またしても遅れやがりました。
誠に申し訳ない限りです。
ただ、あと二話分残っているので、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
遅れちゃったけど。
海未ちゃん、Happy Birthday!!
窓から見える景色が、瞬く間に移り変わる。
都会の様相だったものは、今や自然味溢れる風景となった。
故郷に帰っていっているということを感じる時だ。
考えるのはもちろん、一人の先輩の事。
「果南ちゃん…」
ついさっき、私のもとに届いたメール。
果南ちゃんの祖父の訃報。
私の実家はお寺だけど、その葬儀を執り行うということで、知り合いなんだし折角なら、と母が連絡を入れてくれたみたいだ。
でも…。
「あの…」
その時、隣に座った女性から声をかけられはっと我に返る。
そこには、母からの連絡が入る前にふとしたきっかけで知り合った、園田先生が。
「本当にすみません!いきなりこんな無茶なお願い聞いてもらってしまって…」
「いえ…困っている子を助けるのが教師の仕事ですので、それは構いませんが」
続けて、本当に私なんかで手を貸せることがあるのでしょうかと、疑問を呈する。
当然のことだ。
見ず知らずの学生から突然、力を貸してほしいので一緒に来て下さい、だもの。
私自身、思い切った行動をとってしまったなと今更になって思ってしまってもいる。
ただ、本当に何となく。なんとなくだけど。
この方なら、何だか私...というか果南ちゃんに寄り添ってくれるような気がしたのだ。
「きっと先生になら...いや、先生だからこそ、出来ると思います」
「…そうなのですね、分かりました」
私の根拠のない言い切りにもそう返答をくれ、やはり頼ってよかったと思えた。
* * * *
果南ちゃん。
私の二つ年上の先輩で、高校卒業とともに沼津を離れ、海外の学校へ飛び立っていった。
果南ちゃんとはAqoursで一緒に高校生活を過ごしていたわけだけど、それだけじゃない。
私たちは、9人を3人ずつ3つのユニットに分けての活動も行っていた。
その中で、私と果南ちゃん、そこにダイヤちゃんも加えた3人が、AZALEAだった。
当時私は1年、二人は3年生。
これがすなわち、何を意味するか。
…そう。
二人が卒業してしまえば、ユニットは自動的に消滅してしまうということだ。
実際、卒業というものが間近に迫った時期、ユニットをどうするのかという話が上がった。
例えば千歌ちゃん曜ちゃんルビィちゃんのCYaRonは、卒業後もメンバーが変わらないから特に問題が無かったりしたためだ。
結果として、私たちAZELEAの名前だけがたった一年で消えることになった。
私は、受け入れられなかった。
Aqoursは、メンバーが変わっても残っていく。
他のユニットも、形を変えながら残っていく。
でも。
私の、私たちのAZALEAだけが無くなった。無くなることになった。
その悲しさを、どこに向ければいいのか分からない思いを、旅立つ先輩にぶつけたことがあった。
その時に教えてもらったのだ。
果南ちゃんが海外の学校へ進学することにした、そのきっかけを。
そこで聞いた、果南ちゃんの祖父との記憶と思い出。
母から訃報を聞いた時に、初めに思い当たったのがその話だった。
きっと果南ちゃんは苦しんでいると、悲しんでいると思った。
でも、私には、どんな言葉をかけるのが正しいかが分からない。
今やほとんど会うこともなくなって、Aqoursも過去の話。
そんな私が出来ることなんて無いんじゃないかと、そんなことまで考える。
でも、何かをしたいと、そんな気持ちだけが膨らむ。
そんな経緯があり、大学で出会った園田先生。
なぜか助けてくれそうだと直感が告げたこの女性に頼ろうと、そう決めて、現在。
私たちは、静岡へと向かっている。
* * * *
「ふふっ」
突然、笑い声がした。
その主は勿論、私の隣に座った園田先生。
「あ、いえ、すみません...。
ただ、想像していたのと違っていたので」
想像...?
「これは触れていいか迷ったのですが...
あなたは高校時代にスクールアイドル活動をしていましたよね?」
「えっ」
「3年前...でしょうか、確か、Aqoursというグループ名で」
「ど、どうして...」
突然正体を知られているような感覚になり、驚きの声を上げてしまう。
そして、その後に続けられた言葉に、私は更に驚くことになる。
「それは...私も同じだから、でしょうか」
この瞬間。
色々なことが、繋がった気がした。
「もしかしてあなたは...μ’sの園田海未さん、なんですか?」
「あら...ご存じだったのですね」
「ととと、とんでもないずら!まさか、μ’sの方とこんな形で...」
驚きなんて、そんな生易しいものでは形容できないこの感情。
それと同時に、何となく抱いていた既視感の正体も。
μ’sの方なのであれば、確かに高校時代幾度となく目にしてきたし頭に残っているはずだ。
また、頼れる気がすると感じた思いの正体も。
園田海未さんの大人びた雰囲気と、信頼を集める素質、とでもいうのだろうか。
それらはまさに、海未さんがμ’sであった頃を見て、私が感じたままのこと。
「あなたはどちらかと言えば大人しい印象を受けていたのですが、今のこの奔放な感じは...まるで凛のような」
「凛、と言うとあの、星空凛さんですか...」
「よく知っているのですね」
「それは、当然と言いますか...」
「当然?」
「はい。実は私は、とある雑誌で星空さんを見て、スクールアイドルになろうと決めたんです」
「そうなのですか、凛もそれを聞くと喜ぶことだと思います」
「今でも連絡は取り合ったり...?」
「μ’s全員で集まれる機会はそう多くないのですが…。
私と凛、そこに希を加えた3人でなら、都合を合わせて会うことも多いですよ」
「東條希さん...ですよね?」
「…少し変な組み合わせと思っているのでしょう?学年もバラバラですし」
「あっいえ、決して変と思っているわけではなく...」
「基本的に知られてないと思いますが、実は私たちμ’sは、3人ずつ3つに分けたユニットでの活動も少しだけやっておりまして」
えっ、と声が出る。
まさか、私たちAqoursと同じようなスタイルをとっていただなんて。
千歌ちゃん風に言うなら、奇跡だよ!ずら。
「私たち3人は、lily whiteと言うユニット名でした」
「リリーホワイト...」
「日本語風に言うなら、白ユリ、でしょうか」
またしても驚きが体に刺さる。
しかし今度は、えっという声ではなく、私は一つの呟きを漏らした。
「…アゼリア」
「はい?」
「私たちのユニット名です!
私がAqoursだった頃二人の先輩と組んでたユニットがあって、それがAZALEAって言うんですけど、もともと花のアザレアから名前をとってて」
今度は、海未さんがあら、という声を漏らした。
そして目と目が合い、なんとなく笑いだす。
「すごいですね、こんなに偶然が重なり合うなんて」
「本当です...私は未だに、信じられていないんですが」
「ただこれで、あなたが私に助けを求めた理由も見当はつきました」
「あっ」
「わざわざ聞き出すつもりはありませんでしたので。
自然な流れであなたのことを知れて、私も良かったと思っています」
「すみません!本当に無理なことを頼んでしまって」
「これも、年上の務めですよ。
ご期待に沿えるかどうかは分かりませんが、きっと上手くいきます」
そういう海未さんの表情は自信に満ち溢れていて。
やっぱり私は、この人を頼ってよかったなと思えた。
* * * *
果南ちゃんの祖父の葬儀には、立ち会わなかった。
悲しい表情をした先輩を見るのが、怖かったから。
実際に会った時に、どんな顔でどんな言葉をかければいいのか、まだ見つけられていなかったから。
でも、やっぱり。
抑えきれない感情を胸に、私は
最終話は、海未視点のお話になります。
どうぞお楽しみに。(楽しめるかどうかは分からない)
それでは今回は短めに。このあたりで。
とにかく、なるべく早くに投稿します。
いやほんとに!結局グダっててすみません…頑張ります!