視界の通らない森の中で二人は対峙していた。金色の三つ編みの髪型をしている緑色の丈の異常に長いシャツを着ている厚底の靴を履いていて一部赤黒い包帯を巻いているイレインは左手の拳を前にして虎のように構えていた。
左腕にはお祓い棒を持って右腕には札を持っている黒髪の少女は目の前にいるイレインの動きに注目していた。そこから一気に動き出した霊夢はお祓い棒で下から上へと抉り出すように振った。
神力があるような気がするそのお祓い棒を軽々しく避けたイレインだが飛び退いたのが悪かった。
その隙を見た霊夢は上から力一杯に札を投げていた。青白く光った赤い札がイレインの腹部や胸部に当たる。一発はそこまで重たくないが段々と追い詰められていくように感じると思われる。
「ここで降参するならその命は助けてあげるわよ。」
霊夢は肩にお祓い棒を乗せながらトントンと叩いていた。怒っているのか単純に戦闘中なので不機嫌なのかは分からないが和やかな感じではないのは目に見える。
「なら、殺してよ。」
イレインは急に笑い出すと体を小さくさせながら一直線に向かってきていた。元々そこまで距離があるわけでもなかった。それ故に簡単に接近を許した霊夢。
右足を踏み込ませた左足の回し蹴り。腰が入っている渾身の威力を持っているそれが霊夢の右腕を襲う。
折れるような音がしている。そして押し出されるように吹き飛ばされたが受け身をとって地面を転がるような事はなかった。
そこで止まるようなこともなかった。
「まだまだ!」
イレインが雄叫びのようにそう言う。着地させた左脚を軸に一歩出してから足払いを仕掛ける。
地面を擦るように刈られた霊夢の右足。それにつられて自身の体が傾き始めたが瞬時に前転をすることでその後の追撃を加えられるような事はなかった。
そして地面をしっかりと足裏で捉えた霊夢がイレインの背後に回り込んで札を投げていた。何処にそんな持っているのかと思われるが袖が大きく膨らんでいるのでその場所に溜め込んでいると思われる。
「アンタも大変よね。」
霊夢はすっ、と立ち上がって背後を振り向いたイレインに対してそう言っていた。何の意味があるのかはさておき軽口には付き合うようだ。
「何かそう言える根拠があるのね。」
「あるわよ。この私と出会ってしまった事よ。」
「へぇー、そうなんだね。」
イレインは特に気にも止めていないようだった。まるで霊夢の言葉が右から左へと流れているようで何の言葉も入りそうにはなかった。
「人の話はちゃんと聞くべきよ。」
「聞く価値もなさそうな話だったね。時間の無駄。」
イレインの目が少し変わったようにも感じた。それ以前に元から本気は出していないようだったがここから本領発揮と言えるところだろうか。霊夢はイレインの変わり方を見て何となくそう思えた。
「はぁ、面倒ね。早々に退治してあげるわ。」
霊夢がお祓い棒を構えていた。そんな頃にはもうイレインは霊夢の元へと来ていた。
そして流れるような動きで霊夢の鳩尾を狙った強烈な一撃を見舞う。
その速さ、正確さに霊夢が追いつくことが出来ずに一点で押し上げられるように手足が置いていかれて口から白っぽい透明な液体が飛び散る。そして眼を開いて地面に着地した時には全身に力が一瞬だけ入らなかった。
立て直そうとしている霊夢の右頬をバチン、と音を立てて殴っていたのはもちろんイレインだ。間隙もないその攻撃の動きはまるで流されるままの木の葉を想起させる。
そしていきなりのことに驚いた霊夢は為すがまま、されるがままにされていた。なんとか立て直そうとする霊夢でさえも立っているのがやっと言うところで更なる一撃を与える。
地面を強く蹴り出して左脚を後ろへとさせてから腰を入れて振り下ろす。膝に手をついている状態の霊夢の背中を押し出して完全に地に伏せさせたイレインだが何か違和感を覚えた。何の感覚も感じなかったからだ。まるで人形のような感じがする。
いくら殴ろうとも蹴ろうとも何の感覚も覚えない。あるとすれば体を動かしたと言うだけのこと。
「何かおかしいね。それに呆気ないね。」
イレインが何となく不思議に思ったのかその様にしていた。もう終わったのかと一種の虚無感にかられたがそれが幻想であると言うことを知るのはそう遅くはなかった。
霊夢と思われるそれが大量の負だとなっていた。そしてその全てがイレインの元へと来ていた。一瞬で行われたのでイレインでさえ対処するのは難しかった。
覆い隠すように布でも投げられたように逃げ場を失ったイレインはなんとか避けようとしてみるが背後からも横からも来るので拳でいちいち振って落としてもキリがなかった。一発の威力はそこまで重たくはない。だがその数を見ていれば出来るだけ受けたくないと感じるのは仕方がないことだと思われる。
「何なんだ、これ。」
状況が理解できない様子のイレインは少しだけその身に札が当たっていたがそれを気にする事はなかった。
ちょっとした間があったので自分を落ち着かせるためにそのようにしたと思われる。其処から第二波のように来るが要領をつかんできたのか札を掴みながら拳を振ることで先ほどよりは当たる枚数というのは少なくなっていた。
しかし余裕という心の隙間が出来てしまったその時には気付くことはできなかった。
後ろから突き上げられるような一撃を受けたイレインは今まで行っていたこと全てが出来なくなってしまっていた。手足の動きは止められて何も抵抗することが出来ない。それでも容赦なく降る雨がイレインの体の節々に当たる。
「夢想一突。使えるようになってよかったわ。」
「く、くそ。やってくれたね。」
その場で倒れるように力を無くしたイレインは霊夢に看取られる形になっていた。だが、霊夢はそのような目をしてはおらず冷徹なそんな目をしていた。あまりにも冷たく氷のような目をしている。
「そこで休んでなさい。それとももう一発受けるかしら。」
霊夢はお祓い棒を持って準備をしながら言った。
体に風穴を開けられたイレインからするともうそれは勘弁と言うことである。何も抵抗することなく地面に伏した。