第31話
先日発生した人里に住んでいると思われる一人の男が街中で自分の首を切り落としたその件について上白沢 慧音率いる自警隊は調査を進めていた。
しかし、これと言った証言や証拠と言うものはなかった。そもそも口を閉じたまま答えない者や幾ら自警隊とだとしても口を出したくないと暴力を振るう人までいた。だが、それも仕方がないことなのかもしれない。それだけ心を抉る事件となっていたのだ。
人間のみならず妖怪、神、などその種は多くいる。そしてそれぞれに経緯や種があり多種多様な種族が混ざり合って過ごす幻想郷の住人でさえその事はヘラヘラと笑って過ごすようなことはできなかった。そして困り果て、万策尽きたので解決の方は博麗神社に住んでいる巫女へと委ねられる事となった。
寂れたと言う一言に尽きる幻想郷の東の端にある博麗神社で一人巫女が過ごしていた。人里の人々を中心とした一つの目的に突き進もうとしているがどうやらここで自堕落な生活を相変わらず送っている巫女は今日も襖を開けた小屋の屋根の下で寝そべっていた。
白いフリルのついた赤いリボンを付けている黒色の髪をしている。そしてどこを向いているのか、何を考えているのかさえわからないような目をしていて口は紐を結んだように動くような事はなかった。赤い巫女の服を身につけていて袖はまた別のようで肩、脇が見えるようになっている。片膝を上げていて女性としての面目というのは一切ない。それでも巫女としての実力はあるので文句は言えないというのが本音である。
「思考停止したような目をしてどうしたんだぜ?」
「何よ、良いじゃない。」
博麗神社で巫女をしている博麗 霊夢の前に友人である霧雨 魔理沙が現れていた。暫く気付かなかったと思われるがそれでも微動だにしないその度胸は男にも優っているのかもしれない。
黒い服装をした魔法使いの格好をしている魔理沙は何か不思議そうにして霊夢の前に立っていた。何も知らないように映った霊夢のその態度には友人として伝える事にした。
「人里で起こった件については何か知っているのか?」
「何が起きているのよ。人里なんてもう行きたくないわ。」
霊夢はどうしても行きたくない理由があるのか魔理沙の発言を先読みしてなのか見るからに不機嫌そうにしている。それだけ人里の人々が行なっている徒党を組むのも嫌い、努力を嫌う霊夢にとっては行きたくなくても仕方がないとさえ思える。
「そう言うなぜ。実はある男の人が発狂しながら自分の首をこうしたそうだ。」
魔理沙は手を使って首筋の辺りを手刀を作って軽く当てる動作をしていた。霊夢はそれだけの何が起こったのか大体把握できたらしい。
「それでその人は望んでやっていたの。」
霊夢は素早く立ち上がると魔理沙の話をより詳しく聞こうと身を寄せるように縁側に座っていた。ポカポカとした陽気の春日和だがもうそろそろ夏になっても可笑しくはなかった。
「ああ、現場を見ていた訳ではないが笑っていたらしい。」
魔理沙はあまりにも衝撃が強かったのか話したくはなさそうにしていたがそれでも話しているのでそれだけ問題視されているのだろうと霊夢は推測した。別に人がどうなろうと知らないが幻想郷が危険に晒されているのならば脱するように活動をするのが博麗の巫女としての役目である。
「それで何かあったの。」
「それからはまだ大きな事は起きていないらしいぜ。だが原因が謎なので巫女として霊夢に回ってきたと言うことだぜ。」
魔理沙は元気良さそうに話しかけていた。いつも通りと言えるのだろうがその時ばかりは空元気だと思われる。そうでもないと死にかけた魚の目を魔理沙はすることはない。霊夢はその辺りの洞察力は高いらしく魔理沙の表情の変化を読み取っていた。
「そうね。今回は行かないわよ。一人だけなのでしょう。それに本当かどうかも分かっていない。それなら行く理由はないわよ。」
冷たく遇らうように答える霊夢だがそれはもう仕方がない事なのかもしれない。
「慧音から聞いた話だ。自警隊の長を務める彼女なら信じるしかない。そうじゃないか。」
「そう言うことにしておくわ。」
霊夢は軽くそして短く答えるだけでその他には答えるようなことはなかった。別に絶対に行かなくてはならないというわけでもないらしいと勝手に判断したのか動くような気配は一切なかった。
「話は変わるが、何があったんだ。」
魔理沙はまた違うことを話し始めた。霊夢はだいたい何を聞きたいのかは推測を立てたが自らの口で話すようようにさせていた。
「何の話?」
「お尋ね者の話だぜ。何をしたら管理者の逆鱗に触れるようなことをしたのぜ。」
「それは直接聞いた方が早いわよ。青年に聞くかそれとも八雲 紫に聞くのか。それは魔理沙が決めなさい。」
「霊夢は何も知らないのか。少しは悲しいとは思わないのかぜ。」
「生憎、私はさほどその様には感じないわよ。」
霊夢は澄ました顔をして魔理沙の方を向いていた。
「如何してだぜ。」
「何も出来ないから。見たでしょう。正邪とのあの戦闘を。私たちは簡単にやられたけど青年は全く動じる事なく倒した。その現実から目を背けてはいけないわ。捕まえるのには相当な実力を必要とする。だから幻想郷の彼方此方で努力する人達が居るのよ。」
「答えじゃないぜ。」
魔理沙は悲しく聞いていた。霊夢のその返答はどうにも噛み合っていないようにも感じる。それだけだった。
「つまり魔理沙は被害者でしょうけど私も被害者なのよ。そして管理者もね。青年の布石に気づく事なくその手の中で踊らされていた。悲しくはないわよ。これから何をするのかが重要だから。ワクワクしているわ。」
「そうなのかぜ。幻想郷を巻き込んだあの記事はわざと送られたものだったか。だが、その目的は何かわからないということか。」
「そう。アタフタしていても青年の手の中で踊らされるだけになるのよ。こうしてのんびりと暮らしていれば良いのよ。」
「人里で起こっていることにはどう説明するんだぜ。」
「簡単よ。あの人が無駄な事はしないわ。それに戦力を減らすなんてあり得ないわよ。その人は何か嫌な事でもあったんじゃないの。」
澄ました見通しているようなその目をしている霊夢に魔理沙は身を一歩引かせていた。