気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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ベルリバーさんが偽エルヤ―として、墳墓調査の件を聞いたのはこの日から数えて5日前。

そしてフォーサイトのメンバーはこの日から数えて3日前、という感じです。

その時点であと二日ということは、依頼を与え始めて、ワーカーのチームを多く集めるために一週間は見ていたということになりますね。

 あと何話で、墳墓編、スタートできるのか…

 そして次の話は、再び訪問のカルネ村編か…それともソリュシャン&セバスがフレイラとの初顔合わせでしょうか?

 まぁ、5月の内に、最新話が更新できてよかったです。


第25話 フォーサイト、人質の救出に協力

 ベルリバーが転移先として選んだのは、自らが定宿にしていた…今では引き払って数日経っている宿屋兼酒場でもある場所の裏勝手口の外側である。

 

 かつて、偽エルヤーとしてここに訪れた初日に、元エルヤーがしこたま踏み倒しまくっていた宿賃をかなり強引なさりげなさで店主に支払った場所だ。

 

 ここなら店の人間でなければ使わない出入口だし、しかも今は夕刻の少し前、きっと夕食の仕込みやらなにやらできっと忙しいだろうと踏んで転移してみたが正解だったようだ。

 

 誰にも見られている様子はない…しかし、いつまでもここに突っ立っていてはいつ、誰に見られるか分かったものじゃない…そう思い、すぐにそこから歩いて宿の敷地から移動をし始める。

 

「ここからの『黄金色(こがねいろ)の菓子亭』の道順は確かこっちだったよな…」

 

 何も考えずにその場所までの道を歩いていると、どうにも人の視線が気にかかる…それもそうだろう…、見た目は黒ずくめの全身で、首からマフラーをたなびかせ、見えているのは目の周辺のみ、額は『ハチガネ』と呼ばれる金属で覆われている。 背中には忍者刀と呼ばれる、小太刀より長いが、刀より少し短めに作られている武器を背負っている…とは言え、この姿は<擬態>で真似ているだけで、武器や防具の性能に全く期待など出来ない。

 

 一応、腕に装着させているガントレット風に仕上げたバックラー、これもこの世界に来た時に間に合わせで作ったものだが、「これを目印に」と伝えてある手前、装備はしている。

 

 防具と言う観点で言えばよっぽど、そのバックラーと、外に着ている早着替え機能のついたローブの方が防御数値としては上なのだが…そんな怪しい人間が(夕刻の人通りも少なくなっているとはいえ…)シレっと出歩いているのだ。

 

 それをいぶかしく思わない方がどうかしているというものだが、ベルリバー自身は「エルヤー」としての自分がバレるわけにはいかない為の変装と言う意味もあって、職質でもされたら、された時だ…そう考えていた…そして、運よくその『黄金色(こがねいろ)の菓子亭』にまで無事にたどり着く。

 

「たしか、ここの裏通りに入って、ず~っと道なりに沿って行くとたどり着く、「放置されてる建物」だったはずだな…」

 

そう思って居ると、すぐに声が掛けられる。

 

「あの~…あなたがヤシチさんですか?」

 

 その声に振り向くと、そこにはやはり、あの時一緒にナザリックに行った彼、ジエットと、今回の騒ぎで助太刀を買って出たワーカーチーム、フォーサイトの3名が立っていた。

 

「えぇ…その通り、私が今回みなさんの助勢に入らせてもらう者で…『ヤシチ』と名乗らせてもらっています。よろしくお願いしますね?」

 

 首に<いたずらの声(ボイス・オブ・トリック)>を装着している為、発する声はそのまんま、女性の声だ…が、フォーサイトの面々は、中身が一度会っていることのある『全身口だけ男』とも言える異形の彼がその正体だとはまだ気づいていないようだ。

 

「お早いですね、こんなに早くにこちらまで来られているとは…」

 心底、意外そうにジエット氏が驚きの声と共に手を差し伸べてくる…これは握手というものだろう…その習慣がこっちの世界にもあるのは面白い発見だが。

 

「これでも急いで来ましたのでね…お母さまのことがあるなら急を要するかと思いまして。」

 すっかり女性としての演技に入っているベルリバー改め「ヤシチ(仮)」はジエットから差し伸べられた手を握り返し、合流できたことを共に喜びあっている。

 

「その人がさっき言っていた、心強い助っ人ってことね…なんかすごいカッコだけど…雰囲気からしてタダ者じゃない感じはわかるわ、よろしくね。 私はイミーナよ。」

 

「あ、ハイ、こちらこそよろしくお願いしますね?イミーナさん」

 そう言ってイミーナとも握手を交わす。

(この娘、イミーナって言う名前だったのか…初対面じゃ警戒して名乗ってくれなかったもんな…、やっと名前が分かったけど…やっぱり見た目が同性だから安心してくれてるんだろうな。)

 

「オレは、リーダーのヘッケランだ、よろしくな。」

 名乗ってもらわなくても、あなたの名前は知ってますと、心の中で呟いていたが、敢えてそれを口には出さず…。

 

「ヘッケランさんですね、よろしくお願いします。」

 初対面ではそういえば握手さえもしてくれなかったということを改めて思い出し、何とも言えない気分にさせられた。

 

「私はロバ―デイクと申します、共にがんばりましょう。」

 このおっさんはロバ―デイクって言う名前だったのか…この人も名乗ってくれなかったしな…これが初名乗りってことになるな。

 

「ロバ―デイクさんですね…こちらこそ、何かあったら、よろしくお願いします。」

 

 そう言って一通りのメンバーと握手をして面通しをしてから、ふと、あることを思い出し、ジエットに疑問を投げかける。

 

「そういえば、ジエットさん、今回のお話では「あの男には知らせるな」という文言があったみたいですが…、いっそ、みなさん女性に変装してその現場に行ってみるというのはどうでしょう?」

 

 一瞬、ジエットも何を言われたのかわからなかったようだが、時間と共に脳内に浸透してきたようで、それについての異論をはさむ。

 

「いえ、お申し出は嬉しいですが…、変装って…そんなことできるんですか? 幻影魔法って言われても、体格に近い幻は纏えても、明らかに自分より細身の女性になるには低位階の幻影では難しいのでは?」

 

 一般的な魔法が第3までが一般基準の世界であれば当然の認識である。 …しかし、この「ヤシチ(仮)」さんはただモノではないのだ…しれっとその代案を用意している。

 

「それなら見た目自体をそのまま、肉体構造ごと、女性に変わればいいだけですよ。」…と。

 

「「「は?」」」

 

 何を言われているのか芯から納得できていないフォーサイトの3名は、素っ頓狂な声を出し、呆気にとられた表情をしている。

 

「いやいやいや…それっておかしいだろ? え?? なに?そんなこと常識で考えて出来るもんか?」

 

 リーダーであるヘッケランが率先して異議を唱えてくるも…

 

「私が持っているマジックアイテムなら可能ですよ?…とは言え、ちょっと見た目が微妙なので、それを装備したら…まぁ、見た目は帽子なのですが…その帽子部分は幻影で見た目をごまかした方がいいかもしれない物は一つだけありますね。 あと一人分は、恐らく見た目からして問題ないのですが…。」

 

 どうやら肉体構造ごと、男性体から女性体に変わることにできるマジックアイテムを持ってるらしいが、ヘッケラン用と、ロバ―デイク用の2種類のことを言っているのだろう…。

 それは分かるが…『見た目が微妙』とはどういう意味なのだろう…と思って居ると、その彼女から早くもそれについての提案が投げられる。

 

「とりあえず、出してみますので、どっちがどっちをかぶるかは好きな方を選んでくださいな。」

(…とその前に、このやり取りを誰かに見られたらマズイよな…念のため<認識阻害>をかけておこう)

 

 そう言うと、懐に手を入れながら…こっそり<認識阻害>の魔法を発動させる…そして、そのローブの下のどこに隠していたのか…一つは魔法使いがよくかぶっていそうな三角帽子と言われる、見る限り革製のただの帽子。

 そして、もう一つはカボチャの外側、それの上半分だけを帽子状にしたようなもの…明らかに「見た目が微妙」と言っていたのはこれのことだろう、と言うのが理解できた。

 

 これはどちらも<いたずらの声(ボイス・オブ・トリック)>同様、12年に渡るユグドラシルの中でのイベント時期、ハロウィンの日だけに配られていたログインアイテムの内の2つ。

 

 <パンプキンキャップ>と<『魔法使い』の皮帽子>というものだ…、ベルリバーは最初期からユグドラシルをやっていたわけではないが、それでもギルドの結成がなった時には初期メンバーとして参加しているのだ、8年目を半分ほど過ぎてからギルドは脱退したが…それまでの間はずっとギルドと共にいたのだ、数点は保管していたりする。

(っていうか、わざわざ『魔法使い』ってカッコでくくってまで強調して「革」じゃなく〝皮帽子〟ってところに悪意を感じたんだよなコレ…、ワルノリが過ぎるだろ、クソ運営が!って思ったもんだよな…)

 

 ちなみにこの<『魔法使い』の皮帽子>は、嫉妬マスクを6つ以上所持していると、配られていたもので、その数未満だと<ハロウィンの魔女帽子>という名前だったりもしているのだが、それは彼…ベルリバー自身も知らぬことである…もちろん至高の御方もそれは同様なのだが…そのお骨様はとある事情により、その変装用の帽子は所持していない。

 

「それのどちらをかぶっても、同じように、女性に変わることは出来ます。 ですが…その微妙な見た目の帽子状の物の方ですが、男性の、違う顔になることも出来るのですが、今回の件に限り、そうなることにメリットはないので、気にしないでもよろしいかと思います…。」

 

 それから2人はしばらく悩みに悩み、ロバ―が「皮の帽子」、ヘッケランがカボチャの方を選ぶことになったようだ。

 

 そして二人が意を決して、その帽子をかぶると…

 

 ロバ―デイクが魔女の姿、ねじくれた魔女の杖の見た目そのまんま、真黒なローブを身に着け、手には魔導書らしきものを所持している。

 そして長い黒髪…、そしてどこかおっとりとした垂れ目っぽい表情は、元がロバ―デイクだった要素など一つもない。

 

 そしてその表情はどこか感情に乏しく、ある意味無表情に近い、何を考えているのかわかりにくいものとなっている。

 スタイルなどはローブに隠されてよくわからないが、妖艶な魅力と言うよりは、まだ成熟しきらない未完の魅力と言った方がいいだろうか…少女以上、女性未満、強いて言えば某血塗れの将軍さまとどっこいか、少し上に見えるかどうか…といった程度だろう。

 

 そして、ヘッケランはと言えば…サラリと流れる金髪、肩甲骨あたりにまで届く程度には長く、元の姿であれば、髪の、とある場所にあったメッシュっぽい色あいが、前髪の中央、正面に位置する場所に変わった程度か…双剣使いという設定は行かされているのか、軽装鎧なのは見た目そのままだが、女性的なスタイルが鎧の形すら変えたのだろう、丸みを帯びた膨らみの場所と、曲線を描いてくびれる腰部分、明らかに完成度が違う「女性」そのものになってしまっている。

 

 その姿を見たイミーナが雰囲気を一変させ、ヘッケランに詰めよる。

「ヘッケラン? 誰?その女…どこの誰よ…誰をモデルにしてるのよ!」

 

「は?なに? なんだよ?オレがどうなってるって?」

 と、口調はヘッケランのままだが、声質は女性のものになってしまっているため、セリフ回しに違和感がすごくなっている。

 

「そこまでリアルになっといて、誰もモデルが居ないなんて信じられると思う?」

 そういってイミーナは自分で持ち歩いていた手鏡を持ち出し、ヘッケラン♀に見せる。

 

「え?誰だよこれ…オレ? これがオレってことなのか?」

 

「動揺されているようですが、それらは、そのマジックアイテムに初めから入れられているデフォルトのアバターデータです、被った人の想いが作用してるわけではありませんよ?」

 と、さりげなくフォローを入れるヤシチ(仮)

(とはいえ、ユグドラシルでもあんな感じだったかな? よく覚えてないけど、ちょっと違う気もする…まぁ彼らのチーム内の空気が変なことにならないようにそう言っておこう…真実はどうあれ…)

 

「でふぉると? って?」

 その言葉の意味が伝わらなかったのだろう、フォーサイトの面々も、ジエットも不思議そうな表情をしている。

 

「あぁ…最初から入ってる内装…って言った方が通じますか?そういう感じだと思っていただければ…。」

 

「さて、とりあえず、見た目等は女性に成り代わったことですし、ひとまずはこれで相手を油断させられそうですね。」

 

 そう言って、とりあえず先を促そうとしていると、思いもかけない方から声が掛かる。

 

「あの………」

 

 聞き取れたのが、奇跡か?と思えるほどの小さな声、一瞬だれ?と思うも、そちらに顔を向けると姿を変えたロバ―デイク♀、魔女っ子姿になっているその人からの声だった。

 

「どうしました? ロバ―デイクさん?」

 

「……… これ……どう……使うの?」

 彼女(ロバ―♀)が見せたのは手に持っている魔導書…そう言えばこっちの世界でどうなっているのだろう、「外装データのアクセサリ」…要はただのハリボテとしての意味しか持たないのか…。

 

 それとも「魔導書っぽい本」ではなく、魔導書になっているのだとしたら何かの魔法を封じられていたりするのだろうか?

 

「とりあえず開いてみてください、その本、開けられますか?」

 

 静かにロバ―♀が本を開こうとすると、あっさりとページがめくられ、ぺらぺらとページをめくっていく。

 なにが書かれているのかを言わず、黙々と本に見入っている。

 

「何か…読めましたか?」

 ヤシチ(仮)がそう尋ねると、本から顔を上げたロバ―♀がぼそっとか細い声で応える。

 

「見た瞬間は読めなかったけど、見入ってたら信仰系の言語に変わってくれた、今なら読める。」

 

 そう言って、首をかわいらしくコクンとタテに振る。

 

 この<『魔法使い』の皮帽子>は、性格や話し方も根っこから変えてしまうのだろうか…まぁこれなら「こいつはロバ―デイクだ」って言っても誰もが信じてはくれないだろう。

 

「ということは信仰系の魔法が書かれていそうですね、守備、回復、サポート、攻撃に転用できる魔法でもありましたか?」

 

 興味深そうにジエット氏がのぞき込もうとするも、すすっと後ろに下がってしまう、どうやら人見知りの設定でも入っているかのようだ。

 

 少し離れた所から、また消えいりそうな声で返事を返してくる。

「初めて知る呪文の名前ばかり…でも、下に説明と使い方、何を代償にし、どういう効果で発動されるかが書いてある…。」

 

「まぁ、そういう仕様になっているのは意外でしたが、それなら悪漢程度など、問題にならないでしょう。」

 

 ヤシチ(仮)がそう言いつつ、ジエットに向き直り、1つ、提案をする。

 

「思い付きで提案させてもらって、みなさん女性になる流れになりましたが、そのまんまフォーサイトの名前のままで大丈夫なのは恐らくイミーナさんだけでしょう。 どうでしょう?ここは少し名前の雰囲気を変えて呼ぶようにしては?」

 

「私は別にかまわないけど、どんな名前で?」

 自分はイミーナのままで大丈夫という立場で問題ないからなのか、気軽にそんな対応で返答するイミーナ。

 

「そうですね…「ヘッケラン」さんは〝ケーラン〟」、「ロバ―デイク」さんは〝ローバァ〟なんて言うのは?」

 

「面白いわね、それで行きましょう。」

 明らかに楽しんでいるのか、イミーナは悪戯っぽい笑みを浮かべ、ヘッケラン改め、ケーランに声を掛ける。

 

「よろしくね、ケーラン♪ この事件が終わったらすぐ元に戻れるんだし、今はその名前を楽しみましょう。」

 

「お前は…他人事だと思いやがって…、こっちはロバ―…じゃなくて、ローバァと違って意識も感覚もオレのままなんだぞ?恥ずかしいったらねぇっつぅの…」

 

「まぁいいじゃない?そういうのも可愛いわよ、ケーランちゃん♡」

 そう言ってイミーナはケーランを後ろから抱きしめるようにして、明らかに面白がって、可愛がっているかのように見える。

 

 そういうやり取りを見ながら、横で魔法の詠唱を始めたヤシチ(仮)は、ケーランの頭部に収まっているカボチャ帽子をごまかすため、<幻影の視覚(ビュー・オブ・ミラージュ)>を発動させ、ちょっと可哀そうな見た目をごまかしてやる。これで、とりあえず普通の金髪美女(見た目のみ)の出来上がりだ。

 

「さて…それじゃとりあえず、どうします? ジエットさん…これからこのままでその現場に行きましょうか? 貴方以外が全員女性であるなら、油断してくれる可能性は充分にあり得るかと思いますが?」

 

 そう問いかけると急に自分の周囲につむじ風のような何かが小さく舞い上がり、ヤシチ(仮)にだけ伝わるささやきが聞こえてきた。

 

『マスター…いと高き主よりの御意向を賜るべく、ヤシチ、ここに参上いたしました。』

 

「うむ…そうか…それならしばらくはそのまま私の行動を見ていてくれ、追って指示を出す。」

 

 口元に少し指を曲げた状態の手を持っていき、声を落としてそうつぶやく、とりあえず他のメンバーには聞こえないようにと気を付けてそう指示を出した。

 

 

                    ☆☆☆

 

 

「アニキ! とうとう来やがった その女の息子と…取り巻きらしい女どもだ…約束通り俺らの邪魔をしたあのヤロウはいねぇみたいだぜ!」

 

 外の見張りをしていた、この中で一番若手の新人がその目で『見たまま』を報告してくる。

 

「おぉ、来たか! それで? 取り巻きの女どもはどんなやつらだった?まさか丸腰ってことはねぇんだろ?」

 

 一番年長らしい、どこまでの魔法を使えるのかは不明だが、恐らくはそこまで多くの魔法は使えないであろう男が、呼び出した者らの特徴を見張りに尋ね、少しでも情報的優位に立とうと試みている。

 

「えぇ…それが…、いまいちピンと来なくって…見た目なだけで言いますと…」

 見張りもどう表現していいのかわかっていないようだが、見た目からだと判別できそうにない者も含まれているようだ。

 

「なんだよ、ハッキリしねぇなぁ…いいから見た目からの推測でもいいから言ってみろ?」

 

 先を促された見張りの男は仕方なく、確定事項だけを告げることにした。

 

 呼び出された当の本人であるジエットはと言えば、もちろん見た目だけでは武装などはしていない、戦闘力がないのか、魔法を使うのが主な戦い方なのかは調べてもわかってないようで、いまいち決め手に欠けるという結論。

 

 そして、ジエットを守るように前に立つのはフードを外し、ローブを身にまとった黒ずくめの…恐らくは女?ではないかという雰囲気程度のものを感じたくらいで、大きな武器らしいものは持っていないように見えたが、よくわからない不気味さを纏っていたようだ。

 

 ジエットの後ろで、不意打ちをされないように守っているのは見るからに魔法詠唱者(マジックキャスター)

という装備一式と魔導書らしきものを持ったフードを目深にかぶった女、その女の前には恐らくはレンジャーらしきハーフエルフ、そして、最後尾には腰に予備武器なのだろうメイスと、主武装であろう2本の剣が備えてある女剣士?のような組み合わせであることを告げた。

 

「ん~…その黒ずくめがどういう戦い方をするかはわからねぇが…どうやらあのフルト家のお嬢さんがチームを組んでいるワーカーメンバーじゃなさそうだな…合致するのはハーフエルフって点だけだ…あとは全く違う構成だからな、まず十中八九、寄せ集めなんだろうさ」

 

 〝こちらには人質が居るんだから〟という優位が自分らにはあるという精神的余裕がそうさせているのだろうが、あっさりと来客を通してしまう…イミーナの弓さえも取り上げようと指示しないというのだからあまりにも浅い考えの者たちなのは明白である。

 

 放置されている建物と言っても、裏通りにあるというだけで、決して『廃屋』のように朽ちているわけではない。それなりの建物の体裁は整っていて、客間のような造りの部屋に通されたジエットたちが、ソファーにどっかりと座って待ち受けていた人物と対面していた。

 

「どうも初めまして…ですかね、お招きに預かったのでここまで足を運びましたが…?一体どういった用件でしょうか?こちらには全く心当たりがないのですが?」

 

 まず最初に口火を切ったのはジエットだ。

 恐らくは相手も確信をもって人質なんてとったのだろうが、相手の出方を窺うのは常套手段だ。

 

「そうですか? こちらとしても聞き流すなど出来ない情報を得てしまいましてね…あの日、えらい上等なスレイプニールにひかれた馬車に乗ってどちらかへ行かれたようですが?その時はたしか…フルト家のお嬢さま方3名もご一緒だったとか…?」

 

 こちらの表情をのぞき込むようにして反応を引き出そうとする相手に対して、ジエットも顔色を変えずそれに返答をする。

 

「あぁ…あの時は仕事上で付き合いのある取引相手との交渉がありましてね、こちらも裕福なところを見せないと足元を見られてしまいます。なのでこの身にそぐわないとしても…必要以上の乗り物を用意したい事情があったんですよ…そこにあの3人のお嬢さんが「同乗させてほしい」と言ってきましてね?」

 

 そこまで一気に言うと、少しの間を置き、今度はジエットが相手の瞳を覗くようにして言葉を紡ぐ。

 

「話を聞くと人さらいに妹さん2人がさらわれそうになったというじゃないですか…世の中は物騒ですね。そんな輩が居るなんて…と不憫に思いまして、途中まで乗せましたが…、通りすがりのルーズィンタールで「ここまででいい」と言って下りてしまいましてね、そこから先は私も知りませんよ?」

 

 そして、目の前の相手にも念のための警告することは忘れないで告げておく。

「最近はなにかと物騒ですからね…人さらいというのはいつ、どこで、誰の下に唐突に訪れるかわかりませんからね…あなた方も気を付けた方がいいですよ?」

 

 言われた相手は一瞬、呆気にとられたような表情をしている、「この男は何を言ってるんだろう」とでも感じたかのような表情を浮かべていた。

 

 そして少しの間があり、気を取り直したのか、相手はジエットに対して哀れみか…嘲笑いか…どちらともとれる表情を浮かべ「そうだね、最近の世の中はなにかと物騒だ…気を付けて暮らした方がいいと思うよ?〝お互いにね…〟」

 

 という相手に対して、あくまでも余裕の表情を保ち、ジエットもそれに同意する。

「えぇ…本当に…お互いに…ね。」

 

 そこまでの会話の後、ジエットはやっとここに来た本題を相手に切り出す。

 

「さて、ところで私は何の用もなく情報の提供をしに来たわけではありません。 そちらの望む情報を提供した以上、報酬として、そちらでお邪魔している私の家族を引き取らせていただきたいのですがね…そちらにとっても面倒を見る手間は省きたいでしょうし。」

 

 もちろん、そう言ってすんなり帰ってくるはずはないと分かってはいるが、そう言いださねばいつまでも話は先に進まない。

 

「いやいや、たいへんおとなしく過ごしているのでね、手間などかかっていないとも、それに提供してもらった情報の精査をしないことには、わざわざご足労願った意味もなくなってしまうからね。」

 

 その返答に対して苛立ちもせずに返答をする。

「そうですか…、私の情報が本当かどうか信用できないから、すぐには返せない…ということでしょうかね?」

 

「いやいや、それでは我々がまるで善意の情報提供を疑ってかかる悪質集団みたいじゃないか、そのような言い方は心外だよ?」

 

 少しの間、お互いにひりついた空気が漂うものの、先に空気を軟化させたのはジエットであった。

 

「まぁ、いいでしょう、こちらとしては出来る限り大ごとにはしたくなかったので、可能なら穏便に返してもらいたかったのですが…、こうなっては仕方ありません、実力行使で取り戻すことにしましょう。」

 

 すっと、静かに椅子から立ち上がり、片手を対話している目の前の男に突き出し…「覚悟してくださいね?」とだけ告げる。その眼はすでにわずかな交渉の余地はないほど冷めきっている。

 

「貴方のようなひょろい男が、我々に力で敵うとでも?」

 

 その言葉が最後の余裕ある発言になるとは思っても居ない哀れな男に、ジエットがアインズの下で経験を積み、覚えた、彼曰くつまらない魔法(・・・・・・・)の内の1つが効果を発揮する。

 

物質の変性(ポリモーフ・オブジェクト)

 

 そう告げると、目の前の男は人体から物体へと姿を変え、小さなぬいぐるみに変えられてしまう。

 

小型空間(ポケットスペース)

 

 ジエットがその魔法を発動させると、小型の物なら収納できる魔法的空間を作り出し、そこにぬいぐるみに変えられた男を収納する…これで、効果時間が過ぎても魔法空間の中では持続時間は継続する…いつまでもこの中に居る限り、元には戻れない…恐らくは気が付いたら攫われていたという図式になっているだろう。

 

「忠告はしたんですけどね…こういう手合いは結局こういう末路になりますか…」

 

 後ろで一応護衛として来ていたフォーサイトの面々も唖然としている。

 その中で冷静でいられたのはヤシチ(仮)だけであった。

「なるほど、そういう使い方をするわけですか…なかなかよく考えられていますね。」

 

「いえいえ、私などは才能もないですし、この辺が限界ですよ、お恥ずかしい限りです…これで<魔法抵抗突破化(ペネトレートマジック)>でも使えればもう少し幅も広がるのですが…」

 

「まぁまぁ…、充分こっちの世界では有効に魔法を使えていると思いますよ? そういう見方をすればその魔法は応用範囲が広そうですね」

 

「そんなそんな…同じ『本社』の方々に比べたら、私など…」

「ヤシチ=ヴェール=アインズの友人」という図式で理解してしまっているジエットからすれば、アインズの盟友に褒められるというのはどうにも恥ずかしいことこの上ないのだろう…ただただ恐縮している。

 

「イヤ、そりゃ~比べる相手を間違ってるよ、あいつらは反則級だから、あれと同じレベルに立とうとしたら、人間を辞めて、寿命を無くさない限り、届きゃしないぞ?」

 そう言って、ジエットを励ますように肩にポンと手を置き、彼の手際をねぎらうと…

 

「さて、それじゃ~こっちもジエット君に負けてはいられないな…」

 

 ヤシチ(仮)達が案内され、入ってきたドアから外に声をかけ、案内役をしてくれた手下を呼び出す。

 

 ノコノコと現れた手下Aにチャームを掛けたヤシチ(仮)は、この建物内の構造、人質の部屋、見張りの数、配置、などなどを事細かに聞き出している。

 

 どうやら、人質となっている母親は奥の部屋、つまりは隣にいるようだ。

 

 そして、彼らは現地で集められた人員で、主にこの計画の筋書きを指示していたのは先程のぬいぐるみにした男。

 誰かからの命令を受けていたらしいが、誰からの命令なのかは自分らにはわからないとのこと。

 

 

 ヤシチ(仮)さんは、チャームで魅了状態中の手下に話を通し、人質の母親の見張り役の交代を名乗り出られないか?とお願いしてくれた、すると〝友人の頼みなら、どんな願いでも聞くよ〟と快く引き受けてくれ、手下Aは見張りを交代してくれた。

 

 今まで見張っていた男はさらに奥にある部屋へと引っ込んでいき、こちらの部屋の様子に気づいた様子はなく、チャーム状態の見張りは人質を解放することには協力的であった。

 

 自分の友人である、目の前のヤシチ、その知り合いの母親であるとは知らなかったのだ。

 それが分かってしまったら、いつまでも捕えている訳にもいかない。という結論に至ったらしく、人目のつかないように誘導してくれ、解放してくれる時には笑顔で、手を振って見送ってくれたりもしたほど…。

 

「おれら、一緒に来た意味ってなかったみたいだな…全然出番なかったみたいだし。」

 そう言いながら装備していたカボチャの帽子を脱ぎ、ヤシチ(仮)さんにそれを返すヘッケラン。

 

「そんなことないですよ、みなさんが居たからこそ、私は自信を持ってあの魔法の行使に踏み切れたんですから、みなさんが居なければきっとイチかバチか的な認識で、充分な成功率には至らなかったでしょう…だから、安心して相手にかけることが出来て、心強かったです。」…と、ジエットもフォーサイトに感謝の意を告げている。

 

「でもよかったわ、みなさんが無事で、ケガも負わずに済んだんですから」

 さっきまで人質になっていたとは思えない程の朗らかさで助けられた礼を言っているジエットの母。

 

「私は、もう二度と…このようなものはかぶりませんからね!」

 どうやら、帽子をかぶっていた間も、ずっと「自分という意識」はあったようで、その上であの性格で振る舞うことに抵抗できなかった自分をひたすら恥じているロバ―デイクが、皮の三角帽子をヤシチ(仮)に返していた。

 

「でもさ、結局使うことはなかったけど、あの本の中の魔法ってどういうものがあったの?」

 イミーナがロバ―に、魔女姿の時に持っていた魔導書の中身について質問している。

 

「それは…知らない方がいいでしょう…一番最低位階の魔法でも、一回の発動で私の魔力の8割以上を奪っていく魔法でした。それはある召喚魔法だったんですが…それを、呼び水にして…というか〝生け贄え(サクリファイス)〟と書かれていましたが…、そうすることで、より高位の者を呼び出したり、神話級の魔法を発動させたりできるような内容でした…使う機会が訪れずに済んで、ホッとしています。」

 

(それは面白いな…ローバァさんだった時に聞いた話では最初に本を開いたときは読めず、信仰系の文字になってから読めたって話…ということは魔力系であればそれに対応した魔法になり、ドルイドならそっち系ということか?検証する機会があれば試してみてもいいかもしれないな…)

 

「それはそうと、どこかに移動しませんか?道端で気楽に話せる時間もあと少しで時間切れになりそうですし…、ジエットさんの事務所か、ご自宅かに避難した方がよろしいのでは?」

 

 何気なく<人類種魅了(チャームパーソン)>の効果時間がそろそろ切れそうなことを告げ、避難することを勧めるヤシチ(仮)は、そう言うと、移動することに決まった一行と共に、移動しながら<伝言(メッセージ)>を使ってヤシチに連絡を取る。

 

「ヤシチか?一通りの流れは見ていたな?そちらは今どうなっている感じだ?」

 

『は…、今、ようやく<魅了>の効果が切れた者が、『自分が逃がしてしまった』という事実を言い出せず、保身による時間稼ぎに忙殺されているところです。』

 

「…そうか、それなら今しばらく、そちらで見張りをしてもらっていいか?もう少ししたら、恐らくそちらにセバスとソリュシャンが向かうはずだ…入り口前にまで到着する気配を感じたら、出迎えてやれ、それまでは、今回の騒ぎの首魁の情報を少しでも引き出すためにあいつらの影に潜むか、その黒装束の効果でシェイドスピリットを呼び出し、4人程の影から見張らせてもいいだろう…あと少しそちらから動けなくなるだろうが許してくれ。」

 

『いえ、そのようなこと…ご命令に従いそのお役に立てること、それこそが我が望みであり、なにより我が主に対する忠義への証明…御身が心を痛める必要など一切ございません。 ですが、1つ聞かせてください、指示している者が居なくなれば自然と瓦解するのでは?』

 

「まぁ…普通はそう考えるのが妥当なのだろうがな…念のため…っていうやつだ。 だがヤシチよ…知っているか?アリという虫が群れで行動するときは、それぞれの役割があり、女王として君臨するアリ、そして食べ物を運ぶなどして女王の為に直接働くアリ、そして、働いているように見せかけて、実はさぼっているだけのアリという群れを形成している生き物がいる、そいつらは、働いているアリを群れから引き離すと、さぼっていただけの奴らが今度は抜けた穴を埋めるため、働く側にシフトをする生態を持っている…、似たような事態がそいつらの中で起きないとも限らんだろう? お前にはそのあたりをどうなって行くか見極めてほしい。」

 

『承りました! そこまでの考えに至らず、我が身の浅はかさに恥じ入るばかりでございます、それではシェイドスピリット共を呼び出し、効果時間が切れる直前まで見張らせておくことにします。 セバス様や、ソリュシャン様のお出迎えの件はワタクシめにお任せを!』

 

「あぁ…頼んだぞ…」

 

 それだけ言うと、回線を切断するように、通話状態をオフにする。

 そうすると、ジエットの事務所前にまでもう少しと言う所だった。

 

「さて、みなさん、それでは奥の鑑定室長室の方までどうぞ。」

 

 この鑑定屋を飛び出す前、もちろん他の従業員にはコトの詳細は説明してあり、自分が居ない間はいつも通り、優秀なランゴバルトに室長代理を任せ、母の救出に出ていた。

 

 鑑定室長室の扉を開け、室長代理に礼を言って、あと少しだけそのまま続けていてくれ、と声を掛ける。

 ジエットとフォーサイトの3人、そしてジエットの母というメンバーが、ヤシチ(仮)と共に重要な話をする際に使う奥の部屋へと移動する。

 

「さて、みなさん、母の救出に協力していただきありがとうございました。」

 

 改めて、頭を下げ、礼を言うジエットにフォーサイトの面々が〝なんてことはない〟とばかりに「気にしないでくれ」と言っている。

 

「俺らの方が先にアンタに助けられたんだから、これも一つのお礼返しってことでいいじゃねぇか」

 

「そうですよ、そうでなければ、我々もモヤモヤしてた所だったので、ちょうどよかったということです。」

 

「あのクリスタルの買い取り額だけでも法外な金額だったんだから、あれの中に今回の報酬が込みだったと思えば私たちもあんたに対する引け目も無くなるってもんなんだし、お互い様よ。」

 

「引け目感じてたんだ、そりゃ知らなかったぞ?」

 

「なにそれ?ヘッケラン、今夜、勝負する?」

 

「まぁまぁ、いいじゃありませんか、今はとりあえず、この件が片付いたら聞かせてもらうことになってるお話に戻りましょう。」

 

「あぁ、そうだったな、そっちの話を危うく忘れるところだった。」

 

「しっかりしてよ?リーダー?、…墳墓の探索まであと二日しかないんだからさ、まぁみんな集まるのは夕刻からみたいだけどね。」

 

(お、ナイス情報、聞かなくても向こうからその情報がもらえるとは! 棚から牡丹餅とはこのことだな…あれ?使い方合ってたっけ?ま、いっか)

 

 …ま、その情報をくれたお礼ってことで少し彼らにも有用な情報は与えてあげよう、これで貸し借りナシって言う事にさせてもらおうっと。

 

「その前に…一応、伝えておきますが、先ほどジエットさんがあそこで言っていたアルシェさんの行動は相手を欺くためのウソでしたから…、そこはちゃんと気づいてました?」

 

 人さらい団体の前での発言は改めて、虚偽情報だったと証明したヤシチ(仮)に、驚くこともなく、シレっとヘッケランが受け応える。

 

「あぁ、もちろんだ…、あんな状況で本当の情報なんて言わないだろ?普通…そう思ってたから特に不思議でもねぇよ。」

 

「それで? アルシェは結局のところ、今どこなのでしょうか?」

 

「それは、私からお伝えしましょう、実は私はあの時、ジエットさんと一緒に護衛として、付き従って、アルシェさんの避難先まで同行したのです。」

 

 ジエットが説明しようとする言葉を横から奪う形となってしまうが、形としてはそれが最善であると判断した。

「ベルリバー個人」の立ち位置を最大限利用してジエットの最悪の可能性を排除するため、そうしただけのことだ。アインズさんの力になっている彼をみすみす、危険な状況に陥らせる必要はないと判断してのこと。

 

「えぇ?あんたアルシェと顔見知りなの?」

 イミーナさんが驚いたような顔を向けてくるも、そこはウソは言わない方がいいだろうと判断する。

 

「いえ、今のこの姿は変装しているだけでしてね…、この姿を見せてもアルシェさんは私のことは「知っている人」とは思ってくれないでしょう。」

 

 と、そこまで言って、初対面での彼女の態度を思い出してしまった、そうだ…あの子にはあの眼があったんだった…と…。

 

「あ…いや…彼女の目なら、変装していても私と見破ってしまうかもしれません、その可能性は充分にありえる事でしょう…。」

 

「あぁ…あの子の『眼』のことも知ってるのね、それは疑いようもなく知り合い以上ってことか。」

 

「理解してくれてありがとうございます。…それで…ことの次第をお伝えする前に、今アルシェさんがいる場所は、端的に言えば「王国領」になります、そこの『とある村』に身を寄せて生活しているってことになりますね。いわば亡命生活と言った方がいいでしょうか?」

 

「村?大丈夫なのか?そこ…、モンスターに襲われたりして壊滅とかやめて欲しいぞ?」

 いきなり「村」だなんて言われたらそれは当然の反応だろうと思いつつも、あそこではそんな心配は杞憂だと知っているヤシチ(仮)からしてみればどこ吹く風だ。

 

「それは心配ありません、大森林が隣接している場所ではありますが、森から外に出てくる程度の者らなら、あの『村の者たち』であれば問題なく対処できるでしょう」

 

「そんなにその村の自警団っていうのは凄腕ぞろいなのか?」

 

「いえ? 自警団自体は、今、絶賛人員募集中ですね。 所属しているのは、元鉄級冒険者の女戦士さんで今は村のレンジャー見習いをしている人が一人、そして指導しているレンジャーの男性が一人、つまりは2人だけなので、新しい移住者がいて、自警団に入ってくれる人が居れば快く受け入れてくれるでしょう。」

 

「おいおい、それじゃ~全然安心なんてできねぇだろ? どこが安全なんだ?」

 

「その理由を教えるには、そこの村に住めるだけの適性があるかどうかをみなさんにお聞きしなければなりません、不適格だと判断されれば、その村のどんな内容もこれ以上教えることは出来ませんし、その村に立ち入らせることも…アルシェさんに会わせることも叶いませんので覚悟してください?」

 

「え?うちら、そこに住むなんて一言も言ってないんだけど…?」

 

「あぁ…失礼、少し言い方が大げさでした、今言った村というのはある意味で言えば王国の中でも異質の村でしてね、事情があってその村の全容を知っていいのは村の者らだけ、外部の者には「村の本質」に関わることの一切が機密扱いなんです。それは王国の国王であっても例外ではありません…。」

 

「おいおい…国王でも知らされることのない機密情報って、やばくないか?そんな場所にアルシェは今もずっと居るってことなのかよ?」

 体を前に乗り出して、名前も場所も知らないその「村」に対しての脅威に気づき始めたヘッケランが少し緊張した雰囲気を醸し出している。

 

「えぇ、彼女は無事にその適性があると判断されて、その村に歓迎され、住人として迎え入れられています。 外部の者が何も知らずに訪れようとすれば身の危険を感じるほどの警戒をされるでしょうが、一度身内と認められれば、どこまでも友好的な皆さんですからね…彼女は今も妹さん共々、元気に明るく過ごしているでしょう。」

 

「つまりはオレらもその『適性』とやらがあると認められなきゃ、アルシェにも二度と会えない可能性がかなり高いってことだな?」

 

「ご理解が早くて助かります、つまりはそう言う事になりますね。」

 

「そんじゃ、見極めてもらおうじゃねぇか、その適性とやらをよ…なにをすりゃ~いい?」

 どこからでも来い!とばかりに受けて立とうと身体に力を入れ始めたヘッケランを片手をあげて制すると、座るようにと促す。

 

「そんな難しいことじゃありませんよ。ただ、質問に答えてほしいだけです。」

 

「質問?」

 そんなことで、王ですら知らされていない機密扱いの村との関係を持てる適性が分かるというのだろうか…そう思うヘッケランに、アインズがアルシェに質問した内容を思い出しながら、彼らにも問いかける。

 

「みなさんは人間以外の種族の方々をどう思って居ますか?」

 

 そう問いかけられたメンバーは少し表情が微妙な物へと変わる…あまりにも抽象的過ぎる…くくりが広すぎる問いかけだからだ

 

「人間以外の種族…? それは例えばエルフや、ハーフエルフ、ドワーフや、獣人のような全般的な?って意味でしょうか?」

 

 エルフやハーフエルフなどの人間に友好的な対応をする人間種であれば問題はない、と思うも、人間以外の種族はそれだけではない、あらゆる種族が居る為、どこまでをその範囲として答えていいかが判断がつかないためだ。

 

「まぁ、それも含まれることは確かでしょうが…そう、例えば、人を食わずに、分け与えてやる動物の肉だけを食べると約束してくれる友好的なオーガとか…話の通じるトロール…とある存在にだけ特別に忠義を果たそうという精神を持ったゴブリン達…そういう者たちが、ドワーフや、エルフ、ハーフエルフらと同じ場所に住んでいる町、もしくは村、もっと言えば小規模な団体としてでも…そんな場所がもしも存在しているとして、そんな場所に住みたいと思いますか?」

 

 3人が3人とも、顔を見合わせて小さな声で話し合っている、それはそうだろう…急にそんなこと言われて全員が即答できる内容の話じゃない。

 

「いくつか質問させてもらっていい?」

 一番その問題に身近な立場であるイミーナが最初に手を挙げて来たので、「どうぞ?」と促す。

 

「仮に、その話が本当で、そういう場所?か団体があったとして、そこに所属する種族と同族が森から出てきて襲いかかってきたら、そいつらは同族と戦うことに思う所はないの?」

 

 当然の質問だろう、村に仲間入りしたエルフが居たとして、今まで一緒の森で生活していた同族と戦うことにでもなった場合、内部で意見が割れることもあるだろうということだろう、それに対しては答えられる。

 

「これも、そういう前提で色んな種族が集まっているという認識でいてもらいたいですが、そこを統べる頂点たる『長』は、こう考えるタイプの人と思ってください。」

 

 そう言って一本指を立てる。

「まず、第一に、その場所はほんの数年前、同じ人間の手によって、周辺の村々ともども虐殺されかかるという痛ましい事件に遭い、自分らから好んで誰かを侵略、または襲いかかろうという考えはしない集まりだと思ってください。」

 

 そして、2本目の指を立て、こう話を続ける。

「第二に、そこの場所に集まってくる亜人種のみんなは、皆が皆、森から住処を追われ、住む場所を無くした者たち、そういう者らがそこを統べる『長』を頼り、居場所を提供してもらう代わりにその『長』に協力するという約束の下、身を寄せ合い、力を合わせて生活しています。」

 

 続けて3本目の指を立てると、最後の、その村人全員が持つ共通認識を告げることにする。

「第三に…そういう事情なので、基本、外からの侵略、力を行使しての圧力、身の危険を感じるあらゆることに対しての防御的戦闘をする時は、村全体で立ち向かうこともありますが、戦いをしたいために戦うという戦闘狂な人も亜人も存在しません。」 

 

 そこで一度話を区切り、両手を左右に広げ、その村で見てきた、村人の性質そのままを告げる。

「なので、仮に、隣の森にエルフの集落があるとしても、その村の人たちは基本的に不可侵を守り、生活するスタイルです。森に入るときは薬草の採取や、または食料として、村が食べるのに必要な動物を狩るため、という理由がない限り他者の土地を侵そうとは考えません、無駄に血を流すことを好むこともありません。そういう集まりがあったとしたら…という前提で、みなさんとしては、そこにアルシェさんが生活する場として、ふさわしいと思いますか?それとも反対ですか?」

 

「そんなお花畑な集落がこの世界にあるは思えねぇが、万が一、そういう場所があるのなら、そんな場所でなら…アルシェが生活する場としては申し分ないと思うが…みんなはどうだ?」

 

 あくまで、そんなの夢物語だと思って居るヘッケランがそう言うと、「そうね…」とイミーナもそれに同意する、彼女も生まれのせいもあり、モノの見方が偏ってる部分がある。

 それでも、もし自分がそんな場所で両親とともに生まれていたら、少しは今と違っていたのだろうかという感想を抱きながら、賛成をする。

 

「ロバ―はどうだ?」

 そう問いかけられた神官は1つ、その村の内情を質問する、あくまで「仮にその集落が今もあるとして」という前提の上での「仮想話」だ。

 

「その場所での集落の人たちは、決して町ほど恐らく裕福ではないのでしょうが…教会や、病院のような治療施設を兼ねた、癒し手や神官などの需要は求められていないのでしょうかね?」

 

 そう問われたヤシチ(仮)は、にこやかな表情を浮かべ、返答をする。

 

「恐らくはその集まりのみなさんはそこまで裕福ではないでしょう、そしてもし、自分らの住む場所に教会のような場所、ケガをした時の治療施設などがあれば、きっと喜ばれるのではないでしょうか?」

 

 そこまで言って、ただ一つの懸念を最後に伝えるのを忘れない。

 

「惜しむらくは、そんな辺鄙な片田舎とも言える場所に、無償で…、神殿関係の協力もなく、住み込みで尽くしてくれる…そんなもの好きな神官がなかなか現れてくれないことでしょうね。」

 

 

 その言葉でロバーデイクの気持ちは、1つの結論を見出したようだった。

 

 そして、3人が共に顔を見合わせ、うなずき合うと3人一致で「そんな場所があるのなら行ってみてもいい。」との話だった。

 

 

 そこでジエット氏が話を引き継いで提案をする。

「フォーサイトのみなさんも、今回の事件でアルシェさん同様、高利貸しの金貸し団体に目をつけられてしまったでしょうし…、実際今回の連中が、あの組織の荒事のメインメンバーとは思えません。今後のことを考えると、一度ほとぼりが冷めるまで…もしよければその場所に住んでみませんか?」

 

 大都市のエ・ランテルまで、馬車でなら日帰りで往復できる距離ですよ?と聞いて、便利そうだということもあるが、なにより(くだん)の墳墓調査の現場と近く、移動にも苦労しないだろうということも理想的だったからだ。

 

 

 そんな話の流れに一切、参加しなかったジエットの母は、アルシェからもらった香水のお礼と、感謝も、そして、お詫びの手紙の返信として、メッセージをしたためていた。

 

「それじゃ、ジエット? アルシェちゃんにこの手紙、届けてちょうだいね? ちゃんとあんたが届けるのよ?」

 

 と、母からの後押しもあり、ヤシチ(仮)から、コトの顛末をアインズに報告をしてもらって、再びカルネ村までの都合をつけてもらっていた。

 

 




カルネ村の件は、アインズの許可なく、カルネ村の内情を話すことになった場合、最悪ジェットが勝手な行動をアインズ様の頭越しに連絡もなく行動してしまったことを糾弾されかねないなという懸念から守るためにベルリバーさんがカルネ村の説明をしています。

それにしてもナザリックの遺跡探索前に着々と外堀を埋められていくフォーサイトの面々。
あと2日するまでにどんな状況に転がっていくやら…。

ベルリバーさんにそのつもりはこれっぽっちもありませんが、はたから見たら、思いっきりアルシェを交渉材料にして弱みにつけこんで、誘導している感じになっちゃってます。

彼からしたら、親切で「二度と会えなくなってもいいのか?」という雰囲気を出していますが、知らない人から見たら、まんま脅迫ですよね、アレ…。

つ~か、仮定の話で、ほとんど内情をネタバレさせてしまってるベルリバーさん。
守秘義務違反ですよぉ~w
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