それからの一週間はとても気楽に過ごしていた。青年がしておきたい事をやっているだけの生活に誰もついてくる事はなかった。青年自体が来させないようにさせていたと言うこともある。それにしては随分と空虚な日々を過ごしていた青年はようやく博麗神社へと辿り着いた。
その日の早朝のことだ。アーサーと青年は誰かが来るまでは待つ事にしていた。
「いよいよですね。また別れる事になるなんて私はどうしたら良いのでしょう。」
金色の髪をその冬の風に浴びせながら博麗神社の賽銭箱の置いてあるところに座っているアーサーは目の前に立っているだけの存在である青年にらしくない声を出していた。
「そうか。貴方は今まで何をしていた。それで諦められるほど弱々しい人ではなかろう。」
青年は特にアーサーの方を見ていると言うわけでもなかった。それとも何か関係があるのかと言いたくなるようなほどに幻想郷の雄大な景色を見える限り堪能しているようだった。
「そうですよね。」
少しだけ笑ってアーサーは首を下に向けていた。
「勝利を告げる剣を持つ者がここで倒れてどうする。」
青年は特に後ろを振り向いていると言うこともなかった。それこそ意識があるのか分からないほどに足も曲がっている何とも言いにくい体勢をして脱力している青年はアーサーから見れば何者かと聞きたくなった。
「兄者、ここで何をしていたと言うのですか。」
「たくさんの事をした。それは貴方が幻想郷に暮らしているうちに話を聞くと良い。」
「そうですか。昔と変わっていませんね。」
「そうか。俺には何の話かは分からないが素直に受け止めておくとする。」
「有難うございます。」
賽銭箱のある場所から立ち上がったアーサーが青年の元へと近づいてくる。一歩、二歩と近づいてきたアーサーは腰に携えていたその剣を抜いて一撃を見舞おうとした。金色に輝く鞘から繰り出されたその銀色の刀身による一撃は青年の肘によって防がれた。その一瞬は何が起こったのかは全く分からない。
「刃を向ける事は別に良い。色々と思いはあるだろう。だが、元々近い実力を有していたのか。」
青年は特に何もしているようではなかった。瞬時に剣を抜いて受け止めた訳でもなければその体が硬いと言うことでもなさそうだった。アーサーにしては圧勝できたはずの青年に無刀で自分の剣が止められた事を恐れてしまった。
「まさかあの時は実力を抑えていたのですか。」
驚きの表情をしている上手く言葉にできないのか呂律の回っていないアーサーは手を震わせていた。そのおかげでその先にある切っ先が大きく揺れている。
「本気でやるとは言っていない。それに完全に忘れているわけでもない。顔と何となくの話し方は覚えていた。が、どうにもモヤのかかった状態だったので自信はなかった。アーサー、何があったのは聞かないがその実力でよくここまで来れたものだ。」
「その言葉は聞き捨てなりません。兄者、此処で勝負をしましょう。全力で来てください。」
「そうか。三歩離れる。それまでは待ってくれ。」
青年は口に出しながら足を進めていく。アーサーはその間の緊張感に負けないようにその場に止まる事に専念していた。どのような事をしてくるのかは全く分からない。そして青年は振り向く。
それを開始の合図としてアーサーは大きく地面を蹴り出していた。もう既にその闘志は限界に達している。ようやく待望の勝負が出来るとも思っているのだろうか。
剣を抜けるような体勢でもない青年はアーサーの剣を素手で止めるしかなかった。しかしそれでも引けに劣らないほどであった。素早く切り替えた青年は左腰から右側へと水平に斬り裂いた。そのついでにアーサーの剣も軽々しく移動させている。何が起こったのかは何も分からない。ただ、言える事があるとすれば青年にそこまで力を入れずとも対等になっていると言う事だった。それだけでもアーサーが本気を出す理由はあったと思われる。
「私は兄者を超えたい。それまではどうしても負けていられないんです。」
「そうか。」
青年の言葉は短い。まさに彗星のように何処かに消えてしまう夜空のようだ。
「行きますよ。」
アーサーの目は確かに獣の目をしていた。そうでもなければ青年とは対面していられないのだろうか。
青年は右腕に持っていたその剣を地面に向けて一歩ずつ近付いていた。まるで無口な壁が近づいているようで対面の余地もなさそうだった。何もかもが規格外のように思えた青年はアーサーにはどのように見えているのかは聞いてみないと分からない。
白色へと変わったアーサーの剣は青年を狙うように左側から狙っていた。右腕に持っている青年にとって一番反応が遅くなるところを狙ったつもりだった。受け止めることも斬り伏せることもできなかった。
アーサーの周りに地面に蹴っている音がしたのかと思うといきなり胸元を蹴り出された。一瞬だけなにかの塊がアーサーの鎧の前に見えたのだが視認しようとしたところでそれはもう遅かった。
地面を転がるアーサーはその剣も簡単に手から離していた。どうしたら良いのかさえ分からないがアーサーからすれば本当に何が起こったのか理解出来ない。一度刃を交えた時にはそのような強さは全く見せなかった。つまり、アーサーの剣を止められる程度の力を発揮しているだけで偶々優ったのが一つあったので青年を倒せただけのことだと言うのだろうか。
恐れにも似たその目をしたアーサーは近くにある剣を探していた。そこで何処かから声が聞こえる。
「もうそろそろ行くわよ。」
黒髪の赤いリボンを付けた赤服の巫女は二人にそう言っていた。アーサーは未だしも青年は当事者の為に早急にその場へと向かう事にした。
「済まなかった。」
青年は急いで博麗神社の小屋の前に走っていた。そしてその中に広がっているスキマに身を投じていた。博麗神社に居た皆も何処かに向かってしまった。アーサーは孤独になったのでその場から動ける気がしなかった。青年には大分痛めつけられた。それほどの実力を持っていなければ魔王軍とまともに対峙できないのだろうか。アーサーは見事な采配をした霊夢と青年に尊敬の眼差しを向けていた。