この小さな世界で愛を語ろう   作:3号機

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動画サイトで野獣先輩が頑張っていると風の噂を耳にしたので、ぼくも頑張って書きました。

デュノア家、デュノア社の設定捏造回です。


Chapter42「その男は何者か」

 

 

 

 

 土曜日の午後七時。

 

 IS学園の一年生用学生寮、一夏の部屋。

 

 

 

 アルベール社長をはじめ、デュノア社の幹部たちはいったいなにを考えているのか。

 

 シャルロットを男性操縦者としてIS学園に送り込んだ、本当のねらいはなんなのか。

 

 それらを考察するために、まずは、アルベール・デュノアのことや、デュノア社のことを教えてほしい。

 

 デュノア社の“これまで”と、“いま”について情報を可能な限りかき集め、整理し、その内容を分析する。その上で、“これから”どうするかを考えよう。

 

 鬼頭はそう言うと、ベッドのへりで肩を寄せ合い座っている一夏とシャルロット、自身のかたわらに立つ陽子とセシリアを順繰りに見回した。反対意見のないことを確認し、左手のボーム&メルシエへ目線を落とす。

 

「……とても長い話し合いになるだろう。ちょうど夕飯時でもあるし、集中力を切らさないためにも、ここらで一度、長めの休憩を挟もうか」

 

「さ、さんせー」

 

 鬼頭の提案に、最初に賛意を示したのは娘の陽子だった。以前より三人目の男の正体を疑っていた父やセシリアと違い、この場には、ひとりだけ仲間はずれにされるのが嫌だから、とくっついてきた彼女だ。軽率に足を運んだその先で、まさかこんな事態が待ち受けていたとは! 気構えのないところを重たい話に打ちのめされ、内心はへろへろにまいってしまっていた。気持ちを落ち着けるための時間が欲しい。

 

 ――よくぞ言ってくれました! 

 

 陽子は胸の内で喝采し、安堵の表情を浮かべて応答した。

 

 そんな彼女の呟きをきかっけに、他のみなの唇からも次々に賛同する言葉が紡がれる。

 

 精神面での疲労を感じていたのは、陽子だけではない。当事者のシャルロットは勿論のこと、突如としてスパイ映画の世界に巻き込まれてしまった一夏や、この場には覚悟を胸に臨んだはずのセシリアでさえ、インターバルの必要性を痛感していた。

 

 自分たちと同じ年頃の少女が男子生徒の恰好を大人から強要され、さらにはスパイ行為を働かされている。この非情な現実を前にして、冷静さを保つには、休憩時間が時間と誰もが考えていた。

 

 休憩を取ることが決まると、必然的に、議論のテーマは夕食をどうするか、ということにシフトした。どこで食べるか。何を食べるか。食後のことを考えると、夕食はめいめいで楽しむより、全員で同じテーブルを囲んだほうがよい。再合流にかかる手間や時間のロスは、なるべく抑えたい。

 

「寮の食堂を使うのはやめようか」

 

 鬼頭の提言に、反論する者はいなかった。シャルロットの真実を知ったいま、彼女にまた男子生徒の恰好をさせて、公共性の高い空間へ連れて行くのは憚られた。男物の服に袖を通すのも、その姿をみなに見られるのも。なにより、嘘をつくこと自体、シャルロットの本意ではないのだ。

 

 それでなくとも、夕飯時の食堂にはきっと多くの耳目がある。正体露見のリスクや、それを防ぐために強いられるだろう気苦労のことを考えても敬遠したい場所だった。いつばれるやもしれぬという緊張と不安から、食事どころではなくなってしまう公算が高い。気を休めるための休憩なのに、むしろ疲弊を抱え込んでしまうようでは意味がない。

 

「それなら、夕食はこの部屋で摂りませんか?」

 

 悩ましげに眉間に皺を寄せる鬼頭に、一夏が提案した。

 

「俺の部屋だったらシャルロットの姿をみんなの前にさらすこともありませんし。食事だけ食堂で受け取って、この部屋に持ち込む、っていうのはどうでしょう?」

 

「織斑君、それ、ナイス・アイディア!」

 

 一夏の提案を陽子が絶賛した。娘の言葉に、鬼頭も頷く。

 

「堂島先生からもらった、手羽先のこともあるしね」

 

 コンセンサスを得た彼らは早速行動を開始した。陽子とセシリアが五人分の料理をもらいに食堂へ向かい、鬼頭も山盛りの唐揚が載ったままの大皿を取りに自室へと引き返す。

 

 残る一夏とシャルロットは留守番だ。鬼頭の「五人での会食が出来るよう場を整えておいてほしい」という発言の裏には、正体を知られたシャルロットが自棄を起こして、何かとんでもないことをしでかさないか一夏に見張らせたいふた心があった。

 

 二人は素直に頷くと、ともに手慣れた様子でテーブル・セッティングを始めた。「五人分の椅子はどうしようか」「二つはダイニングのをそのまま使うとして、あと二つは学習机のを移動させようぜ」「あと一つは?」「俺はベッドを椅子にするよ」「もう、お行儀が悪いよ」……。なごやかに言の葉を交わす姿からは、言外の企図に気がついた様子は見受けられない。

 

 彼らを眺めているのが段々と辛くなった鬼頭は、足早に一夏の部屋を発った。後ろめたさに由来する不快感から一刻も早く逃れたい気持ちが、彼の足をせわしなくさせていた。

 

 年頃の娘と暮らす父親への配慮からか、若い男性の一夏の部屋と、鬼頭親子の『1122』号室は、別階の離れた場所に配置されている。

 

 廊下と階段を歩くことおよそ二分、ようやく自室に辿り着いた鬼頭は、部屋の戸を開けてすぐにダイニングルームへ向かった。テーブルの上に鎮座したままの大皿に手を伸ばし、しかしすぐに引っ込める。一旦は大皿の裏側へと伸ばした指先をおとがいに持っていき、ふうむ、と呟き揉みさすった。しばしの黙考。

 

 ――念のため、一声、かけておくか。

 

 やおら鬼頭はベッドの方へと踵を返した。壁際のベッドボードのかたわらでしゃがみ込み、寝台脇のナイトテーブルを手前に引きずり寄せる。テーブル裏の壁面にひっそりと埋め込まれたコンセントパネルに頬を寄せた。

 

「……どうせ、一夏君の部屋にも、仕掛けているのでしょう」

 

 横に並んだ二個一対の縦穴に向けて、鬼頭は剣呑さを孕んだ声で呟いた。給電孔の向こう側に、盗聴装置の潜伏を確信しての独り言だ。

 

「私たち男性操縦者の身の安全を考えてのことでしょう。ですから、聞き耳をそばだてていること、それ自体に文句を言うつもりはありません。勿論、年頃の娘を持つ親として、思うところがまったくないわけではありませんが……。ま、それはそれとして、一つだけご留意を。我々の話をこっそり盗み聞く以上は、そちらも、巻き込まれることを覚悟してもらいたい」

 

 言い捨てると、鬼頭は立ち上がってナイトテーブルを元の位置に戻した。

 

 改めてダイニングルームのテーブルから山盛りの手羽先が載った大皿を手に取り、彼は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 それからおよそ一時間後、夕食を終えてひと心地ついた頃合いを見計らって、シャルロットはデュノア社の現状と、そこにいたるまでの経緯について説明を始めた。

 

 なるべく詳細に、という要望に応えるべく、彼女の話は、アルベール・デュノアという男のバックボーンを語るところから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インフィニット・ストラトス二次創作

 

「この小さな世界で愛を語ろう」

 

Chapter42「その男は何者か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルベールの生家デュノア家は、十九世紀の中頃にフランスの産業革命を支えた有力な資本家の一つだった。

 

 もともとはフランス南部のランドック地方でワイン用のぶどうを栽培する小農民の一家。それがフランス革命に伴う一連の農奴解放政策の結果分割地農民となり、以後は積極的な土地買収により地方の大地主となった。彼らは土地を担保に多くの資金を集め、ナポレオン三世の政権下でいくつもの事業に出資、その多くで成功を収めてさらなる巨万の富を築いた。

 

 二十世紀の初頭、デュノア家は活動の拠点をパリへと移した。いまも昔もフランス随一の金融街。出資先の企業を監督する上での利便性を期待しての引っ越しであったが、結果として、この行動が後の悲劇を招いた。この直後、パリの街は二度の世界大戦、世界的な金融恐慌といった歴史上の大事件に立て続けに巻き込まれることになる。

 

 事件の影響は当然パリに移住したデュノア家にも及んだ。とりわけ、第二次世界大戦でフランスがドイツの占領下に置かれた期間中に大きな痛手を負うことになる。所有する企業の大半を、手放すはめに陥ったのだ。

 

 占領下のフランスにおいて、ドイツの企業や資本家たちの振る舞いは横暴であった。彼らは国家間の力関係を背景に、仏側の企業を次々に買収していった。占領者たちの牙はやがてデュノア家にも向けられ、その財産を容赦なく奪っていった。一九四四年の八月にパリが解放されたとき、彼らの手元には僅か三社の零細企業が残るのみとなっていた。

 

 デュノアにとっての苦難の時代は、戦争が終わった後も続いた。

 

 新たに起こった共和国臨時政府、次いで発足した第四共和政は、戦争によって疲弊した経済を建て直すため、復興政策の一環として企業の国有化を推し進めた。デュノアの出資先にはインフラや一次・二次の産業に関わるところが多く、ほとんどの会社は公益性を優先する考えから政府の管理下に置かれ、彼らの手元に戻されることはなかった。そればかりか、残る三社さえ僅かばかりの補償金と引き換えに、取り上げられることになった。

 

 このとき、大戦以前のデュノア家であれば、ランドックに戻ってまた一からやり直す、手元の資金の投じ先を新たに探すなど、バイタリティのある行動をとったかもしれない。しかし、占領下での四年間はこの名門投資家の一族から気力と体力を著しく奪っていた。新たな事業を興す気にもなれず、以降、彼らは過去の蓄財を食い潰すだけの存在へとなり果てる。

 

 かくして、時代のうねりの中で完膚なきまでにたたきのめされたデュノア家は、凋落の道をひた走る。アルベールが生まれた一九八〇年の時点で、かつての栄光はすっかり失われてしまっていた。

 

 

 

 一九九八年、十八歳のアルベール青年は、そんな現状をどうにかして変えたい想いから大志を抱いた。自ら会社を興し、成功させる。自らのこの手で、デュノアの家を再興してみせる。先達は、自分たちはカネを出すばかりで、汗を流すことを知らなかった。だから、手持ちの会社をすべて失って途方に暮れてしまった。自分は同じ轍は踏まぬ。この手に職を持ち、自分にしか生み出せない王国を築くのだ。

 

 彼には子どもの頃からの夢があった。航空に関わる仕事がしたい。大いなる決意を胸に大学へと進んだアルベールは、そこで航空と宇宙について最新の知識を学んだ。卒業後は航空機メーカーのラッソー・アビシニオン社に設計技師として入社。設計の実務経験を積みながら、後の独立のことを考えた人脈作りに励んだ。

 

 二〇一〇年、ラッソー社を辞したアルベールは、パリ近郊の街サン=クルーにある三十坪ほどの土地を購入した。彼はそこに木造平屋の倉庫を建て、航空部品のデザイン事務所を開設する。創設時のメンバーは、彼と一緒にラッソーを退職した技術者が三名と、元営業部の男が一名。事務作業を担当してもらうために新たに雇い入れた者が二名。後のIS業界の巨人『デュノア社』は、たった七人、バラックのような粗末な社屋から始まった。

 

 はじめのうち、経営は苦戦を強いられた。後の世界的大企業も、創業間もないこの時期は無名のルーキー。人命が懸かる航空部品の世界において、信頼は何にも勝る重要素だ。誕生したてのデュノア社には、その根拠が乏しかった。

 

 そんなこの時期のデュノア社を支えたのが、副社長のペルナール・ドゥフェロンだった。アルベールより二つ年上。他の者たちと同様ラッソーには技師として入社したが、そちらの方向では花開かず営業職へ転向。フットワークの軽さと物怖じしない性格を武器に、辣腕の営業マンとして活躍した。

 

 アルベールが彼に副社長のポストを用意したのも、どちらかといえば営業の腕に惚れてのことだった。アルベールは自らを口下手で人付き合いが苦手と定義しており、社交性の高いペルナールは喉から手の出る人材だった。副社長は彼の期待によく応え、顧客の開拓という、アルベールの目には他の何よりも難しいと映じる仕事を次々にこなしていった。

 

 ほどなくして、会社の基本戦術が確立された。副社長が仕事を獲り、社長以下の技術者たちが全力でそれを迎え撃つ。実績を武器にまたペルナールが仕事を獲り、優秀な技術者たちがそれをこなす。繰り返しの中で、会社は業界内での信用を着実に得ていった。

 

 二〇一四年にはビジネスジェットのベストセラー機、ラッソー社・ファルコン用の新型の慣性航法装置の開発を任されるまでになる。慣性航法装置とは、外部からの支援が得られないときに、自機の持つセンサーのみを使って現在位置や速度を算出する機器のこと。航空機にとって、安全な飛行に欠かせない重要な装置だ。社屋は相変わらずのバラック小屋、従業員数もようやく二桁に達したばかりの零細ながら、会社の存在感は大きかった。

 

 

 

 二〇一〇年代の中頃、世界の構造を揺るがす、ビッグ・インパクトが発生した。

 

 篠ノ之束博士によるISの発表と、その直後に起こった『白騎士事件』。ISの持つ兵器としてのポテンシャルが世界中に知れ渡り、軍事と外交の勢力図は急激な変化を強いられた。これからの時代、ISを持たない国の頭上に太陽は輝かない。叶うならば、国産機の導入を! 旧世界において軍事的優位を得ていた国々は、気がつけばすぐそこまでやって来ていた新しい時代に適応するべく、こぞってISの開発に取り組み始めた。

 

 欧州有数の軍事大国であるフランスもまた、バスに乗り遅れるわけにはいかぬ、と国産機の開発に邁進する国の一つだった。仏国政府は機体の開発と生産を軍用機開発の経験も豊富なラッソーに依頼。そうして二年後に完成した初の仏国産の第一世代機は、他国製の主力ISと比べて明らかに見劣りした。カタログ性能はともかく、数値に表われない使い勝手に関する部分で、多くの弱点を抱えていたのだ。完成した機体を軍は制式採用したが、運用する現場の声は芳しくなかった。

 

 政府と軍が国産ISの開発に苦戦していたこの時期、デュノア社でもISの研究がスタートする。

 

 他ならぬアルベール自身が発起人となって研究会が起ち上がり、通常の業務にも匹敵する規模の予算と時間が確保された。研究会の活動には社長も率先して参加し、熱弁をふるって社員たちを鼓舞した。

 

 アルベールには強い確信があった。二十世紀の初頭、アメリカのノースカロライナ州キティホークで初飛行を成功させたライトフライヤー1号が後の空の歴史を変えたように。二一世紀の空のありようを決定づけるのは、このISという新たな翼に違いない。

 

 デュノア社のIS研究会は、最終的な目標を自社製ISの開発・製造と思い定めた。使われているひとつひとつの技術は無論のこと、並行して、良いISとはどういう機体なのか、徹底的に追究していく。アルベールたちの頑張りはやがて実を結び、イメージ・インターフェースに関する画期的な新技術の開発に成功した。

 

 ここでイメージ・インターフェースという技術について今一度確認しておこう。

 

 ISを構成する数多の要素の中でも、イメージ・インターフェースは機体の操縦性・操作性を下支えする最重要装置だ。この装置の出来栄え次第で、そのISが名機となるか否かが決まる、としても過言ではない。

 

 イメージ・インターフェースはその名が示すようにイメージの力……思考でもって機体の操縦や武器の操作を可能とするための装置だ。ISの操縦はすべて、原則としてイメージ・インターフェースを中継して行われる。

 

 基本的な仕組みはこうだ。操縦者はまず、『機体をこのように動かしたい』というイメージを思い描く。思考はイメージ・インターフェースによってISコアへと伝達され、そこで機械語に翻訳。またイメージ・インターフェースを伝ってロボットアームなどの出力装置に送信され、機体が動く。操縦者と、ISコアと、出力装置。これらをつなげる橋渡し役が、イメージ・インターフェースだといえる。

 

 デュノア社が発見した新技術は、脳波信号の入力に対する応答速度と精度を飛躍的に向上させるものだった。装置内にフィルターを仕込み、操縦には無関係な思考のノイズを除去する機能を持たせたのだ。

 

 人間の脳細胞は常に活動している。自分では一つの物事に集中しているように思えても、それは脳のほんの一部分の活動にすぎず、意識上にないだけで、実際には他の部分も色々なことを考えている。

 

 天災・篠ノ之束博士が発明したISコアの演算能力はすさまじい。しかし、その高度な処理能力をもってしても、脳の活動そのことごとくをいちいち拾い上げていては、たちまちオーバーフローを起こしてしまう。

 

 絶えず流入してくる膨大な情報量。当然、機械語への翻訳には莫大な時間を必要とする。加えて、人間という生き物の思考は二転三転しがちだ。「右に進もう」、「いや本当は左の方がいいかもしれない」、「いやいや、それよりもこっちの方が優れた作戦だ」、「この方がいいのではないか?」など、矛盾する要求を処理しきれず、機体のコントロールが失われてしまう恐れさえある。

 

 次々と生み落とされる思考を一度ふるいにかけることが肝要だ。不要な思考は遮断し、操縦に必要なもののみをピックアップして、ISコアへと伝達する。イメージ・インターフェースの開発で最も難しい部分だが、アルベールらが見出した妙技は、その難易度を大いに改善させた。ふるいの目をより細かく、より柔軟に造り込めるようにしたのだ。これにより、いらない思考を拾って機体の挙動が乱れてしまうなどのリスクを低減しつつ、取り扱う情報の絞り込みによって通信に必要な時間も短縮。機体追従性の大幅な向上が期待された。

 

 試みに、評判の悪い仏国製第一世代機へ導入した場合の結果をコンピュータでシミュレーションしてみた。著しく有意な、それでいてポジティブな結果が得られたアルベールらは、意気揚々とそのデータを発表。これに、フランス政府と空軍の高官たちが食いついた。

 

 

 

 この時期、フランスは軍の次期主力ISを国産機とするべきか否かで、政府も軍も意見が割れていた。

 

 第二次世界大戦以降、この国の軍事と外交戦略の基底にはド・ゴール主義の考え方がある。すなわち、『フランスの存続のために、フランスは外国に依存すべきではなく、フランスはいかなる外国の圧力に対しても従属すべきではない』という、独自路線だ。軍の兵器についても、歩兵の小銃から先端テクノロジーの塊である戦闘機まで、外国への依存度を下げるため極力国産品を調達するようにしている。

 

 そうした考えから、ISも国内企業のラッソーに開発を託したが、完成した国産第一世代機の仕上がりは、お世辞にも傑作機と呼べる内容ではなかった。

 

 兵器の調達・運用・維持にはカネがかかる。開発に懸かるコストが上乗せされる分、国産機はそれが高額化しやすい。大金を投じて導入した国産機がこの体たらく。議会では直近の失敗例を引き合いに、次期主力機は外国機から選んではどうか、と主張する勢力と、独自路線を堅持したい勢力との言い争いが日に日に激しさを増していた。

 

 デュノア社が新技術の完成を公表したのは、政府と軍がそんなデリケートな問題に頭を痛めている時期のことだった。

 

 彼らはアルベールたちが自信満々に発表したシミュレーション・データに強い関心を示した。この会社であれば、仏国が望む機体を生み出すことが出来るかもしれない。

 

 政府はサン=クルーにあるバラック小屋にすぐ使者を派遣した。政府高官の直接訪問にアルベールたちは吃驚仰天、とるものもとりあえず、作業着姿のまま応対する。動揺激しい彼らに、官僚たちは次期主力ISの設計・開発・生産までを託す、超巨大プロジェクトの話を持ちかけた。

 

 アルベールははじめ、会社の能力と規模を理由に断ろうとした。自分たちの働きぶりを評価してくれたのは嬉しい。しかし、此度の成功は、全体に対してイメージ・インターフェースという一部に会社のリソースを集中したからこそなしえたこと。総体たるISの開発は、いまの自分たちには荷が重い。

 

 ラッソーのような超一流の大企業ですら国産機の開発には二年を要したという事実も重たい。自覚がないだけで、本当にそれだけの能力が自分たちにすでに備わっていたとしても、我々程度の規模の会社では、同じことを達成するのに何十年かかるか分からない。

 

 さらには、わが社はデザインワークスだ。設計は出来ても、生産設備を持っていない。軍の望む機体数を、自分たちでは用意出来ない……。

 

 渋る彼らに、フランス政府は、この依頼を引き受けてくれるならば、IS開発に必要なすべてを提供してみせると豪語した。最新の機材が整った研究所、大型の実験場、自前の発電設備を有する生産施設に、五百人が快適に過ごせる規模の本社ビル。無論、モノだけではない。これらの施設を建設し、動かし、維持するための資金。IS開発に必要と考えられるありとあらゆる情報。そしてなにより、人材。ヒト・モノ・カネ・情報。四大経営資源のすべてを、用意してくれるという。

 

 もとより野心家のアルベールだ。懸念事項はすべて彼らが解消してくれると知って、俄然、やる気が湧いてきた。政府の呈示した契約書に、彼は朗らかに笑ってサインした。

 

 会社のすべてが、がらり、と変わった。

 

 資本が増強され、人員も大幅に増えた。急激に巨大化した組織を効率よく運営していくために、経営陣の強化が図られる。従前、会社の方針は社長と副社長の二人が相談し決めていたが、ここに、フランスの政財界から集められた選りすぐりの経営者たちが加わった。彼らはときに協調し、ときに意見をぶつけ合いながら、組織の改造に着手した。

 

 経営面の不安が解消されたことで、アルベールを含むデュノアの技術者たちはISの研究に全精力を傾けられるようになった。研究会はいちばんの主力事業部へと昇格し、会社の持つすべてのリソースが集約される。

 

 望むものは何でも手に入った。高性能な機材、尋常な手段では入手困難な資料。軍との協力体制も構築され、絶えずISの運用に関する最新のデータが提供されるようになる。研究開発と並行して生産施設も整備され、一年後には次期主力ISの試作機が完成。ほどなくして、実機を用いての試験も始まった。テストの度に得られたデータを解析し、問題点を洗い出し、改良を積み重ねる。徐々に、完成度を高めていく。

 

 そうしてさらに一年後、後に第二世代機の最高峰と評されることになるIS『ラファール・リヴァイヴ』は完成した。

 

 出来上がった機体はすぐに仏軍の実験施設へと持ち込まれた。軍の高官たちの厳しい視線の中で、『ラファール・リヴァイヴ』は“兵器”として優れたパフォーマンスを示した。

 

 すべての性能が高水準でまとまっている高性能機、とは、このISに備わっている、数ある長所のうちのほんの一要素に過ぎない。環境を選ばずに戦える高い汎用性。多種多様な兵装の運用が可能な、懐の深い火器管制システム。機体の発展・強化を容易とする、豊富な拡張領域。いずれも軍が兵器に求める重要素ばかりだが、特に彼らの関心を買ったのが、総合的なユニット・コストの安さだった。

 

 勿論、高性能機だけあって調達費そのものは高額だ。しかし、運用にかかる費用や、運用体制の整備に要する時間など、人的・物的な消費の面で、破格の低コスト化を実現していた。

 

 アルベールらデュノアの技術者たちは、ラファールの設計に際して作りやすさ・組み立てやすさを意識した機体構造を心がけた。国産第一世代機の性能に不満を抱いているフランス空軍は、機材の早急な更新を望んでいる。軍からの制式採用を首尾よく勝ち取れたとして、機体を作り、武装を揃え、保守部品の十分なストックを確保するには時間が必要だ。この点への配慮が行き届いたアルベールらの設計は、軍から高く評価された。

 

 と同時に、生産性の高さは、思わぬ副次的効果をももたらした。作りやすさとは、すなわち単純さ。シンプルな機体構成には、操縦者や整備士の育成や、運用に必要なインフラ整備の負担が少なくすむメリットがあった。

 

 コスト面で優れる機体は、仏軍のみならず、仏国と武器輸出についてパートナーシップを結んでいる国々でも歓迎された。

 

 兵器の高性能化と、それに伴う高額化によって、どこの国でも軍事費の負担増が問題になっている。かといって、軍備を疎かにするわけにはいかない。彼らにとって、高性能でありながら比較的安価ですむISとは喉から手の出る存在だった。

 

 こうして多くの人々からの祝福を一身に集めながら、『ラファール・リヴァイヴ』の制式採用が決まった。同時にそれは、デュノア社の隆盛の始まりの日となった。フランス空軍より発注された最初の十二機の納品が終わると、すぐにエジプトやアルゼンチンといった国から機体を購入したい旨が打診される。仏軍もまたより高性能な改良型の開発を求め、会社は一気に忙しくなった。

 

 『ラファール・リヴァイヴ』の愛用者は軍人だけにとどまらなかった。拡張性に優れる機体は世界中の競技者たちから諸手を挙げて歓迎された。大容量の拡張領域を活かして、自分好みの調整がしやすいと好評を得たのだ。第二回IS世界大会では実に二六名もの選手が『ラファール・リヴァイヴ』を着込んで参加。等しく好成績を収めた他、十四個もの大会新記録がこのISによって樹立された。

 

 採用国が増える度、あるいは、IS競技で『ラファール・リヴァイヴ』を着た選手が活躍する度に、デュノア社には機体の発注が舞い込んだ。その売上は会社をさらに大きくし、世の投資家たちは急激に逞しくなっていく体を見て期待を寄せた。結果、さらなる資金を得たデュノア社は積極的な投資に励み、また大きくなっていく……、という、理想的な成長サイクルへと突入した。

 

 

 

 業績好調な一方で、この時期、デュノア社はある悩みを抱えてもいた。

 

 兵器というものは、誕生と同時に陳腐化が始まる。『ラファール・リヴァイヴ』が制式採用を得てから半年後、アルベールたちは早くも次世代機開発を目指した新プロジェクトが立ち上げた。まだ見ぬ未来の空を羽ばたく翼、第三世代機開発計画『コスモス・プロジェクト』。

 

「でも、第三世代機の開発は難航しました」

 

 機体も、第三世代機の最重要素である特殊兵装も。研究開発は遅々として進まなかった。原因は主に二つ。

 

 一つは、シャルロットも口にしたデータの不足。『ラファール・リヴァイヴ』という傑作機を生み出したデュノア社だが、IS企業としては後発の部類。新世代機の開発に必要な基礎研究の分野では後塵を拝していた。ラファールの開発期間が二年ですんだのも、政府の圧力を受けたラッソー社から、第一世代機開発のデータ提供があったことが大きい。

 

 今回、その手は使えない。先の一件により、ラッソー社との関係は最悪と評せるほどに悪化してしまった。必要なデータはすべて自分たちで用意せねばならないが、新興のデュノア社には、その蓄積が足りていなかった。

 

 もう一つの理由は、デュノア社が仏国有数の巨大企業へと成長してしまったことに由来する。ラファールを開発していたときと比べて、次世代機開発計画ではステークホルダーの人数が組織の内外問わず大幅に増えてしまった。新型機をどのようなISとしてデザインするか。方針を巡って、激しい意見の対立が生じてしまう。

 

 アルベールらデュノア社の古参スタッフが作りたいものと、後から入社した技術者たちが作りたいもの。フランス政府が作ってほしいものと、投資家たちが望んでいるもの。仏軍が望むラファールの後継機。他国にとっての理想の後継機。そのすべてが異なり、デュノア社を悩ませた。主な要求仕様を決定するだけでも意見のすり合わせに膨大な時間を浪費してしまい、そうこうしているうちに、他国から続々と次世機完成の発表があがってくる。昨年の晩秋、ようやく策定された仕様書の第一案に従って試作機の設計に着手し始めたとき、たとえば隣国のドイツではレーゲン型が機体・特殊兵装ともに完成。あとは運用データを積み重ね、改修を重ねて完成度を増していく、という段階に達していた。

 

 こうした状況の中で、フランス政府は――自分たちもまた次世代機の開発が遅れている原因の一つなのにも拘わらず――、デュノア社への失望感を強めていった。彼らはまず助成金を減じる旨を通達。次いで、年内に成果が挙がらなければIS開発に必要な各種ライセンスの剥奪もありうることを示唆した。

 

 これにより、デュノア社の上層部は大混乱に陥る。焦った彼らはこの苦境を打破するため奇策に打って出た。それが、シャルロットを男性操縦者としてIS学園に送り込み、スパイ活動に従事させる、という作戦だ。

 

 一連の経緯を改めて聞かされた鬼頭はたまらず眉間を押さえた。何から何まで酷い話だ。聞いているだけで、頭が痛くなってくる。

 

 鬼頭はかたわらに寄り添うセシリアを見た。

 

「どう思う?」

 

「そうですね……」

 

 英国からやって来た美貌の代表候補生は、豊満な双丘を抱えるように両腕を組んで考え込んだ。

 

 立志伝中の人、アルベール・デュノアのこれまでの歩み。デュノア社が陥っている現在の苦境。事業好調な第二世代機『ラファール・リヴァイヴ』と、諸般の事情から開発が遅れている第三世代機。これらの要素から考えられる、アルベール社長の隠れた本心。セシリアはやがて、一つの考察を口にする。

 

「……あくまでも、私の想像ですが」

 

「うん」

 

「シャルロットさんがアルベール社長から聞かされたというデュノア社の現状……会社が経営の危機に瀕している、というのは、本当のことだと思います」

 

「それじゃあ、やっぱり……!」

 

 アルベール・デュノアや会社の重役たちのねらいはスパイ活動か。

 

 早合点から思わず前のめりになる一夏を、「ですが」と、セシリアは制した。

 

「その原因は、シャルロットさんが聞かされたような事業上の問題……次世代機開発の遅れが理由ではないと思います」

 

 一口に経営危機といっても、原因によって状況は様々だ。危機の理由は組織の内側にあるのか、それとも外部にあるのか。それ如何によっては、収支上は黒字なのに会社をたたまざるをえない、といった事態もありうる。

 

「デュノア社が経営危機に陥っている原因は、もっと政治的な問題……フランス政府から、会社の乗っ取り工作を受けていることが理由ではないかと思われます」

 

 直前まで口の中に含んでいたはずの言の葉が、一瞬のうちに霧散してしまうのを一夏は自覚した。

 

 驚きから絶句し、茫然とする彼に、セシリアは続けて言う。

 

「私がこの考えにいたった理由は、大きく二つあります。一つは、デュノア社へのフランス政府の対応に、違和感を覚えたからです」

 

「違和感って?」

 

 同じく鬼頭のかたわらに座る陽子が聞き返すと、セシリアは漸次相手の理解を待ちながらのゆったりとした口調で説明した。

 

「第三世代機の開発が遅れているから、フランス政府はデュノア社を見限って、補助金の減額や開発ライセンスを剥奪しようとしている。私には最初、政府のこの行動がとても非合理なものに思えました」

 

「え? どこかおかしいとこある?」

 

 政府の予算とて無限ではあるまい。デュノア社では自分たちの望みを叶えることは難しい、となれば、そちらに投じているリソースを引き上げて他のところへ回そうとするのは、むしろ合理的な行動だと思うが。

 

「デュノア社の事業が第三世代機の開発だけなら、その通りでしょう。ですが、デュノア社にはもう一つ、第二世代機の最高傑作『ラファール・リヴァイヴ』という、ビッグ・ビジネスがあります」

 

 競技スポーツの道具であれ、兵器であれ。およそすべてのISは、商品という側面も持っている。開発中の第三世代機と、世界第三位のシェア率を誇る第二世代機の傑作機をビジネスの観点から見比べた場合、少なくとも現時点においては、後者の方が商品価値は高いはず、とセシリアは看破した。

 

「第三世代機は、これから、が期待されるビジネスです。現状、第三世代機は、機体の調達コストは勿論、特殊兵装という仕様のせいで運用と維持に莫大なコストがかかってしまいます。

 

 当然、すべての国が導入出来る機体ではありません。限られた一部の国……高水準の技術と資金力のある国でなければ難しい機体ですし、そうした国でさえ、既存の機体を一斉に更新、というわけにはいかないでしょう。しばらくは第二世代機を改修して使い続けながら、少しずつ入れ替えを進めていく、という形になるはずです」

 

 将来的には、ハード面、ソフト面双方のノウハウの蓄積により、コストの負担はかなり低減されるだろう。これに加えて、第二世代機の相対的な陳腐化が進むことで、多くの国で第三世代機を導入せざるをえなくなるはずだ。だがそれは、十年後になるか、それとも二十年はかかるだろうか、といった、いまの時点では見通しの立たない未来の話。現時点における第三世代機の市場規模は、大きいとは言い難い。

 

 これに対し、『ラファール・リヴァイヴ』はいまこの瞬間において魅力的な商品、成長を続けている巨大なビジネスだ。

 

「国の大小を問わず、第三世代機がすぐ導入出来るものではない以上、依然として第二世代機の需要は高いままですし、これからも伸びていくことでしょう。そうした市場環境の中で、すでに高いシェア率を誇るラファールは、いま、も。そして、これから、も。デュノア社とフランスに確実な利益を生み出してくれる、極めて投資価値の高いビジネスだといえます」

 

 PPM(Product Portfolio Management)という会社経営の分析手法がある。自社の保有する製品(プロダクト)を、市場成長率と市場占有率という二つの軸を使って『花形』、『問題児』、『金のなる木』、『負け犬』の四つのカテゴリーに分類し、経営資源を投じる価値があるか否かを分析する手法だ。

 

 このPPMの観点でいくと、デュノア社にとってラファールというプロダクトはまさに『花形』。市場成長率が高く、かつ市場占有率も高い。成長率の高さゆえ、競合に勝つためにはたくさんの投資が必要だが、一方で、占有率が高いことから大きな利益を生み出してくれる。他の何にも増して、経営資源を投じるべき対象だ。

 

 これに対し、まだ起ち上がったばかりの『コスモス・プロジェクト』は『問題児』。市場成長率は高いが、市場占有率は低い。競合に勝つためにはたくさんの投資が必要だが、現時点では占有率が低さゆえ、利益はあまり期待出来ない。カネがかかるばかりで、得られるものは少ないまさに『問題児』。しかし、将来的に成長する可能性があるために、投資は継続してやる必要がある。製品の育成期間とも言い換えられる。

 

 ラファールという商品はメーカーのデュノア社だけでなく、フランス政府にもたくさんの利益を生み出す。第一に、デュノア社の利益が上がれば、政府の税収も増える。第二に、ラファールは輸出ビジネスでもあるから、外貨獲得の有効な手段たりえる。第三に、ラファールの導入国が増えるほどに、国際社会におけるフランスの優位性や発言力が高まる。みな、ラファールを売ってくれなくなっては困るから、何か外交上の問題が発生したときなどに、フランスの味方をしてくれることが期待出来るようになる。PPMでいえば、政府にとっても『花形』だ。

 

「そっか。デュノア社への支援をやめたり、開発ライセンスを取り上げたりする行動は、そういった利益をぜんぶ捨てるってことでもあるわけだから」

 

「フランス政府にとって、デメリットが大きすぎます」

 

 そこに、違和感を覚えた。フランス政府がデュノア社に対し、本当にそのような仕打ちをしているのだとしたら、正気からの判断だとは思えない。

 

「正気ではないとすれば、狂気に陥ったか。それとも、シャルロットさんが聞かされたアルベール社長のお話には、この部分にも嘘があったのか。あるいは――、」

 

 あるいは、本当に正常な判断力のもと、そんな、一見して愚行としか思えぬ施策を採用したのか。

 

「もしもそうだとすれば、一見非合理に思えるこの行動には、何か他にねらいがある、ということになります。その何かを叶えるために、合理的な判断のもと、支援を打ち切った。それなら、納得がいきます。では、それはいったい何なのか? フランス政府の真のねらい、目的は?」

 

「それが、会社の乗っ取り、ってこと?」

 

 おずおず、とした口調でシャルロットが訊ねた。セシリアは首肯する。

 

「ここで二つ目の理由について触れますが」

 

「うん」

 

「デュノア社の、現経営陣の顔ぶれを思い出してください」

 

 社長のアルベールと、副社長のペルナールを除いて、すべてフランス政府が用意した人材だ。政府とのつながりが深い彼らがいてなお、斯様な苦境を招いた。この点にも、セシリアは違和を感じた。

 

「言われてみれば、そうだよね。政府が直々に選んだ人たちがいて、そんな状況に追い込まれるって、なんか、ヘン」

 

「ここに合理的な解釈を求めるとしたら、彼らは政府の厳しい対応に、一切の抵抗をしなかった。むしろ、進んで受け入れた、ということが考えられます」

 

「え、なんで?」

 

「私が思うに、アルベール社長以外の経営陣は、政府と裏でつながっているのではないかと」

 

「つまり、グルってこと?」

 

「ええ」

 

 陽子は得心した様子で頷いた。フランス政府の真のねらいは会社の乗っ取り、というセシリアの考察が、いかにして構築されていったか。そして、彼女の考えるデュノア社乗っ取りのシナリオが、だんだんと分かっていた。

 

「セシリアの考えでは、」

 

「はい」

 

「フランス政府の目的はデュノア社の乗っ取りで、それがセシリアの言う、会社の経営危機の真実。政府はそのために、アルベール社長や、ペルナール副社長以外の経営陣を利用した。もともと政府の選んだ人たちだから、彼らも政府のはたらきかけに協力した。その結果、デュノア社はいま苦境に追い込まれている、と」

 

「あるいは、もともとそれを視野に入れた上で、政府とのつながりが強い人物たちを経営層に送り込んだのかもしれません。最初の頃は、『ラファール・リヴァイヴ』を促進させるための施策だったのでしょうが。開発が上手くいって、デュノア社が大企業へと成長したそのときに、自分たちのものにしやすいように、と、そういった人たちを選んだのかも」

 

「会社を乗っ取るために、支援を打ち切った、っていうのは何で? これから自分たちのものにしようって会社の力を削ぐことになるけど、それも不合理なことじゃない?」

 

「おそらくは、アルベール社長を退任させるための口実作りでしょう」

 

 セシリアは、ちら、とシャルロットの顔を見た。

 

 フランスからこの国へ、密命を携えてやって来たはずの少女は、青い顔をして自分の考えを聞いている。

 

「会社をここまで追い込んだのは、アルベール社長の経営能力の不足が原因である。そうやって彼を会社から追い出した後、改めて政府の息のかかった人物をトップに据える。新しい社長は就任してすぐ政府と交渉をして、見事支援の再開を約束させる。早くも新社長の有能ぶりを見せられた社員や投資家はみな安心。新社長のもと、一致団結して業務に邁進する……というのが、大筋のストーリーではないかと」

 

「……なんか、火サスとかにありそうなお話だなあ。ちなみに、会社を乗っ取る目的については? セシリアは、どう考えているの?」

 

「先ほどのシャルロットさんの話にあった、大戦後の経済政策と同じです。政府はラファールというビジネスを、自分たちで管理・運営したいのでしょう」

 

 デュノア社の誇る『ラファール・リヴァイヴ』という有力な商品。この製造と販売をフランス政府が直接管理出来るようになれば、国家にとってのさらなる利幅の拡大が見込めるのではないか。自分たちにとって、より都合の良い形でのビジネスが展開出来るのではないか。

 

「商売をやったことのない、お役人の方々が考えそうなプランです」

 

 十六歳の華奢な双肩でオルコット家の財のすべてを見事に支えている少女は、吐き捨てるように呟いた。かたわらの鬼頭を見上げる眼差しにも、険が宿っている。

 

「私の推理はこんなところですが、お父様の意見は?」

 

「名探偵セシリアと、おおむね一緒かな」

 

 ボーム&メルシエの風防ガラスをひと撫でして、鬼頭は硬い声で言った。

 

「私も、デュノア社が直面している経営危機とは、次世代機の開発が上手くいっていないことではなく、フランス政府からの攻撃のことだと思う。もっとも、私がそう考えるにいたった理由は、ラファールの市場規模だとか、第三世代機導入のハードルの高さだとか、そういう、経営者目線からの分析からではなかったがね」

 

 技術者として、違和感を覚えたのだ。ラファールのような素晴らしい製品を作り出す能力を持っている企業が、それほどに追いつめられているだなんて、よっぽどの事態だ。第三世代機の開発の遅れ、というだけでは、原因の説明として弱いように思えた。きっと、何か他にも理由があるはず。それはいったい何なのか? そうやって頭の中をこねくり回しているうちに、ふと、一つの仮説が思い浮かんだ。デュノア社とフランス政府は、もしかして上手くいっていないんじゃないか?

 

「デュノア社とフランス政府はすでにビジネス・パートナーの関係ではなくなっているんじゃないか。むしろ、会社の経営権を巡って争う間柄なんじゃないか。この考え方を前提に、シャルロットさんの置かれている状況を改めて俯瞰してみると、これまでとは違ったものが見えてきた。さっき、シャルロットさんから男装の理由を打ち明けられたときには不可解に思った色々なことに対して、すっきりと説明出来てしまうことに気がついたんだ」

 

 鬼頭はシャルロットの顔を真っ直ぐに見つめた。

 

「まず、シャルロットさんがIS学園に送り込まれた理由について。アルベール氏はきみに、第三世代機の開発に必要なデータ収集のためのスパイ活動と、広告塔としての振る舞いを命令したそうだが、」

 

 デュノア社が陥っている経営危機の実際が、政府による乗っ取り工作だとすれば、社長からの指示は、本当のねらいを隠すためのフェイクという公算が高い。

 

 第三世代機開発の遅れに対するペナルティ、とは、アルベール・デュノアを社長の椅子から蹴落とすための口実にすぎない。仏国政府がその気なら、社長追放の理由はいくらでも用立てることが可能だろう。そんな状況下で、発覚時のリスクが大きいスパイを用いてまで開発を急ぐ意味はないはずだ。むしろ、工作員を学園に送り込んだ咎を追及され、かえって立場が危うくなることすら考えられる。現状、アルベール社長にとってスパイの投入は、百害あって一利もない作戦と断言できた。

 

 広告塔云々についても同様だ。男性操縦者の活躍を餌に新たな出資者を募る。そうしてかき集めた資金を使って、第三世代機の開発を進める。確実性が薄く、やはり正体露見時のことを考えると、社長への批難の声が恐い。頼みにするには心許ないプランだ。

 

「では、アルベール社長は何を考えてきみを男性操縦者としてこの学園に送り込んできたのか? 私が思うに、目的と手段が逆なんじゃないかと」

 

「逆?」

 

「スパイ活動や広告宣伝のために、IS学園に送り込んだ……ではなく、IS学園に送り込むために、スパイ活動や広報といった理由を後付けしたんじゃないだろうか」

 

 同じように考えていたらしいセシリアを除く全員が、驚きから表情を硬化させた。

 

 思いもよらぬ考察をすぐには受け入れられず、お互いの顔を茫然と見つめ合う。

 

「僕をこの学園に送り込むこと自体が、あの人の目的……? いや、でも……! なんのために、そんなことを!?」

 

「きみをフランス国やデュノア社といった環境から、物理的に引き離すためさ」

 

 これから口にする内容は、きみの気分をひどく害することになるかもしれない。そう前置きした上で、鬼頭は続けた。

 

「シャルロットさんの存在は、端的に言って、アルベール・デュノア社長のウィーク・ポイントだ」

 

 正妻ではなく、愛人との間に生まれた不義の子。アルベール社長の存在を邪魔に思う者たちが実際にいるとして、シャルロットの存在は、彼らにとって恰好の攻撃材料だ。

 

 まず不倫という行為の印象が悪い。結婚とは社会制度だ。集団社会の運営と維持に必要と考えられ、望まれ、生まれて、風俗と法律、双方の視座から改良を重ね、現代まで残っている仕組みである。二人の行為はそれに唾を吐く蛮行だ。それを良しとしている社会全体に喧嘩を売るに等しい。それだけでも大事なのに、アルベールの場合は相手と子どもまで作っている。事実が明るみになれば周囲からの白眼視は必至。社会的な信用の低下は免れられまい。

 

 母親が亡くなったいま、シャルロットの存在は不倫の過去を証明する確たる証拠だ。社長を排斥したい勢力からすれば、喉から手の出る相手。皮膚組織の一片でも採取出来ればDNA鑑定が可能となり、アルベールとの親子関係、すなわち不倫の事実を証明することが出来る。

 

 不倫そのものは社長解任の理由にならずとも、不倫の事実が白日の下に曝されて、社長の人間性に疑問が持たれ、社員たちからの信頼を失ってしまうことになれば、それは十分な理由となりえるだろう。

 

 また、アルベール社長とシャルロットの親子関係が冷え切っていることは、デュノア家の内懐まで潜り込まねば知りえぬ情報だ。ほとんどの者たちの目には、二人は血の絆と情愛で結ばれた家族と映じるだろう。母親を失ったばかりの彼女を、自邸に招き入れているという事実も、その見方を補強している。シャルロットの身柄を拘引し、人質に取ることで、アルベールを脅迫して言うことを聞かせる。そんな乱暴な作戦を思いつく者も、いるかもしれない。

 

「人質って……!」

 

 身に覚えのある単語に、一夏の眦がつり上がった。

 

 自然と思い返される、三年前の出来事。第二回モンド・グロッソで、何者かから誘拐されたあのときの記憶と、感情。急な事件に対する戸惑い。状況の理不尽さへの憤り。自分はこれからどうなってしまうのかという不安。そして、恐怖。

 

 あのとき自分を苛んだこれらの気持ちを、シャルロットに強いようとしている者たちがいる。それを思うだけで、強烈な怒りがこみ上がった。

 

「これに加えて、だ。フランス政府以外にも、シャルロットさんの身の安全を脅かしうる勢力が、デュノア社と、デュノア家にある」

 

 忍び寄る魔の手からなんとしても会社を守りたいと考える、憂いの志士たちだ。直接の言及こそなかったが、鬼頭はシャルロットの話から彼らの気配を感じていた。

 

 とりわけ存在感が大きいのがデュノアの他の親族たちだ。第二次世界大戦以降の同家の困窮ぶりを見るに、彼らがアルベールに寄せる期待は大きかろう。デュノア家にとっての希望の星。彼の立場を守るためなら、手段は選ばないと考えられた。

 

「デュノア社を守りたいと思う者たちにとっても、シャルロットさんは邪魔な存在だ。きみがこの世に存在しているだけで、アルベール社長はいくつもの弱点を抱え込んでしまう。この不安を解消する最も手っ取り早く、効果的な手段は……」

 

 開いた唇を真一文字に結び、鬼頭は束の間、舌先を休めた。実の父親からの非情な命令を受けてこの国にやって来た傷だらけの少女に、自分はこれから、さらなる刃を振りかぶろうとしている。自らの発言がもたらすだろう結果を想像し、苦しみ、悩み、悲痛そうに顔の筋肉を強張らせ、それでも躊躇いがちに頬を膨らませて、喉奥から絞り出すように告げた。

 

「きみの存在を、排除すること。消すことだ」

 

「……僕は、フランス政府からも、会社の人たちからも。その上、デュノアの家からも狙われる。あるいは、すでに狙われている可能性がある。フランス国内には、僕が安心して過ごせる場所はない、ってことですか」

 

 はたして、自らの置かれている状況を確認し、整理したシャルロットの声は平静だった。だが、鬼頭を見る眼差しは、力なく震えていた。国と、会社と、家。彼女を取り巻く世界のすべてが突然敵に回り、獰猛に、そして狡猾に襲いかかろうとしている。背骨を貫く感覚に怯え、心細さを感じているに違いなかった。

 

「だからこそ、アルベール社長はきみをIS学園に送ることにしたんじゃないだろうか」

 

 IS学園は一種の要塞島だ。三十機以上のISが常に稼働状態にあるという軍事力もさることながら、サイバー攻撃に対するセキュリティーも極めて堅固である。学園内には各国の政府や企業から密命を帯びたスパイたちがうようよしているものの、そのことがかえって奇妙なバランス感覚を育み、互いに牽制し合い、迂闊には動けぬ状況を作り出している。

 

 これに加えて、IS学園には五五個の特記事項もある。学園の創立時に、アラスカ条約に基づき制定された運営規定で、条約加盟国に対しては国際法として法的拘束力を発揮しうる。その二一番目に位置づけられているルールは、一夏が一度はシャルロットを守る盾として機能することを期待し、しかし、すぐに過信は禁物と切って捨てたものの、それは相手が搦め手を駆使してきた場合の話。少なくとも、正面きっての直接攻撃はその大部分を防ぐことが出来る。法の穴を衝くような搦め手も、学園に対する攻撃には変わりないから、この強大な組織や他の条約加盟国を敵に回すことになる。一度内側に入ってしまえば、外からは手を出しづらい環境だといえるだろう。

 

「……待ってください、智之さん」

 

 鬼頭の説明を聞くうちに、段々と表情を硬化させていく一夏が言った。話の組み立て方から、彼が最終的にどんな結論を口にしようとしているのかが、分かってしまった。

 

「その推理だと、シャルロットの父親の真意って、まさか……!」

 

「うん。私は、そう考えているよ」

 

 鬼頭は頷くと、切れ長の双眸の中心にシャルロットの顔を置いた。

 

「アルベール・デュノア氏が、シャルロットさんを学園に送り込んだ真のねらい。それはおそらく、きみを守ることだ」

 

 フランス政府から。そして、デュノア社を守るためならば過激な手段をも厭わぬマキャベリストたちから。彼らが手を伸ばしづらい、IS学園という環境に避難させた。

 

 男性操縦者として身分を偽らせたのも、その一環だろう。自分や一夏の例が示すように、男性操縦者に対する世間の関心は非常に高い。各国からの留学生や教員たち――さらには、それに擬態しているスパイ――の視線が集中している中で、加害行為に及ぶのは難しい、と期待してのことと思われた。

 

「ありえません!」

 

 一夏は思わず声を荒げた。揺れる瞳で鬼頭を睨みながら、切々と訴える。

 

「ありえませんよ、それ。それこそ、矛盾した考えだ!」

 

「というと?」

 

 応じる鬼頭の声音は落ち着き払っている。返しの問いかけに、今度は一夏が持論を展開した。

 

「アルベール・デュノアはシャルロットのことを遠ざけていた。それってつまり、シャルロットを邪魔に思っている、ってことじゃないですか。そんな男が、守るために、なんて、そんな……。そんなのこと、ありえませんよ!」

 

 むしろ鬼頭の言う会社を守りたい勢力と結びついて、シャルロットをいかに排除しようと奸計を巡らせているのではないか。IS学園に送り込んだのも、そのための布石なのではないか。そうだ。きっとそうに違いない。……そうであって、くれ。シャルロットの父親は悪人である、と。自分や、千冬ねぇを棄てた両親と同じ、最低な大人だと。そう、信じさせて、くれ。

 

「第一、なんで守る必要があるんですか?! アルベールにとって、シャルロットは疎ましい存在だ。むしろ、いなくなってもらった方がいい相手なんですよ!」

 

「遠ざけていた、からといって、シャルロットさんのことを邪魔に思っていたかどうかは分からないよ」

 

 むしろ、娘のことを邪険に扱うその態度も、彼女を守るための手段だったのかもしれない。

 

 第三世代機開発の遅れは、昨日今日の出来事ではない。おそらくは相当な以前より、デュノア社はフランス政府から有形無形の攻撃を受けていたと考えられる。そんな状況下のわが身を鑑みて、アルベール社長は危機感を覚えたのではないか。デュノア社の経営を巡るこの問題にシャルロットを関わらせまい、として、わざと突き放した態度を取り、彼女のことを遠ざけていたのではないか。もしかすると、母親が死んですぐシャルロットをデュノア家に招いたのも、そのあたりの事情が関係していたのかもしれない。

 

「……世の中には、」

 

 自然と、鬼頭の手はかたわらの陽子へと伸びた。小さくて華奢なその肩にそっと掌を載せて、宝物を慈しむような繊細さで指をかける。見上げてくる愛娘に完爾と微笑むと、鬼頭は穏やかな口調で言った。

 

「一時の感情ではなく、心底、わが子を疎ましく、憎らしく想っている親もいる。親子のあり方は、それこそ家族の数だけある。それを承知の上で、あえて言うが……」

 

 続く言葉に、陽子が、そしてセシリアが笑った。この人らしい考え方だ、と心が温かくなった。

 

「娘だから。そんな、単純な理由じゃないだろうか」

 

 一夏は唖然として返す言葉を見失った。娘だから。その短い言の葉に篭められた、深い愛情に、打ちのめされた。

 

 親から子へと与えられる、親愛の気持ち。自分や、姉が、両親から向けられなかったもの。きっと、シャルロットにも与えられていなかったはずのもの。でも、実際は? アルベール・デュノアは、シャルロットのことを、どう想っている?

 

 ――……違った。

 

 自分と、同じだと思った。

 

 だから、許せないと思った。力になりたい。助けたいと思った。助けることで、過去の自分をも救おうとした。

 

 でも、違った。シャルロットは、違ったのだ。

 

 自分と違って、彼女は、両親から愛されて――、

 

「勿論、何度も言うように、いま言ったことはあくまで私の推測。想像の話だ」

 

 続く鬼頭の言葉に、一夏は、はっ、となった。

 

「それに、仮にアルベール社長が本当にそのように考えて行動していたんだとしても、だ。その手法を手放しで褒めることは出来ない。男性操縦者を装っての転入なんて、シャルロットさんの心身への負担をちゃんと考えた上での命令だったのか、とか。せめて本当のことを伝えてから送り出せよ、とか。個人的に、色々と文句をぶつけてやりたい気持ちになる」

 

 シャルロットが語った僅かばかりの情報からは、家族愛に富んだ、それでいてかなり不器用な人物像が見て取れる。自分の会社を興そうと決心したそもそもの出発点からして、お家再興という、家族を優先した考えだ。しかし、そのためにわざわざ選んだ道が、航空分野にまつわる製造業。取り扱う製品の性質上、当てればデカいが、はずしてしまうと、それまでに懸けた研究開発費が莫大な負債となってのしかかる、ハイ・リスク、ハイ・リターンな業種だ。家の再興を目指すだけならば、もっと堅実で、スマートに稼げる仕事があったはずだが。それでも、この道を選んだ。子どもの頃からの夢を、諦められなかった。そういう、小器用には生きられない性分なのだろう。

 

 シャルロットの扱い方についてもそうだ。彼女のことを守る。その一点だけを目指すのなら、やるべきことは単純かつ簡単だ。社長の職を自ら辞し、会社の経営権を明け渡す。その後は彼女と二人、政府の影響力が及ばない外国にでも引っ越して、静かに引き籠もっていればよい。

 

 しかし、アルベールはそうしなかった。そんな生き方を許せなかった。なぜなら彼には、シャルロットの他にも、たくさんの愛するものがあったからだ。

 

 彼は会社を愛していた。部下を愛していた。子宝にこそ恵まれなかったが妻のことも。自分を生み、育ててくれたデュノアの家も。そのすべてを愛していた。愛しているがゆえに、そのすべてを、切って捨てることが出来なかった。

 

 会社を守り、デュノアを守り、シャルロットを守る。

 

 すべてを愛し、すべてを捨てられない。優先順位をつけることさえ、自分に許せない。そんな男が、悩んで、苦しんで、血を吐くような思いをしながら、懸命に脳をいじめて絞り出した、娘を守るための奇策。なんと不器用な男だろうか。

 

「さて、」

 

 鬼頭は改めてシャルロットに目線を向けた。

 

「ここまでの話を聞いた上で、シャルロットさんはどう思う? デュノア社やアルベール・デュノア氏が現在置かれている状況や、彼が何を考えているのか。何か、意見はあるかい?」

 

「……そう、ですね」

 

 次々と襲いくる情報の奔流を頭の中で整理しながら、シャルロットはゆっくりと唇を開いた。

 

「……デュノア社の経営危機の実際が、政府による乗っ取りだってことは、僕もそうだと思いました。冷静に考えてみたら、ラファールっていう巨大な市場を棄てることは、フランスにとっても痛手です。手放すなんて、ありえません。

 

 それから、あの人が……その、僕のためを想っていたのかは、わかりませんけど、少なくとも、スパイや、会社の宣伝目的で送り込んだ、というのは、違うと思います」

 

「うん。では、それを踏まえた上で、我々はどう行動するべきだろうか?」

 

 話題は、一刻前に呈示された難問をいかにして解くか、ということに戻る。すなわち、シャルロットが今後もIS学園で生活していくために、アルベールからの潜入命令をどう撤回させるか。鬼頭は、今度はシャルロットだけでなく、全員の顔を見回して言った。

 

 すぐに陽子が小さく挙手をして、意見を述べる。

 

「アルベール社長の真の目的が、シャルロットさんを守ることなら、」

 

 デュノアの家に対して、あまり良く思っていないらしいシャルロットだ。男子生徒の恰好をしていたときのように、ファミリーネームを呼ぶのは不快なんじゃないかと、口馴染みの薄いファーストネームを意識しながら、陽子は続けた。

 

「その必要がなくなれば、スパイ命令を撤回させられるはずだよね? つまり、シャルロットさん――デュノア社――を狙う敵がいなくなればいい」

 

 陽子はみなの顔を見回した。誰からも異論があがらないことを確認すると、右手のひとさし指となか指を立てて示す。

 

「なら、わたしたちが取るべき戦略の方針は、大きく二つあると思う。一つは、こちらから積極的に打って出る攻撃策。シャルロットさんの敵を、わたしたちでぜんぶ倒す」

 

 愛娘の口から飛び出した好戦的な言葉に、鬼頭は思わず顔をしかめた。IS学園という特殊な環境で過ごしているうちにこうなったのか、それとも、自分の教育がいけなかったのか。あまり乱暴な言葉は使ってほしくないのだが。同じく寄り添うようにかたわらに立つセシリアが、苦笑とともに肩を叩いてくる。

 

「もう一つは……わかりやすいように、あえて防御策って呼ぶけど、シャルロットさんが狙われる理由をなくす。または作る。こんなとこじゃないかな?」

 

「陽子さんの考えはおおむね正しいと、私も思います」

 

 今度はセシリアが挙手とともに発言した。

 

 「ですが、前者の攻撃策は、実現性のことを考えると、勝算は薄いと言わざるをえません」

 

 デュノア社ないしデュノア家の不穏分子はともかく、難敵なのがフランス政府だ。なにしろ相手は一国の政府。投入可能な人員・予算は、実質的に無尽蔵と考えてよい。一の手、二の手と払い除けたところで、またすぐ追加の戦力を差し向けてくるだろう。それも、人手と資金力の優位を存分に活かして、敗戦の度にその所以を徹底的に研究し、対策を講じた上で。斯様な敵を相手取り、そのことごとくを討つ。相手が諦めるか、相手の戦力が枯渇するまで、討つ。およそ現実的な話ではない。

 

「よって、戦略方針は防御策一択でしょう」

 

「そうだね」

 

 セシリアの下した結論に、鬼頭は首肯した。その口角はつり上がり、不敵な冷笑を形作っている。切れ長の双眸に炯々と燃える謀の気配を察して、英国からやって来た少女もまた剣呑さを孕んだ薄い微笑を浮かべた。

 

「どうやら、お父様にはすでに腹案がおありのようで」

 

「まあな」

 

 シャルロットが狙われる理由を、なくす。あるいは、狙われないための理由を作る。

 

 そも、シャルロットが狙われる理由は何か。それは、彼女がアルベール社長の明確な弱点であるから。なぜ弱点なのか。それは、彼女がアルベールの娘だから。その事実を消すこと、覆すことは出来ない。

 

 であれば、取りうる作戦は一つだ。シャルロットが狙われないための理由を、作る。

 

 フランス政府も、デュノアの不穏分子どもも。シャルロットに……ひいては、アルベール・デュノアに手を出せば、得られるものよりも、失うものが大きい。そう思わせる理由、そういった状況を、作り出す。

 

 鬼頭はそのための具体策を子どもたちに語って聞かせた。彼らは等しく驚き、短い時間絶句し、すぐに男の語る作戦の期待値を認めたが、その結果もたらされるだろう近い将来の世界の有り様を想像して、顔面の筋肉を硬化させた。

 

「――ただし、だ。この策を実行するには、前提条件として、二つの問題をクリアにしておかなければならない」

 

 一つは、アルベール社長の協力が必要だということ。彼がこちらの提案に、応、と頷いてくれなければ、この作戦を実行に移すことは出来ない。

 

「そしてもう一つ。何度も言うが、我々のいままでの話は、あくまで想像だ。いま言ったことが真実かどうかを、先に確認しておく必要がある」

 

 最も手っ取り早い手段は、アルベール社長と話し合うことだろう。

 

 事態の中心人物であろう彼に直接、事の真偽を問いただす。その結果如何によっては、すぐにこの会心の作戦を提案する。いま挙げた二つの問題を同時に解決出来る、時間のロスが最も少なくすむアイディアのはずだ。問題は具体的な手段だが。

 

「電話などの通信機器越しのやり取りは駄目だ。回線不調と称して接続を切られるなど、話をはぐらかされたり、その場から逃げられてしまったりする恐れがある。相手が逃げられない状況……出来れば、直接対面しながらの話し合いに持ち込みたい」

 

 デュノア社が陥っている現状を考えると、アルベール社長をIS学園に召喚するのは難しいだろう。不在時のクーデターや移動中の襲撃を警戒してなかなか腰を上げてくれないだろうし、そもそもかの人物をこちらに呼び寄せるための理由が自分たちにはない。

 

「じゃあ、俺たちが、シャルロットの親父のところへ?」

 

「そうしたいと考えているよ」

 

「問題は、誰が行くか、ですわね」

 

 サファイア色の瞳を険しげに揺らしながら、イギリス人のセシリアが呟いた。

 

「当事者のシャルロットさんは確定として、誰が一緒に着いて行くべきか。私が同行してしまうと、かえってややこしい事態になりかねませんし、」

 

 自分たちにとっては友人を守るための行動でも、フランス政府からすると、自分たちの軍事・外交政策を妨害しているようにしか見えまい。代表候補生という立場にある自分がそれをやってしまうと、最悪、英仏間の外交問題へと発展しかねない。

 

「織斑さんとお父様は男性操縦者という世界トップ・レベルの要人です。フランスへの出国なんて、日本政府が絶対に認めないでしょう」

 

「となると……」

 

 一同の目線が、陽子へと集中した。彼女は一瞬きょとんとして、すぐに照れくさそうに笑うと、

 

「ようし、ここはわたしが一肌脱いで……」

 

「うん。論外ですわね」

 

「だな」

 

「うん」

 

「娘よ、寝言は寝てから言いなさい」

 

「なんでさ!?」

 

 全員から論じる価値なしと断じられた陽子は唇を尖らせた。ぎゃあぎゃあ、とやかましい抗議の声を無視して、鬼頭が言う。

 

「それについては、私が行こうと思う」

 

「お父様が?」

 

「うん」

 

「日本政府を説得する算段がおありで?」

 

「まあね」

 

 鬼頭は自信たっぷりに胸を張ると、手近な位置にコンセントパネルがないか探した。学習机の上に置かれたテーブルライトに目線が留まる。

 

「シャルロットさん、一つ、お願いがあるんだが」

 

「なんです?」

 

「日本政府の皆さんを説得するためにね、もう一人、この件について事情を知らせたい人がいるんだが、構わないかい?」

 

 すでに四人もの人間にわが身の秘密を知られてしまっている。今更一人増えたところで……。シャルロットは小さく頷いた。

 

「ありがとう」

 

 感謝の言葉を呟くと、鬼頭は卓上照明に電気を供給している電源装置にゆっくりと近づき、頬を寄せた。

 

「……というわけで更識さん、ちょっくら、フランスへ旅行したいので、日本政府に連絡をとってもらいたいのですが。あ、ちなみに、この呼びかけに応答がなかった場合、黙認されたと判断して勝手に出国しますので、そのつもりで」

 

 突然コンセントパネルの差し込み口に向けて話し始めた鬼頭の姿に、セシリアとシャルロットが、はっ、とし、陽子と一夏は、ぎょっ、とした。

 

「と、智之さん、いきなり何を!?」

 

「あ、アカン! アカンよ、オトン! まだぼけるには早いよ!」

 

 するとほどなくして、慌てる二人の声をかき消すように、ドスドスドス、と部屋の戸を激しく叩く音が鳴った。驚き肩を震わせた一夏の唇より、くぐもった悲鳴がこぼれ落ちる。

 

 ――ま、まずい! 毛布か何かで、シャルロットの姿を隠さないと!

 

 今度は別な理由からばたばたと慌てだした一夏のかたわらを素通りして、鬼頭は玄関の方へと向かった。気がついた少年が制止の言葉を口にするよりも早く、部屋の戸を押し開ける。来客者の姿を見て、二番目の男は完爾と微笑んだ。

 

「お早いお着きですね、更識さん」

 

「……どうも」

 

 盗聴装置の向こう側での慌てぶりが、容易に想像できた。

 

 可能な限りの全速力で駆けつけてきたらしい楯無が、ぜぇぜぇ、と肩で息をしながら立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Chapter42「その男は何者か」了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件当日の午前九時一五分。

 

 ドイツ連邦共和国、バイエルン州の州都ミュンヘンの北部エリア、オーバーヴィーゼンフェルト地区にあるミュンヘン・オリンピック公園は、その名が示す通り、もとは一九七二年の夏季五輪大会のために建設されたオリンピアパークだ。ドイツを代表する観光地の一つで、世界的なスポーツ文化の振興拠点としても知られている。ミュンヘンの五輪公園は大会の後も様々なスポーツ・イベントの会場として利用され、その中には国際大会も数多くあった。七四年のFIFAワールドカップや国際的なトラックサイクリング大会の数々、世界フィギュアスケート選手権など、多種多様な大会運営の実績を持っている。第二回IS世界大会の開催地に同市が選ばれ、そのアリーナを五輪公園に建設することになったのも、斯様な歴史があればこそといえた。

 

 ミュンヘンの街が第二回IS世界大会の会場に選ばれたのは二年前のことだ。ドイツ国内で候補地として取り上げられるようになったのは、そこからさらに遡り半年前のこと。この新しい世界的スポーツ・イベントの招致を目論む連邦政府に、当時のバイエルン州の首相が『五輪会場の跡地に会場を築くのはどうか?』と、提案したことに端を発する。

 

 ミュンヘンのオリンピック公園は従前、かつての五輪会場だった競技施設をそのまま残す形で活用してきたが、近年は老朽化が進み、安全面からのイベント離れ、維持費の高騰に悩まされていた。そこでバイエルン州は、IS世界大会招致のための特別予算を利用して、公園の再整備・再開発を企図したのである。一見、州側のメリットばかりが目立つこのアイディアは、最終的に連邦議会からも諸手を挙げて受け入れられた。

 

 五輪公園はこれまたミュンヘンを代表する観光名所……ニンフェンブルク城から伸びる水路によって南北のエリアに分断されている。このうち北側の区画は、メイン・スタジアムや選手村など主要な施設が集中している一方、南側エリアはオリンピック・マウンテンがあるのみで、土地開発上の余白が比較的多い。南側のエリアであれば、建物の解体工事や整地のコストが抑えられる上、元五輪会場だけあって敷地面積もたっぷり。過去の大会運営のノウハウも活用しやすいなど、連邦政府にとっても数々の旨味を見出せた。

 

 かくして連邦と州の利害は一致し、世界大会用のISアリーナはオリンピアパークに建設されることになった。その後第二回大会の開催国が正式に決定すると、土地開発とスタジアムの建設が急ピッチで進められる。その際、建築デザインの担当者は、連邦空軍のIS操縦者たちと相談の末、『ここに欧州でいちばん大きくて素晴らしいISアリーナを築こう』と、スローガンを掲げた。

 

 完成した国立ISアリーナは、彼の口ずさんだ理念の通り、欧州全体を見渡しても最大の規模を誇るIS競技施設として竣工した。

 

 まずもって試合場が大きい。ワン・オン・ワン形式以外のISバトルにも対応可能なものを、としつらえられたバトル・フィールドは、直径が三〇〇メートルにも達する広壮なもの。これは一般的なISアリーナと比較して一・五倍もの大きさであり、面積比では二・二五倍もの広さだ。

 

 そんな円形の闘技場を、ぐるり、と取り囲むのは、これまた欧州随一の座席数と豪語する一六万六〇〇〇もの観客席。古代ローマのコロッセオに範を取り、二階から八階へと階が進むにつれて山のように傾斜していく構造を取っている。

 

 建物全体の大きさは、地上十一階、地下四階の計十五階建て。天井を開閉式の屋根が覆うドーム型のスタジアムだが、ISは飛行パワードスーツだから、基本的には開けっ放し。屋根の開閉の度合いは段階的な調整が可能で、雨天時も観客席のみを防護するよう調節するのが通常の運用法だ。決勝戦当日のミュンヘンの天気は、雲量が九割もある曇り空。観戦者の目線が上へと向きがちなIS競技において、日差しの向きに気を遣わなくていい絶好の観戦日和だといえよう。

 

 その決勝戦の開始まではまだ三時間近くある。本日の試合表はまず午前十時より第三位決定戦が行われ、十三時より、いよいよ優勝決定戦が始まる、という構成だ。観客たちの本命は勿論決勝戦だが、前座とはいえ第三位決定戦の注目度もまた高く、客席はすでに九割ほどが埋まっている。彼らの試合に懸ける期待は強く、興奮の喧噪は天を焦がさんばかりに轟いていた。

 

 

 

 

 そんな試合会場の様子を伝える報道番組をホテルのテレビで眺め見て、織斑一夏は、うへぇ、と辟易とした溜め息をこぼした。

 

 これからあの群衆の中に身を投じねばならないのか、と思うと、早くも気疲れに襲われてしまう。もともとIS競技そのものへの関心は薄く、世界大会を戦う姉の応援を目的にやって来た自分だ。テレビに映じている彼らとは、抜本のモチベーションが異なる。会場を支配している熱狂に便乗するのは難しく、数時間後の疲労困憊は、どう足掻いても必至と予想された。

 

 ミュンヘンが誇る最高級ホテルの一つ、バイエリッシャー・ホーフのシングルルームに、一夏は泊まっていた。ホテルを選んだのは日本政府のお役人で、中学生の自分には不釣り合いな部屋だとつくづく思う。

 

 彼がこのホテルの名を知ったのは二ヶ月前のことだ。第二回IS世界大会に出場する姉を現地で応援したい思いからこっそりとアルバイトに励み、ドイツへの渡航費と宿泊費を貯めた一夏が、いざ自らの考えを千冬に伝えると、どういうわけか、話が、日本政府にまでいってしまった。

 

 当時の一夏は中学生。ヨーロッパの中では比較的治安の良いドイツだが、それでも、海外旅行の経験さえない弟を、現地で一人きりにはさせられない。

 

 だからといって、部外者の彼を選手村に立ち入らせるわけもいかない。

 

 一九七二年のミュンヘン・オリンピック事件以来、国際的スポーツ・イベントにおける選手村の警備は年々厳重さを増している。IS世界大会の場合も例外でなく、関係者証なしには大会の運営委員ですら立ち入れない決まりになっている。

 

 その上で、アクレディテーションカードの発行ハードルは非常に高い。選手の家族であっても、確実に手に入る保証はない。

 

 前回大会の覇者たる自分の口添えも効果は薄いだろう。その人物がテロリストとひそかに通じていて、選手村に危険物を持ち込んだりしたら。自国の選手に勝ってほしい思いから、対戦相手の選手の飲み物に毒物を混入させたりしたら……。そんな可能性が少しでもあるうちは、警戒の手を緩めるわけにはいかない。

 

 自分の目の届かない場所で弟が安全に過ごせるには、どうすればよいか。困った千冬は日本政府に相談を持ちかけた。ブリュンヒルデに恩を売りたい彼らもまた、前のめりな姿勢で問題の解決に挑む。

 

 明くる日、突然政府の役人から、「滞在期間中はSPをつけましょうか?」と、提案された一夏は吃驚仰天。要人でもないのに、さすがにそれは……、と固辞した結果、では、と示されたのが、セキュリティーのしっかりしている高級ホテルで寝泊まりする第二案だった。

 

「宿泊料は政府でもつから、きみはお姉さんを安心させてあげなさい」

 

 姉弟の暮らす家にやって来た政府の役人はそう言うと、一夏の目の前でホテルのパンフレットを広げた。高級ホテルの良し悪しなどわからぬ中学生の少年は薦められるがままに首肯し、最終的な宿泊先が決定した、という経緯だ。

 

 一夏が泊まっているシングルルームは、バイエリッシャー・ホーフに三四〇ある客室の中でも最も下のグレードに位置づけられている部屋だ。最下級とはいっても、あくまで五つ星ホテルの中での最低ランク。二二平米という広々としたコネクティングルームで、独立した応接スペースまで備えている。長期の滞在にも十分適した居住空間だ。

 

 上等なクイーンベッドに腰かけながら薄型テレビを眺めていた一夏は、やがてリモコンを手に画面をブラックアウトさせた。携帯電話で現時刻を確認し、そろそろ身支度をすませるか、と腰をあげる。

 

 一夏の第三位決定戦への関心は薄い。目当てはあくまで姉の出場する試合のみ。決勝戦にさえ間に合えばよい、と、のろのろとした所作で学生服に着替えていく。

 

 観戦席も日本政府が用意してくれた。各国政府や軍隊のお偉方が利用するVIP用のラウンジ席で、利用者には正装が求められる。中学生の正装といえば学生服がテッパンだろう。

 

 スラックスのすそに足を通したところで、部屋のテレビドアホンが訪問を知らせる音を鳴らした。

 

 おや、と一夏は怪訝な表情を浮かべた。ルームサービスだろうか。頼んだおぼえはないが。ベルトを締めて立ち上がり、壁面に設置された操作パネルへ手をのばす。四・七インチのモニターにカメラの向こう側を映じさせると、そこにはブルーのスーツを着た外国人の男が立っていた。明らかに、ホテルの従業員ではない。

 

 携帯電話を手に取り、翻訳アプリを起ち上げる。テレビドアホンの通話ボタンを押し、携帯電話に向かって、『どちら様?』と、日本語で問いかけた。すぐに英語へと変換され、機械音声がドアの向こう側の男に向かって誰何する。

 

『日本政府から、依頼受けて、やって来ました』

 

 男は、たどたどしいが発音だけはしっかりとした日本語を口にした。

 

『日本語、少しだけ、話せます。翻訳アプリ、いらないです』

 

 男はにこやかに微笑んだ。

 

『決勝戦を見に行く人で、道路も、地下鉄も、いつもより混んでいます。スタジアムに行くの、難しいです。それで、政府から頼まれました。地元の人間しか知らない道を、案内します』

 

 なるほど。でも、そういうのって、普通、事前にこれこれこういう人を派遣しますよ、って連絡があるもんじゃないのか? そういう根回しって、お役人の得意分野なイメージだけど。

 

一夏は得心半分、疑心半分で頷きながら、「いま、扉を開けます」と、ドアホンの通話を切った。戸を開けに向かう。

 

 扉のロックをはずし、手前に引いた。相手の姿を見て、ぎょっ、とする。

 

 男は二人組だった。ドアカメラの死角の位置にあと二人、作業服を着た人物がひっそりと息をひそめていたのだ。

 

 彼らは全員が拳銃を握っていた。ハリウッド製のアクション映画などでよく見かける、ど派手な大型のピストルではなく、街中でも隠して持ち運びがしやすい、小型の自動拳銃だ。

 

「織斑一夏くん」

 

 スーツの男が、酷薄な口調で言った。

 

「我々の言うこと、従ってもらう。我々に、着いてこい」

 

 

 

 

 

 

 ハンス・ブルックハルト上級巡査がバイエリッシャー・ホーフの中に足を踏み入れるのは、実はこれが初めてのことだった。

 

 叶うならばプライベートで利用したかったがな、と口の中で呟きながら、対テロ任務が専門の連邦捜査官は、歴史あるハイグレード・ホテルの内装を素早くチェックする。モダンクラシックな雰囲気で彩られた空間は高級感にあふれ、それでいて一切の嫌みを感じさせない見た目をしていた。床にも、壁にも、はては天井にさえ汚れは見当たらず、埃も見つけられず、空気は澄み渡り、居心地が良い。

 

 館内は閑散としていた。宿泊客はほとんどが北のアリーナに向かったのか、バー併設のラウンジすら、片手で数えられるほどの人数しかいない。

 

 ハンスは遠目にも高級と判じられる木製のフロント・カウンターを目指した。ふつう、朝のこの時間帯はチェックアウトの手続きで忙しいはずだが、カウンター内に常駐しているホテルマンは二人しかいない。ともに黒のスーツを清楚に、それでいて品良く着こなしている。

 

 ハンスは二人の顔を見比べて、より年配な男の方に向かって歩を進めた。

 

 薄汚れたハリントンジャケットを雑に羽織っている自分の姿は、彼らの目に五つ星ホテルを利用するような手合いとは映じていないだろう。しかし、ホテルマンは折り目正しい所作のまま、にこやかに微笑んで彼を出迎えた。

 

「いらっしゃいませ。バイエリッシャー・ホーフへようこそ」

 

「すまない」

 

 ハンスは開口一番謝罪の言葉を口にすると、内懐から警察手帳を取り出した。連邦警察の捜査官、ロベルト・フリッツ上級巡査の名前と階級を相手に示す。

 

 GSG-9の隊員が普段携行している警察手帳には、偽の個人情報が記載されている。対テロ部隊という組織の性質上、隊員個人やその家族がテロリストの標的とされるのを防ぐための措置だ。

 

「客じゃないんだ。連邦警察の者だが……」

 

「警察の方でしたか。当ホテルに何のご用でしょう?」

 

 ホテマンはハンスの身分を知っても眉一つ動揺させずに訊ねた。単なる金持ち以外にも、政財界の要人が利用することの多い高級ホテルの常で、警察対応にも馴れているらしい。

 

「詳細は教えられないんだが、ある事件の捜査中でね。きみたちにいくつか聞きたいことがある」

 

「……お客様に関わることであれば、」

 

 年配のホテルマンは愛想の良い笑みを浮かべながらも、険を帯びた語調で言った。

 

「我々ホテルマンには、お客様のプライバシーを守る義務があります。お答え出来ることは、限られてしまいますが」

 

「ああいや、宿泊客のことじゃないんだ」

 

 ハンスはかぶりを振った。

 

「訊きたいのは、さっき入館した清掃業者の二人組についてだ」

 

「と、おっしゃりますと?」

 

 ホテルマンはハンスへの態度を改めた。接客用の笑顔が消え、ホスピタリティよりもホテルの安全管理に重きを置いた顔つきになる。

 

「事件の詳細を伝えられないから、抽象的な質問になってしまうんだが」

 

「はい」

 

「今日、やって来た二人に、どこか変わったところはなかったか? どんな些細なことでも、教えてほしいんだが」

 

 ホテルマンはちょっと考えこんだ後、

 

「上級巡査の言う、変わったところ、というのは、いつもとは何か違う、といったことでも?」

 

「まさしくそういうことを教えてほしい」

 

「ありました」

 

 ホテルマンはきっぱりと言い切った。

 

 ハンスの瞳が剣呑に輝く。

 

「ご存知かもしれませんが、このバイエリッシャー・ホーフは、世界トップ・レベルの最高級ホテルという評価を得ております。宿泊していただけるお客様の中には社会的地位の高い方々も多く、ホスピタリティは勿論のこと、セキュリティーの追究にも日々努めています。そのことはホテルの従業員だけでなく、出入りの業者にも徹底させており、たとえば正面玄関のそばには車を停めないようお願いしています」

 

 バイエリッシャー・ホーフの正面出入口が面している車道の第一通行帯は、タクシー乗り場としての役割を与えられている。高級宿の宿泊客なら金払いはスマートだろう、と、出入りの激しい時間帯には十台以上の車両が列を作っている光景を頻繁に見ることが出来る。

 

 ホテルの正面玄関付近に車を駐車してしまうと、これらタクシーのためのスペースを潰すことになる。さらにはその地点を中心に、局所的な交通の流れの乱れが生じ、それは最終的にホテルの宿泊客の迷惑となってしまう。

 

「タクシーの発着の遅れは、お客様の大切な時間をその分だけ奪う行為です。絶対にあってはなりません。

 

 それに、高級ホテルを利用されるお客様の中には、少々、気難しい方もおられます」

 

 マイルドな表現を口にしながらも、続く言葉は過激だった。

 

「お客様の中には、納品業者や清掃業者などの仕事が自分の視界のうちに入ることを極端に嫌う方もおられます。そうした方々からの目線を避けてもらう意味でも、出入り業者には必ず、裏の搬入口に車をつけるようお願いし、それは今日の午前九時までは守られてきました。

 

 ところが、」

 

 ホテルマンは正面玄関の方を見て言った。

 

「彼らは我々の信頼を裏切りました。彼らはよりにもよってその正面側に、しかもホテルを出てすぐの場所に車を駐車しました。お客様にとって、最も目障りで、邪魔になる位置です」

 

 逆に清掃業者の二人の視座に立って考えると、ホテルを出てすぐ車に飛び乗れる位置取りだ。逃走経路の確保という意味では、優秀な仕事ぶりといえよう。ハンスは口の中で呟いた。

 

「こんなことはいままでありませんでした」

 

「その清掃業者だが、このホテルで仕事をするのは?」

 

「勿論、過去に何度も仕事を依頼し、何度も人を送ってもらっています」

 

 初めての現場で勝手がわからず、事前の言いつけを失念してしまったか。蓋然性は低いが、と念のために口にした想像は、すぐに否定されてしまった。

 

「セキュリティーの観点から、出入り業者はすべて過去に取引実績のあるところからしか選んでおりません。当然、件の清掃業者もです。かれこれ三十年近く付き合いのある会社です。仕事ぶりは丁寧、派遣されるスタッフの質も高く、問題を起こしたことなんて一度もない。そんな優良会社でした」

 

「そんな高水準のサービスをいつも提供してくれる会社が、今日になって突然、車を正面玄関に駐車する、なんてミスを犯した」

 

「その上、車をどかすよう要求しても、応じてくれませんでした」

 

 隣で二人の会話を聞いていた若いホテルマンが憤慨した様子で言った。

 

「我々は当然、文句を言ったんです。あの位置は駄目だ。すぐに車を移動させてくれ。それに対する返答は、『新人が道を間違えてしまった。申し訳ないが今日はこのままにさせてくれ』なんて、ひどい言い訳でしたよ」

 

「そこも、いつもと違う点でした」

 

 年配のホテルマンが言った。

 

「派遣されるスタッフについては、我々の方でいくつかの基準を設け、それをクリアしている者のみ、顔写真付きの通行証カードを発行するようにしています」

 

「というと?」

 

「代表的なものを挙げますと、その会社での勤続年数が二年以上あること、宗教・思想などのバックボーンがクリーンであること、ドイツ国籍を持っていること、などです」

 

 なるほど、宿泊客の要人を狙う不逞の輩が、出入り業者に入社して、スタッフとして堂々と館内に侵入するのを防ぐための工夫か。ハンスは得心した様子で頷いた。

 

「つまり、このバイエリッシャー・ホーフに、清掃業者がホテルの裏口への行き方を間違えるような新人を送り込むことはありえない、と?」

 

「はい」

 

「新人がやって来たことについて、あなた方は?」

 

「勿論、すぐに清掃会社へと電話し、事情を訊ねました。新人を送り込んでくるなんて、明らかな契約違反でしたから」

 

 ホテルからの連絡を事前に想定していたのだろう、清掃会社の社長は休日にも拘わらず一コールで応答してくれた。彼は年配のホテルマンに、いつも派遣しているベテランのスタッフたちが急に出勤できなくなってしまったこと、代わりに用意出来たのが新人の二人になってしまったことを、本当に申し訳なさそうな声で伝えてきた。

 

「それで、二人を館内に入れた、と」

 

「ええ。ルール違反ではありましたが、清掃会社の社長さんが何度も謝ってくれましたし、身元を保証してくれましたので」

 

 ハンスは胸の内で舌打ちした。このあたりが、ホテルマンの想像力の限界か。

 

 ファントム・タスクはすでにアメリア・クンツェ総括監督官の娘を人質に取り、彼女の傀儡化に成功している。それと同じことを、清掃会社の社長にやったとしてもなんら不思議ではない。家族を人質に取られた社長に、テロリストたちからの要求を拒む勇気はなかったのだろう。

 

 ――決まりだ。清掃業者の二人の正体は、ファントム・タスク!

 

 そうでなくとも、常とは異なる様相の二人からは話を聞く必要がある。

 

「その二人と、話をしたい。館内放送か何かで、ここに呼び出すことは可能だろうか?」

 

 年配のホテルマンがハンスの求めに応じようとした、そのときだった。

 

 ホテルの正面扉が開いて、新たな客が入館してきた。ドスドスドス、と床材を踏み鳴らしながらホールを足早に駆け、ハンスらのいるフロント・カウンターへ向かってくる。

 

 若いホテルマンがまず気がつき、つられてハンスもそちらへと顔を傾けた。

 

 凶悪な面魂の、アジア系と思しき壮年の男だった。顔のパーツのひとつひとつが大振りで、厳めしい造作をしている。背が高く、肩幅も広く、腕も足も、首も太い。この時期のミュンヘンの気候に合わせた厚手の装いにも拘わらずそうとわかる、筋骨隆々とした大男であった。軽く握られた両の拳が巌のようにごつごつとしており、その手首を、ブライトリングの大柄なクロノグラフが飾っている。

 

 男がカウンターの前にやって来て、若いホテルマンが一礼した。

 

「いらっしゃいませ。バイエリッシャー・ホーフへようこそ」

 

「すまない」

 

 アジア系の大男は流暢なドイツ語を口にした。

 

「客じゃないんだ。ちょっと、訊ねたいことがあって入らせてもらった。少し前に、このホテルに清掃業者が入館したと思うんだが、そいつらについて、何か、おかしなところはなかっただろうか?」

 

 どこかで聞いた台詞だ。二人のホテルマンと素早く目線を交わし、ハンスは口を開いた。

 

「きみ……」

 

「はい?」

 

 横から急に話しかけられ、男は怪訝な表情を浮かべて振り向いた。

 

 ハンスは再び警察手帳を取り出しながら、

 

「突然声をかけてすまない。私は連邦警察のロベルト上級巡査だ」

 

と、こちらもドイツ語で話した。若いホテルマンとの短いやり取りからも、このアジア人のドイツ語がかなり達者なのは明らかだ。遠慮なく話すことが出来る。

 

「連邦警察? バイエルンの州警察ではなく? ……もしかして、広域犯罪捜査官?」

 

 驚いたことに、目の前の男はドイツ語どころかドイツの警察機構についてもある程度の知識を持っているようだった。こいつは無駄な説明をはぶけてよい、とハンスは内心快哉の声をあげる。

 

「そうだ。詳細ははぶくが、とある事件を追っている。そのことできみに、訊きたいことがあるんだが」

 

「俺に?」

 

「ああ。少し、話をしても?」

 

「構いませんよ」

 

「ありがとう。まず、きみの名前を教えてほしい」

 

 アジア系の大男はパスポートを取り出した。えんじ色の表紙の中央に、菊花があしらわれている。発行国はJAPAN。中を開いて見せてくる。名前はSAKURAZAKA RYU……!?

 

 急に襲ってきた鈍痛が、思考を鈍らせた。頭痛がために視界が歪み、ありふれた書体で印刷されたアルファベットの羅列を、正しく読み進められなくなる。

 

 ハンスがその奇妙な現象に煩わしさを感じたのは一瞬のことだった。男の身体から突然、甘い芳香が薫ったかと思うと、次の瞬間には、頭痛のことも、パスポートの印字を読もうとする意思も、何もかもを忘れてしまった。ハンスは、自らの身に起きた肉体的、そして精神的な変化に気づくことなく、アジア人の大男……サクラザカへの聴取を再開する。

 

「ドイツには観光で?」

 

「ええ。IS世界大会を見に」

 

「なるほど」

 

「訊きたいことというのは?」

 

「きみがさっき言っていたことについてだ。どうして、清掃業者たちのことを?」

 

「……信じてもらえないかもしれませんが」

 

 サクラザカは右手の親指を立てると自らの鼻を示した。

 

「俺の鼻は、ちょいと特別製でね。普通の人では難しい嗅ぎ分けや、遠く隔てた場所からの臭いを感じ取ることが出来るんです。そんな俺の鼻が、さっき、街中で件の清掃創業者のクルマとすれ違ったときに、ミュンヘンのような観光都市で、あっちゃあいけない臭いを感じ取った」

 

「あってはいけない臭い?」

 

「火薬の臭い」

 

 サクラザカの一言に、ハンスたちの顔が硬化した。

 

「昔、アメリカに留学していたことがあるんです。そのときに通った射撃場で常に漂っていた、あの独特な臭いが車体にまとわりついていやがった。そんなモンをこの観光都市で、しかも、IS世界大会なんていうビッグ・イベントの最中に感じたんだ。気になって当然でしょう? 業者に扮したテロリストなんじゃないか、って。世界中から人が集まっているこの状況で、何か、よからぬことを企んでいるのではないか、って。確かめる必要がある。そう思ったんですよ」

 

「なるほど」

 

 ハンスは得心した様子で頷いた。サクラザカの嗅覚が本当に特別秀でているかどうかはさておいて、やはり、あの清掃業者たちからは話を聞かなければ。

 

「ところで、」

 

「うん?」

 

「なぜ、きみ自身がそれを直接確かめようと? 我々警察に通報しようとは考えなかったのか?」

 

「……さっきも言ったでしょう? 信じてもらえないかもしれないが、って。自分は人よりも嗅覚が優れているから、それに気がついた、なんて、客観的な証明が難しい。普通に通報しても、信じてもらえない公算の方が高いと判断しました」

 

 だろうな、とハンスは口の中で呟いた。自分とて、清掃業者の振る舞いに不信感を抱く前であったなら、彼の話に耳を傾ける気にならなかっただろう。

 

「通報するにしても、まずは誰の目にも明らかな根拠や証拠を掴んでからだ。そう思ったんですよ」

 

「恐くはなかったのか? きみの考えでは、相手は火薬を……銃や、爆弾を所持している可能性があるわけだが。そんな連中を、よく追いかける気になったものだ」

 

「……ツレがいるんですよ」

 

 サクラザカはどこか疲れた様子で、しかしやわらかく微笑んだ。

 

「勤め先の社長の一人娘で、俺は彼女が子どもの頃から知っているんです。社長からも、彼女のことを頼むぞ、と言われています。その彼女が、テロリストどものせいで怪我でも負ったりしたら……! 俺にとっては、そんな未来がやって来ることの方が恐い。銃や爆弾を恐れる気持ちなんかより、ずっとね」

 

 そのとき、フロント・カウンターから十二、三メートルほど位置にあるエレベータの一つが、上層階からの到着を知らせる音を鳴らした。一同揃って反射的にそちらへ視線をやり、直後、等しく、ぎょっ、とする。エレベータの扉が開き、はじめにブルーのスーツを着た男が、次いで、大きなポリバケツを載せたカートを押しながら、清掃業者の二人が降りてきた。

 

「あいつらだ!」

 

 サクラザカが静かに吼えた。

 

 両の目を見開き、眼光鋭く彼らを睨みながら、この場にいる三人だけに聞こえるよう声量を絞った言の葉を迸らせる。

 

「火薬の臭いは、あいつらから漂ってきやがる! ……それとあのでかいポリバケツ! あの中に、誰かいるぞ」

 

 その言葉に背中を押されて、ハンスは前へと踏み出した。

 

 ハリントンジャケットの内側へと右手を滑り込ませながら、駆け足気味に男たちへと近づいていく。

 

「動くな!」

 

 遠くまでよく響く鋭い声に、清掃業者の二人のみならず、スーツの男も肩を震わせた。こちらの姿を見、顔を強張らせる。

 

「連邦警察の者だ! きみたちの身分証を……ッ!」

 

 職務質問のための第一声は、言い終える前に霧散した。

 

 スーツの男がジャケットの腰ポケットに右手を差し入れたかと思うと、掌の中に、ポケット・ピストルが出現した。すかさず、ハンスも電撃的な速さでショルダー・ホルスターからグロック拳銃を引き抜く。

 

 銃声が二つ鳴り、高級ホテルのロビーに悲鳴が響いた。

 

 

 

 




シャルロットとデュノアのお話は、イヅル先生も本当なら文庫本1冊分くらいを使って、丁寧にやりたかったと思うんですよ。


蛇足

PPM Product Portfolio Management

市場成長率と市場占有率(相対市場シェア)の二つの軸を使って、自社の資源を糖化すべき製品や、撤退すべき製品を分析するためのフレームワーク。

市場成長率が高いほど、その環境で競合に勝つために、たくさんの投資が必要。

自社の市場占有率が高いほど、大きな利益を得られる。

自社の製品を、『花形』、『問題児』、『金のなる木』、『負け犬』の四つに分類し、投資の優先順位を考える。



『花形』
市場成長率:高い → たくさんの投資が必要
市場占有率:高い → 大きな利益を生み出す

映画のスターのように、人気(利益)も高いが、ギャラ(投資)も高い



『問題児』
市場成長率:高い → たくさんの投資が必要
市場占有率:低い → 生み出す利益は小さい

いまはお金がかかるばかりの問題児。しかし、将来の成長が期待できる。製品の育成期間。



『金になる木』
市場成長率:低い → もうこれ以上市場が成長する見込みは薄いので、投資の必要はない
市場占有率:高い → 大きな利益を生み出す

極論、何もせずともお金を生んでくれるありがたい存在。『問題児』を『花形』に育て、『花形』を『金のなる木』に育てるのが目標。
なお、金のなる木もすべての消費者に製品が行き渡ると需要が減るので、最終的には衰退する。


『負け犬』
市場成長率:低い → これ以上の成長は望めないので、投資の必要がない
市場占有率:低い → 利益は小さいし、市場成長率の低さから今後も期待できない

『金のなる木』が成長しきると、または『花形』や『問題児』が競合との競争に負けると『負け犬』化する。







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