青年英雄記   作:mZu

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第83話

闇夜に消えたその影はまさにどこから出てくるのか予想のつかないこともあり得る。その中でしっかりとした目で見定める力があれば、何の事もないのだろう。

 

いつも通りに目を覚ました咲夜は姉妹のために紅茶を淹れようと三人用の部屋の一角にある台の上辺りを探していたが見つかる事はなかった。それどころか幻想郷から持ち寄った記憶すら怪しく思えてきた。

 

そこで咲夜は今回何を持ち運んだのかを思い出そうとしていた。しかし紅茶など入れるための器具を持ってきた記憶はなかった。それどころか自分の持ち物しか身につけていなかった気がする。

 

考えても仕方がないので此処は何もしないことにした。

 

それに辺りは暗さも段々と晴れてきたような気もする。何がどのように転がり込むのかは全く分からない。それでも宿命なんだと思える。

 

だからこそ嘆きの言葉を出そうともしなかった。お嬢様にも妹様にも弱みを見せつける事は出来なかった。

 

 

台地から太陽が昇る。

 

吸血鬼にとってはきつい環境ではあるがそれでも馬鹿にされるよりかは幾分ましだと思える。レミリア・スカーレットは慣れない固いベットで目を覚ました。その近くではもう準備を整えたと思われる銀髪のメイドが平然とした態度で立っていた。

 

「お嬢様、軽いお食事を作りました。どうぞ腹ごなし程度にお食べください。」

メイドはレミリアが起き上がったタイミングで心地よい声で話しかけていた。その声には何処かやさしさのある声でレミリアの耳の中をさわやかな風が通り抜けていた。

 

「食材はどこで買ってきたのかしら。」

レミリアは起きたばかりとは思えないほどしっかりとした声で話していた。そして少しだけ笑っているようにも思えた。実際のところは本人に聞いてみないと分かったものではないがそのように見えるので何とも言えない状況となっていた。

 

「王国では朝早くから商売を始めているようです。ですが、どうやら私たちのために売られているようには思えないのです。」

 

咲夜としては完璧に答えたのだと思っているのかレミリアは軽く馬鹿にするように答えていた。

 

「ここでは、朝食と夕食が出るからでしょう。」

クスクスと笑っていた咲夜は急に恥ずかしく思えてきたのか顔を赤らめていた。

 

「お嬢様にお食事をお作りするのが私の役目です。」

咲夜は知らなかったということを気づかれないように弁明のつもりだったのだろうかそのように話していた。

 

「フフ、ありがとうね。咲夜。」

 

 

赤い吸血鬼の異名を持つフランドール スカーレットは浴びることの少ない眩しい太陽の光を全身に感じていた。その光はフランドールには刺激が強かったようで弱弱しい声を上げていた。その声に気付いた咲夜はフランドールの元へと一瞬で移動する。

 

まるで時間を止めたような、そんな速さがあったがそれほど驚くことではない。時間の止めることのできる咲夜には造作もなないことだった。

 

「ゆっくりお体を起こして下さい。」

心配そうに声を出していた咲夜はフランドールの体にそっと触れるとそこから補助するように起こしてあげた後に太陽の日が当たらないような場所に移動をさせることにした。

 

「腹ごしらえとしてお食べください。これから演習場に向かいます。」

事前に食事を済ませていたのかそうではないのかは全く読み取れないが咲夜は吸血鬼姉妹の間で静かな時間を過ごそうとしていた。

 

「ところで、咲夜の職業は何にしたのかしら。」

 

フランドールよりも先に食事を始めていたレミリアはフォークを右手に持ちながら片眼を閉じていた。

 

その姿は吸血鬼というよりも年相応の見た目をしていた。家族としての団欒の時間を過ごしているようなので誰にも邪魔はできないと思われる。

 

「私ですか。曲芸師をしています。時間停止は出来ますので丁度いいものだと思われました。」

ニコッ、としている咲夜。

 

それはいい選択と答えたレミリア。

 

ただただニコニコしていたフランドールは一通り食事を終えていた。

 

 

「では、行きましょう。」

一瞬で片付けを終わらせた咲夜は二人を外にある大きな広場のような演習場へと向かっていた。その場所には多くの種類の道具が置かれていて何らかの目的と全ての役職に対応できるようにしていた。それこそ何か理由でもあるようだが入る事は拒む事はないらしいのでいつ誰が入っても良いようにしていると思われる。咲夜は昨日の出来事を思い出しながら吸血鬼の姉妹の前を歩いていた。その三人は子供と親または姉のように思える構図である。実際は年齢的には全く違う。

 

「確かお嬢様が槍使い。そして妹様が剣士でしたね。二人ともお似合いです。」

咲夜はこれからの事を考えて褒めておくことにした。実際にレミリアには魔槍 グングニル。フランドールにはレーヴァテインを持っている。実際のところはそうではなくてそれを具現化した物を操っている。

 

「そうね。持ち前の武器を使うのは当たり前のことでしょう。咲夜もフランにはそのようにさせたのではないかしら。」

少し余裕のあるように笑みをこぼして下から覗き込むようにレミリアは咲夜を見ていた。吸血鬼らしい威厳よりも家族を見る親のような目をしている。とても優しい目をしていた。

 

「そうですね。」

ニコッ、と笑って誤魔化そうとはしなかった。前に喧嘩をしていたとは思えないほどに仲の良くなった二人だが自然にそのような関係を持っていたのだろう。時間が育んだ愛情というものが垣間見える。レミリアも咲夜の表情に返すように笑っていた。そんな二人を見てフランドールもまた笑っている。

 

「それにしても如何してこのような事になってしまったのでしょうか。」

 

「それは気にしないことね。まずは一週間、王国の兵士として勤めてからクエストを受けていきましょう。きっとうまく行くわよ。」

レミリアは何と無くそんな事を言っている。別に間違っているわけでもない。

 

「お嬢様は青年のことを信じているのですか?」

咲夜は何の気なしに聞いていた。

 

「それはあれよ。あれあれ。」

レミリアは変に慌てていた。まるで予想だにしていないところから敵と対峙しているようだった。】

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