クリスの居る工房で鍛治を行う事、一週間と一日が経っていた。その間にブリタニア王国での暮らしにも慣れてきたのか少しだけ緊張がほぐれてきたと思われる。
「にとりよ、今日は此処で辞める。」
クリスは窯の前から立ち上がるとゆっくりと消火するように何らかの作業をしていた。背面を見ていた青い短い髪をしている少女、河城 にとりは金物を小槌で叩いて成型していた。カンカン、と金属が当たる音がしているので相当夢中でやっていると思われる。クリスでさえもその熱気というのは呆れるところがある。ただし、手放したいのかと言われると絶対にそのようなことはない、と言いたい程その腕は買っている。
何らかの金属を叩いているにとりを背面から何となく眺めていたクリスは道具を片付け始めていた。だが自分の物だけのようでその他のものは片付けるつもりはないらしい。にとりが終えるまでは待っているつもりらしい。外は随分と夕日が傾いてきて赤くなっていた。
「あれ?もう終わりなの。」
一時的な集中から解き放たれたにとりは自分の周りの状況を見て困惑していた。どうやらクリスの言葉は全く耳には入ってこなかったらしくキョトンとした表情をしている。
「そうだ。しかし、どうしてそこまでやろうとする。」
クリスはどうしても不思議でしかなかったのだろう。
「楽しいからね。それと認めてくれる人が居るから。」
クリスには笑って答えたにとりが一種の天才かと思っていた。それほどに鍛治というものを楽しんでいる。
「その熱意には恐れ入る。」
クリスは最後の作業として掃除を始めていた。外はもうそろそろ夜へとなり始めていた。ロウソクの立てられているこの部屋ではゆらゆらと揺らめくその火しか光源というものはなかった。とても小さな火だがそれでもこの工房を照らす分には何も問題はないと思われる。
「そう言やにとり、伝説の剣の話は知っているか。」
急に話を始めたクリスはふと思いついたのだろう。それとも知っていてほしいと感じたのか。その事はまた別にするとしてにとりは何となく聞いてみる事にした。
「知らないよ。」
きょとんとした表情をしているにとりはそれ以上の言葉を出す事はなかった。それでも興味があるらしくそんな目はしている。
「その剣は今はない。今では死んだしまったアレスという通り名のある少年が持っていた剣だ。誰が作ったのかも使っている本人も知っている人は少ない。アーサーという王国騎士だけは友人関係にあったそうだがそれ以外の情報は出回らないそうだ。」
「でも、何でそんな伝説になる程有名なのに情報は全くないのかな。」
「変装が得意な人物だったらしい。そして実力は王国に反逆を起こせば必ず傾くとさえ言われている。思い出すだけでも恐れ多い。」
「と言うことは別人の情報が本物なのかもしれないね。」
「そういう事だ。しかし、男だったり女だったり、貴族の生まれとの噂とか浮浪者であったりするからどれを信じて良いのか。果ては王国の隠し子だとも言われていた。何せ、何処にも所属をしていなかったから記録もない。」
「そんな人の持っていた剣が伝説の剣なんだね。」
「刀身の色は何の変哲も無いのだが恐らく秘めたる力があるに違いない。」
「意外と近くに居たりするかもしれないね。」
にとりはクリスからすれば意味のわからないことを言い始めた。正直な話、その人は死んだとされている。あれから生きていると言う話は聞かない。
「そうかもしれない。ひょっとしたら商人として何処かで暮らしているかもしれないか。」
クリスも何となく理解は示してくれたがその表情はそうでもなかった。所詮は戯言だと思われているのだろう。