森の中を歩いていた青年。
薄暗い中を通っていく黒髪の青年は一番世話になっていた人の元へと向かう事にした。その場所は紅い壁に覆われた紅い色をした何とも趣味の悪い館なのだから主人の種族と名前を聞けば別に何も不思議な事ではない。
青年は空を飛ぶようなことはせずに人里を通って行くことにした。霊夢の話も気になるが何となく気分でそのようにしていると思われる。それとも心が揺り動かされたのでそのようにしてみる事にしたのか。
人里の東側。前に謝って天界を訪れた時に降りてきた場所はここになっている。この辺りはそこまで建物が多いというわけでもないので人が多いということはない。だが、それにしては何か違うものを感じるので青年は何となく様子を見てみる事にした。
木造である家屋が建っているがその中に人気というものは何もない。家の感じはどうしても取れなさそうな汚れが付いているのが気になるがその原因というのはよく分かる。人の血だ。
吹きかけられたように飛沫を上げている。どうしても見ていられなくなった知り合いが斬りつけたのかそれとも自分で落としたのか。どちらにしても映姫にどう判断されるのかは言わずにも理解できる。
「慧音の様子が気になるな。」
青年はそれだけ言うとつま先を北側へと変えてそのまま歩き進んでいた。人気のない人里は以前のような活気というものはなくまるで死人の街となっていた。静かとかそう話ではなくて不穏とした締め付ける冷たさのある嫌な感覚を覚えるものだった。
人里の家屋にしては庭のある珍しい建物がある。そして少し大きめな建物で大きな一室には長机と何かをかけるようになっている板が壁に立て掛けられている。中の様子は前と来た時よりかはどうしても汚く見えてしまう。
寺子屋として利用されているその建物は上白沢 慧音が住んでいるはずなのだが見る限りではいるようには思えなかった。
「邪魔する。」
青年は玄関で靴を脱いで何の気なしに入っていた。居住区というのはあるのかと言われるとそう広くはない。
建物のうちの多くを寺子屋として子供たちに学びを与えているための部屋に割り当てられている。誰もが羨む家だがそうとはとても思えなかった。
青年は気にする事なく中へと入っているが図々しいのか何の抵抗感もなく中へと入っていく。皆から嫌われるだろうが青年の方が正しかった。
「どうした。」
青年はある一室に入るための襖を開けた青年はその先に倒れ込んでいる慧音を見つけた。腰にも届きそうなほどの銀髪に青色のメッシュを入れた髪型をしているその人は床の上で天井を見ていた。胸元には赤いリボンつけていて裾が白色の上下一体の青色の服装をしている。だが今は慧音の性格からは考えられないほどに着崩している。
「ん?誰かと思ったら。何を考えているんだ。」
「何かあったのか。」
青年は何も気にする事なくその場に立っていた。
「人里の人々は殆どが居なくなってしまった。自警隊も壊滅。どう責任を取るつもりだ。」
「そうか。して、貴方の体調の方は大丈夫か。」
青年は慧音の怒りを目の当たりにしても何も気にするようなことはなかった。もう終わった事なのかそれとも何ともならないので諦めているのか。
「そんな事はどうでもいい。どうしてこんな事になった。」
「それは管理者が俺を入れなければ良かった。そしてもう俺を殺そうとも何も変わらない。もう入り込んでいる。」
「どうしたら良い。どうしたら人里の人々を救える。」
慧音は決死の思いからそのように聞いていた。もう何があったのかは言うまでもないわけだが青年は少し呆れた表情をしていなくもなかった。もう慧音らしからぬ発言なのでそのようにしているのかそれとも何か違うことを考えているのかは何も分からなかった。
「立て。それだけで良い。」
青年の回答は単純なものだった。
「そうしたらどうなる。」
「それは慧音の立ち方次第だ。生かすも殺すも慧音の立ち方次第。そういう事だ。」
「何が言いたい。」
「人里の人々を救いたいというのならその立ち姿とその背中で語れ。そうしたら立ち上がる人も居るだろう。」
青年の最終的な回答はそのようだった。慧音にはもうその気力さえ残っていなかった。だからこそ他の力に頼ったわけだがそれがあまり良くなかったのだと思われる。
「責任は擦り付けない。これは俺の責任だ。だが人里の人々を立ち上がらせるために必要なのは俺の力ではない。その人たちを照らしていた太陽だ。慧音、貴方がその役目にある。」
「そんな身勝手が通ると思っているのか。」
「興味ない。俺は俺がやりたい事をやる。」
「元からそんな性格だったか。永琳にも協力してもらう形になっていたが私にはどうしたら良いのかわからないよ。」
「それは霊夢から聞いている。効かなかったそうだ。して、慧音にして貰いたいのは簡単な話だ。元気な姿で不格好でも声を掛け続けてくれ。そして励ましてやってほしい。それだけだ。」
「何と話しかけたら良い。」
「さて。それは貴方に任せる。」
「私にはとてもではないが難しそうだ。変わってはくれないだろうか。」
慧音は珍しく弱音を吐いていた。それを青年は馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「声をかける人は代わりはいる。自警隊にでも任せておけ。だが、忘れてはいけない事がある。人里を守っていたのは誰だ。博麗の巫女か。それとも俺か。」
青年は最後にどうだ、と慧音に何か反応をするように仕向けていた。そして慧音は少し悩んでから答えを出していた。
「私しかいないだろう。是非やらせてほしい。」
「そうか。任せた。」
青年は少しだけ笑っているように口角を上げてから満足したのか踵を返して玄関の方へと歩いていた。と言うよりかは来た道を帰っていくだけで単純に帰路につくだけのようにも思える。別にその事が気になったわけでもないが慧音も少しだけ何か毒されているのかもしれない。
三角錐のついていて一枚の板を挟んで六角柱の方をしている帽子を被って何処かへと歩いていた。それが何処になるのかは知らないが言われた事をやるつもりなのだろう。