青年英雄記   作:mZu

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第30話

それなりの人数の人里の人々は燦々と照り続ける太陽の下で自分に出来るような事をする様になった。

 

ある者は戦いに備えて素振りを一心に行い、またある者は休息の際の食事を摂れるように準備をしている者、食材をどこからか仕入れる事や武器や防具を作り出す者。性別、性格、出来ることは違えど皆が一丸となってお尋ね者を捕まえるための準備を進めていた。

 

「なんか、最近眠れないんだよな。」

ある人里に住んでいる男はボヤいていた。黒髪で乱したその髪が運動した後であることを示していた。一通り素振りを終えたらしく布で額から滲み出す汗を拭き取りながら容器に入れられた水を口の中に入れる。そして相当喉が渇いていたのかゴクゴク、と大きな音を立てていた。そして満面の笑みで空気を逃していた。力のない大きな声が辺りに響く。

 

「あまりそうには見えないな。」

同じく一通り終わらせたらしく隣に座っていた人は会話を続ける事にした。確かに目はパッチリと開いていてあまりそのようには見えない。何かあるようには見えないが本当に何があるのかは分かったものではない。

 

「それはいつも通りって事か?」

 

「見た感じはそうだな。変わったところはなさそうだ。」

 

「最近毎日のようにこのようにしているから完全に疲れが取れないだけなのか。」

 

「そうなんじゃないか。俺は先に始めているぞ。ゆっくりとしておけ。理由を話せば分かってくれる奴はいるさ。」

薄く髭を生やしている話しかけた人よりかは年増の雰囲気のある男性は立ち上がるとその調子で武器を振り始めていた。

 

「今日は早く寝てみようかな。」

乱れた黒髪を手で軽く直してからもう一度始めようとした。

 

此処では模擬試合として戦ってもらえる場所で竹刀などの人を切ったりするような事のない武器に限り使うことが出来る。

 

切磋琢磨しながら成長していくがそれがどこまで意味を成すのかは誰もが知らないことだ。それでも自分がやれそうな事があるので一心不乱にするだけだ。

 

「負けられない相手がいる。今日中に勝ってみたいものだな。」

楽しそうに言っているその人はもう一度竹刀を振るところから始めていた。

 

 

人里の中心地。この場所では多くの人達が練り歩いていた。移動するだけの者や何かを買い求めている者。そして拠点として握り飯を作っている人もいた。

 

桜の時期はもう終わって葉桜へと変わっていく。流石にその時ばかりは人里の人々も妖怪も分け隔てなく執り行われていた。それは博麗の巫女が行ったもので人妖が結託するように促したものである。親睦会のように開かれたその会場では皆が和気藹々としながら桜を見ながら酒を飲んでいた。

 

その時期になったが一向にお尋ね者の影も見た事がないので不信感というのはどうしても募ってしまう。それでも己が役割のために日々を過ごしていた人々はその中で頑張る事にした。

 

「殺せ。」

そんな皆が日々を生きていく人里の中心地で一人の男性がそのように言っていた。しかも強い口調で視界に入り次第そのように言っていた。誰も相手にするような事はなく煙たがれていく男はその場で自分の首筋を掻きむしっていた。

 

その掻いている箇所からは血が滲み出てきたところで勇気ある人がその手を止めた。それでも強く抵抗して殺せ、殺せ、と意味もなく強い口調で言いながら暴れていたので三人がかりで抑えておく事にした。

 

その人の目は血で充血していて常に涙を流していた。人間として生きているようには見えないその人は目を大きく見開きながら三人に上から押さえつけられていようともなお暴れていた。

 

首筋や頬からは掻いた跡から血が滲み出ていた。痛々しい見た目をしているがそれでも諦めきれない願望があるのか三人を払いのけて目の前にいる人から腰に携えている刀を奪っていた。

 

これが火事場の馬鹿力とも言えるのだと思う。男を抑えていた三人は唖然としながら抵抗するようなことも出来ずに静観しているしかなかった。

 

そして目の前で刀を盗られた人もあまりに突然の出来事に抵抗することも許されなかった。

 

やがて男は大きな声を出して自分の腹を刺していた。力強く刺したその刀が背中から生えていた。血の色で染められた呪われたその刀は天に向かってそびえ立っていた。痛みに耐えているその声が漏れ出した時にはもう遅かった。周りにいた人からはそれぞれの反応を示していた。黙りこくる人もいれば、状況が理解できずにただただ泣き叫ぶ人。更にはその場で尻餅をつけ始める者までいた。

 

「まだだ!まだ足りない。」

力を入れて割腹させた男は更に刀を自分の首に当てていた。もう十分なのだが止まるような事はなかった。刀を両手で押し込むように構えた男は其処から自分の力でその刀を地面に突き刺そうとしている。左腕は刀身に乗せられていて右腕は柄の上に乗せられていた。

 

ズバッ、とどこからその力が出たのか理解できないほど綺麗に切り落とされた頭は地面に落ちてから暫く転がっていた。

 

その顔は苦悶の表情など浮かべていなかった。

 

恍惚とした楽しげな表情を浮かべながら言い知れぬ達成感に身を打ちひしがれていたと思われる。

 

先程から続いてそのような惨状となってしまった。その手に止められる事もなく血を流して地面を汚す男は誰からの手も差し伸べれる事もなかった。故に誰からも助けられるような事もなかった。即死以外ありえない姿をしている。

 

それを見ていた人々は何も言葉は出なかった。出たとしても聞き取るような事はできない男に似た発狂して精神は制御できているようには見えない声だけ。その場に状況を把握出来たものは居なかった。

 

その後、その場は自警隊のおかげで片付けられる事になったがその原因がわからない以上は誰も手を出す事はできなかった。何があったのか、原因を探る必要がある。これが異変と呼べるものであるのか、どうか。そしてその脅威はどれほど大きいものなのだろうか。それがわからない限りは動く事は許されなかった。

 

「兎に角何があったのか探るぞ。」

自警隊の隊長らしき女性はそのように大きな声で強く訴えていた。その声が解決するまではまだ遠い。

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