これまでに味わった事のないような雪辱。博麗の巫女である博麗 霊夢はその思いからか、フラフラと脱力しているような、内から湧き出てくるその力を酔いしれているのかその体は疲労が溜まっているようだった。
霊夢はしっかりと整っていない階段を登っていき博麗神社へと向かっていた。右手にはお祓い棒を持っていて左手にはもう事切れている札だった物を持っていた。供養するつもりなのだろう。
地面には草が生えていて一切の手入れも掃除もされていない博麗神社には一切のご利益がありそうにはなかった。だが、此処が博麗神社というだけでどれだけ有難いものであるのかは知っている人は理解している。
「紫、ちょっと良いかしら。」
空を向いてそう叫んだ霊夢の目の前に隙間が現れる。赤いリボンで空間が裂かれたその先には大きな目があるようで全てがこちらを向いていた。この独特な感覚はどうしても慣れない霊夢。そのスキマからのっそりと出て来たのは金色の髪をしていて紫色の服装で全身に包んでいる女性だった。
幻想郷の管理者として大体の事は管理している大妖怪である八雲 紫。
「どうしたのよ。私はこれでも忙しいのよ。」
眠たそうに答える紫の目の下にはクマがくっきりとあった。人里の人々のような雰囲気を感じた霊夢ははっ、としていた。
「まさか死ぬんじゃないでしょうね。」
「まさか。私は忙しいだけよ。藍にも橙にも手伝いはさせているけど最近では死人が多いのよ。それにどうしてもこのような状態になっているのか調査を進めないといけないわけ。それとね、人数が合わないのよ。どうしたら良いのかしらね。」
扇子で口を隠していた紫だがいつものようには力はないようでハキハキと来た声ではなかった。それでも霊夢の事になればしっかりと応えようとするあたりは何処か母性を感じなくもない。手厳しい時もあれば優しい時もある。もう覚悟が出来ているのかもしれない。
「人数が合わない理由は簡単よ。近くの森にそれらしき物があったわ。」
霊夢は紫がそのような状態でも一切の配慮はなかった。何にも流されない霊夢は此処でもそれを発揮するらしい。それがどの様な意味合いになるのかは言わなくても分かると思う。
「そう、ありがとう。それで何か頼みたい事はあるかしら。」
「あるわ。青年を連れて来て欲しいんだけど。」
霊夢はいつものように強い口調のままで紫には頼んでいた。小さい頃から知っているのでその辺りは判断しにくいが仕方がなさそうに表情を歪める紫は笑っているようにも見えた。だがどこか悲しそうにしているように見えるので不思議な顔をしている事には間違いなかった。霊夢はその事は気になっていたがもう別に気にすることはないのだろう。
「少し時間をくれないかしら。人に聞きながら全部を探すわ。」
紫はそれだけ言うと吸い込まれているようにスキマの中へと入っていき閉じてしまった。霊夢が紫へと会いに行くことはもう難しい事だった。霊夢は今は待つしかないので何となく掃き掃除でもしてみる事にした。自分の邪念を払いたいのか、単純に汚いので掃除を始めたのかは本人にしか分からない。
霊夢が紫に青年を探すように言ってから三日後。意外な場所で見つかった青年は呼び出されるように博麗神社へと強引に連れてこられていた。
「もうアンタにしか頼れそうにないわ。」
博麗神社で巫女を務めている博麗 霊夢は境内の一角にある小屋の中で青年を待っていた。外は寒かったがいつ来ても良いよう少しだけ外を見られるように襖は開けられていた。そして暖かい茶を飲んで待つ事にしていた。
事前に紫から連れて来ることを伝えられていたので霊夢は何もするような必要はない。その結果として湯呑みに入れた薄い茶を飲んで時間を潰すしかなかった。その為か急に現れた青年には反応を遅らせていた。
「何かあったのか。」
青年はその場に立っていた。霊夢と同じ屋根の下でいる、きっと紫が気を使って此処まで連れて来てくれたのだろう。霊夢は簡単に考える事にしてそのように頭の中で整理しておく事にした。
「紫から聞いているでしょうけど人里では大きな被害を出しているのよ。それを解決するための切り札をなって欲しいのよ。」
ちゃぶ台から離れてまた別の小屋の方へと向かって行く途中で青年とはそのような会話をしておいた。新しく茶を用意するつもりだろう。かまどに火を付けて水を沸かそうとしていた。
「解決するなんてそんな手腕はない。」
青年は気を使ってか近くまで寄って来ていた。そして会話しやすい大きさの声量で話している。
「それでもアンタにしか頼ることができない。それは分かるでしょう。自分で起こした事は自分で解決してちょうだい。」
「もう少し慈悲をくれ。」
「甘え事なんて珍しいわね。」
「そのことは今は良いだろう。それで今は何が起こっているんだ。」
青年は霊夢に聞いていた。だが、何処か、雰囲気が違うのでなんともに言えないような感じを覚えた霊夢。
「人里で自殺者が増えているのよ。それで全く機能しなくなったから最後の切り札を使おうと言うこと。何か知っていることはあるかしら。」
「何も知らないな。何の事かさっぱりだ。」
青年は少し悩んでからそのように答えていた。それなら仕方がないので霊夢はまた別の話をしていた。
「それと、三日前に戦った奴がとても強かったわ。という事で退治をお願いしたいんだけど。」
霊夢は沸かした湯を湯呑みの中に入れていた。青年が猫舌なので沸騰する程度ではない温度にしてある。だが茶葉の味が出るのかどうかはまた別の話になるだろう。霊夢はスタスタと歩いて手渡しするとちゃぶ台のある小屋の方へと向かって元の位置で座り直した。青年は何故か不満そうな表情をしていたがそれを霊夢に見せることはない。何か恐れている事でもあるのだろうか。
「それはどんな奴だ。」
青年は霊夢が座ってからゆっくりと口を開いていた。そしてちゃぶ台の上に湯呑みを置くと台の上に肘を置いていた。そして顔を近づけていた。