青年英雄記   作:mZu

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第57話

何も変わらない朝の日。そして大きく幻想郷の勢力図が塗り替えられそうなになっているそんな朝だった。

 

東側から人里へと向けて人の集団が攻めていた。その数は歩くだけで土煙が出るほどの人数である。それを抜けていくのはとても骨が折れる。正しく青年が予想していた通りになっていた。そして此処で青年が何処までやれているのかは聞くまでもなかった。

 

何もかも予想が付かなかった幻想郷の住人は動揺していてまともに動きそうにはなかった。

 

大きな戦乱の前に一つの星が瞬く。博麗の巫女が住まいとする神社を出ていた。その速さは満点の星空の中を駆け抜ける流れ星のようである。そして夢にも思わなかったような非現実が其処には待っていた。

 

幻想郷に侵略しようとしていたその人達は博麗の巫女を導くように動いているようだが止めざるを得ないので巫女はその上から容赦なく無差別に札を投げていた。

 

それに巻き込まれたその下にいた人たちは阿鼻叫喚のうちに人里の中心部へと逃げ出していた。博麗の巫女はその前へと落ちるように地面に着地してからお祓い棒を構えてその人たちの侵攻を止めていた。

 

「この場所で何をしようとしているのかは知らないけど勝手な真似はさせないわよ。」

博麗の巫女はそう言いながら何処か現れたのか分からない集団に対して強気に出ていた。

 

 

白い紙で包まれたものを唇に挟んでいるだけで火を付けて紫煙を吐き出すつもりはない人によってはもったいないと思われる使い方をしているあ黒髪の青年がいた。その青年は血で汚れている薄紫色のノースリーブの服装をしていて紫色のかぼちゃのように膨らんだズボンのようなものを履いている。

 

青年は人里とその外の境界のところで意味のなく立っていたところで何かが来ていることに気づいたので口に咥えていたものを吐き出してその人が来るのを待っていた。

 

静かに佇んでいるだけでまるで石のような存在感である。何があるのかさえ分かってはいないがその割にはとても落ち着いているようである。

 

腕を組んでいる青年はその人が来ると思われるその音に耳を澄ませながらその場で俯いていることにした。

 

ちょっとした心の高揚と足音が近づいてくるにつれて感じてくる手汗を流れているのを感じた。青年はその場で留まることでその横を通り過ぎる人たちは何も関せずにその場を行く、と言うことはなかった。

 

無言で腰に携えていた剣を抜いて青年へと刃を向けるがそれが届くようなことはなかった。

 

瞬時に反応した青年によってその剣は受け止められた。その腕に付けていた装甲によって弾かれるようにその人は後ろへと引いていた。青年は特に気にするようなことはないが気にならないと言うわけでもないようである。青年は柄に触れながら少しずつ間合いを開けて人里の中心部へと向かっていこうとしている。後ろへとゆっくりと下がっていくので何処からきた分からない謎の集団もジリジリと距離を詰めようとしていた。

 

別に攻撃を仕掛けても良かったと思うが先ほどのように弾かれると嫌なのだろう。何を考えているのかは別としてうまく青年の手の中へと吸い込まれるようになっていたその人達は縮まることのない間合いの中で気が立つ人もいた。

 

その人が青年に刃を向けたところで軽々しく弾かれて後ろにいた仲間に軽く当たるだけだった。青年が一撃も与えることもなく相手も段々と戦意を失い始めていた。

 

青年は急に後ろを振り向くと人里の中心部へと走り出していた。まるでで逃げているようだがここまでの青年の動きから何となくそうではないと分かる。だからこそ動きが遅かったがピタリと青年が止まっていた。そして足を返すと一撃だけ与えてもう一度逃げた。

 

 

人里の中心地。その場所に二極から現れた二つの集団は二人を挟み込むようにしていた。

 

「霊夢、元気そうで何よりだ。」

 

「何悠長に話しているのよ。これは何が起こってるのか説明しなさい。」

霊夢と青年に呼ばれたその少女はお祓い棒を持ちながら対面した青年に起こっているような口調で話していた。対して青年が理解しているようには見えない表情をしていた。

 

「それをするよりは目の前の敵に集中しろ。後で話す。」

 

「分かったわよ。」

 

「死にたい人から来てくれ。」

青年は両手に剣を持って構えているのか分からないようにしていた。何の意味があるのかそれでさえ分かっていない。

 

「たくさんの人が来るでしょうね。」

冷たく言い放つ霊夢だがその通りにはならなかった。その場で立ち止まっているだけでその場から退くこともしない。まるで生きている屍。何をしているのか、何を考えているのかさえ理解出来ない。

 

「霊夢、そちらはどのような様子だ。」

青年は気軽に聞いていた。まるで空気の入った風船が空に浮かんでいくようなものである。

 

「そんな事は聞かないでちょうだい。」

 

「そうか。して、多分南側に本拠地があると思うのだがどうだろうか。」

 

「どうしてそんなこと言えるのよ。」

 

「何となくだ。」

 

「そんな事で行くとでも思うの。」

 

「そうか。では任せる事にしよう。」

青年はその場から南側へと爪先を向けるとその方向のままこの場を放置して向かっていこうとしていた。その様子とその行動には理解出来ないだろうが青年はいつもそうである。そうやすやすと驚いていてはその先が思いやられる。

 

「待ちなさいよ。」

とは言ってみたもののこの場が気になるらしい霊夢はとにかく札を投げてこの場から退散するようにしていた。それに合わせるように青年は誰かの家の間を通り抜けていた。追われることもなければこちらからは何もしようとはしない。完璧に弄ばれるようにされたが霊夢は青年の後をついていく。

 

「よくここまで耐えてくれた。」

青年は人里の最南端まで来ていた。もう少し歩いていれば妖怪の森と呼ばれる場所があるが建物が中にあるので行かない人がいない事でもない。

 

「急に何よ。」

 

「そうか。面倒な事になっていたが特に何ともなさそうだからだ。博麗の巫女の加護でもあるのだろう。」

 

「そ、そうね。」

霊夢が横を向いた頃で青年は森の中へと入っていった。そして霊夢もそれについていく。


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