青年英雄記   作:mZu

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第73話

青年は少し疲れていたのか一眠りをしていた。襖を叩くその音に耳を澄ませながら気の休まらない時間を過ごしていた。そもそも寝ようともしない青年はある意味、聖の帰りを待っていたとも言えるのかもしれない。多少強引だったと思えるほどには反省したのかもしれない。一言ぐらいは謝りたいと思っていたのかもしれない。その真相は謎だが多分そうなのだろう。

 

その風の吹き荒れる中で何やら違う音が混じっている事に気づいた青年は眠たそうなその目と体を起こしていた。その様子は久し振りに目を覚ました人らしく状況がまるで分かっていなかった。随分とのんびりとしたものである。

 

「誰だ。」

その弱々しい間延びした声で上半身を起こした青年は静かにその場に待機する事にした。手元には心許ない武器しかないがそれでも何とか戦えるくらいにはなっているのだろう。

 

足音が近づいてくる。その音に耳を澄ませた青年は懐に手を入れて針を一本持っていた。息を潜めてゆっくりとした息遣いで呼吸をしていた。木の軋む音がする。そして人影が近づいてきて目の前で止まると襖が開く音がする。

 

「神子か。」

青年は投げそうになったその針を懐に納めるとその体勢のままその場にいる事にした。特に大きく動く必要もない。そう考えたのだろう。

 

「貴方ですか。貸した服の方はどうされましたか。」

金色のようなそうでもないような髪の色をしていて獣の耳のような形をしている短めな髪型をしている。和と書かれたヘッドホンを付けていて前に青年が着ていた薄紫色と紫色のスカートをはいている。マントは冬なので付けている。

 

「汚れたので修繕と選択をしてもらっている。」

何をしたのかは神子には説明しなかったが何となく断片的に見えるので相手は何も気にしなかった。十欲を使って人の過去やこれから起こり得る未来を見定める正に何千年に一度の逸材であるが青年がそれを気にして敬意を明白に表した事はない。しかし神子が寛容なのかそれとも何となく理解しているのか何か文句を言う事はなく他の人に言われているだろうが危害を加えないように抑止している。

 

「どうやら貴方の言っていた事は間違ってはいなかったようです。」

 

「そうか。」

青年も神子も特に多くは話す事はなかった。あまり神子が興味がないのと青年が話そうとはしないのもある。

 

「聖 白蓮は如何されましたか?」

 

「俺が強引に気晴らしして来いと追い出した。正直やり過ぎたと思っている。」

青年はそのように答えていた。もう眠たいという感情は無くなっているのかしっかりとした口調で話している。正直動きを止めていれば寝ていると言っても過言ではない。

 

「それはご苦労だった。実は私も不調を見兼ねて様子を偶に見に来ていたんだ。貴方が繋いでくれた縁をみすみす捨てるわけにはいかないからね。」

 

「そうか。何方が追い出すのかだけだったのか。」

 

「そのようだ。だからと言って、私もまだ安心は出来ない。これから何を起こそうとしているんだ。」

神子はしっかりとした目つきで青年を逃さないように目で訴えていた。対する青年は特に気にしていないようだがその緊張感は並大抵のものではないと思われる。普通の人なら。

 

「逆に何を起こしてほしい。」

青年は楽しそうにしていた。面白いことを見つけたようで興味深く観察をし続ける子供のようだ。

 

「何も望まないよ。結果としてあまり良い成果とは言いにくい。そうではないか。」

 

「それはもしも俺が何も起こさずに待つだけだったら如何なっていたかという事か。」

 

「そういう事だ。」

 

「誰も気付けなかった。そして博麗の巫女の加護を受けている人が正確の明るい馬鹿が生き残る。人間は勿論、力の弱い妖怪でさえも自らその命を落とす。その連鎖が起こればいずれ幻想郷は死ぬ。」

 

「その為に私を含めた全員を焚きつけたという事ですか。それはうまく言っているのでしょう。」

 

「そうか。少し期間が長過ぎたようだ。」

青年は天井を向きながら神子にそのように伝えていた。実際、秋頃までは大体は持ちこたえていた。そこで青年が戻り犯人を捕まえたのならそれで良かったのかもしれない。

 

「それが出来たらここまで苦労する事はなかったと言いたそうだけど。万全ではなかったのならそれは仕方がない事。過去ではなく未来を考える。そうだろう。」

 

「そうか。神子のいう通りなのかもしれない。俺は考えていても仕方ないらしい。」

 

「え?」

 

「俺はこれから大きな事をやる。生きて帰る。俺の罪はそれで拭える。」

青年は急に立ち上がると命蓮寺から出て行こうと歩き出していた。神子は声を掛けたが青年の耳には一言も入らなかったらしい。そうでもないと無視という事は決め込まない。

 

「あれはあれでらしいと言えばらしいですが中々困ったものには違いない。聖にも協力を仰ぐ事にしよう。」

青年の代わりに聖の帰りを待つ事にした神子は青年が横になっていたその部屋で正座しながら待つ事にしていた。それはそれで別に良いのだろう。

 

 

夜分遅くに帰ってきた聖はその溜息と共に参道から一番入りやすい部屋に入っていた。其処は仏像の置かれている部屋であまり人は居ない部屋なので何の気兼ねなく中へと入っていた。

 

「青年が一言授かっている。聞いてはくれないか。」

その中に居たのは豊聡耳 神子。前に青年によって結んだ縁の結果の産物。聖はその訪れには特に驚く事はなかった。だが、其処で青年の言葉があるのはどうしても驚いていた。

 

「はい、なんでしょうか。」

聖は空気を読んだのか神子と対面になるように座っていた。その距離は人が寝転がれる程の距離だった。

 

「青年は謝りたいことがあるようでやり過ぎた、とだけ言っていました。」

 

「それだけですか。」

聖は何となく思ったこともあったのだろう。そんな感じがしていた。

 

「それと青年が行動を起こすのが遅ければ私が追い出していたでしょう。」

 

「それは如何いう理由なんでしょうか?」

聖はもう頭の中は可笑しくなっていたのだろう。

 

「私は貴方のことを心配していました。青年がどのように考えているのかは知りませんが私は良き友人として敢えて同じことをやっていたでしょう。」

 

「不器用な方ですね。」

 

「そうだ。だから許してやって欲しい。面倒ごとの絶えない人だが世話を焼いてくれると思ったのかもしれない。私たち二人がね。見てやろうではないか。この先何をやらかしてくれるのか。」

神子は聖の両肩を掴むような優しい感じで話していると共に熱い思いを伝えていた。それは如何やら聖には伝わったらしくその場は特に何かあったと言うことではなかった。


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