夢みたいなそんな話は転がっていない。それとも転がっていても見つける事は出来ない。それは足底にあったり回り道をしたその後に落ちていたりするからで常人には到底見つけられないものとなっている。
その中で気づいたものが何らかの地らを手に入れていることには間違いないのだろう。それは神であったり、英雄と称されるものであったり、仙人になった者などその種は多様なものだが一つ共通点を挙げるならそのようなところだと思われる。それ以外の道はないと思われる。元々生まれ持っていたりしなければ。
此処は妖怪の山の山頂にある守矢神社。きっと知っていることなのだろうが一応確認のために聞きにいくという程度だ。黒髪の青年はその髪を冷たい北風に晒しながらその山道を歩いていくことにした。その背中には何かあるのだろうが何も感じさせないという上級プレイをしているようだ。
赤い大きな鳥居をくぐり抜けた青年は参道の真ん中を堂々と歩いていた。背はしっかりと伸びているのだがその横暴な態度はとても褒められたものではない。神への冒涜と信者から言われようとも仕方がないが青年は言われたところで適当に流してその場は終わるだろう。
「おはようございます。」
緑色の髪を一房作っている髪型をしている巫女は箒で境内の掃除をしながら青年に話しかけた。風祝である現人神なのだが青年にはそんな事は関係ない。青色の上に白い水玉模様のある下半身の格好をしていて白い服装をしている。
「参拝客や客人が来る予定はあるか。」
青年はいきなり話を始めていた。挨拶もしない。だがそれを怒ったりするような事はない。慣れている、というのが理由だろう。
「いえ、ないです。何か私にも関係のある話なんですか?」
その巫女は首を傾げながら青年に聞いていた。名は東風谷 早苗。それが本名なのか現人神としての名前なのかは一切分かっていない。
「そうだ。一応話は聞いて欲しい。神殿内で一気に話したい。付き合ってくれ。」
「あ、はい。」
力の抜けた表情をする早苗だが誰からのフォローもなかった。元々二人しかいない上に用件が済めば次へと進む青年には背中に目がもう一つない限りはそれに気づく事はなかった。
「どうした、早苗。」
青年は足音で気づいたのか被さらないその音が不思議に感じて後ろを振り向いていた。
「い、いえ。気にしないでください。」
急ぎ足で小屋へと行った早苗はその髪などを揺らして青年の元へと走ってきた。そこまで急がなくてもいい、と青年は言葉を返して山道を歩いていくことにした。
「邪魔する。」
青年は無断で入って一番最初にそのように言った。早苗は右斜め後ろで苦笑いをしていたがもういつも通りの光景なので何も言うことはない。こうなければ青年ではない。
「お、よく来た。今日は何か頼み事でもしに来たのか。」
紫寄りの赤紫色の髪をしている神がいる。背中には大きな注連縄をつけていて腹や腕の各所に注連縄をつけている辺鄙な格好をしている。名前は八坂 神奈子。
それともう一人いる。名前は守矢 諏訪子その人は背はあまり変わらないがその見た目はどうしても子供のような見た目に感じる。そもそも姿を持たない神なのでこの姿が本物であるという確証はどこにもないが此処の中では一番力が弱そうに見えても仕方がないと思われる。だが、本当はその逆だ。
「そうだ。と言っても到底首を縦に振ってくれるとは思っていない。」
青年はその場にどかっ、と座って髪と同じく胡座をかいていた。まるで同等の存在に扱っているが青年にとってそのような区別がないのでその点は気にする事でもない。
「何の話なのか興味が湧いた。是非、話してみて欲しい。」
神奈子は体を前に寄せていた。よほど神でも楽しめそうな話題だと思われる。
「実はこれから遠くへ出かけることにした。それで仲間を募っている、という話だ。」
青年はそのように話した。
「そういう話か。ならきっぱりとお断りさせてもらう。此処からは離れる事はそうそう出来ない。その事は分かっていてどうして此処まで足を運んだ。」
「長い旅になるかもしれない。それで顔を見にきた。それと目に焼き付けて欲しい。」
「そういう話か。わざわざ来てもらって悪いが何も出すつもりはないが良いか。」
「別に構わない。俺が勝手な都合でやっているだけだ。神奈子や諏訪子が気にする事でもないだろう。」
青年は仕方がなさそうにしていた。諏訪子に関してはその中から出る事は許されないのだろう。そもそも境内に出られるのかも怪しいものである。それを無理に頼んでいるのでその返答も仕方がないものだった。
「私、行きたいです。」
早苗は青年の後ろで座っていたらしく溜めていたような声で青年に宣言した。青年からすればその事は別にどうでもいい話なので少しだけ圧倒されたというのが一番正しい。
「そうか。また後で新聞を使って知らせる事にする。まだ話は固まっていない。今は管理者と巫女が話をしている。」
青年はそれを早苗と二人の髪に伝えるとその場から立ち上がって踵を返した。襖のあたりで止まると首だけを動かして後ろを振り向いている。
「今日は邪魔した。何処かで会えたらそれで良い。」
そこから青年の行動はとても早いものだった。何かに急かされているようにも感じなくもないほどの速さで襖を出たあたりから西側へと向かっていた。このまま帰るつもりなのだろう。慌てて立っていた早苗はそう思っていた。誰も寄り付かせようとしない青年に中から断片だけをみていた二人の神はそれなりの危機感を持っていたに違いない。