秋の季節となり気温的に過ごしやすい季節となっていた。何をするにも丁度いい時期なので読書に夢中になる人や作品を作り上げる人もいるかも知れないし、釣りなんか始める人もいると思われる。
妖怪の山と呼ばれる幻想郷の北側にある山では紅葉が紅く染まっていて綺麗な光景となっている。観光に来る人もいるかもしれないがそれには時期が悪かった。人里では謎の病が蔓延していて、妖怪の山は戦力増強のためにピリピリとした空気感を出している。しかし、土着神の影響力は衰えることはないことからきっと信仰心は失っていないと思われる。
「次の方、どうぞ。」
襖を開けて手を招く女性がいた。その人は金色の髪に紫色のグラデーションをした髪の色をしている。背中は大部分を隠せるほどで少しだけウェーブがかかっている様にも見えなくはない。そして無地の白色の服装の上に前の大きく開いているが紐の様なもので止めている黒色の上着の様なものを羽織っている。裾の長さは足先に届くほどである。
妖怪の森と呼ばれる物騒な所であるが灯籠を灯して道を分かりやすくしているのでどの様な時間帯でも対応出来ている。又、襲われた時の避難場所としても使われる事もある。そうなる理由は道の先にある命蓮寺の住職がとても包容力があり誰でも迎え入れてくれるからだろう。それとも優しそうな見た目が人気があるのかもしれない。
「どうぞ、お座りください。」
しかし、今日はどうやら違うらしい。淀んだ目をしていて目の下にクマを作っている妖怪がその場所に訪れていた。どうやら十分に眠れていないので救いを求めて命蓮寺へと訪れている。住職である聖 白蓮は優しい笑顔で妖怪を迎え入れていた。
「今日は何か相談をしたい事があるのでしょうか?」
優しい声と同じ様な表情で包み込む様に話す聖。それに紐解かれたのか少しだけ口を開けた。
「最近眠れていない。」
その妖怪は黒い服装をしていて夜陰に乗じて何かをする為の格好をしていると思われる。だが、眠れていない所を見るとそれさえもままならないのだろう。人喰い妖怪であればそれは死活問題というものである。これから生きていく事ができなくなる。
「何か原因というのはありますか。」
「申し訳ないが分かっていればまた違う場所へと向かっていたと思われる。」
その妖怪はそう言っていた。声は小さくなっていてどうしても聞き取りづらかったが聖はよく耳を澄ませて聞いてあげた。
「それは困りましたね。分かりました。座禅を組んで心を清めましょう。」
聖は怖がらせない様にゆっくりと立ち上がると妖怪も連られてなのか同じ様に立ち上がっていた。聖について行くように妖怪は命蓮寺の縁側を歩いていく。
聖が止まったところは命蓮寺の出入り口が真正面に見えるところだった。妖怪は座るように促されて言葉のままにそうするようにしていた。
妖怪は促されるままに片足をもう片方の太腿の上に乗せていた。右手の上に左手を置いてから自然に力を抜いて左足の上に右手を置いていた。そして親指を自然に合わせて貰うように指示されたので抵抗する事なく行う事にした。
背筋をしっかりと伸ばして両肩の力を抜いて頭の頭頂部を天井に突き上げるように顎を引いていた。そして目は見開く事もなく閉じる事もない自然な開きのままで座るようにしていた。
様々な思いが浮かんできては消えていく。だが、それに身を任せるように力を抜いて置くように言われたので言われるままに妖怪は座禅を組んでいた。聖も全ては教えないので効果はあるのかはどうかは分からないがそれでもしないよりかは楽になるのだろう。
辺りは静けさに包まれていて妖怪のその中に入り込むように呼吸をゆっくりとしていた。よく住職から指示を飛んでくるがそれに何か文句をつけるようなことはしなかった。妖怪にも何か実感というものがあるのだろうか。それとも何か違う理由はあるのかもしれない。
「それでは終了しましょう。」
時間にして半刻だろうか。穏やかなそして無意味とは言えない静寂の中で自分を見つめ直していた妖怪は幾分かスッキリとした表情をしているようにも思えた。何か理由はあるのだろうがそれが分かるようになるのはまた後の話になると思われる。
「有難うございました。」
妖怪は座禅を組みながら鼻の前の三寸ほど離れた距離に手を合わせて肘を軽く張り一礼していた。これで一連の命蓮寺での座禅は終了となる。
「どうでしょうか。スッキリとしましたか。」
聖は暖かい飲み物を差し出しながら妖怪に聞いていた。
「はい。」
短い返事だったがそれでも力のこもっていて心の中にあったものは少しは取り除けたのだと思われる。聖は満足そうな表情をしていた。妖怪は座禅を終えて出されていた暖かい飲み物を飲んでいた。スッキリとした味をしているが柔らかい雑味のない茶で色は薄めだった。それでも何か深みがあるので何か特別な一工夫をしているのかもしれない。
「これからもいらして下さい。お待ちしてます。」
「有難うございます。これからは足を向けて寝ることは出来ないかもしれません。」
妖怪は湯呑みを持ちながら答えた。縁側からは足を放り投げていて楽な姿勢である。来た時よりかは柔らかい表情をしている。聖はいつまでこれが続ける事ができるのか違う意味合いで考えていた。