第51話
幻想郷はとても綺麗な朝日に照らされていた。緑色の映える森林とその奥には活気のあった人里がありその奥には守矢神社がある妖怪の山がある。西側には霧に包まれた湖がありその奥には紅い壁に囲まれた紅魔館がある。そして東側には青年が最も期待している場所がある。その場所は寂れているがきっと大きな事を成し遂げてくれるだろう。
青年は冥界と幻想郷を切り分ける境界の切れ間から飛び出してその風とその熱に身を任せていた。冷たく凍てつくような気もあったが青年の心は徐々に温度が高まりつつあった。何故か暖かいので青年は本当に気にしていなかった。その証拠に口元には笑みが溢れている。
黒髪を強く揺らしていた青年は両脚、両腕、身体に風を巻きつけて妖怪の山のその先へと向かっていた。滑空しているが多少なり制御していたらしく綺麗な軌道を描きながらムササビのようになっていた。
中有の道を通り抜けて地面へと飛行機のように着陸した青年は前へと来ていた髪を後ろへと流してゴムのようなもので止めていた。その先には三途の川があるので丁度様子を見るのには都合がいい。
「急ぎそうだな。」
青年は黒い雲の空の下で高く積まれていた石の上に座っていた。正直普通に地面に座っていた方が楽なのだろうがそれをしないのは青年のこだわりなのかそれともまた違う理由があるのかは本人でもわからない。だが絶妙なバランス感覚なので何か文句を言うような必要もない。いや、言わなくてもいい。
「アンタはヒマそうだね。」
短い赤い髪をしていてトンボで止めている茶色の腰帯をきつく締めた青色の和装をしている女性でその高い身長は立っていても青年は越せないのだろう。呆れたような口調で話していた。名は小町。魂を運ぶ死神だ。
「サボろうなんて考えないのか。」
「出来ないよ。こんな数があるんだ。やらないとね。」
「そうか。案外真面目なんだな。」
「あたいは元々そうだよ。もっと真面目なのがいるだけだよ。」
「言いたいことは分かる。」
青年はそのように言っていた。その言葉には深い感情が潜んでいるがそれが何であるのかは想像がつかなかった。悔しいのだろうか、嬉しいのだろうか、寂しいのだろうか、幸福感で満たされているのか、それは分からなかった。
「そうかい。それで今日は何をしに来たんだい。」
小町は何となく終わりかけなのを感じ取ったのかそのように言っていた。少しばかりは寂しいようだ。
「何も理由はない。数は最近増えたのか。」
「増えているさ。見ていれば答えるまでもないだろう。」
小町はいつも持ち歩いている鎌を肩に背負っていた。そして簡単に振り回そうとしている辺りはそれだけ得手であるとも言える。青年は特に気にするようなこともないままその石から立ち上がった。その調子で崩れていたが音は特に出るようなことはなかった。
「そうか。もう終わらせる。原因はもう分かっている。」
「頑張ってくれよ。あたいは期待しているからさ。」
「そうか。」
青年は河原の石の上を歩いていた。短い滞在時間だったがその中での濃さは異常とも言える。
「頑張ってくれよ。私はここで魂を運ぶしか能がないものでね。」
小町は一言だけ呟いた。