青年英雄記   作:mZu

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第69話

青年は何の躊躇もなく何処かへと続く大きな穴の中へと入り込んだ。その中は暗く何処に行くのかも全く分からなかった。その勢いは誰に求める事はできず蜘蛛の糸でさえ止められなかった。まるで彗星のように地底に降りた青年はその勢いとは裏腹に静かに着地した。

 

中は薄暗い青い炎が地底の中を照らしていた。だが青い炎の正体は怨念の塊であり触っていい代物ではなかった。一回も良いかもしれないと青年は考えていたが行動に移そうとはどうしても思えなかった。その理由は今の状況と気の乗らなさにある。

 

「何年ぶりだろうか。」

心の中で考えていたはずの思いが口から言の葉を使って飛び出してきた時何の予兆もなく青年は歩き始めた。その人の目の前には何もない。岩肌の露出した殺風景な空間と遠くの方に灯りのようなものがあるだけであってその他には何もない。本来は罪人の集まるような場所だがその中には自ら身を投じた人もいる事には間違いない。迫害という形で追い込まれた鬼が此処に一人いるのは事実だ。

 

青年は一先ず体を浮かせて一番近くにある顔の知っている人の家を訪れる事にした。その理由は特にないのだが何かあってもおかしくないはずだ。古くなっている橋を抜けてすぐ近くの家の戸を勢いよく開けた。青年には常識という概念はない。己がやりたいようにやっている。

 

「元気か。」

青年はズカズカと中へと入っていく。家の家主と思われる人が卓袱台に座りながら青年の方をジトッ、とした目で見ていた。あまりにも突然なので呆れてしまったのか如何してこうも非常識なのかなんて考えているだろうか。無駄である事には間違いない。

 

「元気よ!」

銀色のショートボブの髪型をしているエルフのように尖った耳をしている少女は目も尖らせながら卓袱台を叩いていた。そんな少女を青年は心配していた。

 

「手は痛くないだろうか。」

 

「其処じゃない。」

ペルシアの礼装である服装をしていてスカートの縁や袖にはある橋を思い出させるような装飾が施されている。頬を紅潮させている少女の対面に青年は胡座ですわっていた。まるで住人のようである。

 

「そうか。久しく会っていなかったから心配になった。今まで顔を見せなくてすまなかった。」

青年は目の前にいる少女、水橋 パルスィにそのように言っていた。正直青年に振り回されているだけである。それとも青年のその力が強すぎるだけなのだろうか。

 

「妬ましいわ!その言葉は私じゃなくて勇儀や他の人に言いなさい。」

パルスィは水でも沸騰させようとしているかのように声を荒げていた。正直今ならお湯がヘソで沸かせそうである。

 

「して、温泉の方はどうなっている。お尋ね者だったりしてここには来る事が出来なかったのでとても気になる。」

 

「無視すんな!私を見ろ。」

 

「そうか。して、パルスィは何か嬉しそうな事はなかったのか。」

 

「貴方に久しぶりに会えた事よ。」

 

「そうか。俺も嬉しい。して、何か地上のことは聞いていないのか。」

 

「何があったと言うのよ。」

 

「大きな異変が起こっている。其処で俺は仕返しを決行する事にした。だが俺一人では不安なので誰か一緒に行く仲間がいないのか探しているところだ。」

青年はそのように答えた。パルスィは何か幻滅したように素顔に戻っていた。

 

「そんな奴だったらここまで引っ掻き回さないでしょう。幻想郷全体を巻き込んで何をしているのかは知らないけど期待はしているわ。」

 

「そうか。来てくれるのか。」

 

「仕方がないわね。」

 

「では、俺は行かせてもらう。失礼した。」

青年はその場から立ち上がると小走りで家の外に出てその先へと向かっていた。この先には繁華街がある。鬼しかいないがだからこそそれで良い。青年はそんな事を考えていた。

 

 

「と言う話なんだ。」

青年は一通り流れを伝えていた。青年の声を聞く為に鬼たちは集まっていたが青年と対面しているのは女性だった。赤い角を額から一本伸ばしていてくれ白いシャツと薄く透けている長いスカートを着用している下駄を履いた鬼は盃片手に青年の話を聞いていた。名前は四天王が一人、星熊 勇儀。パルスィとは飲み仲間だが鬼に付き合えるのはまた別の理由があると思われる。

 

「お前はそんな事をしようとしているのか。人生とは数奇なものだね。温泉を作っていたらお尋ね者になっていたりはたまた異界の人物が侵略をしてきたり謎の感染病が流行っていたり嘘みたいな話だよ。」

勇儀は盃に入っている液体を一気に飲み干すと適当な瓶からドボドボと入れていた。その豪快な飲み方は勇儀らしいが青年は特に気にした事はない。そうでもなければ鬼も対面をとってサシで話そうなど愚の骨頂のような行動を取るわけがない。本来なら面通りする前に誰かに押し返されるのだろうが青年の場合はまた違う理由がある。

 

「そうか。それでも最後まで聞いてくれたのは有難いと思っている。」

 

「お前が話す話だ。信用しているからね。で、本題というのは何なんだ。」

勇儀は素早く質問をしてきた。青年が最初の話として手早くすませたいと一言を伝えていたのでそれに勇儀は答えるつもりなのだろうと思う。正直そうでなくとも青年は自分のしたい行動を取るので何も関係はないと思われる。

 

「勇儀も俺についてきて欲しい。それだけの話だ。」

青年は口角を上げて勇儀の質問に答えていた。まるで対等に話すが種族的優位なのは勇儀なのである。だが、青年は敬語一つも使おうとはしない。使ったら使ったでそれは気持ち悪いのだが。

 

「そういう話か。別にそれは構わない。一つ条件がある。」

 

「それは何だ。」

青年は聞いていた。

 

「地底温泉はもう完成している。私と一緒に入ってくれたらそれで良い。」

 

「そうか。別に構わない。ただしその時間は短いしまともに入るつもりはない。それでも良いか。」

 

「構わない。その代わり二人でだ。」

 

「そうか。楽しそうな事をしてくれる。行こうか。」

 

「おうよ。」

勇儀はその場から立ち上がると道案内をするように青年の先を歩いていた。別に青年がそのように脅迫した覚えはない。しかし勇儀がそう言うのできっと気に入っているのだろう。

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