青年英雄記   作:mZu

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第96話

夢になんて思わなかった。そんな日々が続くはずの新たな世界での潜入はある青年の指示によって安全なものへと変わっていた。しかし全ての危険を回避させることができるのかと言われるとそれは全くと言って違う話である。仕方がないが超えていく必要があるものもある。

 

鬱蒼とした視界の通りにくい森の中を三人は歩いていた。フランドールは眠たそうな顔をしているが他の二人が支えているので全くと言って危険な事はなかった。しかしどうしてこうなったのかは子供らしい理由があると思われる。魚で言えばマグロが一旦止まるとどうなるかと言うものと同意義だとお漏れる。

 

「それにしても何処から現れるのかは全く分かりませんね。」

 

「そうね。まずどのような魔物なのかも知らないわね。」

毒を吐くようにレミリアは一言余分なものを付け加えた。それを聞いた咲夜はすぐに謝り、クエストの内容が書かれている紙を見せながら説明を始めた。

 

「背の低くて四本足で尻尾があるようです。噛み付くといった行動を取るようです。」

咲夜の説明を聞いたレミリアはふーん、と声を出すだけで何か驚いたり、感心するような反応を見せようとはしなかった。そうなる理由は分からないがレミリアの中で落胆があったのかもしれない。思っていた魔物とは違うと言ったそう言う感じだ。

 

「気を引き締めていきましょう。」

 

「ええ。分かっているわよ。」

レミリアはその言葉の通りに理解していた、理解しているつもりでいた。かさっ、と草むらから音がした左横から今回の目的らしきものが現れた。咲夜は自身の能力で時間を止めて避けていた。咄嗟の判断にしては随分と悠長な気もしている。それほどに自分の能力には自信があると言ったところだろうか。

 

対してレミリアは妹であるフランドールを庇ったので傷は負っていないがいきなり不利になっている事には変わりなかった。地面に伏しているがいつも通りの雰囲気だけは存在していた。

 

「咲夜にはフランを任せたわ。」

 

「分かりました。」

まだ眠気が取りきれていない妹を戦わせまいとする姉としての威厳とある条件によって妹の持っている能力を使わせないとしているその複雑な発言には何の戸惑いもなく咲夜は答えていた。素早く距離を取るとレミリアの後ろに立っていた。

 

「もしもの時は頼んだわよ。」

レミリアは後ろにいる咲夜に背中を預ける。それこそが信頼の証とも言える。何年の付き合いであるのか数えてもいないが子供の頃から見ているのには変わりなかった。そこから出てくる信頼なのだろう。

 

「援護くらいしかしませんので期待はしないでください。」

と言う咲夜だがその手の中にはしっかりとナイフを握っていた。もう任せる事しかしなかったレミリアは自身の魔力で作り上げたグングニルを右手に持ってから両手で構える。赤く発光しているこの槍はレミリアにしか扱う事はできなかった。

 

目の前にはトカゲのような見た目をしている正しく先ほどの咲夜の説明通りだった。薄い茶色で固そうな鱗を纏っている魔物はその低い身丈を利用して下から這い寄ってきた。その速度と不規則な動き方は比にするものはなくレミリアは対応に遅れた。それは正しく致命傷とも言える。

 

一回刺してみたグングニルは見事に鱗にかするような形で避けられて下から襲いかかってきていた。口が大きく開く。レミリア派この一瞬だけだが嫌な予感と何かから解放されるものを感じた。その出どころは全く分からないが何もない根拠である事には違いない。

 

実際のところレミリアに危害が加わる事はなかった。それは後ろを任せていた咲夜のナイフが大きく開いていた魔物の口の中に入ったからである。一瞬で何が起こったのか分からなくなっていた魔物はその場でのたうち回っていた。そしてあっけないほどにレミリアのグングニルの一撃で葬られた。

 

その時に発せられた奇声は耳を塞ぎたくなるほどの高音であった。キシャー、といった鳴き声というところだろうか。

 

「死んだのね。」

脳天を貫かれた魔物は本当に呆気なくその場から動けずにいた。

 

「お怪我はありませんでしたか。」

 

「全くないわよ。任せてよかったわ。」

レミリアは特に後ろを見る事はなかったがどうやら満足そうな表情は浮かべていると思われる。それぐらいの事はよく分かっていたので咲夜は何かいようとはしなかった。

 

「帰りましょうか。」

 

「そうね。帰りましょう。」

レミリアのグングニルが貫いた頭と尻尾を持ち帰る。いつのまにか終わっていたフランドールは帰っても不機嫌である事には変わりなかったが時期や運が悪かったとしか言いようがなかった。

 

 

その日の夜。咲夜はクエストの報酬で食材を買っていた帰り。ある男に話しかけられた。

 

「調子はどうだ。」

黒髪で後ろに結んだ髪を垂らしている青年は建物の間で壁にもたれかかっていた。どうやら来るのを待っていたらしい。

 

「おかげさまで今日は助かったわよ。でも、人を困らせるのは褒められないわよ。」

 

「それは言ってはいけない。して、期日も近くなっているがどうだ。」

 

「装備等の話よね。着々と進んでいるわよ。」

 

「そうか。して、あの二人の世話を任せているが負担に思っていたりはしないか。」

 

「別に今の所はそう思っていないわ。ところでこれから仕事でもするのかしら。」

 

「人に言えるような事はしていない。して、どうしてそう思う。」

 

「血の匂いがするわよ。それと私と同種に思えるのよ。」

 

「そうか。勝手にするが良い。」

青年はぶっきら棒に答えていた。が、別に機嫌が悪いということではなく偶にそんな反応を見せるだけである。

 

「そう。別に答えなくても良いのだけど手は汚して欲しくはないわよ。」

咲夜は心配そうな声で青年に話しかけていた。しかし、その忠告はもう遅かった。

 

「そうか。此方ももしもの時に備えて準備はしている。」

踵を返して建物の間に入っていく青年はその闇の中へと消えていった。薄気味悪いので入ろうとは思わないが少しだけ興味が湧いたらしい。しかし今は二人のことが心配なので咲夜が入るのはまた後の話になるだろう。

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