青年英雄記   作:mZu

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第9話

誰も寄り付くことのない不気味な森の中では何もかもが奇妙な形をしていて顔の付いている木や紫色の大きな傘のあるキノコなど薄気味悪いものばかりが多く魔女が住んでいるという噂から誰も寄り付こうとはしなかった。それは妖怪も同類であり、別の意味ではとても安全な場所となっていた。

 

其処に笠を被った黒髪の青年が現れていた。別にしている必要はないがそうする理由はある。そういう事だ。

 

青年は決別の意を込めて此処までやってきていた。そして青年が立っている場所から見える青い屋根は幻想郷来て何も知らない自分を泊めてくれて魔法の基礎を教えてくれた言わば恩人がいる場所である。此処に来るのは後の方にしたかった青年だがいつまでも逃げたくなかった青年は遂にここまで来ていた。

 

「邪魔する。」

青年は扉をあけて中を見ていた。その家の中には住人の作った人形の試作物が置かれていて段々と造形が美しくなっていくのが目に見える。しかし、隙間なく押し込まれたような人形が少しだけ悲しそうに見える。

 

「いらっしゃい。毎回言うのも疲れたからもう言わないわよ。好きなところに座りなさい。」

金髪のショートで赤いヘアバンドをつけている少女は周りにある人形と同じような顔つきをしていて青色の服装をした落ち着いている人だった。

 

「アリス、今日は別の場所に行くついでに来た。長居をする事はないだろう。」

青年は冷たく言う。態とらしくしているがそれが不器用な為にアリスにはバレていると思われる。

 

「そう。此処に来た理由はよく分からないけど何か伝えたいことでもあるのかしら。」

 

「伝えたい事か。あるが信じてもらえるのかはまた別の話だ。」

 

「別の話、ね。私には全く関係ないと言いたいの。」

アリスは少しだけ怒っているような気もしているが青年がそれを機にするようなそぶりは見せなかった。逆に目がどこを向いているか笠を被っていたのでアリスには皆目見当もつかなかった。

 

「俺は幻想郷を侵略しに来た。それでもう分かるだろう。」

 

「それを言いに来ただけなの。できると思っているのかしら。」

 

「出来る、出来ないの話ではない。起こり得る事実だ。」

 

「ふーん。事実ね。何を怖がっているのかは知らないけどさせないわよ。」

アリスは両手に付けていた糸から人形を一体だけ取り出していた。指一本から伝わる魔力によって操ることの出来る人形は小さな兵として青年に向かっていた。

 

「その程度で俺を止められると思っていたか。」

青年は軽く払いのけてからそのように言った。一撃で戦闘不能まで追い込んでいた。呆気なく払われた人形は家の床の上に寝転がって動くようなことはなかった。

 

「いえ。まさかそんな簡単に人形は叩かれるとは思わなかったけど。」

青年のその成長にはアリスは驚いているらしい。異変を解決した者としてその実力は有していると言うことなのだろうか。

 

「表に出よう。此処では他のものを傷つける。」

青年は優しさからなのか踵を返して扉の方へと向かっていた。余裕があるのか敵に背中を見せているがアリスは何か危害を加えるようなことはしなかった。もう何となく分かっているのだと思われる。

 

「そうね。貴方の方が早めに出なさい。近いのだから。」

アリスは青年に対してそう言う。子供のわがままとして捉えているのかアリスは柔らかい顔をしているだけだった。青年はそれに比べて気難しい表情をしていて何か違うものを感じざるを得なかった。

 

「そうか。」

そうやって答えるその声にも何かハリがない。

 

外はもう明るく朝も終わりを迎えていた頃合いだった。それぐらいの時間帯だったのだろう。青年は笠を被っていたので日差しの感覚は関係なさそうだった。対してアリスはどこか日差しを眩しそうにしていた。久しく外には出ていなかったらしい。それに人形の制作をしているのか体は大きくは動かす機会はなかったのだろう。

 

「久しぶりの運動ね。」

 

「そうか。」

どこを向いているかはさておき笠を斜めにしている青年はその隙間から澄ました顔をしていた。先ほどとはまた別の問題なのだろうか。

 

「貴方が何をしたいのかは知らないけど此処で止めるわ。」

 

「本気でやるのか遊びなのかははっきりとしていた方が良い。」

 

「それはボケているのかしら。面白くないわよ。」

アリスは家から連れていた人形を使って戦闘を行おうとしている。操作魔法を得意とするアリスは自身の魔力を紡いだ糸で作り上げた人形を使って青年へと向かわせていた。

 

青年は腰に携えている剣も何処かに隠している小刀も針も出すようなことはしなかった。その代わりに拳を握りしめてアリスに対して構えていた。何の真似かは知らないが槍や剣を持つ人形に素手で挑もうとはとんだ間抜けでもあった、先ほどの人形をはたき落としていなければ。

 

「素早く始めようか。」

 

「そうね。」

アリスは自分の指を使って人形を弾くように青年へと向けていた。左手から繰り出された人形は青年の前で止められていた。

 

軽く右手で叩かれただけの人形はその場で墜落していた。

 

青年は構うことなく間合いを詰めていた。その速さは今までのものではなくアリスは見たこともないような速度で人形を操る暇さえ与えようとはしなかった。

 

そして、青年は右腕でアリスの顔面を狙っていた。そのような場所は好まない青年だが怯ませるくらいなら別にいいと思えた。 指を伸ばしてどこかに当てると素早く引いていた。パシッ、と言う音が聴こえてアリスはその場に倒れていた。

 

「済まなかった。あまり傷つけたくはなかったのだが。」

 

「今更何を言うのかと思えば。もう遅いのよ。動き出した事は途中で投げない事ね。行きなさい。」

アリスは膝を折り曲げて地面に尻餅をつきながら上目遣いで青年の方を向いていた。何か誘っているかのような感じだが別にそのような事はない。

 

「そうか。では、行かせてもらおう。」

青年はそう言うとアリスのいる場所からは離れるようにしていた。

 

「不器用な男ね。嫌いじゃないわ。」

アリスはあまり気にしている様子はなかった。

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