すぴばるというサイトに投稿したものです。
内容はそのままです。
感想、アドバイスなど、よろしくお願いします。

所々、誤字のような部分がありますが、きっと誤字ではありません。わざとです。
しかし、確実に誤字だという場合は、お知らせください。修正いたします

ーーー描写についての解説などは、基本しないスタンスですので、よろしくお願いします。
自分で自分が書いたものの解説をすることほど寒いことはないですからね

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僕は兄さんが好きだった

真っ赤に染まった部屋の中、俺は一人、佇んでいた。右手には包丁が。股の下には兄が倒れ臥している。

「なぁ、兄貴...なんでこんなことをしたんだよ」

「......理由なんか何の意味もないさ。俺がこれをやった事実は揺るがない」

 俺の問いに、兄はそう答えた。意味がないのに、こんなことをしたのか。そんなはずがない。兄に限ってそんなことはあり得ない。そう思いたいのに、そう思えない俺がいる。当たり前だ。人間、自分のことすら理解しきれないというのに、どうして他人のことが理解できるというのか。それでも。少しでも兄のことを理解しようと、意識の一部を記憶の海へと沈めていった。

 

 

 * * * *

 

 

「兄貴、どこ行くの?」

「ん? 学校の連中とちょっとな」

「蓮さんたち? 俺も行っていい??」

「今日は別の友達だ。蓮たちとはまた今度遊ぶ予定あるから、そのときは連れてってやるよ」

「約束だからな! 破んなよ!?」

「はいはい、分かってるよ。んじゃ、行ってくる」

「いってらー」

 靴を履き終わった兄が玄関を後にする。その背中を見送った後、僕は居間へと入っていった。

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう、今日は遅かったのね」

「あぁ、昨日、少し夜更かししちゃって。今日は早く寝るから心配しないで」

 居間でテレビを見ている両親に朝の挨拶をすると、両親からも同じものが返ってくる。遅い、とはいっても9時を少し過ぎたところなので、このまま朝食を抜かすと昼まで持ちそうにない。台所を適当にあさると、フレークが出てきたので、それをボウルに開け、牛乳をかけて朝飯にする。

「.........お前、今日はどうするんだ? 何か予定とかあるのか?」

「そうだね....今のところ、予定はないかな。勉強するか、ゲームするかで午前中は過ごすつもり。午後は......どこか出かけるかもしれない」

「そうか。まぁ、ゲームのやり過ぎには気をつけろよ」

「了解」

 父とそんな会話をしながら朝食のフレークを食べる。朝からたくさん食べられる人ではないため、早々に食べ終わってしまった。使った食器を流しに運び、水に浸す所までが我が家のルールなので、今朝もそれに則る。その後は特に居間にいる意味もなくなったので、部屋で飲む飲み物を冷蔵庫から調達し、自室へと戻る。

 持ってきた飲み物を机の上に置き、ベッドへと身を投げる。

「何すっかなぁ......」

 勉強してもいいけど、何の科目にしようか...。

「.........とりあえず、パソコン起動すっか...」

 午前中はもうしばらく続くのだから、何をするにしても、少しゆっくりしてからでも構わないではないか。そう思って、ノートパソコンの電源ボタンに指をのばした。

 

 

 

「.........ふぅ、まぁ。午前中はこんなところか」

 パソコンを起動した後。出撃したり、遠征を行ったりと、午前中のうちにしなければならないことをやり終えると、次は勉強をすることにした。受験生である身としては、一日に数時間単位で勉強しなければいけないだろう。暗記系は夜やることにして、今日は数学に手を出した。難しい問題を解く気分ではなかったので、2年のときの参考書を取り出して、適当にページを開き、そこから問題を解いていった。それも、30問を超えると精神的にキツくなってくるので、参考書を閉じ、次のターゲットを国語系の科目に決める。本棚から適当に参考書を引っ張りだすと現代国語のテキストだったので、またも適当なところから問題を解く。本を読むのは好きなので、その感覚でテキストをめくっていると、階下にいる母が俺を呼ぶ声が聞こえた。時計をみると、12時を示している。俺は一つ、伸びをして、昼食を食べに再び居間へと向かうのだった。

 

 

 

 昼食を食べ終わると、再び自室へと戻る。朝に出した遠征を回収し、任務一覧にチェックをつけて、もう一度遠征に出発させる。そういえばと、昨日の出撃時に手に入れたアイドルを例のごとく<r解体:バラ>して、資材へと変換していると、机の上に置いてある携帯がメロディを奏でた。ディスプレイに表示されたのは、同じ部活に所属していた友達。部活を引退してこのかた、学校で話すことはあっても、携帯に連絡がきたのは初めてだ。

「もしもし? どした、何か用事か?」

「なんだ、用事がなきゃ電話の一つもしちゃいけねぇってのかよ」

「そういう訳じゃないさ。ただ、互いに受験生なわけだけど、勉強しなくてもいいのかいっていいたいのさ」

 ただでさえ君は成績が良くないだろと、付け加えると電話越しに「うっ...」と、声が漏れた。

「い、いいんだよ...たまには息抜きしないと勉強も長続きしないだろ?」

「君の場合、息抜きしかしてないと思うけど?」

 再び、電話越しにうめき声が漏れた。

「だ、だいたいなぁ! いままで勉強なんかしてこなかった俺に、今更どうしろってんだよぉ!!」

「勉強すればいいと思うよ?」

「それが出来たら苦労しねーんだよぉおおおお!!!」

 半泣きで叫ばれて、反射的に携帯を耳から離す。幾分離れても声が聞こえることから、相当大声を出しているのだと思う。電話越しに「勉強しろ」なんて言ったが、何かと要領のいいあいつのことだ。今から勉強しても目標を高く設定しすぎなければ大概どうにかなるのではないか。中学からのあいつを知っている俺だからこそ分かる。あいつは絶対に路頭に迷うタマではない。

 声が聞こえなくなっていたので、携帯を耳に戻す。

「で、今日は何のお誘いだ?」

「......バッティングセンターだ。今からいくからお前も来るか?」

 おう、と答えて通話を終了する。動きやすい服装に着替えて、玄関へ。

「かーさーん、ちょっとバッティングセンター行ってくるー」

「遅くなるなら連絡入れてねー」

「りょーかーい」

 玄関の隅に立てかけてある自分のバットを担いで自転車に跨がった。

 中学からの親友のお誘いだ。断る訳がない。それに、中学受験のときも、学校の定期テストの前にも毎回誘われている。これが彼の切り替えスイッチになっていることはもう理解している。親友のよしみだ。今回も、スイッチの切り替えに付き合ってやるか。

 そんなことを考えながら、自転車のペダルに、一気に体重をかけた。

 

 

 こんななんでもない日が延々に続くものだと思っていた。このまま何となく頑張って勉強して、それなりの大学に入って。そこでもまた適当に頑張って、適当に就職して、働いて。そんな平凡で楽しい日常が続くものだと思っていた。

 ————日常というものが、こんなに儚いものだとは、思ってもいなかった。

 

 

 

 * * * *

 

 

 僕は、兄さんが好きだった。2つ年上の、優しい兄さんが大好きだった。

 要領がよく、何事もそつなくこなす。頭が良くて、友達がたくさんいて。運動神経も抜群に良い、そんな兄さんが大好きだった。

 僕が野球を始めたのも兄さんの影響だった。小学生の頃、兄さんが小学校の野球部に入部し、その後を追うように僕も入部届けを先生に提出した。しかし、兄さんたちと一緒に練習をするのはまだ僕には危ないからと、ずっと見学しかさせてもらえなかったけれど、当時の僕には兄さんのプレイを近くで見られるだけで十分だった。

 学年があがり、兄さんが小学校の最上級生になると、僕もようやく練習に混ざれるようになった。それからの毎日は本当に楽しかった。学校では部活をし、家では共にバットを振り、休日にはキャッチボールをする。そんな毎日は俺が中学の部活を引退するまで続いた。そして中学3年の時に、あることに気がついた。自分はどんなに頑張っても兄には追いつけない。高校は何とか兄と同じ所に合格できたが、そのために犠牲にしたのが兄との時間だった。

 俺が高校生になったあるとき、兄がクラスメイトをウチに連れてきた。俺たちの通う学校は、ウチから離れているため、普段は別の友達の家で遊んでいたのだが、行き慣れてつまらないとのことで、ウチに白羽の矢が当たったそうだ。兄が連れてきたのは蓮さんという人を含む3人。頭のいい兄の友達としては少し頭を捻らざるを得ない、その、頭の悪い連中だった。しかし、俺はそんな人たちのことが気に入った。

 ——ーだって、そいつらといるときは、兄貴に対する劣等感を抱かなくてすむから。自分よりも下がいるという事実が、俺の劣等感をかき消してくれるから。

 そんなことを考える自分に嫌気が差す。さらに、それもしょうがないと自分に言い聞かせようとする自分がいることによけいに腹が立つ。

 ——ーー高校では部活に入らなかった兄だが、早々に有名大学への進学を決めた。流石、おめでとう、と祝福の言葉を口にした。

 

 

 * * * *

 

 

「ただいまー」

 バッティングセンターに着くや否や、親友に吹っかけられたホームラン勝負に勝利した俺は機嫌で帰宅した。子供の頃から兄の真似ばかりしていたせいで、騒ぐことが苦手になってしまった俺にしてはなかなかに珍しいことだ。

「うん? 誰もいないのか....?」

 いくらまだ日が出ているとはいえ、秋口はすぐに暗くなってしまう。

 ——ー玄関の鍵を開けっ放しで出かけるなんて、ウチの親も気が緩んでるなぁ。これは帰ってきたら、少し話す必要があるかなぁ...。

 そんなことを考えながら、靴を脱いで洗面所で手を洗う。洗面所を出たところで、まだバットを担いだままだったことに気がついた。

「.........そうだ。夕飯まで少し時間あるし、久しぶりにグローブとバットの手入れでもするかな」

 そうと決まれば、手入れ道具を持って部屋に行かなければ。両親どころか兄もいないようなので、夕飯まではまだだいぶ時間があるだろう。ゲームをしながらでも余裕だろう。そんなことをぼんやりと考えながら、手入れ道具を出すために居間へと足を踏み入れる。

 

 

 ————しかし。そこは、非日常(イセカイ)だった。

 

 赤い西日が差し込んでいる。しかし、そこはそれ以上に紅く染まっていた。

 さらに、そこに倒れ臥す2つのモノがそこの異質感を強めている。それは、人の様で人ではないナニカ。人としてなくてはならない部分が欠損している。

「う......お、えぇェ......」

 吐き気を催すが、空っぽの胃の中からは何も出てこない。

 目の前の光景があまりにも異常すぎて、頭の中で状況が整理できない。パニックになっていないせいなのか、二階からの物音を聞き逃さなかった。

「そ、そうだ......兄貴はどうしたんだ...」

 今聞こえた物音が、コレを為した張本人だとするなら。既に兄が帰宅していて、現在自室にいるのなら。兄の身が危ない。助けなければという念に駆られるが、どうやって助ければ良いのか、想像もつかない。警察を呼ぶ? 悪手だ。この場合、間違いなく警察が来る前に兄も俺も殺される。

 そのとき、背中に触れる固い金属の存在を思い出す。

「そうだ...これだけリーチがある武器なら、きっと犯人にも立ち向かえる...」

 背負っていたバットケースの中から、暗い銀色をしたバットを取り出す。

「勢い余って殺しちゃっても、正当防衛になるはず...大丈夫、やれる...兄貴は俺が助けなきゃ...」

 足音を殺し、気配を殺して階段を上る。2階に上がると、兄の部屋の扉は開いていた。中から見られないように体を隠しながら、そっと様子を伺った。

「なっ............っ!?」

 意味が、分からなかった。なんでこんな光景が広がっているのか、一体兄に何があったのか。想像もつかない。

 

 ——ー兄は、両親の首を机の上に並べ、血の付いた包丁を手に嗤っていた。

 

 手に持ったバットが床に落ちる音で、兄は俺に気がついた。

「そうだ...まだ、お前が残っていたな...」

 ソレは、包丁を握り直して、俺を見据える。

「僕に俺を演じさせる人間がいるとダメなんだ——」

 だから、

「——ー死んでくれよ、()のために——」

 俺を見据えたソレは、ゆらりといすから立ち上がると、ゆっくりと。だが、確実に俺へと向かって歩いてくる。

 ——ー恐怖で身体は動かない。そこから数分間、俺の意識はトんでいた。

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ、......」

 乱れた息を整えるために細かく酸素を取り込む。その度にズキズキと痛むのは、果たして心か身体か、よくわからない。

 何があったのかは自分でもよくわからないが、お互いの身体を見る限り、それなりに争いはしたようだ。結果、俺が勝ち、兄を股下に押さえ込んでいる。

 俺の右手には兄から奪った包丁が握られている。視界の隅に映るバットは部屋の外にあるので、どうやら素手で兄と取っ組み合ったようだ。

「......アレは、兄貴が...?」

「答える意味、あるのか?」

 机の上を顎でしゃくるが、期待した返事は返ってこない。

「......俺は、兄貴がやってないっていうなら、それを信じるよ...。警察呼んで、適当に犯人像をでっち上げて...」

「お前は、ヒトをコロシタやつを許せるのか」

 ヒトを、コロシタ...? やめてくれ、そんな言い方じゃあ、まるで——ー。

「なん、なんで、こんなことを...?」

「理由なんか、お前には理解できないさ。俺ではないニン間に、俺は理解できないよ」

 そこでついに、理解する。この程度の問答で理解してしまった。コイツは理解が出来ないと。コイツは兄ではない、ナニカだということを理解した。

 途端に、頭が冴えてきた。

「じゃあ、最後の質問だ。どう死にたい」

「ヒトゴロシに見合う最期を。地獄の業火すらも生温いと感じるほどの痛みをもった死を」

「あっそ」

 手に持った包丁を振り上げる。昔、何かの漫画に書いてあった。人を殺す時に心臓を一突きにする描写があるが、その場合、ナイフは縦ではなく、横にして突き刺さなければ、肋骨に防がれて上手く刺さらないらしい。ソレとの会話の最中に思い出したそれに従って、包丁が肋骨に当たらないように横にして振り下ろした。

「————」

 大した断末魔も上げずに、ソレが絶命する。後に残ったのは、俺一人。

「は、はは、っはははははははははははははははははは!!」

 笑いが溢れた。

 ——ーなんだ、この感情は。高揚している。この感情は味わったことがある。いつだったか、そうだ。試合で勝ったとき。あのときの感情によく似ているじゃないか。そうか、俺は今、嬉しいのか——ー。

「あ、あぁぁ....あぁああああああああ!!!」

 叫んだ。目からは涙が零れ、俺の股下に転がっているモノへと落ちていく。

 ——ー違う。違う違うチガウッ!! 俺はコイツじゃない! コイツみたいに人を殺して喜ぶようなやつじゃない!

 そう否定するのに、頭の中から声が消えない。

 ——ーオマエハ俺ト同ジダヨ。同ジ、タダノヒトゴロシダ。

「違うッ!!!」

 ——ー違ワナイ。ホラ、顔ヲ上ゲレバ、俺ガイルヨ。

「やめろぉおおおぉおおおおおおおお!!!!!!」

 ナニカから包丁を引き抜き、目の前の本棚に投げつける。壊れない。ならばと、廊下までバットをとりにいく。

 両手に握ったそれを、大上段から一思いに振り下ろした。本棚が壊れた。机も壊した。壁時計も、目覚ましも壊した。

 ベッドを叩き毀したところで、バットが折れて使い物にならなくなる。だが、構わない。この部屋の中のものは大概壊し終えたのだから。

「...............」

 部屋の中はメチャクチャだ。兄のものだったもので溢れかえっている。

「しまったな、まだ残ってたのか......」

 残骸で溢れた部屋の中で、一つだけ、原形をとどめているものがあった。

「バットは...もうダメか。まぁ、これなら素手でも大丈夫かな...」

 拳を握り、腰を捻る。軽い踏み出しとともに、腰の捻転力も加えて拳を振り抜いた。

 兄の所有していた姿見に向けて放たれた俺の拳は、違わずそれを破壊した。拳からは血が流れる。欠片となった鏡に、その血が付着した。

「これで、兄貴がいた痕跡は消え去ったよ、兄さん...」

 膝をついて、つぶやいた。兄貴を思い出す部屋を見たくなくて、俯いた。そこには、大きく割れた、鏡の欠片。そこに映っていたのは、さっき相対したヒトゴロシの姿。

「は、ははは...しまったな、こんなにデケェ兄貴の痕跡を見逃してるなんてな」

 割れたせいで鋭利になっているそれを持ち上げる。

「コレで、ホントのホントに最後だよ、兄さん...」

 ——ー血飛沫が、舞った。

 

 

 

 * * * *

 

 僕は昔から、何でも出来る兄さんのことが大好きだった。

 

 でも。

 

 それ以上に俺は、兄貴のことが大嫌いだった。

 


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