの張っている障壁というのは大きかった。

 

「色々と驚かされることはあったが、もう飽きたのじゃ。」

 

「そうか。」

青年は落ち着いていた。このような状況でも何も動じるようなそぶりはなく、堂々としていた。

 

「いつまでそのような態度がとっていられるのかななのじゃ。」

 

「この命、尽きるまで。」

 

青年は刀を構えて戦闘を行う気迫を見せた。そして目の前から消えるような勢いで走り出した青年は地面すれすれから逆手に持った左腕を振り上げようとしていた。

 

ベヒモスは当然の如く腕で止めようとしている。交差させた腕の下側に青年の放った一撃は微かに触れただけだった。

 

刹那、首筋に何らかの感覚を感じたベヒモスは一瞬だけ恐れた。

 

青年は両脚を広げながら地面に足裏を擦り付けて方向を変える。その間には逆手に持っている刀が二本見える。サソリの尻尾のようになっているそれは的確にベヒモスに狙いをつけている。

 

脚を曲げた時に溜まっている力を使って走り出した青年。

 

後ろを向いているベヒモスはいつものように障壁を張り始める。不可視であるが当たれば現れる。動きを読まれなければ別に当てることはできるがそうなれば満遍なく守れるように全身に張り始める。

 

青年の目はベヒモスの顔を狙っていた。そのように刀を動かしたが飛び上がる。

 

悠然と超えていく青年は体を丸めながら背中を狙っていた。しかし、障壁に弾かれる。

 

青年は左足から先に地面に付けると膝を折り曲げて右足の裏を地面に付けた。そして音もなく立ち上がる。

 

「ラーが逃げる理由が分かる。」

青年は呟く。静かにそして冷静に。抑揚のない声になっていないような音が青年から発せられていた。

 

「魔王の名を知っているのか。」

 

「そうだ。だが、一つ疑問がある。何故そこまで弟を潰そうとする。」

 

「彼奴は弟ではないのじゃ。」

ベヒモスは堂々と答えていた。そしてその後に口をもごもご動かしていた。

 

「そうか。して、何をしようとしている。」

 

「理由なんて要らないのじゃ。」

 

「そうか。」

青年はそれだけをその場に残して地を駆ける。

 

「お前は待ち過ぎた。それは過ちだ。」

 

青年は何故かその場でピタリ、と足を止めた。何の前触れもなく行われたそれにはなぜそのようなことをしようと思ったのかは疑問でしかない。

 

「ロスト・ワード。」

ベヒモスはそれだけを残す。青年は動かない体の中の意識を保っているだけだった。

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