もう慣れてきた頃合いだろうか。幻想郷から連れ出された七人はブリタニア王国の兵士として過ごすようになってから三週間が経っていた。ある人は自分の強さを求める。またある人は裏側でルピを荒稼ぎしていた。そしてある人達は王国での買い物を楽しもうとしていた。
「で、私と行きたいという事ね。」
黒髪を一つにまとめているだけの簡素な髪型をしている少女、博麗 霊夢はいい加減薄い茶色の服装に嫌気がさしていた。だが、買うためのルピもなければ何もするような事は出来なかった。一人で出かける気も起きない為に誰かから誘われるのを待っていた。
「そうです。行きましょう。」
緑色の髪を以前よりも短くしていた少女、東風谷 早苗は可愛い服装を求めていた。少女としていつまでもその服装でいるのは少し気が進まないらしい。だが、道が分からないのではいく場所も見つからないので誰かと行きたいと願っていた。
「良いわよ。さっさと行きましょう。」
スタスタと歩いて兵士の寝泊まりしている建物から外へと出る霊夢。それを急な事に驚きながら小走りに霊夢の背中を早苗は追っていた。
外は随分と明るく感じる日中だった。しかしこれから太陽が落ちていくようなのでこれからは暗くなっていく一方なのだろう。人通りは少ない訳ではないが多いと言うには足りないような気がするくらいでそこそこ賑やかな雰囲気があった。穏やかな風と心地いい声が聞こえてくるそんな環境だった。そんな中であまり周りに溶け込んだ服装で少女二人は王国の街中を歩いていた。
「アンタは何が欲しいのよ。」
「服装を変えたいんです。」
理由は言わなくても分かるだろう。
「そうね。そうなるのが必然だわ。」
「ですが足りないのはわかっています。75ルピでどれまで買えるのか見てみたかったんです。」
終始、調子の悪そうにしている早苗は小さな声で霊夢と話していた。一体何が言いたいのか、色々と考えをしてみた霊夢は何が目的なのかは全く分からなかった。そして明白に考えるのはやめた。
「一人で行けば良いじゃない。それとも青年と一緒に行きたかったけど仕方なくなの。」
「いえいえ。そんな事はありませんよ。」
「そう。アンタはああ言う感じの世話のかかるのは好きそうよね。」
含みのある笑い方をしている霊夢は早苗の前を歩いていて表情は全ては読み取れなったがそんな口角の上がり方をしていた。不審に感じた早苗だがそれよりもいじられた内容の方が気になるらしい。
「あの人、神奈子様も諏訪子様にも敬意を払ったところを見たことはありません。来てもらっても困ります。」
「困るわね。で、アンタの気持ちはどうなのかしら。一番やる気があるのはアンタらしいわね。」
ふふっ、と笑っている霊夢。どうしようもなくなった早苗は仕方なくなって何も話せなくなっていた。霊夢もここら辺で早苗をいじるのは辞めるつもりらしくスタスタと無言で歩いていた。早苗はその後ろを眺めながら少しだけ考えていたこともある。しかし他愛もない事であり叶うと思ってもいない。どれだけ願おうともどうなる事でもない。
「なんでこんなに高いのかしらね。」
霊夢は少し商人を睨みつけながら悪態をついていた。所持金の少ない二人にとってはその金額というのは死活問題という事である。つまり二人の持ちルピを合わせても到底及ばない値がつけられていると言う事である。
「そう言うなら買わなくていいんだ。冷やかしなら帰りな。」
霊夢と同じく悪態をつく商人にしても売る気があるのか全く分からないその人はギラリとした目で二人を見ていた。正しく霊夢の今の態度を鏡で映しているだけのそんな表情をしている。
「幾ら何でも高過ぎでしょ。少しくらいは下げなさいよ。」
「それでこの街を渡り歩けると思ったら大間違いだ。嬢ちゃん。悪い事は言わない。此処らへんで帰った方が身のためだ。」
「そう言える根拠は何処にあると言うのよ。」
狂犬のように噛み付いた霊夢。それを横目でどうしようか迷っている早苗はオロオロと自信のない様子であるのには間違いなかった。しかしそのままで許されることもなく霊夢にきつい言葉をかけられる。
「どう思う?こんな事を言っているわけだけど。」
「は、はい。そうですね。」
一瞬手間取った早苗の右腕を引っ張り出して強引に連れ出すと王国の住民の中を掻い潜っていく。何が起こったのかは全く分からない。
「アンタね、しっかりなさい。そんなんじゃ帰らせるわよ。」
「それだけは辞めてください。」
「あ、そう。500ルピなんて高いと思わない?どうやって買え、と。」
「それならクエストを受けて稼ぐしかなさそうです。」
「そうなるでしょうね。こうなったら一気に稼ぐわよ。」
霊夢が急に意気込んだのでその熱にやられたのか早苗もいつも通りの元気を取り戻していた。
「分かりました。早速行ってみましょう。」
「行動が早いわね。まぁ良いわ。さっさと終わらせるわよ。」
霊夢は人の中を強引に突き進む。来た道を戻るだけ、そしてやれる事は何でも挑戦するつもりなのだろう。