青年英雄記   作:mZu

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第44話

博麗神社の近くの森の中。その中は光は全く通らないが一部だけはある魔法使いのおかげでくっきりと景色を見ることができる。その下では地面に倒れている人と二人が立っていた。そして絶命している人が一人。

 

「怪我はないか。」

前髪を後ろへと持っていき一つにまとめるために結んでいる髪をしている黒髪の青年は薄紫色の服を血で汚していた。だが、それを感じさせないほど平然とした態度をしているので自分がおかしいのかと感じるようになっていた。

 

「ないわよ。それよりもアンタの身を気にしたらどうかしら。」

黒い髪に赤いリボンをつけた巫女の服装をしている少女は少々ボロボロになっているように思える。多少という程度であるので別にそう気にするような必要はない、青年に比べれば。

 

「この程度唾をつけてたら治る。」

青年は右手に口から吐き出した唾をつけると何処からか取り出した黒い刀身をしている小刀の上に塗っていた。そして左手で腹部に刺さっているナイフを一気に抜くと地面に落としてから自分が持っている小刀を当てていた。それを見ている巫女の服装をした少女、博麗 霊夢は青年が何をしているのかは皆目見当もつかなかった。

 

「して、森を汚してしまったが良かったのだろうか。」

青年はいつの間にか塞がっていた傷口から自分の持って当てていた小刀をマントのところに納めていた。どのような原理でそのようになっているのかは分からないがあえて聞くようなことでもないので何もしなかった。

 

「それを気にするなら魔理沙の傷も治してあげて。」

 

「そうか。」

青年は少し怠そうに地面に倒れていた少女に小刀を当てていた。

 

その少女は黒いとんがり帽子をかぶっていたが今は地面に転がってしまっている。綺麗な金色の髪をしていて少し癖があるのかウェーブがかかっているようだ。そして黒い衣服を身に纏っていて少しだけ土による汚れがあると思われる。

 

青年は再度自分の唾をあらかじめ塗っていたようですぐに押し当てていた。どのような原理でそのようになっているのかは全く分からないがどこかに潜伏している間に身につけたのだろうと霊夢は思っていた。

 

「霊夢、少しの間神社で休ませてくれ。ついでに話も聞きたい。」

 

「そう、仕方がないわね。」

霊夢はそういうだけで興味があるようには見えなかった。それとも疑問を持っていて感心を持てなかったのだろうか。聞くことでもない上に青年が聞く事もなかったので真相はわからないままだ。

 

 

この場所は幻想郷の東の端、博麗神社と呼ばれている神社はいつも通り寂れていて人の気配がなかった。逆にそれはあり得ないというのが当たっているのかもしれない。日は高くなっているが沈んでいうわけでもないので昼は過ぎているようではなかった。

 

「俺がいない間に何が起こっていた。」

黒髪の青年は聞いていた。そう聞かれた人は何も答えるようなことはしなかった。青年は不審に感じているようだがそうなる理由もわからないわけでもない。

 

「実は現状、人里は機能していないわ。紫によって隔離もしたけど効果はないどころか逆に多くなったように感じたわ。永琳の麻酔薬も効かなかった。致死量に摂取させても目を開けたそうよ。そしてやれる事はなくなったわ。」

霊夢は青年がもう一度優しい口調で同じことを聞いてきたときにやっと決意が出来たのかそのように言っていた。青年は少しだけ考えていた。

 

「症状はなんだ。」

青年は聞いていた。その声は下から這い寄るような感覚を覚えるものだった。

 

「何も分からない。自分からその命を絶とうとするのが最後になるのは分かっているわ。それ以外は目の下にクマが出来ていたことかしら。」

霊夢は青年の質問に答えておくことにした。何か知っていることがあるのかもしれないしそれを任せるだけの力はあるのだと判断した。無意味に幻想郷を錯乱させたわけでもないと思われる。

 

「殺してくれ、と懇願したりはしたか。」

青年は聞いていた。

 

「そのはずよ。」

霊夢はそう答えていた。何が起こるのかは全く分からないので青年に導かれるがままでしかないがそうしないといけない理由もないわけでもない。

 

「それは面倒なことになった。」

青年はそう言ってちゃぶ台に置かれていた湯呑みを取ろうとする。だがすぐに離した。熱かったのだろうか、それとも気が変わったのか。

 

「何が面倒なのよ。」

霊夢は興味がやっと出てきたようで身を前のめりにしながら青年の方を向いていた。元々対面だったのだが青年でさえ困るほどに近づけていた。

 

「心の弱い者でよく知っている者ほどその病は重くなる。その中で悪い印象を覚えた人は余計に重たくなる。」

青年は霊夢がどれだけ近づいてこようとも一切の動揺は見せなかった。どっしりとその場にいる山のようなその態度には何か今までとは違うものを感じた霊夢。青年は机を叩いているだけで何か行動は起こさなかった。

 

「それはつまり人里だけではなくて幻想郷全体の機能が停止しようとしているということね。」

 

「そうだ。下手するとそれよりも酷いことになっているかもしれない。」

 

「例えば何が危ないと思うのよ。」

霊夢は息を潜めた獣のような青年の話に耳を傾けていた。そしてそのように話す。其処には博麗の巫女としての役目やその責任が背中に乗っているのかもしれない。

 

「妖怪が人を襲わなくなる。意味は分かるか。」

 

「それが何よ。」

霊夢は一瞬何を言いたいのか分からなかった。だが何か言いたいことがあるのだろうと思って霊夢は待つことにした。

 

「妖怪としての活動が弱くなっている。妖怪が心を傷つけられたらどうなるのか分かるだろう。」

 

「それってつまりは妖怪の生命が危なくなっているという事ね。」

 

「それで済めばいい。問題はそれで信仰を失ったりしていないということだ。博麗大結界はまだ頑丈のままなのだろうか。」

 

「そんなはずはないわ。」

 

「そうか。本人に聞いてみてほしい。俺は違うところを見てくる。先に言っておくが香霖は特に影響はなさそうだった。」

青年はそれだけ言うとちゃぶ台に置かれている湯呑みを持って口元に持っていき少しだけ啜ることにした。もらわないのも悪いと思ったのかどうかとは分からないが少し無理しているのは言うまでもなかった。

 

「また会おう。」

立ち上がった青年は博麗神社の巫女過ごしている小屋の襖を開けると細い隙間から外に出ていた。そして襖は閉められたがそこに影があるのでまだ居るらしい。何か高い音がなるものであるらしい。それともそのように聞こえてしまうのか。

 

霊夢はあまり気にしないことにしたが気になることがあるので何とも言えない気分になっていた。

 

幻想郷を本気で潰しているのだけはよく分かった。現状はどこまで広がっているのか。それと管理者よ隊長はどのようなものか。

 

霊夢は幻想郷を守る役目のある博麗の巫女としてその場で声をかけた。

 

「紫、聞きたいことはあるわ。」

霊夢の声はしっかりとしていた。いつもとは違うキリッ、とした責任感のある表情をしていた。その眼は未来を写していて皆の頭の上から光を与えるような存在。皆から崇められるのであろうその姿は巫女としてようやく目を覚ましたような感じを覚える。

 

誰に感化されたのかは言うまでもないが良い方向へと向いているのは言うまでもない。

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