守りたいものはいくらでもある。だが、手の届かないようなところにあるものは取りに行くようなことは不可能。誰も捨て、何を拾うかはその人の判断による。自分の尺に合わせて持っていればいいがそれを守れない人も居る。そしてその事を気にしない人も居る。
夕暮れというには少し時間は遅くなっている。地平線に赤い球体が吸い込まれていくのを背中で見ながら大きな赤い鳥居を見ていた青年は何も気にする事もなく中へと入っていく。堂々と真ん中を通っていく薄紫色の服装をしている青年はその先へと進んでいた。
境内には人が居ないのでどのようにしていても別に構わないのだが神の前でのその行為は普通なら許されるようなものではなかった。普通なら。
「邪魔する。」
青年は神殿にある襖を開けていた。何の前触れもなく開けていく青年だが誰も怒るようなことはない。それだけ器が大きいので許す事ができるという言い方が一番当たっているかもしれない。
「あ、こんばんは。」
緑色の髪をしている現人神である東風谷 早苗は夕食を食べようとしているようで茶碗にご飯を装っていた。神奈子と諏訪子はこの社に祀られている神であるので巫女にして貰っているのは別に構わない。だが、すべて任せきりにしていたとは思っていなかった。
「時間が悪かった。また来る。」
青年は踵を返して何処かへ出かけようとしていた。居心地が悪いのもあるが一瞬で空気を悪くした事を感じ取ったのだろうか。青年はすぐさま行動を起こしていた。
「食べていけ。まさか断るなんてことはしないだろうな。」
「それでは頂くとしよう。」
青年はもう一度襖の中の部屋へと入っていた。青年を呼び止めたのは守矢神社の代表として参拝客と気さくに話している八坂 神奈子だった。青年は裏切ることは出来ないので食べていく事にした。
「神奈子には勝てないもんね。」
「そうだな。敵わない。」
諏訪子の言葉に平謝りしそうなほどに気力を失っていた。もはやそこに青年らしさというのはなかった。
「何があったんですか。」
早苗は事情を知らないのかこの三人の話にはどうしても付いてこれることはできなかった。そもそもあの時は居なかったと思う。
「それは様子を見ていれば分かる。して、今日はどのようにもてなしてくれるだろうか。」
青年はそのように言いながら神奈子の対面に座る事にした。青年から見て左横には諏訪子が座っていて青年の横には早苗がいる。机がそこまで大きいわけではないので四人となると手狭なものだった。
「君は何も変わらないね。」
「そうか。」
青年は諏訪子の発言には肯定していた。本来の姿に戻っていた青年だがその方がらしいので三人とも特に文句は言わなかった。
「茶碗ありましたっけ?」
「予備で三つあったはずだ。特に気にしなければ良いがどう思う。」
「予備ということは誰かが使った物ということか。」
「その通りだ。」
「俺は気にしないが他の人は気にしないのか。」
「面倒な回答だ。答えは何だと思う。」
「興味ない。ちょっとした遊びだ。」
青年は平然としていた。神奈子はその様子を面白がっていたが早苗は気が気ではなかった。神に対してちょっとした遊びなどと言って冗談を言い始めるのは青年くらいなものなのだろう。世間というのを全く分かっていない、それとも。考えるだけでは出てこない。
「早苗、青年の分も装ってやれ。」
神奈子はそう言いながら青年に話しかけていた。早苗はその話の内容が怖くて聞けなかった。
食卓には大皿に盛られた炒め物とちょっとした漬物が置かれている。それとお餅が置かれている。黒っぽいものがかけられているので何か味付けはされているのだと思った。紅と白なのでお供え物の類いだろうかと青年は考えていた。
「今日の献立は鹿肉と山菜炒めと山菜の漬物と醤油で味付けした餅です。いっぱい食べてくださいね。」
早苗は気を取り直して軽快に大きな声でそう言った。まさかの来客に困惑したがもうそのような事はないと思われる。
「米を米で食べるか。斬新だ。」
青年はその気に乗せられてからそのように言っていた。テンションはそう変わらないように思えるが外側ではいつも通りである。そう表情に変化はない。
「幻想郷では常識に囚われてはいけないのですよ。」
早苗はいつも通り元気よく答えていた。
青年は神奈子と諏訪子のご好意で泊めてもらうことにした。ここで返すのも危ないからだという理由だがその真意は知れる範囲ではない。
その日の晩の事。各々が寝室を襖で分けて終えた時間に早苗は青年の元へとやってきた。
「あれをしてみたいんです。」
早苗は青年の寝る部屋へと入ってきて開口一番にそのように言っていた。襖で仕切られているので中で何をしているのかは一切想像出来ない。声と音しか聞こえてこない。
「そうか。俺が布団に横になる。早苗の好きなタイミングで来るといい。」
青年は意外にも寛容的であるらしくしてくれるらしい。
「有難うございます。」
早苗は青年に言われた通りに準備を整えてから青年の上へと乗り上げていた。青年は早苗が乗ろうとも顔色一つ変えようとしない青年はもう慣れているのかもしれない。それともまだ不満であるのか。
「もう少し身を委ねてみてはどうだろうか。」
青年がそう言うので早苗は意を決して青年の上に完全に乗ることにした。とても気分が良いのか艶っぽい声で鳴いていた。
青年はそれに顔色一つ変えることなく冷静に早苗の事を気分良くさせていた。
「気持ち良いですー。」
早苗の方はどうやら耐えきれないのか柔らかい声でそのように言っていた。頰を赤らめているように聞こえないこともないので気になるかと聞かれるとそうだと答えたくなる。
早苗は青年の上で我慢出来ないように腰を振っていた。ゆっくりとしたペースであるがじっくりとそのテンションというのは上がっていると思われる。
そして最終的に早苗は短く切れた声しか出さなくなった。そうなるに連れて段々と声が大きくなってくる。髪を乱して揺れている姿は一言で言うと妖艶だった。
「お前たちは何をしているんだ。」
それを聞いていた神奈子が堪らず襖を開けていた。
「神奈子様、とても気持ち良いですよ。」
「いや、うん。お前たちは何をしているんだ。」
神奈子は頭を抱えながら面倒になったのかそれとも何も言えないほどに呆れてしまったのか。もし良かったら楽しんでもいい、と神奈子は言ってから襖を閉めて何処かに歩いていた。
「何が言いたかったんでしょう。」
早苗は意味が分かっていないのか青年の上で腕を伸ばしていた。
「まさかこの歳になってこんな事をするとは思わなかった。」
青年は呆れたように言っていた。それでも付き合うのだから同類なのだと思われる。
次の朝、社に祀られている二人の神がいなくなっていて騒然としたとかしなかったとか。
早苗は青年に飛行機ごっこを頼みました。(ネタバレ)