博麗の巫女である博麗 霊夢は自身の住んでいる神社から森の方へと見回りを行う事にした。鬱蒼とした森が霊夢の下には広がっていた。特に整備もされていると言うわけでもなくいつ襲われても文句の一つも言えないような状況なので参拝客と言うのは減る。そして幻想郷自体が機能を停止しつつあるので余計にその足は遠のいていた。
霊夢は後ろで短く結んだ黒い髪を風に遊ばせながら下の方を向いて探そうとしていたが一切見つけられるような気配はなかった。仕方がないので下へと降りていく事にした霊夢は地面に足をつける事にした。
辺りは木漏れ日によって少しだけ明るくなっていたがそれ以外の場所は暗くなっていて夜と同じように感じなくもない。視界は言うまでもなく悪いので霊夢は慎重に足を進めながら博麗神社から人里までの森の中を探索する事にした。友人の話によると紫色の髪をしているそうなのでその人を探せば良いが見たところは出会ったと言う記憶はない。そもそも人も妖怪も居ないような場所では出くわすことはなかなかないと思われる。
「一体誰なのかしらね。」
霊夢は段々と飽き飽きとしてきたのかそのように嘆いていた。かれこれ十分は過ぎていたのだろうか。一向に変わらない景色には目を使う理由もなくしていたようで向けるような事もなかった。それだけ何かしていたのかと言われると別にそうでもないと思われる。
枝の折れるようなポキッ、と言う音がした。その音に霊夢ははっ、として声を出した。
「誰?」
霊夢は聞いてからふと思った事があった。そもそも答えるような愚か者はいないだろう。霊夢にとってはそれでも別に良かった。
「答えはないようね。」
袖に仕込んでおいた札を投げてどこに向かうのかを探していた。追尾式の札を二枚投げる事で何処に逃げようとしているのかを探そうと言う事だ。兎に角音のした箇所へと思い切り投げてみる事にした。手応えというのは無いと言うわけでもない。だが、それでも空振りをした野球選手の様な空虚な感覚を覚えた霊夢は足を進めてみる事にした。
その場には何もなかった。勿論のことだが、誰も居ない。それでも気配だけが何処からかするので不穏な空気と戦いながら霊夢はその犯人を捜す事にしていた。何処にいるのか、そして初めて対面するので細心の注意はしているがそれでも相手の戦力というのは未知数なので最後まで警戒は怠るつもりはない。
「そこね。」
暫くした後だった。ようやく見つけたと思われる霊夢は札を素早く投げていた。パスッ、と音がしている。札が何かに斬られるような音がした。その方角へと向かってみる事にした霊夢はそこで驚愕な光景を目にする。
袋のようなものが吊り下げられていた木が沢山あった。大きさは人が入れるようなほどで黒い袋に包まれている。中に何が入っているのかは予想できないが霊夢は明らかに嫌な事であるのは目に見えた。開ける気にもならないが一つくらいは開けてみないと此処から先へと進めないと思われる。霊夢は意を決して袋を乱暴に引きちぎる事にした。
破る事においては別に問題はなかったが開けた瞬間に臭ってくる独特な腐乱臭が霊夢に鼻を襲っていた。中に何が入っているのかは見えていない。だが、見なくて良かった。
中には首から上がバラバラになっている遺体が中に入っていた。そしてどうやら人里の住人であるようだがその姿は何処か綺麗に保管されていた。霊夢は何がなんやら理解出来ないように目を見開いていたが今までの優しい異変とは違う事が目に見えて分かっていた。それだけでも十分な収穫というものである。
「開けっちまったか。面倒な仕事を増やしてくれたものだ。」
黒い袋と同じように木に吊り下がっていた黒い布に覆われていたその人は猫のように地面に着地していた。そして音もなくすっ、と立ち上がるとフードのようになっているのか頭の部分は覆い隠されていた。だが、見える限りは紫色の髪をしている。目は細めで吊り上っていて良い印象は受けない。尖った鼻と大きく開いて笑っているのか口角はこれでもかと言うほど上がっていた。
「誰なのよ。」
霊夢は持ち前のお祓い棒を構えながら左手には何枚か札を持ち合わせていた。その札は威力こそ弱いものの追尾性のあるもので相手からすれば面倒な事この上ないのだろう。
「名乗る名はない。此処で死ぬ奴にな!」
その人は急に動き出していた。だが霊夢も知らなかったというわけでもないので素早く左手から札を二枚投げていた。視界の通らない暗い森の中ですんなりと札を避けた黒いマントに全身を覆われている男性は霊夢の方へと向かっていた。
何処から飛び出たのか分からないナイフを取り出していた男性は霊夢の前でそれを突き出していた。それをお祓い棒で払いのけた霊夢だったがそれだけで精一杯だった。力が強いという事ではないが何か保護されているような物があると瞬時に判断する事にした。霊夢は更に札を用意する。
「アンタは此処で倒す。良いわね。」