妖怪の山では一切の騒ぎというものはなかった。いや、正確には起こす理由がなかったと答えるべきなのだろうか。射命丸 文の作成している文々。新聞は実際は明確に書かれていて何も疑問を持てなかったというべきだろうか。
幸か不幸か妖怪の山では皆が討伐に向けた動きを見せていた。それに反論もなければ参加しないという人も居なかった。ただし、その裏で埋もれてしまった人もいる事は忘れてはならない。
東から太陽の登る早朝、今日は少しだけ風が強いらしく短い白色の髪が揺れていた。目にかかる髪から漏れている日がキラキラと光っている。妖怪の山を一望するような天狗のみ知るような場所で一人立っていた天狗はその一枚の紙を読みながらあまりにも変わり果てたその姿を映した一枚の写真を見ていた。こちらは正面から撮っているであるらしく顔はくっきりと写っていた。真っ直ぐとも言えないが少しだけ吊り上っているように見えなくもない目をしていて其処には少なからず敵意というものがあった。どうやら何かの異変の途中での戦闘中に撮られているものであるらしい。そしてその下に書いてある短い文章には一切の説明もなく報酬だけが書かれていた。
「この人は全く。私はそうさせる為に剣を教えているわけではありません。」
その人は手に持っていた一枚の紙を投げ捨てるといつも通り妖怪の山の警戒にあたっていた。ここ最近は少なくなったがそれでも無くなっているわけでもない。未然に防げるようにしたいが一目で妖怪の山を見る事はできない。小さな動きには気付きにくいので此処からこのは一枚の動きが的確に分かるということでもない。仕方がないので山の中を駆け抜ける事にした。
日も登り始めていて朝も一通り落ち着きを見せた頃。人それぞれ暮らし方はあるが何処からでも聞こえる話は同じような事を話していた。それだけ今日配られている新聞が衝撃的だったのかもしれない。
「にとりさん、今日の新聞は読まれましたか。」
河原の近く。水の音は小さくも聞こえていて辺りは木はあるが少し開けたところだった。白い石の中に偶に混じっている黒い石のあるこの場所では白いドーム状になっている建物がある。その場所というのがにとりと呼ばれた人物の拠点となっている。煙突からはモクモクと立ち込める煙だけで何かをしているのはよく分かったがそれだけでは一切分からないものである。
「読んだよ。というか見ただよね。私には関係ない話だよ。」
そう答える青色の髪をしていて長袖の作業着を着用している少女は額から垂れる汗をぬぐいながら答えていた。
「そうですよね。私たちは隣で座っているだけなんですよね。」
悲観に捉えていた緑色の髪をしている落ち着きのある元気のなさそうに思える少女は両手を強く握りしめていた。何か強い思いが彼女の中で渦巻いているのだろうか。それとも言いにくい真実を握っているのではなしたくないのか。
「そうだね。いつものように肩に抱きついていたら良いんじゃないかな。」
こちらはどうも楽観的に捉えすぎているようにも感じるが元々がそうなら仕方がないのだろう。二人は正反対の性格をしているがどちらも良い感じに作用していて動かしたり止めたりしながら日々を過ごしている。
「それが出来たらそれで良いんですけど。もう会えないんじゃないか、何て思っちゃうの。」
「それは考えすぎじゃないかな。」
にとりはヘラヘラとしながら雛のその言葉を聞いていた。現実に起こりそうにもなさそうなのでそのような反応もおかしいというわけでもない。それか悲観的になっているので元気を出してほしいだけなのか。
「だって、あんなに厄が溜まっていたのにあの人は死ぬような事はなかった。なら、その近くの人が何か影響を受けるわよ。それが怖くて。」
急に暴れ出しているような口調で話し始めた雛は握りしめていた更に強く握っていた。プルプルと震え始めていたその拳がどうしても消えるようなことのないものであると思うと心の中が空っぽだったような気もしてくる。にとりは雛の止まっている言葉を待つ事にした。
「怖くて。私はそんなのは嫌いなのよ。だから近づいて欲しくなかったのに。どうして、どうして。」
急に膝の力を失ったのかその場に座り込んでしまった雛は握りしめていた拳を開いて目を抑えていた。
「私はあの人の事が忘れたくなくて、側にいたいと思うのよ。」
にとりは何もいうような事はなかった。いや、何か言うのは邪険だと思った、それは雛の気持ちであり誰のものでもない。傷つけるようなことも口を出すようなこともない。それでも言いたい事はある。
「素直になったら良いよ。あの人は流すかもしれないけど雛はこのままで良いの。その気持ちは大事にしていれば良いよ。今の私達に出来る事は無事に会える事を願うだけだから。二人で頑張ろう。」
肩を軽く叩いて励まそうとするにとり、それを受けてどうしようもない崩れた顔を見せていた雛はにとりに抱きつくように手を伸ばしていた。にとりは無慈悲にもそれを振り払う。
「その手は私ではなくて。あの人に伸ばすと良い。その流している涙も一緒に受け止めてくれるから。」
「うん。」
言った後でも何回か力なく落とすように振る首は脱力感とその他の何かを感じるようなものだった。
にとりの言うあの人は今はお尋ね者となっていて幻想郷の何処かにいるのは確かなのだがそれ以外の情報は何もない。そして追いかけることも許されないような場所にいるその現実を受け止めるには少し時間を有する。
普段はあまり自分の感情をむき出しにしない彼女だからこそにとりは何かしようという気にはならなかった。代わりにはなれないからという事なのだろう。
「しかし盟友も何か言ってほしいものだよね。急にこんな事発表されたらどうなるのか分からないよ。」
にとりはグチュグチュの顔をしている雛を後にしていた。にとりには受け止めるようなことの出来ない量のものであるらしく半ば諦めていたのかもしれない。
「本当に今日の雛には驚いたよ。」
にとりはそれだけを残して落とした人形を拾い上げる事はなかった。あの手は女であるにとりよりもまた違う人の方がいい。