鬱蒼とした視界の通らない森の前まで来ていた。この中にもしかすると幻想郷に侵略してきた人がいると思われる。
黒髪の赤い血で腹部の辺りを汚した薄紫色の服装をしている青年と黒い髪で赤いリボンをつけている博麗 霊夢は息の合っているように同じようなタイミングで歩き出していた。
この間に会話というものはない。息遣いや何かで合わせているように見える。元々青年が多くを話すような人ではないのでそうなるようにしているのかも知れない。
「ここに来て何をしようと考えているのよ。」
「さて。まだ分からない。」
青年は何処か面倒臭そうに話している。気が抜けていてそのように見えるだけかも知れないがもしかすると気を配っていて真隣は忘れているかもしれない。
「これは予想していたのよね。防ぐ事は出来なかったのかしら。」
「過去を考えるよりこれからを思え。」
「そんな事は言わないで。」
「そうか。少し黙っている事にしよう。」
青年はそう言ってから少しだけ歩幅を広げたように思える。霊夢は何か離されているように感じていた。別にそのような気もなければ青年の歩き方は何も変わっていない。
それから二人はお互いの距離を測るように黙っていた。青年はまっすぐ歩いているだけだが霊夢の方が青年の表情をチラチラと見ながら偶に顔を下へと向ける。気づいていないわけでもない青年だが特に話しかけるような事もなかった。
「霊夢、戦闘に備えてくれ。」
柄を触っていた青年は後ろを振り向くことはしなかったが霊夢に話しかけていた。
「え、あ、うん。分かったわ。」
「乙女か。」
挙動のおかしくなった霊夢に対して青年はそんな事を言う。あまりにも呆れているのかいつもと違う感覚に何か違うと思われる。
「何よ。何が悪いのよ。」
「いつも冷静だと思っていた。」
青年はその言葉と同じような態度で話していた。特に抑揚もないので淡々としている。
「そ、そう。」
「札を投げてみてくれないか。」
風の吹く森の中で青年は適当に投げ捨てた何かのように吐き捨てていた。ただし話の脈が分からない霊夢にとっては言っている意味が全くわからなかった。
「何でそうなるのよ。」
「簡単な話。炙り出してほしい。」
「行くわよ。」
一切後ろを振り向こうとはしない青年だがしっかりと伝わったようであるので霊夢は袖の中から四枚の札を投げていた。
木々の中を探し回るその札が段々と相手の行動を狭めているようでカサカサと何かが動いていた。青年はその音を聞きながら視線だけを動かしていた。追えなくなれば体を動かして何となく見ているようなそうでもないような感じを出している。
「やってくれたね。」
飛び蹴りをするような勢いでその人は木の上から現れた。青年へと飛び込んで右脚を振り上げて蹴り落とすかのように動かしていた。
青年は簡易的に一歩後ろへ下がっているだけだった。
「そうか。何をしに来た。」
「言うわけないじゃない。」
金色の三つ編みの髪型をしていて緑色のシャツだけを着ていて底の厚い靴を履いている。一見見間違えるが単純に動きやすさを優先しただけなのだろう。
「そうか。それなら仕方がないか。」
青年は平然とした態度でそのように言っていた。その人は一切何も行動は起こさなかった。
「アレスと言う異名を持つ男を探している。知っているか。」
「何も知らない。」
青年は適当に答えていた。
「邪魔をしたね。運が悪かった事を恨むんだな。」
その人は瞬時に動き出していた。そして左腕を伸ばしてその反対の腕を体に引き寄せてから真っ直ぐに撃った。
「早い。」
青年は右側に首を避けただけで特に動くようなことはなかった。それこそ相手のことを舐めくさっているかのようで明らかに見くびっていた。青年の放ったその言葉でさえ癪に触るらしい。
「避けんな。」
青年の腕に吸い込まれるようにその人の拳は引き寄せられていた。何が起こったのかはその人には何も分からなかった。
「霊夢、後は任せた。」
いきなり走り出した青年はおもちゃに飽きた子供のようにその場から離れていた。まだ見ぬ興味惹かれるものを求めているようで清々しいほどに行動は早かった。
「待ちなさいよ。はぁ、やるしかないようね。」
霊夢はその人が青年を追いかけないように札を一枚投げていた。その人はすぐに振り向いていた。まるでいた事を忘れていたようだがこれでそんな事はないのだろう。
「それで霊夢だったか。何処で聞いたことのある言葉だね。」
「博麗の巫女の博麗 霊夢よ。知らないわけがないでしょう。」
お祓い棒を構えていた霊夢が札を持ちながら答えていた。
「私はイレインだよ。新たなる地を求めている国の武闘家さ。」
そんな気はしていたと思っていた霊夢。見ていれば分かるが機動性を重視した服装と武器を持っているようには見えないのでそれしかなかった。
「そのようね。」
霊夢が札を投げた時、イレインは飛び出そうとしていたのをすぐにやめた。前方を閉じるように札が動き行く手を阻んだ。
「厄介だね。それ。」
少し笑っているようにも見えなくもないイレインが横に行って木に紛れていく。そもそもそのような真似をしていても何も変わらないかも知れないが少しくらいは時間稼ぎになっていた。
「何処に逃げるつもりよ。」
投げ捨てるように地面へと投げる霊夢の霊力が籠っている札が木々の中へと消えていく。何となくだが逃げ道もなければ追尾式なので隠れるような事もできない。
ジリジリと追い出されていくイレインは仕方がないのでその本体を狙っていた。そうでもしないとこの勝負に負けると感じたのだろうか。そういう事なのだろう。
「そこね。」
霊夢がお祓い棒で簡単にイレインの拳を弾く。そして追い払うように振って間合いを開けさせる。
「これじゃ、ライラが負けた理由がよくわかるよ。」
その言葉にはどうしても霊夢は気になっていたがそれを聞くような事もない。
「それが誰かは知らないけれどここで対峙することには変わりがなさそうね。」
霊夢が珍しい表情をしている。それだけでもう十分だ。