二つの目的のためにひた走る彼を助ける三人の同志。
四苦あれどその足止めずにその道を行く。
神託ありし五人を討ち果たすため。
五臓六腑に果たしたその約束。
七星に誓った決意。
八方へと広げ周りを鼓舞させつつその旗を掲げて先導する。
九つの意思を散りばめたその業。
十全なる存在となって全てを討つ。
青年の言葉や行動によって紡がれた幻想郷は潤滑油を使いながら何とかその歯車を回していた。上手に行かなくても、途中で途切れたとしてもそれを治してくれる管理者がいた。その回転の異常はまた違う意味で幻想郷を活性化させそうだった。
ある日の晩、青年は博麗神社を訪れていた。その理由は何となく巫女には分かっていた。一通り声はかけてきたと言う意味合いなのだろうと考えていた。
「兄者、ご苦労様です。」
金色の髪をしている好青年とも呼べるその整った顔立ちとスッキリとした爽やかな笑顔を振りまいたアーサーは大分幻想郷にも慣れてきたらしく灰色の着物を着ていた。要するに置いておいた青年の古着ということである。どこで集めたのかは聞くことでもない。
「アーサーにはここに残ってもらう事にした。」
黒髪の先ほど博麗神社の巫女が住んでいる小屋の中に入ってきた青年が開口一番に言い放った。何の前触れもなく話を進めた青年だが何か考えはあるのだと思っている。博麗神社の巫女である博麗 霊夢は切にそうに願った。
「何かお考えでもあるのですか。」
アーサーは特に疑問は持っていないので青年の意見には賛成するつもりら祭。それでもそのように采配した理由は聞きたいらしい。アーサー自身も博麗神社から出ていないので青年が何をしてここに来ているのかは全く分かっていない。
「これはアーサーには関係ない。魔王から侵略を受ける幻想郷を助けて欲しい。俺が今、帰れる場所だ。」
青年は静かにアーサーの質問に答えていた。その低さや小ささにはまだ迷いがある。どうしても上手くはまとまっていないようだ。もしかしたらまた別の理由があるのかもしれない。アーサーは取り敢えず青年の言うことを信じている事にした。
「兄者の言いたい事はわかりました。ですが一つどうして私には関係ないと言えるのでしょうか。出来る事なら兄者の近くで持ち合わせている剣を振りたいです。」
「その気持ちは別に構わない。だが、これは俺がしなくてはいけない問題だ。貴方を巻き込んでまでやる事ではない。」
「分かりました。私は兄者に言われた通りにこの役目を全うします。」
アーサーは高らかに宣言したので青年は安堵の表情を浮かべていた。そうする理由は全くわからないが何か青年が気にしていることがあるのだろうとアーサーは感じ取っていた。しかしそれを感じ取れなかった人が一人いた。
「アンタ達は兄弟なんでしょう。一緒に行きなさい。その方がやりやすいだろう。」
言わなくても分かるだろうが霊夢である。怒る理由はよく分からないが青年は真摯に対応するつもりなのだろう。そうでもないとわざわざ体を向けてその目を見て話を聞こうとはしない。その態度は切腹する前の凛々しい武士のそれである。
「俺はこれから殺されにいく。頼むからアーサーは幻想郷に残してくれ。」
青年は謝罪のつもりなのだろうが頭を軽く下げているだけだった。それだけだったので全く霊夢には伝わらなかったのだと思われる。青年の頭上からある棒が振り落とされた。フルスイングというのが一番伝わりやすい。渾身の力で振られたお祓い棒を青年は避ける事なく受けていた。
「馬鹿じゃないの?ちゃんと生きて帰るのよ。ちゃんと帰るのよ。アンタがメソメソしていたら私たちは誰の背中を見ればいいのよ。ちゃんと導きなさい。」
「そうか。俺は少し勘違いをしていたらしい。」
青年はいつも通りの雰囲気に戻り頭を叩かれたおかげで倒れた畳の上で寝転がっていた。アーサーはそんな青年の姿を微笑みながら眺めていて、霊夢はその様子に安心したように鼻息を鳴らしていた。実際の心情はお互いは知らないがそれなりの活力なり源なりはあるのだと思われる。そうでもなければこの三人は集まる事はない。
「頑張りなさい。アンタの頑張りで幻想郷に帰れるのかは決まるのよ。」
霊夢は満足したようなのでアーサーが今度は質問をする事にしていた。
「どうして死ぬことを覚悟しているのですか。」
アーサーはとても当たり前なことを聞いていた。
「俺が何をしていたのか知っているはずだ。」
青年は畳の上に寝転がりながら聞いていたのでそのままの体勢で答えてみる事にした。
「魔王を倒そうとした剣士でしたね。」
「俺が断片的な記憶の中で一番新しいのは床に伏せているところだった。恐らく死にかけたところを誰かに治癒を受けてここに飛ばされたのだろう。それが俺の考察だ。其処には連れていた仲間もいない。恐らく気軽く倒されたと思われる。」
「今はそうでもありませんがその頃はとんでもない強さでしたね。確かに言いたい事が分かるような気がします。」
アーサーは何とか分かってくれたようでその場はそれで終わりを迎えた、と言うはずがない。霊夢は本当に呆れ返っているようで卓袱台を叩いていた。その理由は二人には何も分からない。
「アンタ達、足を引っ張り合いはやめて頂戴。そんな事に時間を潰せるほど暇じゃないのよ。」
霊夢はギラついたその目で青年とアーサーの方を見つめていた。二人は言う言葉もなく正座をしているようにも見える。実際は何もしていない。
その後、霊夢に頼まれた紫は青年の話を元に新聞記事を作り上げるように天狗達に伝えた。情報統制という言い方もあるがこれによって幻想郷はまた違う顔を見せる事になると思われる。大々的に記事を作ってもらうことで何か大きく変わることもあるかもしれない。それ以外にも何かあるのかもしれない。
大博打をかけたその球は回転するルーレットの数字で示された穴へと入ろうとしている。様々な妨害や想いの詰まったその球は確かに何処かに入ったようで固唾を飲んでいた口からどのような声が出るのかを楽しみにするしかなかった。
青年にもこれからどうなるのかは分からない。未来を透視する又は未来人でも現れない限りは何ともならないのだろう。
これから先が青年の思い出したことの一部を繋ぎ合わせるための作業となる。これまではそのピースを探してくれる人を募集していただけに過ぎない。結果は翌朝にならなければ何も変わらない。それまでは待機してゆっくりと体を休めるしかなかった