皆がこれからの進路を何となく聞いていたその次の日、赤い角が特徴的な星熊 勇儀はとあるギルド養成所の近くにある酒場に来ていた。鬼という種族である勇儀にとってはとてもではないが美味しくもない酒だがそれでも飲めないよりかは良いと思っているのだろう。それともとあるストレスを発散させるために此処でやけ酒でもしようとしているのか。本人に聞いてみないと分からないのは事実だが近寄りがたい雰囲気を醸し出していて酒場の主人ですらはい、としか答えられなかった。
「隣に座っても良いか。」
とある青年は特に気にする事なく聞いていた。黒髪を一つに結んでいるだけの後ろ姿は女性にしか見えないその人は腰に四本の剣を携えている一見すれば変わった人だった。別に間違っていない。こんな状態の人に話しかけるのだ。相当な命知らずなのだろう。
「好きにしろ。」
勇儀はぶっきら棒に答えていた。もう何でも良いのだろう。そんな捨て去った過去でもあるかのように放心とした状態でその椅子には座っていた。側から見ればすごく落ち込んでいる人に話しかけるバカという構図になっている。
「そうか。して、何か嫌な事でもあったか。」
青年は特に気にする事なく聞いていた。きっと頭の回路がスパッ、と一直線にしかないポンコツなのだろう。そのぐらい言動がまっすぐだった。
「いや、気にしてくれるな。」
勇儀はカウンターに置かれているグラスを持って青年の座っている右側に視線を送りながら口元へと運ぼうとする。しかしすぐに置くとじっと青年の目を見ていた。丸っこい子供のような目をしている青年は勇儀の鬼の形相にも人形のように変えようとはしなかった。見慣れているのか感じないのかそのどちらかである。
「そうか。何かあれば俺や他の人に聞いてくれたら良い。」
「それじゃあ、一つ聞いて欲しいことがある。最近、どうしても勝ちたい相手が居るのだがどうにも勝てない。仕方がないことなのだがどうにも悔しいだけさ。」
「そうか。仕方ない事だろう。それは演習場での事だ。よく観察されて弱点が露見されたところで相手からくる。不利な対面であるのには変わらない。」
青年はスパスパと話を進めていた。相手の擁護もなく淡々と話している姿は逆に凛々しいとさえ思える。迷うのないその言葉なのでそうなるのだろう。店主の男性はそのように見ていた。
「それならどうすれば良い。」
勇儀は口元に運んだグラスをチビチビと飲みながら聞いていた。喉が渇いただけなのだろう。青年はそう思っておくとにした。
「今の貴方には無理だ。実力のないので此処で選択をしてもらう事になる。」
青年は急に冷たい一言を発した。酒場の店主は一応事情を知っているので頭の中は疑問しか浮かんでいない。
「非力だと言いたいのか。どの口がそれを言う。」
椅子の上から拳を振り回した勇儀だが簡単に受け止められた。その腕の先には手の甲と首に差し掛かってつけられているある器具がその力を相殺しているのだと思われる。そうでもない限りはこうにもならない程の力量差はある。
「喧嘩なら表に出よう。此処では迷惑だ。」
青年は椅子から立ち上がるとスタスタと相手に背中を見せて外へと出ていこうとしていた。背中を見せられた無防備な姿に一発入れてやろうかと考えたがそれは辞めておいた。自身のプライドがそれを許してくれそうにはなかった。何をしたいのかは全く分からないが付いていくことにした。
外にはギャラリーというわけではないが謎のショーだと思われてルピのような宝石が投げ込まれていた。その軽い円状の中で二人はその目を見ながら退治していた。片方は四天王に数えられる勇儀、もう片方は特に何か称号のない青年だった。どちらにしても周りから見ればこの二人の実力には皆目見当もつかない。ちょっとした遊び程度に思われていた。ルピが投げ込まれたのもその一環なのだろう。
「いつでもかかってこい。前ほど簡単にはいかないよ。」
盃をどこかにおいていた勇儀は両手で構えていた。その姿に青年は首を左に傾ける。
「そうか。遂に構えるようになったのか。」
何やら意味深な発言をしたところで青年も同じように構えるのかと思われたが別にそうでもないらしい。その理由は後にわかる。
「ナメた真似をしてくれたものだ。」
勇儀は落ち着きもなく右腕の拳を青年に当てようと大きな振りをしていた。それに合わせるように青年は左腕を突き出しただけのように見えた。
刹那、勇儀の右腕は軽々しく吹き飛ばされた。持っていかそうなほどの力があると思われる。
「力がこもっていない。」
青年は軽く一言だけ付け加えていた。青年にとってはもうなんでもない光景なのだろう。ブリタニア王国を実力で抜け出した青年の目には今の勇儀はとても弱いと思われる。
「まだまだいける。」
そういった勇儀だが別にそうとは思っていない。そんな困り果てた表情をしている。
今度は青年が仕掛けた。
左腕を前に出して右腕を体に寄せて折りたたんでから一気に放出する。その一撃はまるで地表に落ちた大きい雹のように轟音が鳴り響いた。
何かの衝突したその場の周りにい人は此処でやっと遊びではないと分かったと思われる。この二人がどれだけの実力を持っていてまだ余力を残していると思われるこの状態を。
「何か細工しているだろう。」
勇儀は細い目で聞いていた。
「そうか。そうでないとこんな場所には居ない。」
言い終わるかそうでもないかの頃合いで流儀に合わない不意打ちを仕掛けた。そうでもないと勝てないと本能的に思えたのだろうか。頭の方は全く追いついていなかった。青年はその拳を軽く突き上げて腕でその拳を受け止めると内側へと回転させていた。追いかける体と進み続けようとしているその拳は青年の腕の前に悲惨な姿を見せていた。
勇儀はその場に痛みで伏せてしまった。
「此処で貴方が逃げることは構わない。俺には関係のない話だし代わりはいくらか居る。好きにすれば良い。が、帰ってきた無様な貴方を誰が迎えてくれる。俺がどうして貴方を選んだのかその答えはお前が決める話だ。」
青年は右腰から剣を引き抜くと刀身を怪我したと思われる手首に当てると何かを念じていた。最近使えるようになっている治癒魔法の類。これを勇儀に見せるのは初めてだった。みるみる痛みが取れていくのが分かった勇儀はそれを終えてからその場で立ち上がった。
「私はもうしばらく此処にいることにする。」
「そうか。俺は見かけただけだからまた他の場所へと向かう事にする。クエストの途中なんだ。」
青年は走り出そうとしたその足を止めて後ろを振り向いた。
「付いてきてくれる事に感謝する。その器の大きさは俺が認めたい姉御の証だ。」
「よせ。」
そういう勇儀だが別に悪いことはなかった。そんな表情をしている。