気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩 作:yomi読みonly
ヤシチさんは恐らく、帝都のワーカーの誰かの影にでもまぎれて、情報を集めている最中なのかもしれません…
そんな中、彼女の主人は…ちょっとした騒動に巻き込まれることになりそうです。
「そう言えばヴェールさん、あの娘、ちゃんとキッチン周りの片づけはしてくれたみたいですが、私たちのお皿は洗わずに行っちゃいましたね、私たちで洗いますから貸してくださいな」
そう言ってディーネがお皿をまとめると、洗い物をしているセピアとルチルに運んでいる。
「ありがとう、いつも悪いね、そんなことまでやってもらっちゃってさ」
(元居た世界じゃ~こんな風景、味わえなかったしな~、やっぱりこっちの世界は極楽だな、アバターの能力もほぼそのまんまみたいだし…)
「いいんですよ、私たちは好きでヴェールさんのドレイを買って出ているんですから、いつでもお好きな時に、お好きなように私共をお使い下さいね♪」
「ちょっと?そのアピール、ずるくない?ルチルぅ~」
横で洗い物に集中していたセピアから抗議の声が上がる
「あら、ちゃんと『私たち』って言ったじゃない?それに『私共を』も付け加えたわよ?」
しれっと涼しそうな顔でその声を受け流すルチル
「そうかもしれないけどさ~…なんかすっきりしない~…」
どこか納得がいかないのか、あまりいい反応ではないセピアにディーネがフォローを入れる。
「まぁまぁ、それなら今度ヴェールさんのお背中でも私たち3人でお流しして差し上げれば問題ないんじゃない?」
その言葉に気持ちが高揚したのか、明るい声で返答が返ってくる。
「あぁ! それナイスアイデア~♪ そうしよう~っと。」
「おいおい、ボクの意思は聞いてくれないのかい? まぁ、この<
「あらぁ~? おイヤですか~? ヴェールさん? うら若き乙女3人がお背中をお流しするんですよぉ~?」
ニヤニヤ顔でセピアがいたずらっ子っぽい笑みを見せてくる。
「うら若き乙女って、キミらエルフだろ?今いくつだい?」
悪びれもせず、ついそんな受け答えをしてしまったベルリバーにセピアの声が即座に迎え撃つ。
「あら、ヴェールさんが女性に年齢を尋ねるなんて、デリカシーって言葉知ってますか~?それに乙女の定義は年齢では左右されませんよぉ~だ。」
こちらに向けて、おどけたように舌を出している。
「おぉ~「デリカシー」なんて、セピアは難しい言葉知ってるんだな~、キミがそんな言葉知ってるなんてビックリだぁ」
こちらもおどけたようにオーバーアクションでそれに応えてみせる。
「えぇ~? それって私の事、残念な子だと思ってたみたいじゃないですか?」
これでもレンジャー持ちで、勘は鋭いのに~…だの、森でのことも少しは知ってるんですけど~などとブチブチ言っている。
そしてその空気を読んだかのようにディーネからその場の空気が変わるような言葉が放たれる。
「ところでヴェールさん? なにやら、さっきまで割と量があった香辛料がほとんど無くなりかけてるんですが?」
その内容にはさすがの彼も驚いた、アルシェの護衛という名目でただ付き添ってただけの自分に対して「お礼の気持ち」だとして、ジエット氏からわりと多めにくれたはずだったのに…もうそれがなくなりそうだというのか…と、ストックとして取っておいた分がないか戸棚を調べると、なんとかビンの半分くらいはありそうだった。
「あったぁ~…よかったぁ~…まさか4人分の鳥肉を調理するためにほぼ一瓶、塩コショウをすり込むのに使ってしまっていたとは…」
と呟くと、ふと思い至り、ゴミ入れの中を見てみると、どうやら失敗した分なのだろう…翼と脚、頭のない鳥だった残骸が数体分、捨てられている。
どうやら、設定した『料理人』としての矜持が中途半端を許さなかったようだ…調理途中のまま、可哀そうな鳥たちがそこに打ち捨てられていた。
(恐らくすり込む塩コショウの分量でも間違えたんだろう…今度ゆっくり話ができる機会があったら、「報連相」の概念をしっかり教えておこう。)
こっちではユグドラシルの時のように調理するための場所があり、そこで食材をそろえ、コックのクラス持ちのキャラが「調理」と選べば自動的に料理が出来上がっていたのとはわけが違う。
火加減の調整も必要なら、香辛料や、油、味付けするための物資は必要不可欠なのだ…。
今回は香辛料だけで済んだが、今度からは他にも必要なものは出てくるに違いない。
そう…味噌、醤油、ソース…ソースも確か、普通の中濃ソースだけじゃなくハンバーグ用のデミグラスとかいうものや、ウスターソースにオイスターなど…挙げればキリがない…それを料理人が全部作れるわけじゃないし…さすがにそれらを1LVのフレイに丸投げって言うのはまずいだろう…とは言え…ボクではどう作るのかわからないしなぁ~…
まぁ、普通のソースを作るのにも先立つ物は主な材料と…主要なスパイス…つまり香辛料だ。
砂糖のような甘いものは楓の木??だったっけか?そういう物から甘味料がずっと昔は採れていたんだと、死獣天さんが教えてくれてたこともあったな…
(どっちにしろ彼…ジエット氏の協力は必要だろう…そんなことくらいで協力を頼むのはすごく心苦しいが…急ぎじゃないけど…っていうのは伝えた上で、お願いしてみるかな?)
「ちょっとみんな?今から<
(移動するって言ってもリビングの隅の方だから、そんなに遠くにじゃないけど、どっちにしろこの距離じゃ、エルフの耳なら、丸聞こえだろうな~…まぁ隠す内容じゃないし、いいんだけどね。)
別に隠すわけじゃないけど、過去に電話という文化があった以前の世界での習慣からか、少し話をする際は距離を空けてしまう、なんとなくで意味があるわけじゃないけど、そういうものだと分かってくれればそれでいい。
そして<
しばらくの間待っているとプツ…とした感じを覚え、相手が通話状態になったのがわかる。
「あぁ…ジエットくんかい? 先日はカルネ村まで大変だったね、アルシェちゃんの護衛として付き添った者だけど…」
と、ちゃんとお互いだけが知りえる情報で、身分の証明を含めて、相手に自分と言う存在からの魔法だと認めてもらう。
(最初のワーカーパーティーであるフォーサイトの面々から<
「あぁ…あの時の…良かった…連絡が取れて…大事なことを聞くのを忘れてて、どうしようかと思って居たんです。」
『え?大事なこと? なんでしたっけ?』
「えぇ~っと、自分の名前は自己紹介で伝えておいたのですが、そちらの名前を私が聞きそびれていたので…連絡が取りたくても取れなかったんです。」
『あぁ…そうでしたね、すみません、こちらも…名前を名乗ってもらったのに自己紹介を忘れてしまっていたなんて…』
「まぁ、そんな話はいいんです、お名前はまた改めてでいいんですけど、お力をお貸し願いたいことが出来まして…ちょっと大変なことになってるんですよ。」
『え? なんかあったんですか?』
「実は、母がさらわれてしまいまして…アルシェさんの実家の借金のカタに、妹さん達を連れ去ろうとした者達に関連している輩のようです。」
『えぇぇぇ? そりゃ大変じゃないですか! それじゃ…今からそちらにお邪魔しに行けばいいんですね?』
「あぁ…それもそうなんですけど…すみません、ちょっとこちらにも事情がありまして…すみませんが、女装など…できませんか?」
『………は……?』
☆☆☆
『なるほど、一瞬、何を言われたのか分かりませんでしたが、やっと理解が追い付きました。』
「すみません、こんなお願いを…でも、妹さんを救った際の貴方の実力は向こうも警戒しているのでしょう、わざわざ「呼ばないように」なんていう弱みを見せてくれて助かってます。」
『でも、急がなければなりませんね、早めに行動をしないと貴方のお母さんもどんなことになるかわかりません、さっそく女性に変身して、そちらに向かいましょう。』
「ありがとうございます、実は助けに向かってくれるのはアルシェさんのワーカーのメンバーさんも一緒なんです、なので、私たちは一足先に指定された場所まで行くようにします。」
『そうですか…でもそれだとこっちの方が指定場所についての知識も薄く、土地勘もない為に迷ったりしないか心配なんですが…』
「あぁ、それなら私のしているメガネ、その名も御方直々に命名していただいた「魔眼殺しのメガネ」という名前で<
『は?ちょっと待って?なんでそれ…って、あぁ、そうか…アインズさん情報かい?もしかして』
「はい、聞かせていただきました、我が主の仲間であり、主ほどではないが、この世界に於いては過剰なまでの魔力系魔法を使えると…なので我々が知りうる程度の位階魔法であれば問題なくご存知であろうと…」
『わかった、アインズさんが話してもいいと判断したのなら、それで問題ないんだろう…だが、言っておくよ?もし彼の…アインズさんの不利益になるようなことをしでかすようであれば…』
「分かっております、もしそうであれば、その時は遠慮なく…、主の下で支店長をさせていただくにあたり、その件については契約として結んでおりますので…」
『そうか…それならいいんだ…、ところで、キミの母親が…っていうことなら、アインズさんにも一報は入れた方がいいぞ?「報告、連絡、相談」つまり『報連相』はどんな軽い問題でも伝えておく必要性はあるだろうからね。』
「はい…わかりました、そうさせていただきます。」
『ちなみに話を合わせるために、合言葉を伝えておくね? 恐らくキミらも聞いたことのない用語である方が信憑性は高いだろう…だから、合言葉は『ヤシチ』だ。』
「ヤシチ…が合言葉なんですね、わかりました。」
『念のため外見の特徴も伝えておこう、黒づくめの服を着て、片腕にはガントレット風のバックラーを着けている感じだ…かなり特徴的だから一目見ればわかると思うよ。』
「承知しました、それではよろしくお願いしますね。」
『あぁ、こっちもよろしくたのむよ…あぁちなみにその指定場所から一番近い場所ってどこら辺?』
幸いにも、ヴェールが「エルヤー」として、一度訪れたことのある「
☆☆☆
「聞いてましたよ?ヴェールさん…なにか大変な事態になってそうですね…行かれるんでしょ?」
エルフの3人はすでに装備の支度を整えている。
「まだ何にも言ってないけど…よくそこまで準備できるね」
彼女たちの勘の良さにはこういう時、ホントに恐れ入る気分だ
「ヴェールさんのお仲間の方の名前、そして母親という単語、そして、連絡は入れた方がいい…これだけで大体、大ごとだろうなというのは予測できます。」
ディーネがすでにあの空色の鮮やかな鎧装備を身に着け、フレイルも両手に持ち、他の2人も準備万端で「いつでも…」という気合は充分の様子だ。
「いや、今回向こうは他のワーカーチームが加勢に入っているようだ…ボクらだけならまだしも、近いうちに遺跡探索の依頼がある以上、少しでも現時点で他のチームに面が割れる危険は冒せない…今回はボクだけで行くよ…。」
言いたいことはよくわかる、そのことは理解はしているが、それでも自らの主1人で行かせるという状況は3人としても見逃せる訳はない…3人が「でも!…」と口を開きそうになった時…
「だから…ボクと一緒に来てくれるかい?」
一瞬、息を飲んだ…「自分一人で行く」ということと「だから一緒に」という言葉の真意に3人がほぼ同時に気づき、その表情は明るい物へと変わる。
「「「ハイ! 喜んで、どうぞ!!」」」
そう言うと3人のエルフは満面の笑顔で両手を左右いっぱいに広げて受け入れる体制をとる。
「じゃ~…いくよ?目もつぶらずに、背中越しでもないのは初めてだね…怖くないかい?」
「ヴェールさんのお力になれるのなら、どんなことでも怖くありません。それに…これで何度目だと思ってるんですか?」
先程のブツブツしてた時の表情はどこへやら、吹っ切れたような笑顔で言うセピアに、追随して頷くディーネとルチル。
「ありがとう…3人とも…」
そう言うと、大きく口を開け…いつものように傷つけないように最大の注意を払い、彼女らを丸呑みにした…。
これで一心同体となった4名は、決意を新たにし…ヴェールはその外見的特徴を「ヤシチ」の姿へと変え、かつて、エルフの彼女らを助けた時同様、ハロウィーン用のイベントアイテムとして、ログインの際、受け取った<
「この装備も久々ですね」
そう懐かしむ時間も早々に、その姿を黒づくめの…忍者用の衣装<
「まぁこの世界じゃこんなもんだろ」と結論を出し…
お腹の中の3人へ〝危なくなりそうだったら防御力上昇系とか、能力向上の方、頼んだよ?〟とだけ伝え、お腹の中から彼女らの『任せて!』という声を受け取りながら…
<
ナザリックの数名も含めた騒ぎになるということには気づかずに…
外見だけ、女性の姿になったヴェールさん。
ナザリックは、誰をこの騒ぎの収束役に抜擢しようか、色々悩んでいたり…
どんな解決の方法をとることやら、できれば穏便に…とはいかないのがナザリックスタイル。
穏便に済ませそうなのはセバスにユリの2人、カルマが善の2人ですが…
一応、ジエット君が所属している鑑定屋さんの親会社は「イプシロン商会」
つまりはソリュシャンが社長令嬢と言う立場に表向きなってるんですよねぇ~…
そうなるとソリュシャンとセバスが妥当なのかな?とかなんとか…
居るはずなのに誰にも顔を見せていない(存在すら危ぶまれている)イプシロンをファミリーネームに持つお父さん…たぶん、なるとしたら、パンドラが役になりきろうとするのかも…。
一応、アクターという名前を付けられ、「役者魂」を持ってるようなので役に入れば忠実にやってくれそう…でも時々顔出すオーバーアクションが珠に瑕…