気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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みなさん、遅くなりました、ですが本編とは違う部分の手直しをします。


まだまだ失踪はしないつもりなので、気長にお待ちいただけば…嬉しいです。


気まぐれで、カクヨムで、当作品のリメイクってほどじゃないですが、
少し、手を入れたもの…っていうか、ほとんど内容かわらないのですが

いままでの感想であった読者さんの意見や、読み返して「ちょっとここ
直した方がよくね?」って思ったところなどを手直しした部分をそっち
でアップしたのを機に、こっちでもその内容を上げていこうと思い、順
に手直ししていこうと思って、最初から手直し…

なので新しい話はまだちょっとだけ待っていただけると嬉しかったり…


プロローグ

 時は、西暦2138年…、場所は日本のとある地域、とは言っても、今の日本という国は結局、どこであろうと変わらず、色々と終わっているという認識の者は多い。

  

 

 

 自分はそれでも恵まれている方だという認識はある、下を見れば、数えきれない程の「貧困層」と呼ばれる者達は存在しているのだし、もちろん自分より恵まれている者らも同様に多いのだが…

 

 

 

「貧困層」なのに恵まれているとはどういうことなのか…、そもそもの歴史は伏せられているが、かつて、自分がプレイしていたゲーム、<YGGDRASIL>というゲームで知り合ったギルドメンバー、リアルでは大学教授をしていたという人が教えてくれた話では、今の若年層には決して知らされない、伏せられた歴史があったという。

 

 

 

 時は西暦2000年を20年も過ぎていないくらいの時、それは起きた。

 

 

 そもそもの始まりはいつもあるような災害だったという、ただの津波。

 

 

 皆が皆、そう思っていたソレは…あっという間に地を飲み込み、濁流で家々や、あらゆる建造物を押し流した、そして、とうとうソレは到達してはならない建造物にまで及ぶ。

 

 

 その当時は絶対安全とまで言われていたらしい、今となっては信じられない妄想という認識が浸透しているが…その時は誰もが、そうなればどうなるかなど、知識としては知っていたが、実際に起きるという想定をしている者はいなかったのだという。

 

 

 

 その建物は、原子力発電所。

 

 起きると危惧された現象はメルトダウン

 

 

 

 

 あっという間にその津波という暴力は、ソレを飲み込んでしまい、被害が甚大になった。

 

 かろうじて、中で働いていた人達の力、使命感、命を投げうってまで被害を押しとどめようという精神を持つ者たちがなんとか爆発という致命的な危機を回避させてくれた…そのたった一つの思い。

 ――その偉業のお陰で自分たちはなんとか救われたが、残されたのは核燃料、もちろん放射能に汚染されている…それを長い間、原子力発電所が復旧するまでは…と、とにかく先延ばしにしていた時の権力者たちは、最終的に、海に流すか、地に埋めるか…という究極な選択を選ばざるを得ず…結局「海に流すのは下策」とばかりに地中深くに埋めたらしい。

 

 

 もちろん、核燃料だったもの…すでにソレは汚染物質であることに変わりはなく、厳重でとにかく強固な容れ物に「その液体」を人力ではなくロボットにそれを行わせ、汚染されたロボットごと、地下深くにソレらを埋めたということだ。

 

 

 そして、日本という国は誰もが知るように地震大国と呼ばれている。

 そんなものを地面の下、地下深くに埋めて、数百年、数千年、無事で居られると誰が考えたのだろうか…?

 

 地の底に埋めたことで、その土地以外に住んでいる者達は、時を追うごとに心の中から危機意識…そんな事件が起きたこと、そんな危ないモノが地の底に埋まっているという事実すら頭の中の記憶から薄れさせていった。

 

 

 そして、月日が流れた西暦2092年、ついに大地震が起きてしまい、地の底で眠っていた脅威が目を覚ました。

 

 それまでも大小、様々な地震があった、きっとそれも要因の一つだろう、全ての要素が重なり合い、引き金となったのがその大地震だったと言っていたのはその大学教授、アバター名は「死獣天朱雀」さんの談であった。

 

 

 地下深くに埋められていた核燃料の汚染物質を入れていた容器の損壊…それも1つや2つどころではない…掘り下げて確かめたわけではないらしく、詳細は分からないという話だったが、恐らくほとんどの容器からソレらは地面に浸透してしまったらしい。

 

 そこからは難しい話になって、詳しくはわからなかったが、朱雀さんいわく、大自然の循環によって、地面から地下水にまざり、地下水から時間をかけて地上近くまで染み出てきたソレは、植物や、食物などを通して広がる。

 植物に浸透したということは、光合成などによって、浄化されないまま少しずつではあるが、大気にまで広がっていく。

 

 無論、根から吸い上げた汚染物質を取り込んでしまった樹々たちも無事では済まず、それらから先は汚染されて行く事自体を、誰も止められずにいたのだそうだ。

 

 

 

 そして、ついには空まで汚染された世界。

 

 そこまで行ってしまったら後は加速度的に汚染は広がり、止められるものではなかったという。

 

 もちろん植物や野菜なども気が付いたら手遅れおなるのは当たり前だろう。

 

 

 

 学者たちはしきりにそうなる前に警告は発していたらしいが、それは時の権力者によって「市民たちに動揺を与えないため」という「お為ごかし」で、情報操作をされ

 地位のある者、資金力のある者、国にとって重要であろう者らなどなどを厳選して、逃げ場所<シェルター>を作り始めた。

 

 

 

 その<シェルター>は、特に大きな規模で建造され、まだ汚染されていなかった地域(海を隔てた先の土地、北海道や、沖縄など)から健康的な土壌から水から何から、あらゆるものを(恐らく事故直後の…まだ広がっていない時期から)運び込み、さらには特別な濾過、蒸留がされた純水を作り出せるようにと、そういう技術、装置を作り出すのにも余念はなく、いつから準備していたのであろうかと思わせる程、その区域での生活には全てがあり、全てに於いて完結して、すべて自給自足できるようにと、技術の粋を集められ、そうして作られた「絶対安全」な領域を、人類は完成させた。

 

 

 

 

 後にその区画にできた一帯を人は「アーコロジー」と呼ぶことになる。

 

 

 

 

 最初に話した「貧困層」と言われる者達は、そのアーコロジーの「外」に住まざるを得なくなった者たちの総称。

 

 更にアーコロジーの「内側」に住む健康的な生活を送る者達全てを当てた言葉。

 

 それが「富裕層」だ。

 

 そこに住めた者達は無論、権力者だけではなく、その施設を作るために巨額の費用を用立ててくれた者や、その家族も含まれる。

 

 有名な…もしくは著名な…、又は人々の人心掌握に一役も二役も買ってくれそうな者らも含まれていた。

 

 そういう者でなくとも多額の資金を吐き出して、そのアーコロジーの住居を購入できるだけの資産を持っている者らは、文字通り「金の力」で、安全な立場を買う事も出来た。

 

 

 買うことが出来なければ、貧困層の仲間入り、買えるだけの資産のある者はこぞってアーコロジーの中に安全を求めた。

 

 

 そんな世界に於いて、アーコロジーに住む者達からすれば、外の者らは汚染された者であり、それ以上でもそれ以下でもなく、富裕層の多く(全てではない)が、使い捨ての消耗品としての価値しか、アーコロジー外の者らに見出さないという割合が多くなる。

 

 仕事などではそれが特に顕著で、現場仕事、危ない仕事、汚染された大気の下、営業回りをさせられるなどは、主に貧困層に割り当てられる。

 

 

 しかしそれでも、そんな中だとしても、一日に数百人規模で死なれては困るようで、すぐに呼吸する時用にと、清浄呼吸用の外出補助フィルターが発売された。

 

 だがそれは大変高額で、アーコロジーの住民レベルでなければ手が出ない程、もちろん保険などが利くはずはない…なにしろ「貧困層」の住民で国が要求する保険の月額を払える者など、数えられるほどしかいない…それこそ富裕層でなければ支払い続けるのは難しかったのだから…

 

 

 

 無論、高い金を出せば、その呼吸用のフィルターを購入する事はできるが、その為に資産を投げうって生活(飲食や住環境など)ができなくなっては意味がない。そのため、ボクら「貧困層」は市販の花粉症や、粉塵などを吸い込まないようにする、という程度のマスク装着を余儀なくされていた。

 

 もちろんそんな生活環境で外と中の移動、そして、そんな空気を吸いながらの仕事環境などを毎日続けていれば、自然と…当たり前だが身体は蝕まれていく。

 

 高額な方の呼吸補助フィルター付きのマスクがあればそんなことも起きないのだが…かと言って後ろ盾のない「貧困層」の住民がそんなものを万が一でも持っていたら、一日…いや、1時間と保たず、別の「貧困層」の誰かに奪われ、そして、奪っていった者も、その瞬間に奪われる側になる。

 

 そんな世界で、自分は父も母もいて、共働きという環境ではあったが、それは周囲のみんなも同じ環境だったため、少しもさみしくないし、疑問もなかった。

 

 

 だが、そうは言っても世の中の流れは止まってはくれない。

 世間の常識は、自分が生まれるよりも前に、あっさりと変わってしまった。

 

 義務教育は「小学生まで」と国が決めてしまったのだ。

 

 それもギルドメンバーだった大学教授の人がその理由を教えてくれた。

 

「国は反乱分子を作らないために、市民に頭の良さを求めない、自分たちに都合のいい駒を作れればいいということになったのだよ」と…そう苦々しく言っていたこともあった。

 

 汚染前では普通に買えた物も、今では高額…食料が栄養剤になり、水道局が定額で各家庭にいきわたらせていた水も…今となっては毎月支払う形、かつては2か月に一度の支払いの時代もあった様だが…、それも、飲み水とは区別されていた、水道から飲むことは推奨されず、飲み水は買うもの…となり果てていた。

 そんな環境では小学校を卒業するだけでも、今の世の中、実は至難の業となった。

 

 なにしろ一般の病院で処方される薬でさえ、「富裕層」向けの病院とは区別され、一般の病院から自分らに回されるのは、期限の切れた、金持ち連中が買わなかったようなモノしか回ってこない現実も厳然としてあったのだから…

 

 それなのに、学校の授業料が良心的であるはずもなく、6年も支払い続けられるだけでもレベルの高い行い…給食費だってバカに出来ない、安全安心な食材など、そんな汚染された世界では滅多に出回らず、ほとんど液体のような栄養だけ摂取できるようにされた加工食品、そんな物でも自然と価格は高騰する、ボクの両親は、そんな状況で中学まで行かせてくれた。

 

 父の仕事が急速に悪化し、資金繰りがうまく行かなくなったために、2年生の3学期が終るより前に中退という形になってしまったが、小学校では学べなかった知識などが少しでも学べたのは大きかった。

 

 

 中学中退で社会に出たはいいが、扱いは「小卒」以外の何物でもない…。

 数年、職場で肩身の狭い想いはしたが、それもその数年で済んだ。

 

 

 中学に居た時にクラスメートで友人だった穴沢が管理職候補として入社してきたためだ。

 

 中学の卒業というステータスは高校卒業に比べれば数段劣るものの、小卒を束ねる責任者という立場に据えるには適任のようだった。

 

 

 入社してきた「穴沢」と自分は、顔を見るなりお互いのことを思い出し、仕事時間が終わってすぐに飲みに行って意気投合した。

 

 そして穴沢が上役になってからは、今までの上司からの扱いとは全く違う、別世界のような働き方が出来るようになった。

 

 

 そんなある日、国是として、国民全員にナノマシンを体の中に埋め込み、そこからの情報を登録することで、より効率的に住民らの管理をしやすいように…という方針が打ち出される。

 

 それを埋め込まれる時は抵抗はあったが、国が珍しく、格安でその手術を受けさせてくれ、補助金も出すという待遇ぶり、その当時、国民にも普及しつつあった手ごろなテクノロジーの一環であったダイブシステムにも使えるよう…他にも汎用性を広げようと、首の後ろに穴のようなもの(機器)をつけることを推奨された。

 

 それを付けられたら、首の後ろに接続端子がいきなり自分の体にできるのだ。

 

 それは、自らの脊髄に直結するように埋め込まれるため、一人一人認識コードが違い、万が一、水などが染みたりすれば死活問題だという情報は、事前に医者から知らされる事になった。

 不安でもあるし、担当の医師からも相応の注意がなされる。

 

 水に注意すること、入浴は首までつからないこと、防水用のネックカバーを購入しておきなさい、スチームバス程度に普段は抑え、常に首の後ろは濡らさぬように…

 という条件も毎日の生活で気をつけねばならなくなった。

 

 プラグを差し込む端子部分には浸水しないようにシャッター式の…皮膚と同質素材の疑似肌肉を、保護用としてつけられることになった。

 

 制限も多かったが、その分、<YGGDRASIL>での期待の方が当時は大きかったように思う。

 

 

 それを付ければ、イヤホンジャックのように、専用のプラグを差し込むだけで、ダイブシステムにアクセスできる…という娯楽向けの理由が表向きだったが、それもサーバー単位で、国民を登録し、簡単に犯罪歴や、家族構成など、必要な情報を掌握するため、必要なものを収集するために…と、「貧困層向け」に開発されたものだと、<YGGDRASIL>を始めてから知ることになる。

 

 その手術でつけられたナノマシン、それをつけられた個人を特定する暗証番号と、「認識コード」、そして「生体ID」、それが付いているため、<YGGDRASIL>ではサブ用のアバターを作るのは至難の業だと言われていた。

 

 そういうテクノロジーの知識に詳しい者は、それでも「穴」を見つけ、作れる者もいたようだったが、自分にはそれは無理だった。

 

 もちろん、その当時は、ゲームとは言え、新しく発売されたVRゲーム、その新ジャンルである「DMMO-RPG」それらを遊ぶために使う機材、ハードの類を買い揃えるのは高い買い物だったが、ダイブシステム一式、そして、<YGGDRASIL>の専用ダイブアプリの購入、さらには別売りのツールなど…

 

 

 それらの資金が行きつく場所のことなど、当時は考えることなどなく…。

 

 

 一大ブームになっていたあの時は欲しくて欲しくて衝動買いしてしまった。

 

 

 穴沢も、大いにそれに驚き、うらやましがってくれた、一度誘ってみたことはあるが、あまり乗り気ではなかったのが不思議だったが、まぁ、人の好みなどそれぞれ…

 

 ゲームの好みだって、あるだろうとあまり気にしなかった。

 

 それから<YGGDRASIL>をボクが遊び始めてから優に6年は過ぎた頃だろうか…。

 

 仕事中に、とある経理申請用の書類をコピーしてくれと頼まれ、プリントアウトしたものを担当の部署に持って行って欲しいという内容を頼まれた。

 

 いつもとは言わないが仕事の中では、ままあることだし、職務の一環ではあったから、その時は気にしなかったが、画面のプレビュー画面を見た瞬間、「何かおかしい」と違和感を覚えた。

 

 それが何かわからなかったため、上司に怒られることだけは避けたいと、後で間違いでもあったら修正をしようと思い、そのデータをコピーした。

 

 そうして、その時は何も問題はなかったものの、同様の依頼をされることがよくあり、その度にそのデータを不測の事態が起きた時のためにと別のメモリーに保存し続けていた。

 

 

 もはや、何の疑いもなくその行動が半分日常化していた、そんなある日、その「なにか」に気が付いてしまった。

 

 

 

 それはボクが<YGGDRASIL>を始めて、8年目…<YGGDRASIL>がリリースされてから9年と5か月目を迎えた初日のことだった。

 

 

 

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

 

 

「どうも、モモンガさん、今日も来ましたよ。」

 

「あぁ、どうも、よかった、お仕事で忙しいかと思いましたが、来られたのですね」

 

 自分が来るといつも居てくれるギルド長、名前はモモンガさん、アンデッドの種族を選び、オーバーロード、つまりは死者の魔法使い、それの最上級の職業まで突き詰めてアバターを磨き上げた人だ。

 

 自分はモモンガさんを評価しているが、モモンガさん自身は「自分はそんなに大したことないですよ」と、本気でそう思っているらしい。

 

「あれ? それにしても今日はボクが一番乗りですか? 意外ですね、この時間、いつも誰かしら居る時間なのに…」

 

「あぁ、今しがた数人、どうしてもリアルで外せない用事ができたようでして、落ちてしまったばかりなんですよ。」

 

 そうさみしそうに笑うモモンガさん。さみしそうなのはそう自分が感じたというだけ。

 

 <YGGDRASIL>では表情まではアバターの顔に浮かぶことはない、それぞれの感情表現はPOPアイコンという感情を表したような絵柄を浮かび上がらせるだけで、自分の気持ちを相手に伝えるしかできない仕様となっている。

 

 あとはチャット機能だとか、音声での会話、あとはメールの文面でのやりとりなど…もあるのだが…。

 

(ちょうど今、ここにはモモンガさんしかいないんだし、ちょっと聞いてみようかな…)

 

「すみませんギルド長、少し話をしても大丈夫ですか?」

 

「えぇ、いいですよ? なんです?改まって…」

 

「実は仕事のことなんです…せっかくバーチャルの世界に遊びに来ているのに、リアルの話なんか持ち出して、大変申し訳ないのですが…」

 

「あはは、いいですよ、気にしないでください、ヘロヘロさんなんか最近、転職したばかりで、とにかく環境がひどい、毎日死にそうだよ、なんて愚痴から入ってるくらいですからね、社会人を最低条件にしてるギルドなんですから、そういった話はついて回りますよ」

 

 

「ありがとうございます、モモンガさん…実は、私が今している仕事で、妙な事に最近気が付いてしまいましてね…それがどうも…釈然としなくて…、でも詳しい部分での暗部まで解明できてるわけではないんですが、会社的に後ろ暗い空気をそこから感じてしまいまして…どうしたらよいものかと…」

 

「それ…かなりマズイんじゃないですか?…ヤバイ空気を感じちゃうんですが…」

 

 心配そうな声音でモモンガさんが身を乗り出し、少し声を落とし気味になる。

 いつでも、どんな相手にでも親身にこうした態度で居てくれるモモンガさんは本当にみんなから可愛がられ、慕われ、そして、自分は尊敬している。

 

 

「そうなんですよね…最初は違和感だけで、どこがどう…っていうのはわからなかったんですが、最近になって、どうも…会社から出す予算としては、予算としての名目と、記載されてる金額が不釣り合いに高額な気がするんです。 しかもそれが毎月とは言いませんが、2か月に一度程度の割合で、定期的に流れているようで…。」

 

「うわぁ…なんかかなり危ない感じの印象をバシバシ感じますね…大丈夫なんですか? その職場、離れた方がいいんじゃ…?」

 

「モモンガさん、ソレは悪手ですよ、ボクは社会一般の認識としてはモモンガさん同様「小卒」ですよ? 中学中退っていうのは誰もそんな要素、見向きもしてくれませんし、最低限の教養しか持たないと見なされてるヤツが会社を去って、次の職場が条件のいい場所だった…なんてこと、ガチャで超々レアのシークレットを10連じゃなく1連でぶち当てるような可能性よりも低いでしょう…今の職場を辞めたら、きっと自分はここを続けられなくなってしまいます、それはさすがに避けたいですからね…。」

 

「そう…ですよね。こっちも、ギルメンが一人、二人と辞め始めている現状で、また一人来られなくなってしまう人が出てしまうのは悲しいですからね、今のは聞かなかったことにしてください、でもこれだけは言わせてくださいね? くれぐれも無茶はしないようにしてくださいよ? ギルメン同士、自分が力になれる部分は少ないと思いますが、相談ならいつでも乗りますので…。」

 

 

「ありがとうございます、モモンガさん、聞いてもらっただけでも少しは心が軽くなったような気がします。」

 

 

「いえいえ、自分は話を聞いていただけですからね、そんな大したことはしていないですよ?」

 

 

 と、ここまで話をしていると、ギルドのメンバーがログインすると最初にアバターが出現する場所。

「円卓の間」…そこに軽やかなメロディがピロピロン♪と流れる、それはギルドメンバーの一人がログインしたというお知らせの音である。

 

「お、ペロロンチーノさん、ご無沙汰です。」

 

「お、珍しいですね、貴方も今日はインできましたか、とりあえずこれで、接近戦 or 魔法のスイッチヒッターが1人、後方からの射撃要員が1人、そして、死霊系魔法に加えてカルマ値マイナス由来の大ダメージをたたき出せる…脅威のPVP負け知らずのモモンガさんの3人がそろいましたね。」

 

「やめてくださいよ、ペロロンチーノさん、私は初見の相手に気持ちよく勝たせるというギフトをあげる代わりに相手の情報を根こそぎ収集させてもらっているからこそ、勝ててるっていうだけです、それにこの戦い方は「ぷにっと萌え」さんから教えてもらったものでもありますから…威張れたものではありませんよ」

 

「またまたぁ…そんなこと言って、オレも見せてもらいましたけど、アレ、やれと言われてできる人間って、そうそういませんよ?オレ、やれって言われてもできませんもん」

 

 そう言って首をすくめたアバター、鳥頭に背中の翼、装備しているまばゆいばかりの<神器級(ゴッズ)>武器をひっさげ、軽口を利く男、彼は、ギルド内では「エロバードマン」の通称(愛称?)で呼ばれる、ある意味、愛されるべきキャラの一人。

(女性メンバーにはあまりウケはよくないのだが…)

 

「そういえば、どうでした?この前貸した、全年齢版の方のあの元エロゲ、面白かったんじゃありません?」

 

 いきなりペロロンチーノさんがこっちに話題を振ってきた、そういえば数か月前、おすすめの作品がある、きっと気に入るからと、一本の「元」を付けるのを忘れてはいけないエロゲだった作品を勧められたのだ。

 

 しかし、まだそういうゲームをしたことがなく、どんな内容だか全く知らされずに本家の方のエロゲを貸そうとしてきたため、遠慮した。

 

「いきなりエロゲはハードル高いですよ」と…。

 

 そう言ったら。後日、「それならこっち」と言われ、Hシーンなしの全年齢版をどこかから見つけてきて、貸してくれた。

 それは今となってはかなり昔のパソコンゲームから移植された家庭用ゲームで遊べたソフトのデータ、古き良き作品ということで。ペロロンチーノさんもプレイして、感動したソフトの一つのようだった。

 

 自分も、「全年齢版」なら…と、一応やってみることにした。

 

 確かに面白かった。

 

 その中の女性キャラの、とある形態をモデルにして、自分用のNPCにしちゃおうかと考えてしまうくらいには気に入ってしまっていた。

 

 

「えぇ、すごく面白かったですよ、リネ…えっと、なんでしたっけ?あの子、あの子の優しい性格もいいと思いましたが、えぇぇ…っと、エディ?なんとかちゃん?あの子もいいですよね、しかもその子の転生?生まれ変わってから前世で抱いていた思慕の念、それが主人公に対して全く衰えていないところもまた、気に入りました!」

 

「お!よかった、その口ぶりだと、すでに何周か、ストーリーを進めてくれてるようですね。よかったです、アレの良さは一度プレイして辞めてしまっては決してわかりませんからね。」

 

 などと、話のわからないモモンガさんを差し置いて、二人で大盛り上がり、ペロロンチーノに至っては「そうですか。私も四姉妹の内「四女のあの子」は好きなんですよね、ベルリバーさんは、三女の方でしたか…まさか前世からの転生後でのハッピーエンドに共鳴するとは…以外にロマンチストなんですね。」

 

「まじめに検証するのやめてくれません? 一応、最後までのストーリーは遊んでから返しますが…もう少しだけ貸してくれません?」

 

「あぁ、いいですよ?なんなら、気のすむまで持っててもらって…気が向いたらエロゲの方も…」

 

「それは遠慮しておきましょう、イメージが壊れるのはイヤですからね」

 

(かたく)なだなぁ…」

 

 なんてことを言いながら、3人でレアドロップ狙いで外に出ようとしていた所、索敵&隠密特化の弐式炎雷と、二の太刀要らずとして有名な武人建御雷がログインして来た。

 文句なしの前衛、そして隠密からの初撃であればギルド内トップレベルと言われる弐式炎雷をメンバーに入れた、ベルリバー、モモンガ、ペロロンチーノ、武人建御雷、弐式炎雷の5人編成で、レアドロップを求め、外に繰り出していくのだった。

 

 いつまでも、こんな楽しい日は続く、決して終わりなど、来るはずはないと…

 モモンガが、そして、ギルドの者もそうであればどれほどいいか…そんな想いを皆が胸に抱きながら…。

 

 

 

 

 

                     ★★★

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 一人の男が夜の街、なるべく人通りの少ない細い道、裏路地などを縫うように駆け抜けていく。

 

 ユグドラシルで、みんなと遊んだのはどれくらい前だったろうか…

 

 気が付いたらあっという間に、あれから2年半という月日が過ぎてしまっていた。

 

 

 

 モモンガさんに「あの相談」を持ち掛けてから翌日、致命的なデータを発見してしまった。

 

 それからすぐ、なるべく早い時期にモモンガさんに会いに行き、「しばらくは仕事の都合でログインする機会が極端に減ってしまうと思います。」と告げに行った。

 

 会えなくなること自体を惜しんでくれたが、先に相談していた内容が内容だけに、

 

「くれぐれも気を付けてください。 また…会えますよね?」と心配をさせてしまった。

 

「えぇ…きっと…」と、根拠のない言葉で、別れることとなってしまったが、それから少ししてから、ギルドになる前、その前身、クランだった頃のクランリーダー、たっちみーさんからメールで連絡があった。

 

「話がある、渡したいものもあるから、時間があるとき、いつでもいいから連絡が欲しい」ということだった。

 

 ボクも、ユグドラシルを辞めるつもりがあったわけではなく、仕事で、ログインが遠のくという認識だったので、アバターの削除まではしていなかった。

 

 その為、「なんだろう?」と思いつつも会いに行ったらば、ギルドの中で、唯一、鍛冶職に精通していて、メンバーたちの武器防具などを作る際には必ずと言っていい程、手伝いを買って出ていた「あまのまひとつ」さん、それと「たっちみー」さんの二人が出迎えてくれた。

 

 この二人が去り際、「必ず戻ってこい、これは餞別だが…可能ならいつかこれを返しに〝顔を見せに”来てくれると嬉しいんだが…」と、一つの<神器級(ゴッズ)>装備を手渡してくれ、その使い方、どんな性能があるかなど、一通り教えてくれ、「あまのまひとつ」さんからは「時間が確保できず、間に合わせになってしまって<伝説級(レジェンド)>すら準備できなかったのが申し訳ないが…」と、申し訳なさげに一振りの<聖遺物級(レリック)>武器を手渡された。

 

 それらを装備して、「使いこなせられるようにの特訓だ」と言われ、しばらくは、たっちさんと二人で、手加減状態のPVPの手ほどきをされたのはいい思い出だ。

 

 

(本気で相手をされたらボクでは1分も保たないだろうからな…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばしの間、そんな思い出を回想していたが、そんな状況ではないと気を引き締める、今はそれどころではなかったのだ。

 

 それは、自分がユグドラシルを始めてから8年目を迎えて少ししたある日、その仕事中、というよりも…社員の一人が珍しく肺炎になり、緊急入院となったため、一人分の仕事量が増えた、その為に自分は一番最後まで残業を余儀なくされてしまったことがあった。

 

 自分の仕事を全て片付け、さて、最後に不備がないか見て回ろう。

 

 そう思って、それぞれの社員の持つデスクトップPCのマウスを少し動かして回る。

 シャットダウンし忘れていた場合、それで反応したりすれば、そのパソコンを改めてシャットダウンするためだ。

 

 幸い、ほとんどのPCは何も問題はなかった。

 

 しかし最後のパソコン…その部署の部長のパソコンのマウスに手をかけた時、モニターの画面が明るくなった。

 

「なんだよ、部長、自分は口うるさく行ってるくせに…」

 

 なんてボヤキを口にした直後、固まった。

 

 なんで、部長のPCにこんなデータが?

 

 不思議に思い、もう一度見てみる、見て、読んで、理解してから思った。

 

〝これは見つけるべきではなかったと”

 

 しかし、見てしまった以上、見て見ぬふりはできない。

 

 その文書のデータを、いつも「何かあった時のために」と準備している記録用のバックアップメモリーにそれをコピーして、一通り保存していく。

 

 これは…不正の証拠だ。

 

 自分が勤めているのは、とある大企業の子会社。

 

 そこの経理部。

 

 自然と、経理関係のデータは集中する。

 

 今まで疑問に思っていたことが、この書類のデータを見て氷解した。

 

 それよりも、問題なのは部長のPCからこれが見つかったということだ。

 

 ということは、部長も上からこれの指示を受けて手を染めているのかもしれない。

 

 となると、上層部のどのあたりまでがこのことを知っているのだろうか…?

 

 下っ端である自分がこれを持っていても手に余る。

 

 そう思った。

 

 幸い、今、この時間にこのフロアに居るのは自分一人、このことを知ってる者は他にいないというのは幸いだった。

 

 これの扱いをどうするべきか…悩みながら、帰路に就いた。

 

 もちろん部長のPCは、一応、映っていたデータを「上書き保存」して、間違っても消失してしまわぬように気を付け、シャットダウンさせてから消灯、施錠して会社を後にした。

 

 その夜は無事、帰宅できた。

 

 そして、何気なく気が付いていないふりをして、この2年半、ずっと抱え込みながら仕事に励んできたが、それでも、日々、仕事をしている内に自然と、自分にそんな都合の悪いデータのプリントアウトを頼まれる機会が何故か頻繁に訪れる。

 

 今となってはそのデータも、もうかなりの量になっていた。

 

 そんな日々が続き、どうにも心のざわめきが抑えられない、気が付いたら、かつてのギルドメンバーの一人に連絡を取っていた。

 

 ギルドの中でも「悪」という言葉一つに美学を求め、「なにかを成し遂げるためには例え、周囲から「悪」の烙印を押されようと、自分が迷わず正しいと信じた道を突き進める心の強さ、そういう悪に憧れる、独りよがりの善と、中途半端な悪ほど、醜悪なものはない」

 

 と常々と言っていた彼に連絡を取る。

 

 すでに<YGGDRASIL>がリリースされて…12年もそろそろか…という時期になろうとしている今、彼はギルドをすでに去っていた、なぜなら、自分がギルドにログインできない日が続いていた中、たっちみーさんが家庭の事情、なにやら娘さんに見過ごせない非常事態が発生してしまったらしく、「多分、もう来られないと思う」という言葉を残し、去ってしまったことがあったようだ。

 モモンガさんからのメールではその時期を境に、どんどんギルドメンバーは激減してしまい、その「彼」も、たっちさんとは仲が悪く、よく対立していた人だったが、きっとその人にも何らかの事情があったのだろう。

 

 今となっては「彼」もギルドに今は訪れなくなっているらしかった。

 

 そんな「彼」が今さら自分に手を貸してくれるかは不透明でしかなかったが、他に頼れそうな「誰か」に心当たりがなかったため、ギルドメンバー時代から使っていた隠語、お互いだけに通じる言い回し、暗号などを使い、たとえ、誰にこの文面を見られ、読まれることになろうとも、決して悟られないように「自分の手には負えない厄介ごとに巻き込まれたかもしれない、会えないだろうか?」という趣旨のみを、返答が来るかもわからない「彼」にメールで伝えていた。

 

 

 

 

 

 後日連絡があり、日時と場所を指定された時には驚きと喜びが一気に押し寄せていた。

 

 相変わらず、彼の文面は普段の口調同様にぶっきらぼうだが、不要な言い回しや、回りくどい挨拶などない分、今回の件に関してはありがたい。

 

「それでお願いします。」

 

とだけ、返信をして、その日、その時間に間に合うように仕事を終わらせ、そのデータを持って、待ち合わせ時間、その場所に向かった。

 

 その場所に到着する前に、念のためと、メモリーデータの中の文書を、コンビニのコピー機で、出力し、プリントアウトして、実際の文面として、持参することにした。

 

 そして、個室のある居酒屋チェーン店の中で店員に「先に来ている仲間がいるんですが」と伝え、名前を言うとすぐに通された。

 

 まだ<YGGDRASIL>でみんながギルド、アインズ・ウール・ゴウンに夢中だった頃、一度だけオフ会をしたことがあった、彼はその時のままの佇まいでそこにいた。

 

「しばらくだな…元気だったか?」

 

 口数少なくそれだけ言うと、彼は席を勧めてくれた。

 

「えぇ。あなたも元気そうで何よりです。」

 

 そう言いながら、個室の、勧められた椅子に腰掛ける。

 

「ところで…なんだって? なんか厄介ごとだそうだが…?」

 

 目が真剣みを帯びている、彼のリアルの仕事は知らないが、中途半端な悪を働く者、団体などを相手取って、「真の悪」とはどういうものか…それに相応しい目に合わせることを仕事として選んでいると何かで、誰かから聞いたことがあった。

 

「実は、これなんですが…」

 

 と、書類を出す、もちろん、今までの「そういった」種類のデータ一式全てだ。

 

「ほぉ…こりゃ…たしかに、普通の一般市民じゃ手の出しようがないな…」

 

 この人は「悪」というものにこだわりはあったが、それ以上に、自らの父親の死に様に納得がいっていない、その為、「理不尽」ということに徹底的に立ち向かい、抗うことを生きがいにしている。

 

「強きをくじき、暴虐を振るう者には暴虐をもって返礼してやろう」なんてことを…ゲームの中でも…よく言っていた。

 

 …そういうスタイルの人だった。

 

 この人は自分にとって憧れの内の一人だ、もう一人の憧れは「世界において最強」という【称号】(ゲーム内でだけど)を与えられた人、でも僕が頼ったのはその人じゃなく『災厄』の名を欲しいままに…そして、その名に恥じないよう振る舞っていた…今、自分の目の前にいるのがその「彼」だ。

 

 

 強者が弱者を虐げる(それがクランやギルド内の立場であっても社会的であっても…)そんな行いに敢然と立ち向かえる人だったから…今回、頼れる先はこの人しか思いつかなかった。

 

 

 ネットでの付き合いをリアルでも持ち越すのは間違ってる。

 

 それはわかっていたんだ…でも…自分には何の因果か、何故か見つけてしまい、手に入れてしまった「その情報」は荷が重すぎた、おそらく腐敗したあの社会で、警察などに言っても『例外的なあの人』でなければもみ消されてしまうだろう…いや、それも違うな…あの人もたしか組織の中ではトップじゃなかったはず…上下関係のキツイあの組織内では、きっと、あの人だって、「上層部がNO」と言えば、それに逆らえない……従うしか無いだろう。

 

 

  であれば…結局のところ、話の分かる上司(が居たとして…)その人にその情報が届く前に証拠ごともみ消される、それが分かっていたから、ゲーム内でも対極の立場だった、この人に頼った。

 

 普通だったら迷惑だろう。

 

 そんな身を滅ぼす結果しか見えない情報を渡されるのだ…誰だって「なんでオレなんだよ、他にもっとそっち向きのヤツいるだろ?」って返ってくるのが当たり前だ。

 

 

 

 

 

 

 …なのにこの人は受け取ってくれた。

 

 その人はゲーム内で使っていたアバターがきっとするだろうイメージの…

 

 味方には頼もしく、敵には寒気を与えていた、あの当時そのままの…「悪」を背負うにふさわしい笑顔で…

 

 笑って受け取ってくれたんだ。

 

 

 

 もし何かあったら、証言をしてくれるか?とも言ってくれた。

 

 考えるまでもなく自分はこう言っていた「アナタの力になれるなら!なんでもします!」って…

 

 

 

 ………そう約束したはずなのに…

 

 

 

 

 

 

 

 油断してたんだ…いや、警戒の仕方がまずかったんだな、きっと。

 

 

 

 

 

 誰も通らないような人通りの少ない道を選んで見つからないように、隠れるように家路につく予定だった。

 

 証拠を手渡せた安心感で、緊張感も薄らいでいたのだろう…

 

 油断していた。

 

 ボンヤリと…「そういえば、メールの返信の中にモモンガさんからのメールもあったな…」そう思い、携帯式の電話から、ネットに接続、フリーメール経由で、モモンガさんからのメール内容を読む。

 

「え? ウソ! 今日ってユグドラシル最後の…サービス終了の日なの?」

 

 今まで、仕事時間以外でも、こんな会社の暗部のことに意識を奪われ、ログインが減っていったとは言え、サービス終了が近づいていたことにも気づいていなかった自分を恥じる。

 

 今の時間は「23時32分」、まだ急げば、一言、二言、少しの会話ならできるかもしれない。

 

 そう思い、足が自然に急ぎ足になる。

 

 急ごうとするあまり、回り道としての裏路地ではなく、近道を通ろうとしてしまった。

 

 

 

 その時、曲がり角を曲がろうとして、足に衝撃が走った。

 

「うあぁ!!」

 

 あまりの衝撃に、急ぎ足だったせいもあり、前のめりに転倒してしまった。

 

 顔を上げる。

 

 一体何が起きたんだ?

 

 今も事情が理解できない自分の前後に2人の人影、頭から真っ黒の、両目と口の部分だけ穴の開いたマスクをかぶった誰かが、そこに立っていた。

 

「な…なんだよ、お前ら…」

 

 強がってそう言っては見るものの勝てる見込みはない、今自分は満足に動けもしない状態だからだ。

 

 それに対して、一人は自分より明らかに体格のいい格闘系の者。

 そして、もう一人は、暗い路地裏からまだ完全に出ていない…照明もないこの道ではよく見えないが、鉄パイプだろうか…それとも金属バット?のようなものを肩に乗せていた。

 

 おそらくは、今の衝撃はあれで足のスネの部分を強打されたのだろうと予想はついた。

 

 その二人の内の一人、体格のいい方の人物が口を開いた。

 

「ふん…何も教えることはないな…自分の不幸を呪えばいいさ…」

 

 意味が分からない、彼は何のことを言っているのだろう?

 

「な…なにを?」

 

「さんざん嗅ぎまわってくれたようだが、それもこれでおしまいだな…、証拠の方はあとで勝手にお前の部屋に入って物色させてもらうとするからよ…それとも、今持ち歩いてるかもしれねぇな…、身動きすら出来なくなってからゆっくり探してやるから安心してあの世とやらに行きな」

 

 二人の内の一人がそう言葉を紡いでいく、しかし、その声には聞き覚えがある。

 

 会社で、ずっと近しい距離で聞いてきた声だからだ、間違えるはずもない。

 

「お前…穴沢か?」

 

「ふん…気が付いたかよ…まぁ、そうでなきゃ張り合いもないがな…」

 

「おいおい、だから言っただろ?お前が来ると正体がバレるだろ?ってよぉ」

 

 正体のわからない方の男がぼやいているが、穴沢の方は意にも介さない。

 

「俺はこんな日が来るのを待ってたんだよ、こいつに俺の屈辱の何分の1かでも味合わせてやれる機会をずっとうかがっていたのさ!」

 

「ボクが…お前に何をしたって言うんだ!」

 

「お前は知らないだろうな…お前が中学を中退してからの話だからな、こっちはいつもお前と比べられてきたようなものなのさ、お前は中学を中退するまではクラスでもトップクラスの成績だっただろ?覚えてるか? 中退するやつのために先生までが送別会とかって言って、別れを惜しんでよ、クラスメイトも同様だったよな」

 

「そんな昔の事…なんでいまさら?」

 

「それだけじゃねえんだよ、お前が居なくなってから、どんなにテストで上位になってもいつも周りの評価はお前の方が上だって認識が変わらなかった…お前が在学してたら1点差で、きっと鈴川…お前が1位だっただろうってな…。」

 

「そんな…なんで…それはボクには関係…」

 

「それだけじゃねぇよ! 俺より先にダイブマシーンを購入しやがって…俺の方が先に予約して、確保してたのに、運よく売れ残ってるダイブマシーンを見かけたってだけで何の苦労もなく手に入れやがって、部下に先を越された間抜けな上司、だなんて評価は御免だからな…こっちから予約の方はキャンセルして、ダイブマシーンなんて全く興味ないふりをしては居たが…、ずっと内心では煮えくりかえってたんだよ!」

 

 そう言うと穴沢は、ボクの胸倉をその両腕でつかみ上げる、さらに足を折られたのか、満足に立てない自分を道の奥の方に放り投げた。

 

「なんで…、そんなの…もう10年も前の話じゃないか…ずっとそのことを…根に持っていたのか?」

 

「正確に言うと、10年と7か月前のことだがな…長かったぜ…この日をどれだけ待ち望んだことか…。」

 

 放り投げられた先は、路地裏の奥、突き当たりの…打ち捨てられたゴミの山、立ち上がれず、そこに背を預ける形の自分に、ゆっくりと穴沢が歩みを進めてくる。

 

「そういえば、ネットニュースでやってたが、今日が鈴川…お前が以前、オレを誘ってくれた<ユグドラシル>とかってゲームの最終日なんだってな? ちょうどおあつらえ向きのがあるじゃなぇか…お前の最後にふさわしいモンがよ…」

 

 穴沢はそう言うとボクを軽く蹴って横にどかし、ゴミの山から何かを見つけたようでそれを引きずり出していた、それはリクライニングソファー風のダイブマシン、自分が持っているのと同型の、だが、かなり使い込まれていた物なのだろう…ソファー部分の革の部分は所々破れ、中の綿が外からも見えていて焦げ茶色に変色している。

 

 さらに、その場でしばらく放置されていたのだろう、要所要所に、水滴が付いていた、きっと数日前の雨の日にもこの場に捨てられていたのだろう。

 

 <YGGDRASIL>が終了間近だというのを知って、早々に見切りをつけて捨ててしまったプレイヤーの…過去に見切りをつけた残骸なのかもしれない。

 

 そう思った。

 

「それが…なんだ? それで何をするつもりだ?」

 

 声が震えているのがわかる、どう考えてもイヤな予感しかしないからだ。

 

「ちょうどこれを持ってきて正解だったな、単なる思い付きだったんだが…」

 

 穴沢はそう言って、ポケットから小さなスポイトを取り出し、地面に溜まっていた水たまりの水をスポイトで吸い取って行く。

 

「お前も知ってるよな? 鈴川…お前みたいな貧民の首の後ろにつけられている端子部分…そこに汚水なんてモンを流し込まれたら、どうなるのか…」

 

 そこには、自分が知っている、今まで言葉を交わしていた仲の良い上役の姿はなく、ただただ醜く歪んで、こっちをあざ笑い見下ろす、見たこともない表情をした、かつては同じ学び舎で勉学に精を出していたことのある同窓生だった者の顔があった。

 

 もう一人の格闘系の男は後ろの壁にもたれ、こっちの様子を見ているだけだ。

 

「それに、お前の人生の最後に棺桶替わりとしちゃ、これ以上に相応しいものはないんじゃないか?」

 

 そう言いながら、捨てられていたダイブマシーンの通電プラグがコードごと切られていないことを確認して、適当な建物の壁についているコンセントを見つけると、そこに接続させる。

 

「お? やっぱりお前は運がいいな、鈴川…これ、壊れてないみたいだぞ? しっかりランプがグリーンで点灯してやがら、これでお前も心残りはないだろ?」

 

 そう言って、ニヤけた面を見せつけながら、穴沢は足の爪先でボクのみぞおちを蹴り上げた。

 

 まともに食らってしまった為、身体を「く」の字に曲げ、苦しんでいると、首の後ろにある接続端子にスポイトの中の汚水を注入し、間髪入れず、そこに一緒に捨てられていたヘルメット型データロガーをボクの頭にかぶせ、ネット接続用のプラグを差し込んで来た。

 

 

 首の後ろが今までに感じたことがないほどに熱い…まるで背骨にまでバチバチと電流が暴れまわって、弾け続けているようだ。

 

「ほらよ」

 

 そう言って穴沢は、ボクの体をダイブマシーンにもたれ掛けさせ…というより放り投げた。

 

 少しの間、そこで苦しんでのたうち回った後、まるで体が硬直したように弓なりに反っていた。

 

 もはや、自分の自由などはない、脊髄反射で動いているだけのように、自分の思うように体が動かなくなっていた。

 

 そんな状態で、顔が上を向いていると…「ザザ…」と砂嵐のような画面が目の前に現れる。

 

 そこには、モニターのタイトル画面に似たような風景が見えた。

 

 しかしそれは似て非なるモノ…

 

 

 目の前に見えてはいるが、それは「目の前」ではなく、額の上方、わずかに中空辺りにスクリーンが浮かんでいる様に感じられる。

 

 その砂嵐は、場面を変えて、色んな画像を見せてくる。

 

 自分が良く知る、ギルドのログインポイント、円卓の間、そこのテーブルに荒々しく拳を叩きつける骸骨、きっとあれは装備からしてモモンガさんだ。

 

 次には、後ろにNPC達だけを引き連れ、プレイヤーは彼一人だけ、その彼が、玉座の間にまで来て、玉座に座る。

 

 どうやら時間をカウントしているようだ、手を持ち上げ、何かを数えるように人指し指を上下に何度か動かし…そして、力なく腕を下げていた。

 

 そんなシーンが流れるまま、見ていると、モモンガさんらしき…いや、あの人ならサービスの最後の一秒まで<YGGDRASIL>と一緒にいるのは間違いないだろう。

 

 ならあれは絶対にモモンガさんだ。

 

 そのモモンガさんが、玉座に座ったまま、ギルドの象徴、「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を高らかに持ち上げ、何かを言おうとしていた。

 

 …あの挙動は…、間違いない、みんなでよくやっていたアレだ…。

 

 モモンガさん、そんなの1人でするなんて、止めて下さいよ、

 

 どうせやるなら自分も一緒です…

 

 ログインには間に合いませんでしたけど…、一緒に<YGGDRASIL>に居てあげることは出来ませんでしたけど…、心は、常に貴方と共にあります。

 

 最後の最後くらい…、一緒に言いましょうよ…ボクらだけの…輝かしい、心から誇れるたった一つの…みんなと共に集めた…作り上げた全て、それを湛えるあの言葉を…。

 

 自分が、今どういう状態で居るかなんて、もう頭になかった。

 

 音声が聞こえてこないのは、きっとこのダイブマシーンが壊れているからだろう。

 

 なぜログイン画面を介していないのに、モモンガさんの様子が見えるのか…そんなことはどうだっていい…、死んでしまうその瞬間くらい…ボクにも…その言葉を…

 

 モモンガさんと共に言わせてください…。

 

 すでに力があるのかどうかすら…リアルの自分の腕がちゃんと持ち上がっているのかも、実はもう分からなくなっていた。

 

 だが、それでも…自分の認識の中だけでも、右腕に拳を握り、上に高く掲げる様にした。

 

 本当に持ち上がっているかなんてどうでもいい。

 

 大事なのはこれからなのだから…。

 

「おい、あいつ、今さら何かしようとしてやがるぜ? 見てみろよ?」

 

 どこからか、誰かの声が聞こえる、だがそれも、もうどうでもいい…。

 

 あとは、この言葉を、モモンガさんと共に叫ぶだけなのだから…。

 

 玉座に座るモモンガさんが高く持ち上げる「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」に続くように、みんなでよく叫んでいたタイミングは今でも良く覚えてる。

 

 身に染みついたタイミングで、その言葉を「せめて、ボクら2人だけでも」という思いであらん限りの力を振り絞って叫ぶ。

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」

 

 その言葉を叫ぶと同時に、目の前に映っていたスクリーンが徐々に薄れて行き、意識は次第に闇へと落ちて行った。

 

 

 

 

 




今さら書き直すなんて、大変読み返すのが面倒だと思いますが、大幅に変わったのは
「プロローグ」に色んな描写が加わってるだけなので、気にならない人は気にせず…

次の話を読む前のヒマつぶしに…という方は時間の許す時にでも片手間に読んでやってください。

ちなみにわかりにくいかと思ったので、補足的に説明をざっと書いていきます。



プロローグでの時間軸の流れ。


 
 ※ 2126年3月(仮) ユグドラシルのサービス開始。
      ↓
(1年5ケ月後、鈴川さん、ユグドラシルのプレイ開始)
   2127年8月(仮)(ダイブマシーンを購入)
      ↓(プレイ開始の日から6年後、鈴川、社内で仕事内容に違和感)
   2133年9月(仮)(モモンガに相談)
      ↓(それから2年経過…)
   2135年9月(仮)(鈴川さん、自社で偶然?致命的な証拠発見)
      ↓(それ以外の証拠集めつつ、2年半後、汚職の証拠を譲渡)
   2138年3月末。(鈴川さんダイブマシーン購入から10年と7ヵ月目)
 ※ ユグドラシルサービス終了、及びその日に穴沢に襲われる。
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