青年英雄記   作:mZu

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第98話

周りには各職業の宿舎があり何処からでも見る事は出来る。まるで闘技場の参加者のような気分になった青年はこれから起こり得ることを考えながらその場に佇む事数分。呼び出されたような気分になってふと意識を現世に戻した。急に重たくなった体がその周りに起こっている音や景色を蘇らせた。

 

「用意は済んだ。貴殿が右手を上げたら始まる。それまでは絶対に誰も手を出す事はせんのじゃ。」

国王であるベヒモスが椅子に座りながら偉そうに話していた。実際のところ、反抗する気の起こらなかった青年は仕方ないのでその場から踵を返して離れておく事にした。その近くに腰に何かを携えている剣士と杖を持っている魔術師か回復術師が居る。どちらにしても面倒な事には変わりないが青年はやらなくては出ることはできないので挑戦しなければならなかった。

 

青年は右腰に携えている剣の柄に触れると右手を上げながら剣を抜いた。瞬時に動き出した二人。青年は冷静に状況を見定めていた。前方から火の玉が飛んでくる。それで後ろにいるのは魔術師であると思えた。簡単な魔術なのでまだ判断はつかない。それと前方から突っ走ってきたのは剣士である。何が起こったのかと言われるとまだ判断は付かない。

 

青年は先に火の玉を無力させてから剣士の居合にも似た一撃を受け止めていた。この時ばかりは二刀持ちで良かったと思える。相手の攻撃の勢いを利用してその場から離れる青年。それを追いかける剣士。それに合わせて攻撃を仕掛けようとする後衛の人。しかし、完全に動きを封じていた青年は後ろなどを見ていなかった。

 

剣士にぴったりと張り付くことで後ろからの攻撃を避け続ける。もし誤りが起こればどうなるのかは全くわからない。

 

剣士はそんな事は構う事なく青年に攻撃を仕掛けようとしている。攻撃的なのは別に悪い事ではないがそれがどれだけ協力関係において邪魔になっているのかは判断が出来ないと思われる。それともそこまで信頼関係を築けていないのだろうか。青年は余分な事を考えながら後衛の人に動かせないようにしていた。

 

「お前、手を抜いているのではないだろうな。」

 

「いや、そのような事はない。」

青年は余分な会話をしながら右手に持っていた剣を振っていた。黒い刀身で綺麗に磨かれているのでそれなりの愛情を剣に注いでいるのだと思われる。

 

危なげなく避けようとしていた剣士だったがもう一本潜んでいた事は見えていなかった。まるで影を作っているだけのような動きに惑わされてその場に転んだ。こうなれば青年は二方向からの攻撃の警戒をしないといけない。自分の下と前方からの攻撃だ。

 

魔術師としてはここで失うのは良くないと考えたのか素早く出せる魔術を使った。先ほど出した火の玉とは違い、鋭い先で貫こうとする氷柱のようなものを一本飛ばしてきた。青年は目の前に倒れている剣士を起こしてその身に隠れていた。剣士の悲痛な叫びが聞こえてくるが青年は状況が状況なので気にしなかった。

 

演習場で暴れ出した青年は猪でも宿しているかのように猛進をしていた。誰も付いてこれない。

 

魔術師は素早く魔術を発動させる。軽く出せる火の玉は青年の剣に触れるとふんわりと消えてしまった。まるで吸収しているかのようで何をされたのかは全く分からなかった。その間にも青年との間合いは詰められている。

 

剣を振るう青年。杖から何か魔術を出そうとするが一切の猶予は残されていなかった。上から振い落とした青年の剣は魔術師の脳天に直撃して押しつぶされるかのようにその場に倒れ込んだ。どうやら躊躇も残されていなかったようだ。

 

「もう一戦じゃ。」

不敵な笑みをこぼす国王に特に反応を見せなかった青年は次の相手を待つために歩いて距離を取ろうとしていた。

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