青色を基調とした寒色の建物が一軒、地底の奥に佇んでいた。まるで隠すように建てられているこの館には管理者として名のある人が住んでいる。黒髪の後ろで一つに結んでいる青年は誰にも許可を得る事なくその敷地の中へと入っていた。
紅魔館よりかは庭は広いように感じるが別にそうでもないと歩いて感じる。岩肌に覆われているが壁が低い分あまり狭いと言う感想にはなりにくい。そしてシンプルに円形の花壇が置かれているだけで他には何もないのが余計にそうさせるのだろう。不足の美という言い方は質素な日本造形という訳ではないので合わない。
青年はその中へと入って数歩くらい歩いていた。青色のカーペットと狭く感じる広間がその先にある。そして階段の上でいつも通り待ち構えている少女がいる。癖のある髪質らしく少しカールのかかっているように見える薄いピンク色の髪をしていて赤いヘアバンドを付けていて真紅の瞳をしている。フリルのついた水色の服装で髪と同じピンク色のひざ下のスカートをはいている。名は古明地 さとり。地霊殿というこの建物の主人である。
「邪魔する。」
(起きてるかー?)
「いっらしゃい。貴方は此処には何をしようと訪れたのかしら。」
「別に。」
(少し痩せたのだろうか。)
「何か目的はあるのでしょう。早く考えなさい。」
青年を急かそうとしているさとりは何処か余裕がない素振りを見せていた。心を読むことが出来るサトリという妖怪であるが青年にそれが通じた事はない。言動と思考がバラバラで行き当たりばったりな自由な生き方をしている青年はさとりを迷わせるだけだった。
「そうか。そういえば読心が出来たのだった。」
(何を考えようか。)
「心の中で迷わないで。訳が分からないわよ。」
「そうか。ありがとう。」
(幻想郷で起こっていることを知っているか?)
「それよ。安心したわ。私は何も知らないわよ。何か流行病が流行っているのは知っているけどそれぐらいよ。それとはまた違う事なのでしょう。」
「そうだ。実は俺は旅に出かけようと思っている。」
(小腹すいた。目の前の人はどうだろうか。)
「何てこと考えてるのよ。」
目の前の人の思考に理由と考察がない事に驚きながら突飛な発想をする青年にはどうしてもついていくことができなさそうだった。
「何か問題でも。」
(あるのか、さとり。)
聞くな、と心の中で呟いたさとりは仕方がないので青年に合わせてみる事にした。
「そちらの方が好みなの。」
「男の方が良い。」
青年は急に何かを言い始めた。さとりには何を言いたいのか全くわからなくなってしまった。どうしたらそうなるのかは全く分からない。
「何と、まあ。どうしましょう。」
さとりの気が動転したところで青年がその様子が面白ようで口角を上げているだけだった。声も何も出ないがその目はさとりを見ていた。
「そうか。そんな話は置いておく。して、来るという気はないか。とても重宝する。」
青年は楽しそうな表情をしているがさとりにはあまりそのような気配は感じ取れなかった。そう大きくは変わらない青年の表情を読み取るのはなかなか難しい。
「遠慮するわ。皆に嫌われるわよ。」
「そういう人は俺がぶっ叩く。それでどうだ。」
「地霊殿の主人として止まる必要があります。其処だけは譲れません。」
何処かの主人はそのようにハッキリと意思表示はしなかったので青年としてはなんとなく嬉しそうにしているのは確かだ。
「そうか。下らない理由なら強引に連れてきていたが仕方がない。」
(にしても一切表情を変えないのは珍しいものだ。)
ようやくさとりにも余裕という物が出てきたのか青年の心の内を読み取れるようになったが相変わらず口からの言葉と心の声は全く違う。同時に処理でもしているのだろうか。それとも水泡のように浮かび上がる多くの何かの一片だけを読み取っているだけなのか。さとりにはもはや理解出来なかった。
「さとり様とアンタかい。ちょうど良かったよ。勇儀さんが呼んでいたから終わったらいってきてあげて。」
赤い髪をしていて三つ編みをしている黒と緑のゴスロリ調の服装をしている黒い尻尾を二つ持っている猫のような妖怪が近くに来ていた。部屋を挟んで不器用に話していたので誰かに聞きとられる事は青年は承知していた。だが、それでも関係ないと言えるほどに関係性は持っていた。名は火焔猫 燐。お燐と呼んでほしいそうだが青年から呼ばれた事はなかっと思う。
「それはもう終わらせてきた。良い湯だったよ。」
「流石だね。」
お燐がそのように言っている。前に温泉を作りたいと言われた事は覚えているがまさかここまで発展するとは思わなかった。お燐の心の中は嬉しそうな感情を出していた。
「そうか。して、俺と何処かに行かないか。」
青年は急に話を切り替えて自分の話したいことを言い始めた。
「良いね、お空にも伝えておくよ。それで何処に行くんだい。」
「異世界だ。人数も限られる。だが、来てくれるならそれは嬉しいものだ。」
青年はそのように言っていた。お燐もさとりもそこまでは聞いていなかったので困惑した表情をしていた。青年はそれでも先に行く。死に急いでいるようだった。