青年英雄記   作:mZu

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第56話

霊夢の回答の結果を聞いた青年は一路忘れ物を取りに行っていた。厳密には完成する前に出てきただけなので青年のミスであるがその事は今言っても意味がない。

 

青年は命蓮寺のある妖怪の森へと向かっていた。そして仙界へと行きながら二人の様子を見てから魔界へと降り立った。二人は前とはあまり変わっているようではないのだが青年は深くは考えていなかった。水に流そうとは言わないがそう言ってもおかしくはないと思われる。

 

黒髪の青年は何もない魔界へと降り立った。だが、村がないというわけでもないので青年はそちらへと向かう。実は作ってもらえるように頼んだ鍛治職人がいる。見た目は人間とは変わらないと思うが少しぐらいは魔界の環境に適応していると思われる。青年は高身長でスラッとしている。白髪混じりで年はかなり重ねていると思われる。職人気質なようだが青年は特に問題はなかったらしい。それ以外には特徴というのは見当たらない。

 

「出来上がっているか。」

 

「おうよ、待ってたぜ。」

魔界の村の何処かにある鍛治職人はそのように答えた。青年は工房の出入り口に立っていてそれ以上は入ろうとはしなかった。中は見たことのある気はするがまた別であるのは確か。青年は何回か来ているがそのことは言わなかった。

 

「そうか。もう出来ていたのか。」

青年は工房と外の境界線に立ちながらそのように軽い口を開けていた。そこまで慎重に言葉を選ぶつもりはないらしい。

 

「いーや、ちょっと前だ。最近上手く体が動かなくてな。」

 

「そうか。だがそれでも作ってくれたことには感謝している。」

青年は大きな声でそのように言っていた。それには距離が関係している。鍛治職人は青年のいる出入り口の近くにいたのだが物を取りに行ったのか遠くへ歩き出してしまった。そんな訳であまり出さない大きな声で話を進める。

 

「おう。」

そう言われた青年はもう言うことはないのでこの場所で待つ事にした。別にそうする必要性があるのかと言われるとないと思われるが青年が決めていることらしいので口出しはしない。

 

「これはお前さんの手にはめて使うものだ。上から被せてくれたら使える。外す時は手首の方からしてくれ。」

青年は相槌程度に頭を一回縦に振った。

 

「それと、魔法陣はお前さんとは確実に違うから慣れるまでは無理な使用はやめておけ。これは俺からの頼みだ。」

 

「そうか。忠告ありがとう。」

踵を返して帰っていく青年の背中を魔界の村の鍛治職人は少しだけ悲しそうな目をしてみていた。数奇な運命を辿らなければいいと願うばかりだ。代金の方は食品を渡す事で前払いしているのでそこは何の心配もない。

 

 

青年が帰路に着いたその途中で魔物に会った。正確には魔界に住んでいる青年が食事を取るために対峙していた生物なのだが今回ばかりは狙ってこなかった大きさのものだった。脚だけで青年の背は超えている。長のような風格を持ち合わせているので青年は会う前に逃げていた。

 

だが、今回は逃げようとも思えなかった。手には先ほど貰った道具がある。瘴気の立ち込める魔界では魔力というのが多く自然に魔法が扱えるようにもなることもある。その中で青年が元々持っているものを増幅させる様にしたらどうなるのかは試した事はなかった。

 

呻き声をあげるその魔物は青年の姿を見つけると一直線に突進していた。猪の見た目をしているのでそのように猛進をするのはよくわかっていた。

 

左へと飛び込むように避けた青年は魔界の地面に身を滑らせていた。どうやら身体能力も強化されるらしい。青年はふとそう思った。それは微々たるものではなく倍加にも等しいような気もする。一番噛み合う場所なので仕方がないかもしれない。

 

左腕を伸ばして逆手に持っている立ち上がった青年は切っ先を下に向けながら刃を魔物に見せていた。瘴気立ち込める魔界では光はあまりないが夜というのもない。薄暗い日々が毎日続くだけなのでそれなりの光しか出てこない。

 

魔物はそれでも反応した。光や音に敏感になるのは動物としても条理なのだと思われる。青年は身構えながら逆手に持っていた剣を遠心力に任せて魔物の猛進に合わせて振り切っていた。

 

右脚を内側へと向けさせられてバランスを崩したので青年は軽く避けておくことにしたが当たるものには当たるのでそこはもう仕方がないと思われる。

 

魔物は地面を滑り自分の体を擦りつけていた。それだけの速度のパワーがあったのだと思われる。軽く巻き込まれる形になった青年の方が早く立ち上がった。

 

「かなりの威力はあるようだ。」

立ち上がれなくなった魔物の命を頂こうと最後の一撃を与える。バサッ、という音と共に地面に落ちた頭。確実に絶命したと思われる魔物はその場で動かなくなっていた。

 

多少の疲れを感じた青年は両手の指を適当に動かしながらその力を試してみることにした。何の変哲も無いなんて事はもう言えない。

 

手首の方から手につけている装備を外した青年は右手に持ちながら帰っていった。

 

その後、長と思われる魔物の肉は青年によって村に運ばれていた。別に世話になっていないというわけでも無いのでここまでの感謝を込めて渡した。それに住人は喜んでいた。和気藹々としている雰囲気の中で皆と一緒に肉を焼いて食した青年は魔界での楽しい時間を過ごした。

 

帰ったのは昼過ぎだろうか。青年はそんなことを感じながら帰路へと着く。此処という目的もなく居候でもするのかと思われるがさて真相はどうなるのかは誰も知らない。しかし何処か楽しそうにしている青年は自覚していないようにも感じた。

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