今は一人でいたいであろうリンクをそっとしておいてあげながら、少し離れた所で『魔女』と呼ばれているもう一人のジャンヌについての情報と見識を交換し合った三人は、それを次の日、次の町へと向かう道中でリンクとも共有した。
あれだけの混乱と嘆きをたった一晩で、見た目だけでも落ち着かせて、目の前の問題に冷静に対処を続けるリンクが、頼りになると同時に心配にもなってしまう。
(……リンクさん、本当はまだ辛いんでしょうね)
(でも今は、リンクを頼りにするしかない。
俺は碌なことが出来ない素人魔術師だし、マシュも戦闘にはまだ躊躇いがあるし、ジャンヌは弱体化しているらしい上に魔女云々で精神的に迷いがあるし。
冗談でなく、この一行のまとまりは、この作戦が成功するかどうかはリンクにかかっている)
他に出来る者がいなかった。
本当にそれだけの理由で人理修復に臨むことになってしまった自分達が、最初に出会えたのがリンクだったことが、本当に幸運だったと思えてしまう。
その幸運が『リンクにとっては』どうだったのかを、断言しきれないのが辛いところだが。
見守っているだけではいけない、恐れているばかりではいけないと、立香とマシュは気持ちを新たにする。
それを実践しなければならない機会は、すぐに訪れた。
オルレアン近郊で詳細な情報を得ようという目的で目指していた次の町、ラ・シャリテに近づいたところでナビゲーターのロマニがサーヴァント反応を計測し、その方向に、町が戦火に燃える光景を目の当たりにしてしまったから。
全力で駆けつけたものの既に遅く、町は既に住民全ての命が奪われ、建物の残骸が残るのみとなってしまっていた。
痛ましいリビングデッドを、少し前まで人だったものを貪るワイバーンを。
自身の身に纏わりつくものを、心の淀みを振り払うかのように掃討したジャンヌが、肩で荒い息を吐きながら立ち尽くす。
剣を鞘にしまい、惨状に落ち込むマシュと彼女を励ます立香が合流してくるのを横目で確認したリンクは、そんなジャンヌへと声をかけた。
「ジャンヌ、大丈夫か?」
「……これをやったのは、恐らく『私』なのでしょうね」
「状況からして、そう考えるのが自然だろう」
「リンクさん、まだそうと決まった訳では…っ!」
「ありがとうマシュさん、でもいいのです。
私にはわかります、リンクさんの言う通りだという確信があります」
「しかし、ジャンヌさん……」
「……マシュ、お前は本当にそう思っているのか?」
「え?」
「この光景が魔女のジャンヌの仕業とは違うかもしれないって、これまでに集めた情報や立てた方針を丸ごとひっくり返すようなことを、本当の本気で思っていたのか?」
「そ、それは……」
「一時の気休め、誤魔化しで問題を先延ばしするよりも、早いうちに現実を見据えて、覚悟を決めた方がいい場合だってある。
マシュの気配りが悪いとは言わない。ジャンヌを気遣ってそんなことを言った気持ちそのものは決して悪いものじゃない。
ただ単に、この状況には合わなかったってだけだ。
これからの経験で、その辺りを判断できるようになればいい。
それとジャンヌ、あんたの発言にもひとつ訂正を入れておく。
例え大元が同一だったとしても、別れた時点でそれは既に別物。
同じだと思わない、思いたくもないのなら『私』なんて呼び方をする必要は無いし、別人がやったことに自分を重ねて責任を感じることなんて無いんだからな」
「………はい、ありがとうございます」
『惨劇は魔女のジャンヌの仕業』という現実に、『別れた時点で別人なのだからジャンヌが責任を感じる筋合いは無い』という新たな現実を重ねることで、自身の気休めよりもよほど確実にジャンヌを励ましてみせた。
単に理屈を述べるだけでなく、それを早速実証してみせたリンクに、マシュは落ち込んでいたことも忘れて感心した。
短絡的に甘やかすことではなく、冷静に現実を見据えて明らかにすることの方が時に救いとなるのだと、またひとつ世界を知ったデミ・サーヴァント。
彼女の前でリンクは更に、大胆に『現実』へと踏み込んでいった。
「この状況で、少しきつい問いかけになりそうだけど……それでも、必要だと思ったから敢えて聞く。
欠片でいい、ほんの僅かな心当たりでいい。
あり得る一面を抽出し、それのみでもって一己の存在として確立させるのがサーヴァントなのだとしたら、可能性があるだけで十分だ。
ジャンヌ……あんたの中に、これだけのことを為してしまうような怒り、憎しみの種は存在するのか?」
彼女と魔女は別人だと断言し、励ましたその口で以って、あまりにも残酷な可能性について問いかけるリンクに。
ジャンヌは僅かに伏せた顔で、ゆっくりと首を横に振る仕草で以って答えた。
「いいえ、ありません。
憎んでなど、恨んでなど、本当に無い筈なのに。
どれ程人を憎めばこんなことが出来てしまえるのかと、心から疑問に思っているのに。
それでも魔女は確かに存在し、人々を苦しめている。
一体、どうしてこんなことに……」
「……あのさ、ジャンヌ。
実行に移すのは問題だけど、怒ったり、憎んだりすること自体は、そんなに悪いことじゃないと思うんだ。
特にジャンヌは、酷い裏切りに遭った訳だし……聖女と名高いジャンヌの中にそんな気持ちがあったって、おかしくなんかないよ」
「違うのです、立香さん。
私は聖女などではありませんし、意地や見栄を張ってもいません。
本当に……私は、憎悪など抱いてはいないのです。
………その筈なのです」
ジャンヌを励まそうとした立香だったけれど、思うようにいかなかった上に、どうやら更なる苦悶を煽ってしまったらしい。
一旦話を終わらせて落ち着かせようとしたのと、通信の向こうでロマニが焦りに上擦った声を上げたのは、ほぼ同じタイミングでのことだった。
幾つものサーヴァント反応が反転し、凄い速さでこの場所へと向かっているという状況が伝えられ、撤退を促す焦りながらも懸命な管制室の判断と指示に、現場の声は逆らった。
「逃げません、せめて真意を問い質さなければ……っ!」
「ジャンヌに同感、当人から聞き出せる情報に勝るものは無い」
《リンク君、君まで!!》
「情報が少なすぎて、動くに動けないのが紛れもない現状なんだ。
ここは、多少無茶してでも踏み込まないと」
《ああ、もう間に合わない…っ!!》
「マシュ、立香を守れ!!」
その言葉に咄嗟に反応し、立香の正面で盾を構えたマシュと、悲痛な表情で前を見据えるジャンヌ、冷静に剣を抜いて構えたリンク。
彼らの目の前に、飛竜の背に乗って現れた、五人の人影が降り立った。
『ゼル伝』の存在が後の人理にどのような影響を及ぼしたのか、考えていたらインドで結構なバタフライエフェクトが起きました。『あいつを殺せるのは俺だし、俺を殺せるのもあいつだけ』なライバル関係を保ったまま、インド兄弟の仲を良好にさせようと思うのですが、如何でしょうか。ご意見を聞かせて下さい、反響の様子を見て『活動報告』にネタを書こうと思います。
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作者がやりたいならやってもいいと思う。
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原作・原点からあまり離れすぎるのは嫌だ。
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むしろどんどんやって欲しい。
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内容による。