茶色の服装をしている人は矢を射る。
その狙いは目の前にいる黒髪の青年である。風を切るその音としなりのある音がした後に簡単に止められていたようで金属の当たるような音がしていた。カチン、といった音からかなり擦れているような音がしている。
「これがアレスに対する俺の怒りだ。」
まるで宿敵を投影しているかのようなその表情を向けている。青年は見知らぬ人の為にこのようにされているだけだが文句は言わなかった。その真意は分からないが別に付き合ってやってもいいと安易に思っているのだろうか。
「貴方はその程度なのか。」
右腕に持っている剣で受け止めていた青年は軽いその口で呆れているように答える。狩人のような格好をしているその人はもう一度矢を射る。
今度は青年が矢を止めている間に移動していたところから素早く放つ。
音は先程とは劣るが流石にそこまで反応が早いとは思っているわけではなかった。
だが、青年は左腕に持っていた剣で自分から遠ざけるように弾く。いつ抜いたのかさえも分からない。そしていつから気づいていたのかも狩人は分かっていない。
「棒立ちとはいい度胸だ。」
「そんなつもりはない。」
青年が走り出していた。別に早いというわけでもない。追いかけるつもりがあるのか疑問に思えるほどだが追われているという事実が茶色の帽子をかぶっている人すれば何とも恐ろしいものだった。
矢を射る。後ろを瞬時に振り向きながら飛び退き反転してタイミングのあったところで適当にする。
青年は右腕の剣で軽く弾くとその矢は地面に突き刺さるだけでその他に何もしようとはしなかった。もしくは何もできなかったということだろうか。それぐらいしか思い浮かぶような事はなかった。
そして青年は狩人の衣服を掴むと自分の元に引き寄せてその場に倒れさせた。
「俺の負けだ。もう道はないだろう。早く殺せ。」
「そうか。だが、俺はそれは好まない。好きにしていろ。」
青年は相手が観念したところで剣を鞘の中に納めていた。嘘ではないことがそれだけで理解できるものであった。
「甘い考えを持っている。そんな事ではすぐに死ぬ。」
「そうか。して、侵略した時のリーダーなるものは何処にいる。」
青年はその人のことは見ずに聞いていた。何かその場所にあるのかと思われるが別にそのような事があるわけでもない。あるとすれば木々から漏れ出る光、人影などは当然のようにないのでこのような事になる。
「それは教える必要はない。」
その人は諦めるような事なく矢を射る。
青年に向けられて放たれたが狙いが悪かったのか軽々しく避けられた。首だけを動かしていた青年は軽く回してから聞いていた。
「俺はお前の弓に当たるわけがない。」
「何故だ。」
「お前は狩人としての意思を無くした。腕も鈍っている。そこで見限られたのだろう。」
「何故そう言える。」
「その腕に冷たさがない。獲物を狩ろうとする静かな殺気だ。」
「何故分かる。」
「かなり苦戦した相手だ。覚えている。」
青年は薄く口を緩めているだけでその目はしっかりとその人の事を見ていた。そして昔を思い出しているようだが別にそうでもないようでもある。
「もしかしてお前がアレスなのか。」
「さて。記憶は無くしてしまったものでよく覚えていない。」
「俺はお前を倒したい。また王様の幹部として尽くしたい。と思っているが此処では倒せない。」
「そうか。それは貴方の好きにしていてくれ。俺は此処で人を待つ。」
青年は唇に咥えていた煙草に刀身を近づけさせてからその先に火を付ける。そして一服する気なのか木にもたれかかっていた。
「一つ聞きたい事がある。」
「何だ。」
青年は少しだけ不機嫌に答えていた。もう諦めたのかその場に座り込んだ茶色の服装をしているその人は少し間を空けてから答えた。
「俺の名前は覚えているか。」
「隻眼の狩人のライル。」
青年はさらっ、と答えていた。そして唇から煙草を離して紫煙を吐き出してからもう一度唇に咥えていた。そして腹部で腕を組みながら時間が過ぎるのを待とうとしていた。
「お前には結局、敵わなさそうだ。どうしたら良い。」
「知らん。好きなように生きてくれ。会える時が来れば会える。それは早くもなく遅くもない。」
「俺に帰る場所はない。傭兵家業に戻るとしようか。」
「好きにすると良い。」
青年は適当に答えていた。だが何処かに行って欲しいというわけでもないのでそれなりには答えている。その後、青年はライルの元へと近づくと耳元で何かを話していた。それを聞いていたライルは意外そうな表情をして少し考え込んでいた。
「了解した。俺はこの森の中に消える事にする。ありがとう。」
ライルは地面から立ち上がると何かを決めたようですっきりとした表情をして何処かへと向かっていた。青年は何の言葉も書ける事なくそして何も行動には映さなかった。煙草の灰を振り落とす事しかしなかった。
「ルシファー、か。」
感慨深い声で珍しく呟く青年の目は上の空を向いていた。何かを思い出しているようなそうでもないような目をしている。誰も近くにはいなかった。