気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩 作:yomi読みonly
とは言え、話の展開自体にはあまり変更はなく…状況の説明やセリフの言い回し、キャラの心情など…ちょこちょこと手を入れてる程度なのですが、最初に見た人は雰囲気がガラッと違って感じられるかもしれません。
気が向いて、時間があれば読み直してくれたら「ココ違うじゃん」って部分が見つかるかもしれません。
一応誤字脱字にはいつも気を付けてはいるのですが、何度も何度も読み直すたびに「ここはこう表現した方が…」とか「これは省いて、こう言わせた方が…」とかが時間を置いて浮上してくることが多いです。
そのため、アップ直後より丸1日経過した方が読みやすいものになってる可能性大。
そんな読みにくい作品ですが、いつもお付き合いくださっている皆様に今日も感謝♪
「いい加減にしろよ!こっちだって探してるんだよ!見てりゃわかんだろうぉが!」
いきなりそうがなり立て、相手の胸倉をつかんでつま先立ちにさせてる男、フォーサイトのリーダー、ヘッケラン=ターマイト。
彼の元だけでなくイミーナにも、ロバ―デイクの元にもそいつらは毎日のように顔を出してきていた。
フォーサイトの面々も、遺跡調査の件でアルシェに話を聞きたいのに「よく考えてから結論を出していいよ」という話し合いをした直後、行方が分からなくなったのだ。
「オレらだって、依頼の件で話をしたいのに、一向に足取り掴めなくってイライラしてんだよ! お前らもプロとして仕事してんだろぉ~?見張ってたんじゃなかったのかよ!」
段々とヒートアップしていくヘッケランのその表情にウソはないと判断したのか、つま先立ちにされてる男はヘッケランの手を「ギブ!ギブ!」とばかりにパシパシと叩いている。
その後ろに立っていたもう一人の男が口を開いた。
「そうですか、これはこちらの不手際ですね、フルト家のお嬢さまであった方をお互い探しているのはご同様なんですし…もし何か分かったら情報をいただけますか?」
そう優し気に(刺激しないようにとも言う)ヘッケランに謝罪ともとれる言葉を出し、「わかった際はご連絡を…」と言い残して去っていく。
「チッ! それを探し当てるのがお前らの仕事じゃねぇのかよ…なんのために見張ってたんだか…、こりずに毎日毎日…何度、言えばわかるんだか…。」
「まぁ、仕方ないよ、ヘッケラン、あの子に事情は教えてもらったでしょ?」
と、ヘッケランの憤りを軽く見やりつつ、宿屋の酒場で出されたアルコール抜きの飲み物を飲みながら、〝焦ることはないよ〟とばかりに声を掛けるのはチームメイトであり、彼の大切な女性であるイミーナ。
「あの親父さんや母親から返済の余力がないのは向こうさんだってわかってることなんだよ…だからアルシェ頼みだったのに、回収を焦って妹さんを買い取るだなんて話にしたのが、今回のことに発展しちゃった、っていうことをまだ向こうが掴んでなさそうなのが救いなんじゃない?」
「あぁ、向こうさんは妹さんら二人を天武のエルヤ―に横取りされたとか思ってるみたいなのがこっちとしちゃありがたいんだけどよぉ~…」
少しクールダウンはしてるものの、言ってるうちに再び憤りが再燃し始めたのか、ヘッケランが再び声を荒げ始める。
「その当事者の「天武」の連中も行方が知れねぇ~ってどういうことなんだよぉぉ!」
思いっきりただの八つ当たりだというのはわかっているが、矛先がこっちに全部向くのは勘弁してほしいとヘッケランが悪態をつく。
「まぁ、いいんじゃない? 一部ではあいつの評判、ほんのちょっぴりだけど微上昇してるんだよ?ワーカー連中からは相変わらず冷めた目で見られてるけどね。」
「あん? そいつぁ~初耳だぞ? なんか変わったのか?あいつ…」
その人物がそうそう考え方、生活スタイル、思想が変わるはずはないと思っているヘッケランからすれば寝耳に水な話だった。
「なんでも今までず~っと宿代を踏み倒し同然な状態だったのが、最近ツケにしてる分まで含めて、耳をそろえて払い始めてたみたいよ?」
「はぁ~? それ、当たり前のことだろぉ~、そんなこともできてなかったのかアイツ…」
呆れたような声を出すヘッケランに冷めた声でイミーナはさもあらんと言葉を返す。
「ホラ、アイツだから…」
「まぁな…」
その一言に、その人物の元々の性格が集約されているようであった。
しかし…かつて、トブの大森林で遭遇した…命の危機すら覚悟した超越の存在がその「アイツ」に成り代わってるとは全く予想もしていない彼らなので、仕方のないことなのだが…。
そんな会話の中、不意にヘッケランへと、前に一度経験した感じを思い出させる「感覚」が訪れた…
そして、それに対しての対応はもうすでに経験済みだ…とは言え、相手が誰だか見当もつかないヘッケランには警戒をして受け答えをするしかなかった。
ついこめかみに指を持って行ってしまうのはこの魔法を受けたものが共通して取ってしまう行動なのだろうかと…その場に似つかわしくない感想を抱きながら…
☆☆☆
カルネ村まで同行していたジエットが自宅まで帰り着いたのは自らの仕事を終えて帰るはずの時間…、夕方をとうに過ぎ、夜になってしまっていた。
それもそうだろう…一緒に過ごしていた憧れの人が遠い王国領に行ってしまったのだ、今度はいつ会えるかわからない…しかし、帝国の領地で下手なことを言えばそこから足が付き『借金のカタ』として再び危険にさらされる可能性もある…となると誰にも相談など出来ない…必然的に普段の仕事でやり慣れてるはずなのになかなか思ったように進まないという醜態をさらしてしまうことになり、周囲の人間に心配されてしまうことになってしまっていた。
彼女には彼女の生活、進む道がある…それは頭ではわかっているし、応援もしてやりたいが、気持ちの方ではポッカリと穴が開いたような気分がして、ジワジワとした何かが心をさいなむのだ。
「せめてなにか会いに行ける口実はないものか…」
ついついそんなことを考えてしまう。
しかし今はもう家に帰り着いているし、母の前でそんな顔を見せるわけにはいかない。
「ただいま」
元気を装い、玄関の扉を開けると母の元気な答えが返ってきた。
「あら、不良息子がやっと帰って来たわね、おかえりなさい。」
ずいぶんな言われようだ、母にそんなことを言われたのはいつぶりだろうか…
ポカンとした表情をしていると、それに気が付いた母に追い打ちをかけられる。
「ジエット?あなたね? どこかに泊まるなら泊まるで連絡の1つも寄こしなさい! 食事の用意する身にもなって頂戴よ?」
あぁ…とやっとそこで納得できた、彼はそのことすらもすっかり失念していたのだ。
「作ったお食事はすっかり冷めちゃうし、帰ってくるか、帰ってくるかと思ったら、とうとう帰ってこないし…朝の仕事に行く前に、家に寄ってから行くのかと思えばそうでもないし…」
「あぁ…ゴメン、母さん…アルシェさんが帝国に居られなくなっちゃってね、身の安全を確保するために、帝国外に引っ越すことになったんだ。 その手伝いでね…でも連絡しなかったのはいけなかったね、ごめんなさい」
驚いた母が、先程までの拗ねた顔から、目を見開いた顔に変わり、距離を詰めてきた。
「大丈夫なの? アルシェちゃんに何があったの? ケガはないの? 妹さんたちは? 今どこに居るの?」
矢継ぎ早に質問をされ、戸惑いながらもジエットは「大丈夫だから」とだけ最初に言って、順番に話すから少し待ってよ、と母に告げた後、一息ついて状況の報告をする。
「ここの家に来る前、アルシェさんは家を捨ててきたって言ってただろ?それは親の借金をずっと返済してたんだけど、妹さんたちを連れて家出をしてきたからなんだよ。」
「あぁ、そのことは聞いたわ、『家を捨ててきました』って最初に言ってたもんね。」
「だけど、その前に妹さんたちが「借金の穴埋め」として親に売り払われて、どこかに連れ去られる前に助けることに成功はしたんだけど…そこから後が問題なんだよ。」
さらに一息ついて、母が心の準備を整えるのを待ち、続きを話し始める。
「もうすでに親が妹さんたち、つまり親御さんからすれば娘たちだね、その2人を売り払ったお金は受け取ってるんだ…つまり人買いたちがいつこの家にまで探しに来るかわからないって状態だったんだよ。」
落ち着いて聞いていた母がそこでやっと言葉を出すも…
「あぁ~らまぁ…。」
で終わってしまった。
「そこで、安全な場所まで移り住むのを手伝ってきたんだけど…母さん、そのことは誰にも言わないでね? どこで誰が聞いてるかわからないんだから」
それならこの家の中なら大丈夫なのだろうか…という心配はないのかと言われれば、結論からすると「無い!」の一言で終わってしまう。
この家自体には防音の機能があって、外から耳を外壁にへばりつかせても、中の音はこれっぽっちも聞こえないようになっている。
しかし外見自体に<透明化>なり<認識阻害>なりの機能が元から付与されてるわけではないので、アインズからの使いの者(言ってしまえばシモベ)が<飛行>に<透明化>を身にまとい、ジエットの家まで来て、定期的に<認識阻害>の魔法を施しに来てくれているのだ。
そのため、あまり危険な目には遭わないようになっているし、玄関の扉が開きっ放しにでもなってない限り屋内の音が外に出ることもない。
だからこそ、ジエットがここまであからさまにありのままの現状を話すことができるのだ。
「まぁ…私もあの子たちのことは好きだったから、危険になるようなら、安全なところに居て欲しいっていうのは本音だけど…寂しいわねぇ、最期に少しくらいお別れを言いたかったわぁ」
「あ、そうそう アルシェさんから母さんに伝言があるよ」
「あらあら、あらあら、なにかしら? 楽しみだわぁ」
急に顔を上げてパッと明るい表情になって続きを聞きたがっている。
するとジエットは1枚の羊皮紙を取り出し母に見せる。
それは特に魔法的な効果はない、伝言が書いてあるだけのただの紙の代わりであり、手書きの文章が書かれていた。
『ジエット君のお母さん、急に引っ越すことになっちゃってお別れも言えずにごめんなさい。
そして短い間でしたが一緒の生活楽しかったです。
おかげで貴族気取りの家では経験できない家事やお掃除なんかのお手伝いをする中でたくさんの
ことを覚えることができ、本当の家族のような毎日を経験できてうれしかったです。
妹たちはお皿洗いのお手伝いができて楽しかったとも言っていました。
お別れを言うこともできずに離れてしまうことが心残りです、お礼もこんな形になってしまって
心苦しい限りですが、ささやかなお礼と、お詫びをお母さまに用意させてもらいました。
ジエット君に渡したのでどうぞ、受け取ってください。』
その手紙を読み終わると、少し母の瞳が潤んでいる様子が見て取れたが、それも指で拭き、すでにここには居ない人物に語り掛ける。
「私も楽しかったんだから、そんな気を使わなくてもいいのに…」
そうつぶやくと、ジエットに顔を向け、「ありがとう、届けてくれて…」
そう1つ礼を言うと、思いついたように顔の前で手を叩き、パン!と小気味いい音が鳴ったと思ったら、こんなことを言い出した。
「あ、そうそう、お返事も書くから、場所知ってるあなたに預ければ、届けてくれるんでしょ?ジエット?」
やはり母にはかなわない…、こちらの悩みなどお見通しだったようだ…
「あぁ、もちろんだよ、母さん、ちゃんと届けに行くからさ、それは大丈夫。」
そう言いながらも心の中で母に感謝しているジエットに、今度は違う話題が母から切り出される。
「それはそうと、アルシェさんのお仲間の方々への伝言はどうするの?」
「あぁ、それは仕事の合間、ちょっとした空き時間でしておいたよ。最初はかなり警戒してたけどね。」
「あぁ…そうね、そんな状況だと変な会い方したら、どこで誰に見られてるかわからないものね…そうなると<
「そうだね、案の定、最初はかなり警戒していたけど…ゴウン様が手掛けて作成されているスクロールでの<
「それでもまだまだ知名度は低いものね、イプシロン商会のスクロールは雑音もなくクリアな音質が売りだ…だなんて…。」
「仕方ないよ、徐々に口コミで浸透するしかないんだから…、かつての「あの国」が滅んだ時みたいに、信用が崩れるのはあっという間なんだけどね…。」
そこまで会話が続くと、しばしの空白時間が訪れる…すると再び母が口を開く。
「それで?結局どこまで話すつもり? アルシェさんのことを心配してるだろうし…「今どこにいるんだ?」ってことになるんじゃない?」
「そこなんだよね、バカ正直に言う訳にも行かないからさ…ゴウン様の手で色々良くしている最中で、秘密で進めてることだからね…」
「どうせなら、みなさん一緒に巻き込んじゃうっていうのはどうかしら?」
(…病気が治って、元気になってるのは嬉しいんだけど、なんか最近、すごい勢いで…色んな意味でアクティブになってる気がするな母さん、時々怖いこと平気で言うんだよな…)
「そういうのも有効かもしれないけど…うまく巻き込まれてくれるか…ってところが悩みどころなんだよねぇ~…」
「一番いいのが…アルシェちゃんは妹さん第一で考えてたから、迷わずそこに移り住んだんでしょ?「アルシェちゃんから見た妹さん」的な位置づけで「お仲間さん方から見たアルシェちゃん」も同じくらいの立場だったら同じ流れになって行きそうだし、そう進めばイイね。」
「そうだね…そう進むのが理想なんだけど…どうなるかなぁ~?」
「まぁ、うまいことがんばんなさい! もし、仕事で失敗して責任取らされることがあったって、母さんはあんたに着いて行ってあげるから…、遠慮なくゴウン様のためにがんばりなさいな」
その一言に元気づけられ、翌日の執務室でのフォーサイトのメンバーたちとの会談に対して肩の力を抜き、話す事ができそうだと改めて母に感謝するのだった。
☆☆☆
「それじゃ、母さん、行ってくるね。」
ジエットはそう言って、朝の支度を終えた後、仕事へ行くために玄関で母に声を掛ける。
すると、母の声が聞こえ、自分の言葉に受け答えてくれた。
「あぁ、行ってらっしゃい、私もすぐ出るから待ってて? 買い物に行って来たいのよ」
「あぁ、うん、わかった、こっちも渡したい物があるから、待ってるよ」
もちろん、昨夜に渡しそびれたものだ…話に夢中になったのと、翌日の会談でどういう話を進めていこうかと散々悩んでいたため、朝起きてから渡してなかったのを思い出したのだ。
「よし、これで支度は終わったわ、さぁ、一緒に外に出ましょ?」
そう言って、外に出て、鍵をかけると、いそいそと階段を降りようとしている…、やっぱりすっかり元気になった母を見て安心する。
ゴウン様の下で働くための条件として「母の病の治療」を対価としてお願いして、本当に良かったと思う。
あの時は驚いたどころではなかった、一応魔法学院で魔法のことを知識として教えてもらってはいたし、同じ学び舎で共に学んだ「モモン」君の魔法の手腕はイヤというほど見せられていたので、驚かないとは思っていたが…とてもじゃないが、驚かずにいられなかった。
一度、<
無論、元々アンデッドで、しかも死霊系魔法に特化したビルドのアインズには神聖系の治癒魔法は使えない、しかし【リング・オブ・マスタリーワンド】を身に着けている状態なら神聖系の効果を発現させるワンドを使えるのだ。
アインズが持っている物の中でも、ワンド・オブ・リザレクションをドロップさせる際、それ以上にドロップした下位アイテムの、ワンド・オブ・キュアディシーズは腐るほどどころじゃないくらい持っていたので、惜しくもなかったのだ。
二度目は<
その時、自分はやはりこの病気は治らないのだろうか…と落胆しかけていた、その時にゴウン様が言った言葉が衝撃だった。
「すばらしいな、この世界に於いてここまで手こずる状態異常とは…どこまで耐えられるのか勝負と行こう」…と…
まさか自分の魔法が通じないことに諦めるどころか…尚、闘志を燃やすのだ…その姿にあこがれた…自分もあぁいう精神的な強さを養いたい。
ついそう思ってしまった。
そして三度目。
ゴウン様は<
面白い、それならこれだ…とどこまでもチャレンジ精神を失わない不屈の精神にすでに脱帽していた。
四度目に唱えたのが、<
<
そう…彼はそこまでは知らなかったが、同じような魔法で<
それに対して、<
するとどうだろう…母の全身が光り輝いたかと思うと、すぐに効果はあらわれた。
母の落ち込んでいた体調が見る見るうちに浮上していき、顔色も良くなり、ずっと寝込んでいた母がすぐに立ち上がれるようになったのだ。
何度も涙を流し、礼を言う自分と母、それに対してのゴウン様の言葉は溌剌としたものだった。
「いや~…なかなかに手こずったが、久々に手ごたえのある相手だった、たまにはこういう体験も自分の経験として役に立つ、私も勉強になった。」
そう言われ、衝撃だった…自分から持ちかけた条件だったとはいえ、あそこまで難易度の高い病を苦労して治癒して見せ…自らも「手こずった」と言うほどなのに、それを恩にも着せず「勉強になった」と言うのだ。
その謙虚な姿勢にも心を打たれた。
「この人にはとてもかなわない…」そう思った。
実はその時すでに学院での生活でうっかり彼の正体は見てしまっていたので、「人」ではないと思っていても、彼の言葉、振る舞い、仕草、それらを見る度に彼がただのアンデッドではないと数年も見ていればわかっていたので、そこは抵抗なくすんなりと心に染みわたるには充分な背景は出来上がっていた。
そんな過去のことから思考が現実のものへと返ってきた際、もう母は階段を下りて1階に差し掛かろうとしている、急いでジエットはそれを追いかけ、母を呼び止める。
「母さん、これ! これが昨日アルシェさんの手紙にあった「お礼とお詫び」って言ってた品!」
そう言って母に差し出した品は、帝国でも名前を知らぬ者はいないほどのブランド物の香水。
母は驚き、「こんな高価な物…」と目を見開いていたが…アルシェさんから聞いていた事情も話す。
これは、『親が借金して買い物をした中の1つ』だと…
父親は、貴族に返り咲ける日をただひたすらに夢想していて、美術品や、貴族が持つにふさわしい…と思われるものばかりを買っていたのに対し、彼女の母親は、いつもではないが娘のアルシェさんのために〝女の子なんだから〟という口癖と共に実用的なものを買い求め、それを借金返済に帰ってくる彼女にと「持っていきなさい」と渡してくれていたというのだ。
(「それも結局、借金して買ったものだから、私が返済してたけどね」とアルシェさんは苦笑してはいたけど…。)
その香水もその内の1つ、結局、ワーカー仕事以上に借金を返すために有効な仕事は他になく、ワーカーをする上で香水など、使う機会はほとんどなく、ほぼ忘れていて、開封もされていないからと…お世話になったジエットの母へとそれを「渡してほしい」と贈ることにしたのだ…。
「使っていないから、自分に合わない香りだと思ったら、使うのはやめて捨ててもいい」とも言っていたと、母にはちゃんと伝えておいた。
それを聞いた母は「そういうことなら喜んでもらいましょう。」と懐にしまって、買い物に行ってしまった。
お互いに「気を付けてね。」と言い合いながら。
☆☆☆
ジエットは執務室で悩んでいた。
どう話そうか…どう切り出したら、彼らを…無事アルシェさんと会わせることが出来、かつ住んでる場所もバラさず、今後も付き合わせることに結び付くだろうかと…
そう思っているとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
そう言うと扉を開いて入ってきたのは、受付嬢に案内されて入ってきたフィーサイトの面々。
「しばらくだな、あれから少ししか経ってないが、ずいぶん会ってなかった気がするよ」
そう言って入ってきたのはリーダーのヘッケラン。
もちろんイミーナさんにロバ―デイクさんも一緒だ。
昨日、<
「そうですね、久方ぶり、というにはそんなに日は経っていないですよね。」
そう答えながらも、頭の中はフル回転だ…まだ話のとっかかり、なにから話し始めるかも決まっていない。
ドアを閉めようとしている受付嬢に「何か彼らに冷たい飲み物でも持ってきてあげてください。」そう言って少しでも時間稼ぎをする。
「ハイ、かしこまりました。」受付嬢はそれだけ答えると静かにドアを閉めていく。
「さて、アルシェのこと…聞かせてもらえますか?」
(早速、本題に入って来たか…)
「そうですね…、その前に今、帝国内で様々なワーカーたちに『ある特定の依頼』が幅広い範囲で依頼されているのを知っていますか?」
(これは知らないはずはない、このことでアルシェさんは受けようかどうかを悩んでいたんだから…)
「あぁ、その件を知ってるってことは、アルシェから相談はされていたってことね」とイミーナさん。
「ハイ、その件も混みで、恐らくみなさんも相談というか、報告はされたと思いますが、妹さんたちの件は?」
「あぁ…その件もご存知なのですね、それなら話も早いのでは?ヘッケラン…」
3人が3人とも顔を見合わせ、うなずいている。
…とそこへ、飲み物をを持ってきた受付嬢が扉をノックしたあと、入ってきた。
「どうぞ、こちらになります。」
そう言ってテーブルにグラスを一人一人の目の前に置いて、部屋から去ろうと扉に向かう際に声を掛ける。
「申しわけないですが、これから私は彼らとの話があります、彼らがこの部屋から出るまでここには誰も来させないようにお願いしますよ?」
一瞬、戸惑いの表情を浮かべるも、すぐにその表情も引き締まったものになり「了解しました。」と短く答えて部屋から退室して行った。
「さて、それでは本題の方に入らせてもらいますね…」
(さて、どこからどこまでを話せば良いものか…)
そう考えていると急に、ドアを乱暴にノック、というより殴っているかのような音が聞こえてきた。
ジエットは即座にドアに向かい扉の外に居る者に苛立ちを覚えていた。
(さっき、誰も来させないようにと言っておいたはずだろうに…!)
その思いをなるべく外に出さないようにと努めながら…
「どうしました?急な要件ですか?」
それだけ短く告げると「こちら、先ほど小さい少年がこの店の責任者に渡してくれと言われて受け取ったと持ってきた手紙なのですが…」
そう言われ、目の前に出された手紙を受け取り…手紙を持ってきた担当を部屋から下がらせた。
「すみません、少しだけ、時間をください」と、フォーサイトの3人に断わりを入れ、手渡された手紙を開封して一行目で心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われ、全て読んだ後、ヒザから床に崩れ落ちた。
「何だ…どうしたよ?ジエットさんよぉ…」
何ごとが起きたのか?、と一瞬にして空気が変わったのを察したのか声を掛けてくれる。
しかしジエットは心の整理がうまく頭の中でまとまらず、その手紙を持った手を伸ばしてフォーサイトの面々に渡すことしかできなかった。
「なんだい、おれらも読んじまっていいのか?」
そう不思議がりながら手紙を軽く読み始めたフォーサイトの面々も表情が引き締まっていく。
「おい、こりゃ~…」
「これは相当にまずい状態ですね、一刻を争います。」
「こりゃ~、私たちも知らん顔をしてる場合じゃないってことね。」
やっと少しだけ落ち着きを取り戻しつつあるジエットがフォーサイトの3人に話しかける。
「申し訳ありません、先ほどの話がまだなにも話せていませんが…お力を貸してもらえませんか…?」
「あぁ…もちろんだ…あんたに何かあったらアルシェの情報だってわからないままになっちまうし…なぁ?ロバ―」
「えぇ、賛成です、まだあの鑑定屋でワナに嵌められた際に助けられた恩を返せていないままですしね。」
「そうね、この件でお釣りがくるくらいの恩を売っておきましょうよ」
「…みなさん、ありがとうございます。 恩に着ます…」
力なくそう答えながらも1人でこの件に立ち向かずに済んで少し安心した自分を感じた時、まだまだ「かのお方」には自分は遠く及ばないな…などという場違いなことを思いながらも…今は、この件の解決が先だと気を引き締める。
そして、フォーサイトの面々が目を通した手紙にはこう書かれていた。
〝お前がフルト家の令嬢3人と最後に会いどこかに赴いたことは分かっている。
この手紙が届く頃、お前の母親はすでに俺たちが預かっているだろう…
この意味が分かったら、お前の情報をこっちに渡せ。
さもないと人質の安全は保障しない。
指定した時間までに来なかった場合も同様だ…
あの時の「男」には知らせるなよ…知らせたら人質の命はない!〟
フルト家というのは、もはや「アルシェ」の実家のことを指すのはフォーサイトのメンバーであれば容易に想像がつく…さらには妹2人もこの事件のことにかかわっているとすれば、フォーサイトも無関係ではない。
もしも、これでジエットが母の命と交換に交渉に応じ、アルシェ達が危ない目にでも合えば…と思うと、手を貸すのに迷いはない。
妹さんらの話があり、ワーカーの進退を決めようとしてるくらいだ、アルシェ自身は魔法でなんとか逃げられるとしても妹たちをかばいながらでは難しいかもしれない…。
万が一、妹さん2人…いや、1人だけだとしても命が…いや、さらわれるだけだとしても、そんなことになったら「一生かけても救い出す」と言い出し、チームを抜けることも考えられる…。
そう思うと、フォーサイトのメンバー3人も他人事ではなく、「恩を返したい」というのももちろんウソではないが、利害が一致しているという理由も手伝っているのだ。
アルシェのために…そして、「最後を締めくくる冒険」という想い出を作るよりも前に解散なんてことになったら目も当てられない…そう考え、ジエットに手を貸すことに3人とも迷いはなかった。
そして、この一件が解決したら、遠慮なくアルシェのことを聞き出せる、そういう計算も同時にしていたヘッケラン。
しかし、この手紙を…文面を書いた者は気づいていなかった…自分たちが致命的な間違いをしていることに…。
1つは、ジエットがただの気の弱い、戦闘スキルも、魔法の実力も目立たないタダの恐るるに足らない存在だと思い込んだこと。
2つは、ジエット自身が、そういう脅し、恫喝、危機的状況からの打開策を見出すことについてはピカイチな経験を持ち得ているのを知らなかったこと。
3つは…わざわざ、自分から「知らせるな」という…言わば、その存在を恐れています。という表現をわざわざ明言していたこと。
4つは…その「存在」がある程度自由に姿、顔などを変えられ、姿を目立たないように(消えたようにも)見せられることも知らなかったこと。
(そのことはジエット自身もまだ知らないことではあるが…)
5つは…実は今まで存在すらして居なかった「その彼」の忠実なシモベが、生命を宿し、動き出してしまったということを知らなかったことも含め…。
あらゆることで地雷を踏んでいることに気付かず、人質を取って得意げにしている者たちのカウントダウンが始まっていることに本人たちは気づいてすらいないのであった。
さてさて、いよいよ伏線が整いました、ベルリバーさんのNPC。
前の話しで考えていたNPC像よりも、もっとふさわしいキャライメージが浮かんだので、そっちに変更。
それに伴い、名前も変更することになりました。
どっちにしろ、モデルにしてるのはかつて、私が夢中になっていた、パソゲキャラではあるのですがね。
大好きなので、それを思わずオマージュ(トリビュートでも可)してしまっただけですので、もし不快に思われる方がいらっしゃれば今の内にココで謝罪させてもらいます。
いつもの場所にイメージ画像ありまするぅ~…