少し考えていた。本当にこれで良いのだろうか。メイド長と主人を倒した青年はそれが倒れている場所でそうしていた。
別に構わないのだろう、青年は結局そのような考えに行き着いてもうしておくことにした。これ以上考えても何か出る訳でもないので此処で議論というのは止めることにした。
兎に角向かう事にしたのは紅魔館の中でも一番お世話になっていて恩を仇で返すのが一番悪く感じる人だった。でも、行く必要がある。それだけは言うまでもなく決まっている事である。
青年は考えても仕方がないのでこの館の右側へと向かっていた。メイド長がどれだけ廊下の長さを変えようともその場所だけは一切変わらない。蝋燭が掲げられるのを数えると14個と少し、地下へと続く階段を見つけた時には青年は足を止めてから一息入れてからその場所へと降りていく。
空間が歪められているようで紅魔館の大きさと同じぐらいの大きさのある図書室では棚は天井についていて隙間なく置かれている本が置かれている。その種類は違うが上に行くほど使われにくいものとなっている。それを物語っているのは青年の目によく映っていた。特に見覚えのない魔道書や得体の知れない書籍まで置かれている。
紅いカーペットを敷かれている螺旋階段を天井から降りていく。そして二階へと着くともう一度別の階段を利用して1階に降りていた。周りには魔道書が置かれていて見たことのあるものしかない。天井近くに置かれていたものとは格段に綺麗な状態で置かれているのを青年は歩きながら眺めていた。今日ほど途中に置かれている本を見た事はなかったのだろう。
「この階に置かれている魔道書は綺麗に保管されているのか。」
青年は目の前にいる人に伝えるように話していた。
その人は紫色の髪をナイトキャップ帽から出している女性で全体的に紫色で彩られていた。眼鏡をかけていて目の前の魔道書を読み漁る姿は前から変わっていない。よく座っている椅子をその時に利用している机がある。その前にはテーブルが置かれていてフカフカのソファーがある。どうして知っているのかはよく彼処で読んでいたからと言う簡易的な理由だ。
青年はその慣れた調子でその人は前へと現れていた。
「そうね。防火、防水。それと最近は傷が付かないように防護もしているわ。」
眼鏡をかけていて魔道書を読んでいた人は頭を上げていた。
「珍しい。俺の話に顔を上げるなんて。」
「そんな事はいいわ。上で大きな音がしていたけど何かあったの。」
「別に特別言うような事はない。」
青年は澄ました顔でその人と会話をしておくことにした。別に今更何か言う必要もないと考えたのかそれとも別に言わなくても分かるだろうと言うものなのだろうか。青年はその辺りはぼかしていた。
「そう。久しぶりね。今まで何をしていたのかしら。」
その人は青年に聞いていた。基本的に自分に直接関係あることしか興味ない性格故に上での騒動を何とも思っていなさそうなその人はもう一度魔道者に目を通し始める。青年はソファーに座っていた。そして前傾姿勢で眼鏡をかけた人に話しかける。
「パチュリー、実は話したい事がある。外に興味がない事は知っているからこそ話す。」
青年は暫く続いた沈黙を破り切るように話を切り出した。まわりには誰もいない。司書というのは居るが紅魔館と同じ大きさのあるこの場所で近くにいると言う事は珍しい。青年はそれを知っているので何か特別話すような事はなかった。
「何よ。急に思い出したように話すわね。」
パチュリーは青年はその急な事に答えたいのか魔道書から手を離した。そして真摯に受け止めようと聞き耳をたてる。昔ならこのような事はなかったのだがどのような心変わりがあったのかは分かっていない。
「パチュリーだから話すことを忘れて欲しくはない。誰にも言わないと思っているからこのようにする。」
青年はパチュリーの態度とは裏腹に目を逸らして何処を見ているか分からないような場所を見ていた。左斜め前の特に何もないはずの壁を見ていた。
「早く言いなさい。面倒なのよ。」
パチュリーは急かすつもりはなかったがどうしてもそのようになってしまう。
「俺は侵略者だ。それを起こした本人と言うことではないがある任務を任されていた。そしてその人に刃向かう気もないがこれまで世話を焼いてくれた人に仇で返すのは良くない。だから信頼を無くしてからその場を去りたい。未練も何も残らなければ俺も帰りやすいだろう。」
「そう。まず紅魔館に来てこれまでの事をなかったことにしようとしているということね。そんな甘い考えをしていたとは思えないけどね。私とは貴方が未熟な頃から教えていたわ。その時の走り書きのメモも残している。それを焼却して私を殺してからそう言う事は言いなさい。それともその度胸がないのなら此処から素早く立ち去りなさい。顔を見せる、見せないはどちらでもいいけどそんなどっち付かずに私は魔法を教えているつもりはないわ。」
「少し熱が入っている。パチュリーにしては珍しいがそう言うだけの時日は過ごしている。言い返す言葉も見当たらない。聞きたい事がある。俺が歯向かえばパチュリーは縁を切ってくれるのだろうか。」
「一方的には切れるでしょうね。切りたいならそうすれば良い。けどね、私を含めてそのような事はあり得ないでしょう。メイド長もいつも私のところへと現れるようになった。レミィも罵言暴言吐かれていてもそれなりには心配していた。それを切りたいのなら此処にはもう来ないでちょうだい。」
「そうか。門番にも大体同じようなことを言われていた。だが、縁を切りたい理由は分かってはもらえるか。」
「貴方の重しになるのでしょう。それならさっさと切りなさい。私たちがどれだけ手を伸ばしてもそれを払いのけるのならね。」
パチュリーは攻撃に転じる時の魔道書を持っていた。いつも使っている机に置かれている一冊の黒い表紙の書物がパチュリーの手元へと渡っている時には青年は後転してソファーの背もたれの後ろに隠れていた。それでも当てられるときは当てられるので青年はまたすぐに後ろに下がりお互いに見えやすい場所へと出ることにした。
「パチュリー、俺は今回魔法は使わない。これは俺が決めた事だ。」
青年は高らかに宣言していた。パチュリーは鼻を鳴らすだけで特に反応は示していなかった。それこそ何があったのかを言いたいがそう言う意味ではないのだろう。青年はふとそう思った。
「先ほどのように俺の事を思っていたことは有難く感じている。それでも俺は前へと突き進む。その門出だけはお願いしたい。」
「分かったわ。」
全方位を覆うような青いレーザー。途中でカクカクと曲がり始めたそのレーザーは青年のいた所を貫いていた。
瞬時に避け切る青年は後ろに下がってから右側へと場所を移動させていた。
「そんな技あったか。」
「貴方のを見て編み出したのよ。初見殺しの弾幕を避けるなんてやるわね。」
パチュリー青年の移動した左側を向いて正直に褒めているようだった。それでも事足りないのか拍手までし始める青年としては何がしたいのかさっぱりと言う感じだった。だが、これで終わっていないのは青年の勘がそう言っていた。
「それは言ってみれば俺の弾幕を見ていたからだろう。」
「それはどうかしら。」
パチュリーはわざとぼかしているようにしているが実際のところはまだ分かっていないのでなんとも言えないところである。青年は後ろも警戒しながら何となく歩いていた。何処からどのように現れるのか分かったものではないので青年は全方位を警戒する事にした。勿論安易に歩くのもパチュリーの設置型の魔法にも引っかかる可能性があるので一概に動いていればいい訳でもない。
青年は後ろを振り向いていた。龍のように一本に集まっていたその青いレーザーに青年は左側へと避けていた。それを追うように集まっていたもののうち何本かは青年の方に向かっていた。磁石のようなものであるが反発し合ったり引き寄せられたりその時によって状況が変わるのだろうと思っていた。青年のものよりも高度なものでどうした物なのかと思っていた。
「応用したか。流石パチュリー。」
「褒めるような事はしてないわよ。受け売りだもの。」
「そうか。」
青年は簡素に返したところで一気に間合いを詰めていた。それは此処から面倒な事になると言う予感がしたからであり既にもう起こっているような気もしなくもないがそれでも向かっていく事にした。パチュリーも立ち上がり勝負を挑むつもりらしい。
足を浮かせているパチュリーだが青年の剣が届く範囲にいるので実は優しいのかもしれない。
「これからが本番よ。少し見せたかっただけのものとはまた違うものよ。」
「そうか。楽しみにしている。」
「そう。」
パチュリーは冷徹な返答しかしなかった。それこそ何かあったのかと聞きたいが何もなかったのだろう。人に対して冷たいのはいつも通りでしかない。青年も今更注意したり一言言ってみたりするようなこともしないだろう。
五色全てを取り出したパチュリーは石のように固めていたそれを青年に向けて放っていた。赤色、水色、緑色、黄色に紅色。その全てを持ってパチュリーは青年へと攻撃を加えていた。
小さな弾がその無限とも言える石のように固められた元素から飛び出してくる。パチパチと弾けていく焚き火のように小さな火の粉が青年の方へと向かっていた。青年はよく見ながら避けている。それぐらいしかやることがないのだろう。弾幕というのは本来避けられない事をするのは禁じられている。青年は幻想郷に来る前に作られたルールらしくそれに従うしかないのでそのようにしている。だが、今はそんなお遊びをしている訳ではない。
青年も着実に間合いを詰めていく。酔拳のようなフラフラとした動きで弾幕の隙間を避けていたがそれで許してくれるようなパチュリーでもなかった。
静かな夜のような場所で豊穣を願った少女の祈りは真っすぐな線となって月へと向かっていた。それを示すように薄緑色で放たれた弾幕は横に広がる先ほどの弾幕の中で真っ直ぐに狙ってくるものだった。その中でポツポツと雨のように青色の弾が降ってきていた。
七色もの弾幕を避けながら青年はその情景を楽しんでいるようだった。だが、それも終わりに近づいてくる。背を低くした青年は弾幕という高密度のものを利用して一気に近づく事にした。音は床に敷かれているカーペットに吸われていて何も音はしなかった。それこそ静寂を思い出す薄暗い夜のようなものだった。
「うぐっ。」
いつの間にか近づかれていた青年に腹を叩かれたパチュリーは吹き飛ばされていた。元々動かない魔法使いは青年のようにアグレッシブという訳でもなかった。故に体は弱かったのでその場で倒れてしまった。青年は近づいていき、パチュリーの手を持って体の上に乗せるとまぶたを手で落としておいた。何か意味はないのだが確実に悪意があるようにしか思えなかった。それ故に青年は笑いながら仕方がなくそのようにしていたが別にそうしている必要性はなかった。
「さて、今日は帰るか。」
青年は呟いていた。誰も居ないのでどのような声を上げようとも自由のはずだが何か気配がするのですぐに息を潜めていた。青年は鋭い視線をして辺りを見回していた。
確かに気配はするのだがそれがどこからなのかは全くわからなかった。図書室なので棚で姿を隠す場所が沢山あるから仕方がないのかもしれない。気のせいという事でこの場は終わらせようとしていた。
その時に上の方から声がしていた。その場所は青年がいる一階以上に広い場所なので見つからなくても仕方がないと思われる。だが、出てきた人は悪かった。
「お兄ちゃん、何してるの。」
見つかってはいけないような人に会ってしまった。